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リモート  作者: 飛鳥 友
第3章 またまた超人見知りの少年は、窮地を脱出できるのだろうか……
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待ち伏せ

2.待ち伏せ


「ちいっ、感づかれた!仕方ねえ、直接捕まえろ!盗人め!痛い目に合わせてやる!」

 大男の目の前に3人の男たちが駆け出してきた。それぞれ手にはこん棒やナイフが握られている。


(に……逃げろっ!)

「ご……ご主人……どうされました?」


 ところが大男は真ん中で身構える小男に一礼すると、おずおずと声をかけた。体には似つかわしくない大きさの蛮刀を手にしている、口髭を蓄えた小男だ。鼻は大きく横に広がっていて赤ら顔で、邪鬼の様に見えた。


「美都夫よ……妹を使って売り物を盗ませようってのは、どういった了見だ?散々世話してやった恩を忘れやがって……物乞いには来るは挙句の果てにはコソ泥だ。ご近所からは薄汚い奴らがうろちょろして、買い物に行きづらいって苦情が出るし、迷惑かけることしかできないのか?


 警察へ突き出してやってもいいが、わざわざ御上の手を煩わせる必要もない。自分たちで成敗してやろうと思って、お前たちの住処をずっと探していたんだ。ようやく見つけたぞ……まさかこんな山奥の廃ダンジョンに隠れ住んでいたとはな……だがもう終わりだ……。」


 小男は左手で自慢のひげを触りながら、大男を嘗め回すように睨みつけた。


(えらい言われようだな……こいつがお前が働いていた市場の店の親父か?)

(そうだ……)


(3人でやってきたのは……お前の妹の後をつけてやってきたということなんだろうな。ジャガイモ1個のためにご苦労なこった。大男のお前に直接襲い掛かるのは怖いから、出入り口に罠を仕掛けていたんだろうな……どうして逃げなかった?)


(逃げる必要ない。ご主人は優しい人……)


(お前……優しい人間が給料払わずに3年働かせて、挙句の果てに首にするか?いや、もう……優しいとか怖いとか以前の問題だよな……まさに鬼畜……お前の話しぶりから考えて……お前は素直で優しくおとなしく……さらに間抜けで……と言ったところに付け込まれてるんだよ!


 まあいいや……今更逃げることもできないし……物乞いって言ったよな?物乞いじゃなくて、働いたお礼で1年間は賄い食べさせてくれる約束だったはずだって言え!それから給料をきちんと払えといえ!)


(ええっ?)

(ほら、早く!)


「あ……あのう……3年間も働いたから……毎日食べに来てもいいって……言ってくれたじゃないですか……なのに3日でもう無理だって言われて……後は売れ残りの野菜しかもらえずに……きゅ……給料だって……もらってませんよ!」


 大男はうつむき加減で一言ずつ考えながら、ようやく話した。


「あーん?知らねえな……住み込みから追い出してすぐじゃかわいそうだから3日は飯を食わせてやったが、ちょっと甘い顔するとこれだ……何だって?食べに来てもいいって言ったって?知らねえな……


 給料?お前の給料なんて……知らねえよ!使っちまったんだろ?使ったらなくなるんだよ!金なんて!」

 小男は蛮刀を持つ手を振り上げ身構えながら、吐き捨てるように言い切った。


(給料なんて、働いた3年間で一度ももらってないとはっきりと言え!)


「きゅ……給料……ささ……3年間で……いっ……一度も……もらってません!」

 大男は完全に俯いて、地面に向かって叫んだ。


「何?俺が嘘を言っているとでも言いたいのか?」

「い……いえ……そそんな……わけ……」


(馬鹿野郎!もらってないんだろ?貰ってないんだから、はっきりそう言え!あいつが嘘言っているとか関係ないし、もしあいつが払ったって言いはるんなら、そうだ……あいつは嘘を言っている!)


「はっ……あの……その……きゅ……給料は……一度も……もらってません!」

 またしても大男は地面に向かって叫んだ。体は大きいが、かなり内向的な性格の様子だ。


「ふざけやがって……2度とそんな減らず口叩けねえよう、しっかりと教育してやる。

 おいっ、やっちまえ!」


 小男は言っていることとは真逆に、数歩後ろへ下がりながら蛮刀を持つ手を大きく翻して、両脇の男たちに指示を出した。自分は手をださずに、他の男たちにかかって行かせるつもりのようだ。


