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リモート  作者: 飛鳥 友
第3章 またまた超人見知りの少年は、窮地を脱出できるのだろうか……
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報奨金

28.報奨金


「ああ……ジャックの昔の仲間たちのこと?うーん……確かにジャック本人には聞きづらいわよねえ。

 あたしが言ったとは、絶対に漏らさないと誓える?」


(はいと答えろ!)

「はい、もちろんです。」


「じゃあ、簡単に教えてあげる。


 ジャックはS級冒険者チームのリーダーだったんだけど、メンバーたちはみな家庭を持って引退してしまったの。一人残されたジャックは知り合いに頼まれて、若くて有能な冒険者の卵たちの育成を始めたのね。ジャックは面倒見がいいしストイックで決して自分を飾ろうとしないから、若い子たちからも信頼されていたわ。


 ジャックの訓練メニューに何とかついて行こうとして、皆必死で頑張っていたようね。だからめきめきと実力を上げて行って、最短でA級冒険者に手が届きそうといわれだした時、地域貢献クエストを請け負ったの。


 A級冒険者ともなれば、ダンジョン踏破のクエストだけではなくて所属している地域に貢献するクエストを、年に最低1回はこなさなければならないのね……いわば地元の名士となるわけだから。


 その一環として麻薬撲滅プロジェクトというのがあって、そのクエストを継続で引き受けることにしたらしいの。優秀なチームだったから、密売ルートをいくつも摘発して消滅させていったのね。


 いよいよ本筋のルートが解明できるという時に、ジャックたちチームが先頭に立って組織の隠れ家を急襲したのよ。ところが隠れ家はもぬけの殻で……武装した傭兵たちに待ち伏せされていた。孤立無援の状態でジャックは飛び出しておとりになって、若いメンバーたちを助けようとしたようなのよ。


 ところがメンバー全員が全滅……ジャック一人だけ助かって、ジャックはチームリーダーとしての責務を放棄して、一人だけ助かろうとしたという嫌疑をかけられたの……以上」


 十和が目を伏せながら話を終えた。少し悲しそうな表情が伺えるのは、気のせいだろうか?


(じゃ……ジャックが……一人だけ助かろうとするなんて……信じられない……)

(そう思ったなら、隠れ家の捜索でおかしな点がなかったのか、聞いてみたらどうなんだ?後から現場検証したはずだろ?)


「その……待ち伏せされていた隠れ家は後で捜索したんでしょ?おかしな点はなかったんですか?」


「それがねえ……隠れ家の部屋のドア近くにソファやテーブルを倒して、矢避け弾避けに使ったってジャックが証言したんだけど、現場検証したら倒したテーブルの裏側に血が散乱していたんだって。ソファやテーブルにも表面側は弾痕や矢が刺さっていたんだけど血痕はそれほどでもなくて、内側の方が異常だったらしいの。


 そこから辿ると、ジャックが突進したといっているルート上には多くの血が散乱していて、ジャックの血と倒された傭兵たちの血と判ったわ。ジャックは怪我……背中に刺し傷など結構重傷を負っていたんだけど、何とか血路を開いて裏口迄突進していって逃げ延びたのね。」


(ふうむ……ジャックのチームメンバーはどこで死んでいたのか聞いてみろ。)


「若いチームメンバーは、どこで死んでいたのですか?」

「それは……盾にしたソファの影よ。そこの血だまりの中で3人とも死んでいたらしいわ。」


(そうか……やはりな……恐らく若いメンバーたちが裏切って、ジャックを後ろから襲ったんだろう。突然背中を斬られたが何とか抵抗して倒したけど、なんと襲ってきたのは仲間たちだった。


 仕方なくジャックは単独で突進していったのだろう。普通ならジャックが先頭に立って血路を開いて、後ろをメンバーが付いて行くはずだが……裏切られたんだろうな。)


(だったら……どうして正直にそう話さなかったの?背中斬られているんだから、それが証拠でしょ?)


(そんなことしたら若いメンバーたち全員が麻薬組織に加担した、犯罪者になってしまうだろ?生きているならともかく、死者に後ろ脚で砂をかけなくてもいいだろ?冒険者組合からの見舞金や保険金など出なくなってしまうだろうからな。若い奴らは興味本位で何でも試したがるから、麻薬組織が甘い言葉で誘ったんだろう。)


「じゃ……ジャックは悪くありませんよ。多分……若い仲間が麻薬組織にうまく誘われて裏切り……」

「しっ……ここは裁判所だから滅多なことを言ってはだめよ。」

 すぐに十和が美都夫の口元に人差し指を当てて、言葉を遮る。


「もちろんジャックを知っている人達ならみんなそう思っているのよ。だけどジャックが決して認めないから。

 それからジャックはダンジョン挑戦をやめて、地域貢献クエストしかこなさなくなったわね。


 ますますジャックは麻薬組織の撲滅に乗り出して、半期に一度の連邦あげての凶悪犯罪撲滅運動のほかにも不定期に組織壊滅作戦を展開したりしていたのよ。これまでのほとんどは失敗していたけどね……まさか八幡兄弟が裏切っていたとはね……冒険者としての経験も長いし、S級で弓と剣と槍をこなすスーパーマルチな存在だったというのにね、残念よ。


