王子の秘密
5.王子の秘密
「それで……捨てられた時の状況……とか……身体的特徴とおっしゃられましたが……身体的特徴などは……成長するにつれ変わっていくのではないでしょうか?
捨てられた当時はやせていたにしても、今では肥満体形かも知れませんし、逆もあり得ます。子供のころは二重瞼だったけど今は一重……なんて言う話だって聞きますよ。捨てられていたという状況から、王子様と判るようなものは、なに一つ身に着けていなかった訳でしょう?
1年もかけて吟味されたのでしょうから、確かなのでしょうが……よく王子様とお認めになられましたよね?連邦の長……ですから……そのような素性が……はっきりとはしない者を……よくも……。」
サーティンは元々、身体的特徴などから……という表現を非常に疑問に感じていた。左利きとかでも成長過程で、右利きに無理やり直させるなどということも起こりえるのだ。ましてや幼い時の特徴など……。
「ああ……身体的特徴……とは申したが……それは王家独特の……偽物が現れた場合でも判別がつくような、方策がとられていたようだ。特殊な……入れ墨を……赤子が生まれてすぐに入れたようだな。」
「入れ墨……ですか?」
「おおそうだ……ちょっとかわいそうにも思えるが……小さなものらしい……右の尻……臀部……にな。幼いうちは……黒いあざくらいにしか見えないが、大きくなって……体が……だな……尻が大きくなって皮が伸びると、なんと……日ノ本国の紋章が浮かび上がるという優れものだ。
さらに隠し彫り……とかいう技法……でな……体温が上がると……鮮やかな色彩も現れるようで、その2つの点に加えて、守り刀……も一緒に持たされていた。勿論……宝石などの宝飾がちりばめられたような、そのような刀ではない。一見すると、小汚いナイフ……だな。
その子の身元を確認する証拠品とでも思わなければ、すぐに捨ててしまうような、そんなものだったらしい。守り刀も……本物と認定され、入れ墨も一致……と言ったことのようだ。
もう……彼が王子ということは、まぎれもない真実……とみられているようだな。」
畿西卿の話を聞いていて、サーティンの気持ちも落ち着いて来た。元々は身体的特徴なんて言うあやふやなことで王子を認定したということが気にかかっていただけなのだが、それが入れ墨という人為的要素と判り、信憑性はかなり上がってきた。幼い時の顔立ちや体型などではなかったことに、安心感を覚えた。
「あっ……ありがとうございました。王子様の特徴など、大事な部分まで教えていただいて、大変参考になりました。王子様は……明後日帰国されるのですよね?」
「ああそうだ……明日は畿西国の重臣たちとご面会なされる予定で、夜は晩さん会が催される。
明後日の日中は畿西国の著名人……作家や役者、スポーツ選手などだな。それらに功績を上げた者たちが、王子と謁見予定で、午後から帰国の途につかれる。かなりハードなスケジュールで、まさに分刻みで入れ代わり立ち代わり、面会者が交代する……お気の毒よの……。」
畿西卿は、連邦の長となる予定の王子の大変さを、少し憐れんでいるように見えた。
「王子の守り刀や入れ墨などは、噂として流してあったのだな……尤も、入れ墨が成長するにつれて形を変えて、ついには日ノ本国の紋章になるとは教えてはいない。しかも……紋章など数あるし、さらに今では使われていない連邦になる前の旧日ノ本国の紋章ということだ……わしもどれかは知らん。
だから、これくらい教えておいても問題はないだろう。すでに王子の認定は済んでいるのだからな。」
畿西卿はそう言っていたずらっ子のように、はにかんだ笑顔を見せた。
「そうですか……ではあと2日間……しっかりと警護させていただきます。」
「おお……よろしく頼むぞ……。」
サーティンは、下宮を大急ぎで後にした。畿西卿が話してくれた内容により、王子を襲うであろう賊たちに関して、想定できるようになってきたことはありがたかった。やはり……畿東国内の内部紛争が、この国にまで及んでいるということは間違いがないだろう。
何せ連邦の長たるお世継ぎ問題なのだ……先の大戦並みの戦乱が勃発してもおかしなことではない。
「すると……王女派の仕業である可能性が高いということですか?」
列の後方から、質問の声がかかる。
サーティンは宮殿に戻ってくるとすぐに昼勤務の警護メンバー全員を集めて、畿西公に聞いた話を一言も漏らさずに伝えた。宮殿中庭にはサーティンヒルズのメンバー以外、誰もいないなか、中庭中央にて円陣を組み、外部に漏れないよう周囲に注意しながら説明が行われた。
「あくまでも可能性ではあるのだが……畿東王宮内のお世継ぎ争いである可能性は否めない。なにせ22年間も消息不明であった、王子様が突然湧いて出たような事態なわけだからな。
畿東国の王女様は、畿西国へ何度かいらしたことがあるし、警護を仰せつかって間近に見たこともある。お目通りという訳ではなく、ただ単に通り過ぎる所を拝見しただけだけどね。