「おい……どうした?どうしてかかって行かねえ?文太!ほれっいけ!」


「だ……だって……ここ……こんな大男……」

 小男に振られた左手の男はこん棒を持っているようだが、少し腰が引け気味で、膝がガクガクと震えていた。


「役立たずめ!おいっ、お前……金払って連れてきてるんだからちゃんと働け!」

 小男は今度は右手の男へ目線を向け、蛮刀で指示を出す。


「ふん……もらった代金分はきちんと働いたはずだ……小生意気なガキに少しお灸をすえるだけだって言われてきたんだからな。わなを仕掛けてやっただろ?こんな半日もかかる山奥まで連れられてきて、日当だけでもとっくに超過料金を頂かなければならないところだ。」


 ところが右手の男も、小男のいうことを聞こうとしない。


「ばっ……その罠が、何の役にも立ってないからこんなことになってるんだ!払った代金分はちゃんと働いてもらおうじゃないか!」


「だから……お前は店のものを盗んだ子供に、2度とやらないようにお仕置きをしてやるといったんだ。しつこく店の周りをいつもうろついているからって昨日から待ち伏せして、今日は半日使って山奥までやってきて……だったら洞窟からあぶりだして直接尻でも叩いてやると言ったのに、罠を仕掛けろと言ったのはお前だぞ!


 指示に従っただけなのに、なんで文句を言われなきゃならないんだ?罠なんて、小動物を捕らえるのに仕掛けるもんで、人間用じゃないってちゃんと断ったよな?こんな大男だったら、避けられなくてもアミが上まで跳ね上がることもなかったわ!重すぎだ……どこが子供なんだよ!」


「こいつは……まだ15のガキだ!ガキをガキと言って何が悪い!」


「ま……15歳って……それを半年前まで3年間もお前は店でこき使っていたのか?12歳の子に……法律違反だぞ!しかも給料も払わずに……いくら何でもひどすぎるだろうが!」


「だから……手伝いだよ手伝い!行く処もないガキだったから、ちゃんと屋根のある温かい環境の寝床を与えてやって、飯迄食わせてやってたんだ。そのお礼で店を手伝うくらい当たり前だろ?

 全く法律になんか触れるはずもないわ!」


(おま……15だったのか?そりゃあまずいわな、青少年保護法……って……多分そんな感じの法律があるはずだ。こいつは……お前を保護してくれたわけじゃないよな?妹を学校へやるために働かせてくれって頼んだはずだよな?そう言え!)


「お……おいらは……どうでもいいから……いっ妹だけでも……学校へ行かせたくって……そう言ったら、きちんと行かせてやるし給料も払うから店で働けって言われて……お前は体が大きいからって年をごまかせば大丈夫だって……なのに給料は一度ももらえなかった。妹は学校へ行けなかった!


 お店が苦しいから、給料は待ってくれと……ずっと言われていた!」

 大男は少しだけ顔を上げながら、それでもまだ目をつぶったまま叫んだ。


「はあ……すごいなあんた……多分法律違反は2つや3つじゃすまないだろうな……下手すりゃ刑務所送りだ。どうするつもりだ?」

 右手の男は持っていたナイフを鞘に納め、小男のところへ歩み寄って行く。


「お前……俺を脅すのか?俺のバックには……」


「ふん……冒険者崩れのやくざもんの兄貴がいるんだったよな?だったらなんで連れてこなかった?俺様をだましてこんなとこまで……こっちはいい面の皮だよ!仲間から笑いもんにされちまう。


 こんなお粗末な案件には付き合っていられない。組合を通すほどでもないが、ちゃんとしたクエストだって言うから、休日返上でやって来てやったんだ。おいっ!有り金全部だしな!


 それと……背負っているリュック……そいつも置いていけ!」


「ななな……何を……おいっ!」

 そういって小男は左手に視線を移したが、そこにいたはずの男はとっくに逃げ去っていて、小男だけ取り残されたことに気がついた。


「こ……こんなことして……無事で済むと思うな!」

 小男は懐からきんちゃく袋を取り出し右手の男を睨みつけながら手渡して、更に背負っていたリュックも降ろして地面に置いた。


「ああ……それはこっちのセリフだ。街へ戻ったらすぐにお前の悪行を触れ回ってやる。恐らくお前は警察につかまるだろう。警察権力相手にお前の兄貴が役に立つかな?


 2万3千Gか……俺の日当は1万に負けてやるから……ほれ、受け取れ!」

 そういって男は、大男に札束を握った手を差し伸べた。


「は……はあ?」

 鋭い目に大きな鼻、薄い唇に四角い顔にあごひげ……いわゆる強面ではあるのだが、男の目的が分からず、大男もすぐには動けないでいた。


「くそっ……何もこんなガキに味方しなくても……」


「俺は……悪党が嫌いなんだよ!ほれ……別に取って食うなんてしないから……受け取りな!」


(おいっ……有難く頂戴しろ!1万3千Gだったら、当分リッチに暮らせるはずだ!)

