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リモート  作者: 飛鳥 友
第2章 折角できた仲間と離れて、イチはどうなって行くのだろうか……
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予期せぬ再会

7.予期せぬ再会


(ほら見ろ……やはりな……)

(な……なななにが……?)


「彼は置き去りにされたときに逃げ出せないように、左足の腱を切られておりました。さらに右臀部に大火傷を負っていたのです。治療を施した巫女の話では、高温の焼き鏝を押し付けられたようだったと聞きました。


 当初は腱を切ると血が滴り、その匂いに誘われてすぐさま魔物たちが寄ってくるため、自分たちが逃げる時間を稼ごうと、焼き鏝にしたのだろうと考えておりました。本当は両尻に鏝を当てたかったのが、あまりの熱さに目を覚ましそうになり、仕方なく左足は腱を切ったのだと……。


 ですが……行方不明になった王子の刺青の話を聞いて、ピンと来たのです。


 動きを封じるのではなく、入れ墨を焼き消してしまおうと考えたのではないかとね……すごく深い重度の火傷で、確かに動きを封じることもできましたし、さらに万一助かったとしても治療は困難で、元の状態に戻ることはないものと考えていたのでしょう、相手はすごく狡猾ですね。


 秘伝の特殊な治療を行い、2人がかりで30時間以上もかかってようやくでしたからね。」


「ううむ……イチと申したか?2、3質問してもよいかな?」


「はっはあ……しっ質問……ででですか?そっその……まま前に……おお起き上がって……ずずズボンを……あっ上げても……よっよろしい……でででしょうか?」

 イチは、今この危機を何とか逃れたいと願っていた。


「おやそうだな……悪かった。サーティン……放してやれ。もう確認は終わった。」

「そうでしたな……悪かったな……。」


 背中にドンっとのしかかっていた大岩のような重しがのけられ、イチはようやく息がまともにできるようになってきた。すぐさま起き上がって、しゃがみ込んだまま周囲を警戒し、素早くズボンを上げてベルトを締める。これでようやく一心地ついた。


(大丈夫だって……そんなに警戒しなくても……)

(お……お前は……ただ……見てる……だけだ……から……)


(見ているだけ?違うだろう?……お前の感覚は俺に伝わってくるんだからな……いわば一心同体だ。もしお前の想像通りだったなら……そりゃあもう……何をどうしてでも逃げろというさ。


 だがそうじゃない……俺が言っているのは、サーティンや畿西卿は、変な意味でイチの体に興味があるわけじゃないといっているんだ。)


(じゃじゃあ、どうして?)


(ああ……話せば長くなるが……簡潔に言うと……お前……いや……悪い……俺も、お前ほどではないが人との関わりが苦手な方だ……だから……俺ではなくサーティンから説明を受けてくれ。

 その……俺じゃあ、お前をどう慰めていいか分からないし……さらにもっと重要なことが……)


(どど……どういう……ことだ……?)

(すぐに分かる。まずは畿西卿とやらの質問に答えろ。)


「よろしいかな?」

 イチがじっと下を向いたまま動かないので、畿西卿が様子をうかがって来た。


「はっはい…………どっど……どのような……しし質問……ででですか?」


「其方の素性に関してだ……生まれ……というか孤児院育ちということだったが、どこの国のなんという孤児院で育ったのか、聞かせてくれないか?」


「はっはい……ええ蝦夷国……へへ平和教会前……すす捨てられていた……そそそうです。そっそこの……せせ先代……しし神父様が……ここ個人的につつ作った……こっ孤児院で……そそ育ちました。」


「ほかにも孤児はいたのかな?」


「はっはい……ささ先の戦争前……ここ孤児も多く……いいいたようで……せっ戦火……なな長引いて……ここ孤児さえ……いいいなくなった……しし神父様……おおおっしゃって……いいい一旦むむ無人となった……ここ孤児院……いい1歳くらい……ここ孤児……ぜぜゼロ……なな名づけられ……ほほほぼ同時……せせ生後はは半年くくらい……おお俺……きょ教会前……すす捨てられ……いいいイチ……なな名づけられました。


 すっすぐ……せせ戦争終わって……いい1年くらい……うう生まれたばかり……おお男の子……ににニイと……なな名づけられ……さっさらに……ごご5年後……ふふ2人の子……そっそれぞれ……ささサン……よよヨン……なっ名づけ……らられました。こっ個人の……ちち小さな……ここ孤児院……よよ4人で……そそ育ち……ままました。」


