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リモート  作者: 飛鳥 友
第2章 折角できた仲間と離れて、イチはどうなって行くのだろうか……
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襲撃されたのに……

4.襲撃されたのに……


(なんだよう……お前の中にいる俺が見えなかったというのに……奴にはお前の正確な狙いが見えていたというのか?恥ずかしそうにしているのは、何かのふりか?さすがSクラスの騎士だな……俺にはお前のすご技を驚くくらいしかできないというのに……)


(いや……お前も見えているはず……認識できないだけだ……それでも大丈夫だ……心の声の導きは……俺に生き方を教えてくれる……すごく役に立っている……)


(そうか……目には見えていても、俺にはそれを把握できないということだな?それはそうだ……イチと同じ体なわけだからな……だがまあ……そんな俺でも役に立っていると言ってくれで、ほっとした……)


「でも……逃げられた……恐らく俺たち……宮殿の警備……知って、襲ってきた……。」


「そうだろうな……ゴロツキどもは、普段は近隣の飲み屋やギャンブル場で、酔って暴れる客たちの対処なんかをして、みかじめ料を稼ぐようなやつらだろう。冒険者の端くれだろうが、俺たちがクエストを引き受けて活動するのと違って、奴らの場合は無理やり店を回って、金を巻き上げていくようだがな。


 さすがに強盗なんてことはしないだろうし……誰かに雇われて俺たちを狙ったとしか思えないわな。


 ううむ……王子様の警護を妨害しようとするやつらが、本当にいるとは思わなかったね。要人警護なんてえのは仰々しく行いはするが、実際のところは何事もなく終わるのが常だったからね。


 念のために俺は城へ戻って、襲われたことをうちの連中と畿東国の軍隊にも話して、警戒するよう告げておく。」


「じゃあ俺は……宿舎へ戻って、明日朝……皆に襲われたこと話す……。気を……付けてくれ。」

「ああ……イチもな……恐らく今日は大丈夫だろうがね……念のため……。」

 サーティンはそのまま宮殿へ戻り、イチはサーティンヒルズへ帰って行った。



 翌朝、サーティンは戻ってこなかったため、朝食時にイチは全員に昨晩の帰り道に、サーティンとともに襲われたことを告げた。さすがに皆驚いてはいたが、宮殿警護をやめたいと言い出す者は一人もいなかった。


(さすが百戦錬磨の冒険者たちだな……実際の敵がいると分かっても、おじけづくものが一人もいないのは頼もしい。)


(ああ……だが人間の敵……ボス魔物よりも厄介……)

(そうだな……十分に警戒しよう。)

 朝食後、夜勤者と交代するために、昼勤者全員で宮殿へ出勤した。



「なんだって……?城の警護を外された?だって……明日には畿東国の王子様が到着……?」


「ああ……昨日襲われた後に戻って、そのことを畿東国の護衛隊に伝えたら、城内警備は自分たちだけで実施するから、俺たちは本丸の正面周りの警護だけでいいと言いだしやがった。


 畿東国から派遣された軍隊は、隊とは言いながらたかが10人だ。王子様と一緒に後続も到着するだろうが、それでもそんな少数で5階まで全部警戒するのは無理だから、俺たちと共同でやろうって朝まで説得していたんだが、聞く耳持たないといった感じだ。


 しまいには城下で襲われたやつが一緒にいると、こっちまで襲われかねないからと言い出す始末だ。王子様の警護関係で襲われた可能性が高いというのに……俺たち個人の問題と受け止めたのだろうな。

 危険を教えようと帰り道で襲われたことを知らせたのが、かえって彼らの警戒心を煽ったようだ。」


 本丸に入ろうとしたら、入り口で待ち受けていたサーティンに引き留められた。サーティンの言葉は、イチたち全員をあきれさせた。


「はあ?俺とサーティンさん襲われたのがいけないといったか?そんな理屈が……通るのか?」


「本当に……情けない……。畿西国もそうだが、畿東国も長く平和が続いて……人と人が小競り合いするようなことすら、起こっていなかったからな。空き巣程度は稀に起こるが、強盗や殺人なんて凶悪犯罪は、ここ十年以上発生していない。みんな平和ボケしちまっているのさ。


 要人護衛なんて形ばかりのことでな……何も起こらないのが当然と皆考えていた。冒険者と軍隊のアルバイト収入……ボーナスみたいなものと考えているのが多いということだろうだな。


 それなのに俺たちが昨晩襲われた。誰かから狙われているような奴らは、王子様に近づけたくはないという理屈のようだな。」

 サーティンは、大きく息を吐いた。


(こいつは参ったね……恐らく王子が襲われるということへの強い警戒心があるのだろう。反乱分子がいるということが、明らかになってしまうからな。お披露目で連邦中を回っているときに、本国を不安にさせないためと考えているのかもしれんが……逆効果としか思えんのだがな……)