お噂通りに美しい方で、更に知識も豊富で西方の蛮族や西欧諸国の言葉も堪能で、貿易などの通訳も買って出られることもあるということだ。まさに才色兼備……王宮内に王女様を擁立しようとする動きがあったとしても不思議ではない。
今回のトラブルに直接王女様が関わっているとは思えないが、先の大戦のように臣下達が率先して、互いに派を競い合うということは十分にあり得ることだ。
恐らく王女派が直接襲い掛かってくることはあり得ないだろう、畿東国の護衛の軍隊も来ているのだから、すぐに身元が分かってしまうからな。だから……俺とイチを襲ってきたのが食い詰めのゴロツキたちであった事も頷ける。」
「はあ……襲ってくる賊の正体が見えてきたのはいい事でしょうが……まさかこんなこと……畿東国の護衛隊には……」
「ああもちろんだ……これは畿西公から王子様の裏事情を教えていただいた俺が、勝手に想像しているに過ぎないから、彼らに話すことはできそうもない……護衛の強化を進言できるから是非とも……とも考えるが、万が一にも間違っていたら大変なことになる。
畿西公にまで迷惑をかけることになってしまいかねないから、あくまでも我々の胸の中に留めて警護に当たるしかない。」
「わかりやした……まあでも他国から……見知らぬ奴らが大勢でやってくれば目につきますから……おっしゃる通りにせいぜいゴロツキを雇って襲ってくるぐらいしかできないでしょう。恐れるに足りませんよ。」
自分の身長よりも長い剣……竜刀といってもいいような太刀を持つ大男が、自信満々に笑みを浮かべた。
さすが強者ぞろいのサーティンヒルズの冒険者たち……彼らの存在は、イチにも頼もしく見えた。
(ううむ……なんか引っかかるんだよなあ……)
(うん?引っかかる……?)
(ああそうだ……何かおかしい……)
(お……おかしい?お……俺が……か?)
(いや別に……イチがおかしいといっているわけじゃあない。いくら広い宮殿中庭とはいっても百m角位の広さの中央部分に細長い櫓が2棟平行に立てられている。これは城へ侵入してきた敵軍兵士を、櫓の2階部分から矢や魔法などの遠隔攻撃を使って、狙い撃ちして粉砕する仕組みだ。
そうであれば警護の者たちは全員櫓の中に潜んでいて、族が侵入してきたなら狙い撃ちすればいいのではないかと思える。イチのような弓使いや魔術師などは特に……だな……それなのに警護の最中は全員が外に出て、一定間隔のマス目上の頂点に位置するよう配置されている。
アリも漏らさぬ布陣……と言ってしまえばそうなんだが、これは侵入した賊を捕らえようとしているのではなく、突入しても無駄だからあきらめろと知らしめているように思える。
つまりここ、畿西国での襲撃は失敗に終わりますよ……と暗に匂わせているわけだな。恐らくサーティンの狙いはここにあるのだろうが……仮に王女派が王子をなきものにしようと企んでいるのだとしたなら、わざわざ他国まで来て事を起こそうとするだろうか?
自分たちの根城である自国で行ったほうが遥かに手勢も割きやすいし、秘密裏に行うことだって可能ではないか?もっと言ってしまえば……王子かどうか未確定であった審査期間であれば、警護もはるかに簡素であっただろうし、よほど始末しやすかったはずだ。まあ、どうせ今回も偽物だろうと、油断していた可能性は排除できないけれどもだな……それにしてもお粗末だ。
王族へのお披露目が済むと連邦内に大々的に発表されてしまうから、そうなれば手を出すことはますます難しくなるから、焦っていると考えられなくもないのだが……それにしてもなぜ……。
わざわざ他国まで来て……事を起こそうとする真意とは……?恐らくサーティンもその辺りが引っかかっているからこそ、こちら側の警護体制を見せつけるような事をしているのかもしれない。
だが俺には、そうではないもっとこう……なにか別の理由がありそうな気がして……)
(なにか……?)
(ああ……何か前に聞いたことに関連しているような気がしているんだが……のどまで出かかっているようなんだが……そのことを思い出せないから分からん……思い出したら教えるよ。)
(記憶喪失だからな……仕方がないさ……)
(いや……何かあるたびにフラッシュバックのように断片的に思い出す、俺がいた元の世界のことではない何かだ……俺がイチの中に取り込まれてからのことを思い出していくか……………………怪我をしていたんだったな?死ぬ寸前と言える状況だった……サーティンたちに助けられて……それから町へ……。)
(ああ……だがその前に……お前に応急……手当?……の方法を聞いて……手当していなければ多分危なかった……サーティンさんたちも、間に合わなかっただろう。)
(そうそう……ひどい怪我をして出血多量で……そうだ尻だ……尻繋がりなんだ……お前右の尻を焼かれて、更に左足首を切られて捨てられていたんだったよな?)