 イチは自分が神父から聞かされた生い立ちを、包み隠さずに答えた。


「おおそうか……4人だけだと……仲が良かったのだろうな……?」


「そそそそりゃあ……もももちろん……ででですよ……さっサンは……おお女の子ですが……ほほ他は……ささ3人……おお男で……しっ神父様……いい引退なされて……ここ孤児院……へへ閉園……ほっほかの……ここ孤児院……ひっ引き取られる……ささサン……よよヨンは……おお俺たち……ねね年長で……ひっ引き取り……そそ育てました。


 おっ俺たち……ちゅ中学……そそ卒業して……すっすぐ……ぼっ冒険者……しし師匠……もも下で……しゅしゅ修業……ささサン……よよヨン……ちゅ中学……でっ出てすぐ……ぼっ冒険者登録……ぜっゼロ……りりリーダー……ちちチーム……けけ結成……しししたのです。」


「そうか……チームリーダーはゼロというのか……さらに……すぐ下の弟が……ニイ……か……。

 ふうむ……。」

 畿西卿は正座するイチの前で胡坐をかき、腕組みして少し考え込んでいた。


「サーティンの心配事が……どうやら現実のこととなりそうだな……ゼロやニイなどの名前は、明かしてはなかったからな。それを知っているということは……まさに真実は計り知れようということだ。


 少し待って居れ……すぐに畿東国王宮に連絡を取ってくる。それが終わったなら、何食わぬ顔をして宮殿の王子たちのもとへと顔を出すとしよう、客人をお連れしてな……。」

 そう言い残すと、畿西卿はあわただしく部屋を出て行ってしまった。


(やはりな……王子たちご一行に会っているのは畿西卿だけだからな……サーティンだって知らなかったから手探りだったが、どうやら間違いなさそうだ。イチよ……これから驚くような人と再会することになりそうだぞ……。)


(はあ?驚くような人?俺の……知り合い……か?神父様は……とうにお亡くなりになったぞ……!

 ま……まさか……ぜぜゼロ……か?)


(恐らくそうだ。)

(つつ……捕まった……のか?ど……どこへ……行く?)

(捕まってやしないよ……宮殿って言っていただろ?)


「よかったな……どうやらお前さんの身元が判明しそうだ。」

「はあ?」


 イチにはゼロに会いに宮殿へ行くということも、自分の身元が分かるということも、何を意味しているのかさっぱり分からないでいた。



「よしっ……では参るぞ。」

「かしこまりました。イチよ……いや……イチ様……かな?一緒に行くぞ。」


 30分ほどして畿西卿が障子戸を開けて顔を出し、これから出発すると言い出した。それに呼応してサーティンも立ち上がり、イチも一緒に行くのだと言い出す。


「どっ……どどど……こ……へ?」

(だから……宮殿だといっただろ?下宮からだとお前には道が分からんだろうから、サーティンについていけ!)


(ど……どうして……きゅ……宮殿へ?ぜ……ゼロに会いに……行くのでは……なかったか?)

(そうだよ……黙って付いて行けばわかるさ。)


 突然の展開にイチは戸惑っていたが、サーティンに手を引かれて無理やり立ち上がらされ、そのまま土間まで連れられ草履を履かされ、本丸を出ていく。そこからは乗ってきた馬にまたがり、サーティンの後をただ黙って付いて行くだけとなった。


 畿西卿の護衛であろう20騎程の騎馬隊とともに、ひたすら広い街道を馬を走らせていく。



 やがて開けた通りの先には巨大な城が見えてきた。やはり宮殿へ向かっているのは間違いがないのだが、どうしてゼロに会いに行く行き先が宮殿なのか……鬼畜と称されるような生贄を使うクエストを咎められ、つかまってしまったのであれば、冒険者組合に拘束されているはずなのだ。


 それとも……あまりの所業ゆえに国際手配されてしまい、ここ畿西国の宮殿で拘束されてしまったのか……イチは、まだ余裕があると考え、ゼロ達家族の捜索を延ばし延ばしして、1年間も怠っていたことを後悔していた。


 もう少し早く……1ヶ月でも2ヶ月でも早く、捜索の旅に出ていたとしたなら、ゼロ達が再び悪行に手を染める前に見つけ出し、正しい道へと導くことが出来たのではないか……弟子ともいえる桜子たちが努力を惜しまず日々成長していく姿を見守るのが日課となり、家族の捜索を先送りしていたことが悔やまれた。


 手綱を引く手の動きが鈍り、イチの馬だけ遅れ始める。


(安心しろ……お前が数ヶ月早く捜索に出発していたとしても、ゼロ達は決して見つかることはなかった。かえってお前が見つけることは、不可能となっていただろう。居残っていて正解だったわけだ。)


(どういうことだ?)