(わ……わかった……)

 大男はこわごわ及び腰で、右手を思い切り伸ばして紙幣を何とか受け取った。


「こんなんじゃあ、この子の働いた給料には全然足りないな。体が大きいから人の2倍か3倍は働きそうだ。現にお前の店……半年前から3人雇い入れたんだったよな?それまで従業員は一人だけだって言っていたのに……この子が一人で3人分働いていたんだったら、給料も3人分だ。


 3年間だと……数十万Gにはなるな。きちんと準備しておけ、今日か明日には受け取りに行くから、その時に金がないとお前は本当に牢屋行きだ、いいな!」


「ちいっ……覚えてろ!」

 小男は捨て台詞を残して、駆け足で逃げて行った。


「ふん……小悪党め!


 悪かったな……あんな悪党とは……あれでも冒険者組合にたまに寄付をする、名士と言われた男なんだ。宮殿御用達の商人でな……それが、こんな情けないことをしていたとは……俺はジャック……冒険者だ。


 ちょっとしたへまをしちまって、地域貢献クエストでも……まあ罰だよなあ……無給の奉仕活動を定期的に行うよう義務付けられているんだがそれが……こんな情けない事だったとは……組合にも文句を言ってやる。


 給料だって……本来なら子供を働かせてはいけないんだが……だまされて働かされていたんだったら、そいつはお前さんにとっては正当な労働だ。だからきちんと給料を請求できる。俺が付いて行ってやるから、慰謝料含めてふんだくってやろうぜ!」


 ジャックと名のった冒険者は、ただでも小さな目をさらに細めた……笑っているつもりか?


(おいっ!何固まっているんだよ!助けてもらったお礼を言え!)


「あ……ありがとう……ございました……でも……どうして?」


「だから言っただろ?俺は悪党は嫌いなんだ……と言っても別に正義のヒーローって訳じゃあない。目の前でちょろちょろと悪事を働かれるのがうっとおしいから、やめさせる程度なんだがね。


 礼はいらんよ……日当も稼げたからな……それよりも……顔色悪いぞ、どこか具合でも悪いのか?」


「いえ……その……なんでも……」

(おいっ、馬鹿だな……いい人っぽいから、何も食べてないって助けを求めるんだよ!)


(そ……そんなこと……しなくても……金ある……)


(馬鹿野郎!町まで4時間かかるんだろ?持つのか?それに……もしかするとさっきの悪党が、冒険者崩れのやくざもんとかと一緒に、どこかで待ち伏せしているかもしれないぞ!腹ペコで倒れそうな状態で、戦えるのか?妹に食いもん買って行ってやるためにも、何か少しでも腹の足しになるもん持ってないか聞いてみろ!)


(で……でも……)


(おい……お前が人が苦手なのは、態度からわかる。だが……妹のことを考えてやれ!町まで行ってきたんだろ?お前の足でダンジョン奥まで2時間ほどで……町まで4時間……あの子だったら日の出から日の入りまで使ってもつかないんじゃあないのか?


 往復1日以上もかけて……ジャガイモ1個だけようやく持ち帰ったんだ。自分が食うだけだったら、バナナとか果物でもよかったのに……日持ちする野菜を選んで山道を必死で駆けてきたんだぞ!


 恐らく……お前は盗んできたものなんか絶対に食べようとはしないだろうから、こっそり畑に埋めて種芋が育ったみたいに収穫して見せようとしたのかも知らないな……だからジャガイモなんだ……芽もないし根も出てないから一目で分かるはずだが……子供だからな……。


 その間お前は恐らく……腹が減りすぎて気絶でもしていたんだろ?……妹がいなかったのに気がついていないんだからな。今は妹の顔を見て気が張っているから何とか意識を保っているだけだ……俺は医者じゃないが瀕死の状態だろうな。


 飢えて死にそうなアニキのために泥水すすって、必死で食べ物を持ち帰ったあの子の気持ちを汲んでやれ!

 助けを求めろ!お前はどうでも……妹を助けろ!)


「あ……あの……もう……何日も……食べてない……な……なにか……食べ物……洞窟奥に……妹も……い……います……」


 大男はようやく……聞こえるかどうかのか細い声で……それでも必死で助けを求めた。


「ああそうか……だったらちょうどいい……罠にかかるのを待ち伏せするために、携帯食をリュックに詰めて持たせてきたからな……さっきの会話から腹減っているだろうと思って、置いて行かせたんだ。」

 ジャックはそう言いながら、先ほど小男が置いていったリュックを持ち上げてやってきた。


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