 ジャックは全面的に信頼していて、私よりもチームを組む機会が遥かに多かったようだけど、情報筒抜けじゃあね失敗するはずよ。粛清もやむを得ない処ね。


 今回はこれまでの反省を踏まえて、仲間を募らずに新人君を連れ出したというわけね……でも相当優秀な新人君のようね、ジャックがうらやましいわ。」


 十和が美都夫の体を上から下まで嘗め回すように見て、品定めしている様子だ。


「ありがとう……じゃあまた。」

 十和にジャックの昔話を聞いているうちに、ジャックが手続きを終えカウンターを後に戻って来た。


「山分けだよ!」


「分ってるさ……美都夫、申し訳ないが勝手に応援を頼んでしまって、取り分が減ってしまった。一人1万5千Gだったところ、一人増えて1万Gずつになってしまった……許せ。」

 ジャックが袋の中から金貨を取り出し、十和に手渡した。


(なんだって?こっちは一晩中駆け回って命がけの戦いも凌いで、更に4日もかけて延々王都迄家畜運搬の荷馬車に揺られてやってきたんだぞ……それまでの1ヶ月間だって毎日山歩きをして潜伏先を探られないよう気を付けて……延々1ヶ月以上も苦労してきたんだ。


 最後の最後の一瞬だけ……屋根の上から弓を射かけただけの姉ちゃんと、取り分が同じだって?いくら何でも、おかしいだろ!)


「仕方がないよ……あのままだと打つ手なしで全滅だったじゃない。それが助かってさらに証人も引き渡せたし、その上報奨金がもらえるんだもの……全然文句なんかないよ。」


 ほんの数分間だけ戦った弓矢の使い手と同じ分け前に、不満たらたらの心の声だったが、美都夫は満足げに笑顔を見せた。ジャックの顔の固さが、少し緩む。


「じゃあ、私はこれでさようなら。またごひいきにねー……。」

 十和はホクホク顔で去って行った。


(はあー……わずか10分ほど活躍しただけとはいえ、あれがなければこっちは全滅だしな……それに他の冒険者の動向を常に見張っていて後をつけて、旅費だってかかっているだろうし買収費用だってな……これでこっちが窮地に陥らなければ、一銭にもならなかったんだから、賭けに勝ったと考えれば仕方がないか……。


 きれいなお姉さんだったから……ちょっと会話もできたし、悔しさも半減としておくか……。)


「美都夫の分け前は金貨で持っていると落とすと大変だから、これから冒険者組合へ行って預金しよう。冒険者カードがあればいつでも引き出せるから、安全だぞ。」

 ジャックとともに乗合の馬車に乗り、王都の冒険者組合へ出向いて金貨を換金して預金した。


「金貨であれば連邦内どこの国へ行っても価値が変わらずに使えるが、国ごとが発行している紙幣は、兌換紙幣ではないから毎日の取引によってレートが変わる。1割ぐらい平気でレートが変わったりするが、どの時点のレートを使うかで大きな損失が出る場合があり、交換所の采配で判断されるのが通例で、大抵損をする。


 さらに交換手数料として5%徴収されるから、国をまたぐときには注意が必要だ。まあ、出向いた先のクエストの報奨金であれば、出先で使い切ってしまえばいいのだがね。


 裁判所依頼のクエストでは、国外からの冒険者の参加も多いため必ず金貨で報奨金がもらえるが、重いし嵩張るからな。だが冒険者組合に行って自分の冒険者カードに報奨金を貯めておくと、加盟店ならカード決済ができるし、常に最新のレートで手数料なしに自動的に変換されるから、絶対にお得だぞ。


 ただし、あくまでも冒険者組合依頼のクエストか、今回の様に裁判所依頼のクエスト報奨金に限られる。


 市場の肉屋から受け取った3年分の給料は、今から預けたいと申し出てもできないからあきらめろ。その代わりに、これまで訓練代わりに行っていたクエストの報奨金……途中から現金手渡しではなくて振り込みとなったが、持ち金が十分にあったためか一度も請求されなかったから、全額美都夫の冒険者カードに振り込んであるからな……安心しろ。」


 冒険者組合の受付カウンターでジャックが美都夫に冒険者カードを返しながら、冒険者カードに預金しておくメリットを説明してくれた。


(ああそうか……銀行預金の様に利息は付かないが、冒険者のような各国を渡り歩くような商売では、冒険者カードに預金してくのがお得なようだな。


 そういえば移動の最中は、持ち込んだ携帯食ばかりで特に金を使うこともなかったし、こっちへ来る前の生活費だって取り立てた3年間の給料で賄っていたから、カードに蓄えられたという金を一度も使っていなかったな。いくら入っているのかどうすれば確認できるのか聞いてみろ。


 これから元の町へ帰ることになるのだろうが、土産物とか買って行く必要性があるだろ?菓子とかなら安いだろうが、折角都会に来たんだから双葉にかわいい服を買って行ってやるとかもいいんじゃないのか?