(すぐにわかる。宮殿に、全ての答えがある。)

(だから……どういう……)

(動揺して立ち止まられたり、逃げ出されても困る。黙ってついていけ!)



 畿西卿たちとともに渡り橋を渡って堀を越え、本丸の中へ入っていく。


 土間で護衛兵士たちに身体検査を受け武器を預けさせられたのちに、草履を脱ぎ小上がりを上がって渡り廊下を奥へと進んでいくと、サーティン卿は3人の甲冑に身を包んだ護衛兵が立番している前で立ち止まった。


 左手の白砂を一面に敷き詰めた中庭の、所々に浮島のように配置された岩や、きれいに葉を切りそろえられた見事な枝ぶりの松が植えられた景色が素晴らしく目を奪われる。


 宮殿地下の牢屋へ向かうのかと思っていたイチは少々気が削がれたが、もしかするとゼロ達の酌量のお願いに、畿東国王子様へ上申しに行くのではないかと思い直した。


 畿西卿は護衛兵に一礼すると、おもむろに右側の障子戸を開けた。


「これはこれは……畿西卿……貴国の重鎮たち及び有識者たちとの晩餐……及び数々の催し……いたく感動いたしました。かようなおもてなしを頂き、感激至極であります。


 帰国次第わが父畿東国王に、重厚なるおもてなしであったとご報告させていただきます。

 そうして最後に朝食をご一緒出来る喜びを、声高にお伝えいたしたい。」


 すぐに部屋の奥から、聞きなれた声が聞こえてきた。まさか……ありえない……イチの膝がガクガクと笑っていた。


「おお畿東王子……いえ……ゼロ王子とお呼びしたほうがよろしいですかな?ご機嫌麗しゅう……そうですか……我が国の心ばかりのおもてなし……至らぬ点も多かったと存じますが、ご堪能いただけましたとは、手前どもといたしましても幸甚にございます。


 それはそうと……本日の朝食の儀には……ゲストをお呼びしてございます。

 おひとりさまは……恐らく王子様も……旧知の方ではないかと思い、お連れした次第でございます。


 まずは、わが畿西国が誇る冒険者……S級騎士のサーティンでございます。この城の警護を任せておりますので、一部の方は……ご存知のはずですな?


 続きましては……サーティンのところに身を置く冒険者……名をイチと申します。お見知りおきを……。」

 畿西卿が後ろへ振り返りながら、サーティンとイチを簡単に紹介してくれた。


「なっ……。」

 サーティンとイチが畿西卿の後ろから部屋へ入った途端、部屋の中の雰囲気が変わった。


 それまでの和やかな雰囲気は一変し、誰もが一言も発せないでいた。特にイチは……部屋の奥の一段高い上座に座っている王子と紹介されたのは何と、イチが兄と慕っていた……ゼロ……更にその右隣で帯剣したまま立っているのはニイ……イチは自分の目がおかしくなったのではないかと、何度も目をこすってみた。


「い……イチ兄さん……い……生きていたん……だね?ダンジョンで……突然はぐれたときは、すごく心配したんだよ……ゼロ兄さんたちは……強力なボス魔物が突然ボスステージから出てきて、イチ兄さんをさらっていったって言っていたけど……良く生きていられたね?」


「い……イチ……にい……。」

 イチが何度も瞬きを繰り返しながら上座の人物達に気を取られていると、上座の手前で横向きに座っていた2つの小さな影が突然立ち上がり、駆け寄ってきた。


「さ……サン……ヨンも……ぶ無事だったか……よ……よかった……。そ……そうか……お俺を置いて……に逃げ延びて……いたんだ……な?」

 イチは末の弟と妹の頭をなでながら、久しぶりの再会を喜んでいた。


「えっ?イチ兄さんを置いて逃げ延びた……って、どういうこと?」

 ヨンが、不審そうに顔を上げる。


「ああ……お俺たちのチームの……ひっ非道な行為が……ははっきりと分かった……。お俺たちは……きっ鬼畜と噂される……ちチームに参加していたんだ。」


「き……鬼畜?」

「ああ、そそうだ。」

 イチはそういうと、上座に座るゼロとニイを睨みつけた。


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