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リモート  作者: 飛鳥 友
第3章 またまた超人見知りの少年は、窮地を脱出できるのだろうか……
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町へ

4.町へ


「うん、どうした?茶でも煎れるのか?」


 双葉を抱きかかえたまま戻って来た美都夫が水を汲んだ鍋を火にかけるのを見て、ジャックが首をかしげる。双葉だって腹が減っているのだろうから、手っ取り早く湧水でのどを潤しながら握り飯をほおばったほうが早いに決まっている。


(おかゆを作ると答えろ)

「お……おかゆを作ります。」


「ああそうか……妹の方は……かなりやばそうだったからな……食べやすいようにおかゆか……」

 ジャックは納得したように大きくうなずいた。


(お前はまだ元気だったから、握り飯のままでも水分を多くとりながら、ゆっくりと何度も噛むことにより食べることが出来たが、双葉は体が小さいからいきなりご飯粒を流し込んでも消化できないだろう。


 吐き出しちまったら余計に体力を消耗するから……この鍋が3人前用くらいだからちょうどいい、半分の水の量に……湯が湧いたらおにぎりを一つだけ入れろ。)


(一個だけか?)

(そうだ、おかゆ……というよりも重湯に近い……うすうすのおかゆを作るんだ。そうしてそれをゆっくりと双葉にすすらせろ。味付けは……握り飯に塩味がついていたから、それだけで十分だろ。)


(分った……もういいか?)

(ああ……沸騰したからいいぞ……おにぎり一個入れろ。そうして木酌でかき混ぜながら十分とろみが出るまで煮るんだ。)



(もういいだろう……双葉に食わせてやりな、熱いからフーフーしてやれよ)


「双葉……ゆっくりでいいから、食べなさい。フーフーフー……ほれ……」

 美都夫は抱きかかえていた双葉の体を起こし、木酌でおかゆをお椀にすくうと何度も息を吹きかけてから唇で温度を測り、双葉の口元へもっていってやった。


「うん?ごくん……おいしい……おかゆさんだね?ちょっぴり塩味がして……おいしい……おにいは?おにいは食べないの?」

 双葉は一口付けただけで上を向いて、美都夫の顔を覗き込んだ。


「ああ……おいらはもう握り飯3個も食べたから十分だ。これは双葉の分だから、たくさん食べなさい。」

「ほんとに?どうしておにぎり沢山持ってたの?」


「そこに冒険者のおじさんがいるだろ?腹減っているだろうからって持ってきてくれた。」

 美都夫が焚火の向こう側のジャックを指さすと、ジャックはおにぎりが一つ乗った笹の葉を、掲げて見せた。


「へえ……親切な人がいるもんだね……ありがとうございます。」

 抱きかかえられたままの双葉が、小さく頭を下げる。


(ゆっくりと、おかゆだけどしっかりと噛んで食べるように言ってやれ。)

「ゆっくりと……ちゃんと噛むようにして食べるんだよ。いいね」


「そう……おにぎり3個も食べたんだ……よかった……うん……おいしい……おいしい……」

 双葉は兄の美都夫が食事を終えたことに安心したのか、久しぶりの食べ物をゆっくりと味わうようにして、何度も何度もおいしいと繰り返した。


(ふう……食べ疲れて寝てしまったな……半分ほど残っているから、残りの汁に残った握り飯を入れておけ。少し水を足してもう一度沸騰させよう。そうすれば痛まずに明日の朝も食べられるだろう。)


「お前……美都夫だったか……?すごいな……回復魔法と言い、弱った妹に直接握り飯を食べさせずにおかゆにしてやったり……本当に15歳か?」


(死んだ父親に教えてもらったと言っておけ。親父さんも冒険者だったんだろ?)