(俺が捨てられてた時……傷や病気もなく……元気な姿で……と聞いている……)
(ああいや……悪い……赤ん坊の時に捨てられていた状態ではない。家族ともいえる仲間たちに生贄にされかけた時だ……逃げられないように右尻を焼かれて、左足首を鋭い刃物で切られていたんだったな?
お前……子供の時に右尻に痣なんかなかったか?)
(ああ……あった……はず……自分では見えない……風呂入るたびゼロ達に言われていた……普通は大きくなると消える場合多いらしいが、俺の痣は逆に大きくなっていった……皆心配していた。)
(そうか、やっぱりな……ようやくこれでこれまでの謎めいた事柄が繋がって来たようだ……。)
(やっぱり?何がやっぱりなんだ?)
(今は説明している余裕がない、恐らくお前に理解させるには夜が明けてしまうだろうからな。それからでは真相を確かめるタイミングを失ってしまいそうだ。早急に行動にうつす必要性がある。
そうだサーティンを呼べ!奴なら……なんとか気がついてくれるんじゃあないかと思う。)
(うん?サーティンさんを呼んでどうする?)
(ああ……こうしろ……いいか……これはお前と、お前の家族を探す為でもあるんだ。意味が分からなくても、我慢して言う通りするんだ!)
「さ……サーティンさん……サーティンさん……!」
イチは言われた通りに持ち場で蹲ってから、大声でサーティンを呼び寄せてみる。
「うん?イチか……どうした?」
すぐにサーティンが数人の冒険者達と共に駆け寄って来た。何せ蹲って苦しそうにしているのだ、急病か?
「ああ……とっ突然……し……尻が……だダンジョンで焼かれた尻が……痛くなった……こ……子供のころ……右尻に……ああ痣があって……ゼロ達兄妹に……よく言われてた……。
多分……痣のせいか……?右尻の……火傷跡が……ひどく痛い……。」
「ああ……イチと出会った時のダンジョンで、大やけどをしていた右尻だな?左足首の傷は大丈夫か?
もう1年も経っているというのに未だに痛むというのか……かわいそうに……あれはお前の仲間たちがお前を生贄にするために右尻を焼いて……はっ……そ……そうか……いや……そんな……まさか……」
サーティンは蹲るイチが示す右尻のあたりを眺め、イチを慰めようと頭に手をやりながら、次の瞬間何かひらめいたかのように、その動きを止めた。
「い……イチよ……一寸確認したいことがある。
おおお前さんが教会近くに捨てられていた時……いい一緒に何か持たされてはいなかったか?」
サーティンは興奮した様子で、息つぎも不安定なまま言葉は早口で問いかけた。
「ああ……小汚いナイフのようなもの持たされていたと……聞いた。神父様に守り刀だと教えていただいたが……近所の人たちは育てられなくなった親が子を殺めようとしたナイフを……そのまま一緒に置いて行ったのではないかと……言っていた。だけど……」
「そのナイフは、去年置き去りにされた後に家に戻ってみたら、無くなっていた……そうだろ?」
「どどど……どうしてそれを?」
イチはサーティンにズバリと言い当てられたことに、仰天した。なくした程度であればまだしも、その時期までズバリと当てたことは、脅威に思えた。超能力者とか……か?
(超能力者なんかじゃない……サーティンには通じたようだな……よかった……)
(通じた……?何が……?)
(ああ……すぐにわかるさ。とりあえず、サーティンの指示通りに行動するんだ。俺にはどうやって、失った証拠を取り戻すのかわからない……もしかしたらサーティンなら、何か策があるのかもしれない。このままでは手の出しようがないからな……へんな期待を持たれても困る……
サーティンが行き詰まったら、俺も何か考えるさ……)
(な……何を言っている?)
(黙って、流れに身を任せろ。何か必要なことがあれば俺が伝える。)
「これから一緒に宿舎へ戻るぞ。」
「えええええ?でっでも……宮殿の警備は?」
「宮殿の警備と言っても、本丸前方の中庭だけだ。要員的には十分すぎるほどいるから、俺たち2人くらい帰っても問題ない。それより付き合ってくれ。どうしても気になることがある。どの道、火傷跡が痛いんだろ?治療が必要だ。」
驚いて動揺するイチに対し、サーティンは真剣なまなざしで告げた。
「わわわ……わかった……。」
イチは訳が分からなかったが、取り敢えず神妙な面持ちで同行を承知した。