 今回のクエストの分け前は1万Gと判っているが、半年間のクエストの報奨金がいくらなのか確認していなかったな……すベてジャックに任せっきりだった。)


「じゃ……ジャック……今更だけど、このカードに預金してあるというこれまでの半年分のクエストの報奨金……いくら入っているかどうすれば確認できるの?」


「ああ……残高照会か?その前に……クエストの清算をお願いしたい。それから美都夫のカードの残高照会もお願いする。」


「はい、高松町での麻薬密売ルート解明クエストの清算ですね?先ほど裁判所からも、関連クエスト完結との連絡が入っておりますので清算可能です。少々お待ち願います。」


 ジャックが懐から紙片を取り出し受付嬢に手渡し、受付嬢は台帳を確認したのち、カウンター上のドアから別室へ入って行った。スリムな体型にフィットしたスーツ姿の王都の冒険者組合の受付嬢は、華麗な美しさを醸し出していて、それでいて濃いめの化粧というわけでもなく、まさにクールビューティと言えた。


「まってろ……今度は組合依頼のクエストの清算だ。残高照会はそれからのほうがいい。」


(そうか……裁判所のクエストは、麻薬密売組織の黒幕を知る証人を護送するだけのクエストだったわけか。それとは別に、町での麻薬密売ルート解明のクエストが冒険者組合から出ていた訳か……依頼主が異なる2つのクエストを同時にこなしていたというわけね。抜け目ないなあ……。)


「お待たせいたしました、当該クエスト終了確認をいたしまして、報奨金を美都夫様の口座へ振り込みました。ジャック様は、奉仕活動ですので報奨金は組合預かりとなります。」


「ああ……ありがとう。ほれ……美都夫のカードの残高だ。きっちりこれまでのクエスト分、毎回振り込まれているだろ?」


 ジャックから手渡された明細表には、ぎっしりと数字の羅列が……どの数字も300とか200……高くても600が最高のようだった。


(ほお……半年間のクエストの報奨金合計で約2万Gか……月20日間勤務だったが、月に3千Gほどだ。ずいぶんと安い賃金だったな。それでも今回のクエスト褒章が裁判所の分は1万Gで、冒険者組合の方が……2万Gだ……合計5万G……ううむ……これが大金なのかどうかわからんな……)


(でも……半年間のクエストは、お年寄りの家庭の買い物だったり屋根の修理とか、本当に地域貢献と言えるような仕事ばかりだったからね。結構力仕事で体が鍛えられたと考えれば、それでお金がもらえたんだから、十分だよ。それでも麻薬密売関連のクエストは命がけだったけど、たったの1ヶ月ほどで3万Gだよ。


 やっぱり冒険者は、すごく儲かるんだねえ。)

(死にかけたけどな。)


(でも救援が来て何とかなったじゃない……ジャックは……組合のクエストは奉仕活動で報奨金が組合預かりって言っていたよね……それは仲間に裏切られたときのクエストが関係しているのだろうけど……あれだけ苦労して何も報われないんじゃあ、かわいそうだよね。1万Gずつ折半にしようかな……)


(やめておけ……ジャックは最初から組合の麻薬撲滅クエストは、無給の奉仕活動と知って引き受けたはずだ。本人がやりたくてやっているんだから、それでいいじゃないか。それよりも、同じチームのお前の方は無給の奉仕活動ではなく、報奨金が出る正規クエストにしてくれたことを感謝しろ。)


(でも……おいらにはまだ、ジャックに取り立ててもらった3年分の給料が十分に残っているんだよ!)


(それは……冒険者経験が永いジャックだって、蓄え位あるだろう。お前が心配する事じゃあない。


 それに……俺の推理だが……報奨金は組合預かりと言っていたから、もしかするとジャックの分の報奨金は、ジャックの犠牲になったとされている若い冒険者たちの遺族に配当されるのではないかね?

 だからこそ……ジャックは機会があるたびに、奉仕クエストをこなそうとしているんじゃあないかな?)


(うん……そうかも知れないね。だったらジャックが命がけでクエストをこなすことに、意味があるということだね?分かった……)


(じゃあ……ジャックに教えてもらって、双葉用の土産物……服とかアクセサリーとか……売っている店へ行くとするか。)


(アクセ……?)

(髪飾りとかなんかだ。)


「ジャック……せっかく王都迄来たから、双葉に着物とか髪飾りとか買って帰ってやりたいんだけど、お店どこにあるか知ってる?」


「おおそうか……俺も王都のことは詳しくはないが、乗合馬車の御者に聞けば紹介してくれるだろう。王都なら着物だけじゃなく、遠く欧州人が着る洋服とかも売っているらしいからな。アクセサリーとかも豊富だろうし、きっと双葉も喜ぶぞ。」


 この後、ジャックとともに洋服屋と着物屋を梯子し、双葉用の土産と美都夫用のサイズが町ではなかなか手に入らないので、大物サイズの着物なども購入した。さらに律義に近所土産に日持ちする塩せんべいなども忘れずに購入した。


 夕食を取ったのち家畜の屠?場へ戻り、それぞれの荷馬車を操って帰路についた。


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