「し……死んだ父さんが……教えてくれた……か……回復魔法は……初めて……使った……。

 呪文知っていても……使ったことないから……魔法効果……なかなかでなかった……」

 美都夫はゆっくりと考え考え答えた。


「ああそうか……親父さんも冒険者だったのか?」

「父さんは……剣士だった……」


「ほお……嗜み程度に回復魔法も覚えていたんだろうな……冒険者の親父に教えてもらった回復呪文を、初めて使ってみたというわけか。緊急事態だったからな……だがまあいい親父さんだな、何かの役に立てばと仕込んでくれてたおかげで妹が助かった。


 外はもう夜だろうからな……今からじゃあ山は下りられない。仕方がない、ここで夜を過ごして明日の朝出て街へ向かうとするか。美都夫の踏み倒された給料をきちんと回収してやるからな。


 じゃあ、お休み。」

 ジャックはそういうと、焚火の脇にリュックから出したシートを敷いて、その上で横になった。


(じゃあ、こっちも寝るとするか……双葉はぐっすりと寝入っているから、そのままそっと藁の上に寝かせてやるといい。)

(ああ……)


 美都夫はそっと双葉の体を藁の上においてやり、その横に横たわった。

(明日の朝までゆっくりと体を休めておけ、何があるかわからんからな。)



「ようし……じゃあ出発するぞ。」

 双葉は回復魔法が効いたのか夜明けには目を覚まし、昨晩作り置きしていたおかゆを平らげすっかり元気になった。ジャックと美都夫はジャックが持っていた干し芋と干し肉の携帯食で朝食を済ませ、洞窟奥を出発した。


 双葉は体が小さく早く歩けないので、ほとんどの行程を美都夫がおぶって進んでいくことになったが、それでもジャックに遅れずについていくことが出来た。



「ふう……もうすぐ昼だな……昼過ぎには町へ着きたいから急ぐぞ。」

 洞窟から出るとジャックは太陽の位置を見定め大方の時刻を想定し一層足を速めたが、美都夫は何とか双葉を抱えたまま付いて行った。



「ようやく町へ着いたな……昼飯抜きだったから、さっそく飯……と行きたいところだが、まずはその恰好を何とかするか。」

 ジャックはそういうと、大きな呉服店へ入って行った。


「ほれ……好きな服を選びな……と言っても支払いはもちろん自分でやってもらうけどな。昨日の分け前があるから大丈夫だろ?」

 ジャックはそういうと店員に美都夫たちの服選びを頼み、自分はカウンター脇のいすに腰掛けた。


「お客様のサイズですと……」

 美都夫の担当となった店員は、採寸するために美都夫に屈んでもらいようやく採寸を終え、在庫探しに店の奥へと引っ込んでいった。


「おにい……どうすればいいの?」

 双葉の目の前には黄色やピンク等鮮やかな色彩に染められた、振袖の着物が次々と運ばれ並べられ、双葉がどうしていいかわからずに目を丸くしていた。


(子供服だし、そんなに高いもんじゃないだろ?一寸値札を見てみろ。)

 美都夫が双葉の方へ歩いて行って値札を見てみると、花柄の振袖で500Gだった。


(高いのか安いのか俺にはさっぱり分からないが、1万3千Gあるだろ?十分払えるから着替えも考慮して3,4着選ばせればいいんじゃないか?帯もな……)


「好きなのを4着選ぶんだよ。」

「えっ?4着も……?いいの?」


「もちろんさ……臨時収入が入ったからね。それに……今まで働いた給料を、払ってもらえるかもしれないから、大丈夫だ。」

 美都夫が笑顔で答えると、双葉は並べられた服を手に取りながら笑顔で選び始めた。


「お客様……お客様のサイズですと……今の在庫ではこのようなものしか……」

 背後から声をかけられ振り向くと、店員が作務衣のような作業着を持って現れた。美都夫の体形に合いそうな在庫がないようだ。


(おお……作務衣だったら、見習い冒険者として修業にも使えそうだから、いいんじゃないか?これも着替えを考慮して複数買っておいた方がいいぞ。まずは試着してみろ!)


(えっ?いいよ……)

(サイズが合わなかったら困るだろ?それに……ここで着替えて行った方がいい。双葉にもお気に入りを選ばせたら、試着させるんだ。)


「じゃこれ……2着……まず試着させて下さい。」

「かしこまりました。」

 店員はカウンター横に設置された試着ルームへ案内し、カーテンを開けてくれた。


(いつまでもこんな窮屈な服を着ていられないだろ?着替えたら処分しちまえ。それと……服を入れる旅行鞄も買ったほうがいいな……コロコロみたいな車輪がついた奴がいい。


 おお……サイズはちょうどいいな……色は……これでいいか?)

(これでいい……)


(作務衣だから、グレーと紺くらいしかないだろうしな。ようし……後は鞄と靴も……だな?それと下着も少し買っておけ。作務衣のサイズが特大となっているから、下着もそのサイズを買っておけばいいだろう。

 こっちはさすがに試着できないからな。)



「おお……旅行用の革鞄まで買ったか……住むところも決まっていないんだから、確かにそのほうが便利だな。靴も……自分で編んだわらじなんかじゃなく、ちゃんと編み込まれた丈夫そうなわらじと草履を買ったか……意外と抜け目なく行動できるようで安心したよ。


 いちいち靴を買え下着を買え……足袋も……とか言っていられないからな。じゃあ飯に行くか。」


 双葉にも草履と下着も選ばせ、双葉用の旅行鞄も購入して1セットを持たせジャックの前へ並び立つと、ジャックが満足そうに頷きながら立ちあがった。どうやらお眼鏡にかなった様子だ。


(かなり金を使ってしまった……)

(なあに……まだ半分以上も残っているじゃないか。当面の宿代だって十分持つはずだぞ!)


(でも……双葉の学校……)


(だから……それはお前が働いた3年分の給料を取り戻してからだろ?給料取り戻せたら、どこかに部屋を借りて、そうして初めて学校へ通えるんだ。住所不定だと、学校へ通うことも出来やしないぞ!)

(わ……わかった……)



「ここは……俺がよく通っている定食屋だ。安いが量も多いしうまい!まあ、高級レストランのような繊細な味ではないが、それでも十分うまいから何でも好きなものを頼んでくれ。


 俺は……生ビール大ジョッキと……つまみにチャーシューと枝豆!」

 平屋で暖簾が玄関先にかかった引き戸を開けながら、ジャックは振り向くと定食屋に美都夫たちを招き入れた。


 テーブル卓が4つとカウンター席がある程度の小さな定食屋で、ジャックはおなじみよろしく、席につく前から注文をしていた。


「ここのおすすめは……まあ何でもうまいから好きなメニューがあれば頼めばいい。俺は……唐揚げ定食とかとんかつ定食が好きだな。後はカレーもうまいぞ、サラダ付きだしな。


 定食類はご飯大盛り無料だから、美都夫向けだな。遠慮なく食べな……と言っても、食った分は自分で払えよ!」

 ジャックは早々に店員が持ってきたビールのジョッキを口元へ運んだ。


(おいっ……色々と世話になってるんだ……飯代くらいは出すって言え!)

「しょ……食事代は……お……おいらが……払います。」


「うん?俺におごってくれるっていうのか?けっ!ガキのくせに……そんなことされちまったら、折角この店の常連で仲良くさせてもらっているのに、年端も行かない子供をだまして金巻き上げてるって評判たっちまうじゃねえか。


 俺だってあの小男から巻き上げた金で懐は潤ってるんだから、別に恩義に感じることはねえよ。俺がお前さんを助けるのは、昨日も言ったが奉仕活動ってだけだ。当然ながら事が済んだら一緒に組合へ行って、俺がお前さんを助けたっていう書類にサインしてもらわなければならねえ。


 だから……あくまでも5分の関係でいいよ。はあー……うめえ……。」

 そういいながらジャックは、ジョッキのビールを一気に半分ほども煽った。


(ほお……親切な奴がいるもんだな……そういやサーティンだって……何の義理もないのにあそこ迄……冒険者っていうのは、案外親切な奴らの集団なのかも知れないな……)


(さーてぃん?)

(あっ……ああ……何でもない……こっちの話……)


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