「そんな……明らかに宮殿から帰るところ襲われた……宮殿警護の邪魔しようとした……間違いない。一人でも二人でも怪我させて……警備……手薄にしようとした……。


 下手すると、殺すつもりだったかも……なのにかえって警備手薄にして……どうしたい?」

 イチにも畿東国の軍隊の考えが、どうしてもわからないでいた。


「仕方がないさ……王子様の側近とかいうやつが頑固で……俺がどういっても無駄だった。こうなったら……俺たちは宮殿の外で、出来る限りの警備をしよう。不審者を一人も入れないようにな……。畿東国の軍隊側に問題があるのだが、ここ畿西国で王子様に何かあれば、こちらの責任になりかねないからな。」


(サーティンは、すでにあきらめている様子だな。目を真っ赤にして……あれから夜通しで畿東国の警護達を説得しようとしてダメだったわけだからな。これ以上責めるのはあきらめて、宮殿外の警護を厳重にするしかないな。


 元々外側の警護は2班だけでを行うつもりだったんだから、昼夜勤務の3班ずつ6班全てで要員を配置すれば、ほとんど隙間なく、それこそ会話もできるくらいの互いの距離で、本丸前方の中庭にパーティが配置される。まさにあり一匹侵入できない、鉄壁の布陣と言えるだろう。


 周りは2重の堀で囲まれているし……何とかなるんじゃあないか?)

 イチたちは仕方なく、本丸前方中庭の警護に専念した。



「おお……皆ご苦労。サーティンの処のメンバーは、やはり優秀だな。一人もあくびをしている奴がいない。いつ族が侵入しても対処できるよう、気を抜かず警戒している。実に素晴らしい。さすが畿西国でも1,2を争うパーティだけのことはある。」


 翌朝、イチたちが出勤して夜勤者と交代してから暫くして、10時ころになって内堀の橋が下ろされ、騎馬軍隊が列をなして入って来た。


(いよいよ王子の到着か?……なんだよう……恰幅はいいがじじいだ……まさか王子の訳はないよな?)


 サーティンたちとともに道の両端に直列し、隊列を迎え入れようとしていたら、ひときわ輝く甲冑に身を包む騎士が兜の面を上げ、サーティンに向かって話しかけてきた。


 緑色の瞳に高い鼻。唇は薄く髪の色と同じ黄色の口ひげの両端が、ピンと上へ跳ねている。褐色の肌は温かさを印象させ、やさしげな面立ちも手伝って親しみを感じさせた。


「これは……畿西公……お久しゅうございます。畿東国の王子様への謁見でしょうか?

 ですがまだ……王子様たちご一行は……お見えになっておりませんよ!」


 王子ではなく、ここ畿西国の領主である公爵のようだ。今は下宮にお妃と子供たちとともに移り住み、わざわざ王子を訪ねてきたというわけだ。だが……今朝の引継ぎ時にも、王子たち到着の連絡はなかった。


「いや……王子たち一行は、すでに到着しておるぞ。今朝早く到着したという連絡が、下宮に入っておった。どうやら秘密裏に……本丸の裏口から秘かに入城したようだな。城には極秘の出入り口が作られておるのでな……それを案内しておいた。


 これも……サーティンたちが襲われたことから、警護方針を切り替えたが故だ……隠しておいてすまない……敵を欺くには味方から……と申すのでな……。」

 畿西卿は騎乗したまま高らかに笑い、兜の面を下ろすとそのまま本丸へ入って行った。


(なんと……王子はすでに入城しているということか……到着時間をわざと遅めに連絡しておいて味方をも欺く……畿東国側の警護も、馬鹿ばかりというわけでもなさそうだな。)



「ほお……王子様は22歳そこそこ……でもそうすると……22年近く行方知れずとなっていたということですな……。一体どうしてそんなことに?」


 サーティンが下宮の応接室で、畿西公爵と面談している。宮殿で畿東王子に謁見したのちに出てきたところを、サーティンがそのまま下宮まで一緒について来たのだ。


 本丸内の警護を外されたので、畿西卿に中の様子を伺いにやってきたのだ。どうせ警護の人数は十分すぎる程足りているので、せめて王子がどんな人物か、話だけでも聞いておこうとしたようだ。畿西卿としても、サーティンたちに本丸内の警護を頼んでいた経緯があるので、むげには断れなかったようだ。


「ああ……27年程前から5年間近く続いた内乱は、先の将軍が突然の事故で亡くなられたため、その跡目争いが原因だった。長男の家持と、わし……次男の家邦……それぞれを擁するものが覇権を競い合った。世継ぎを正式に取り決める前に、前将軍が逝かれてしまったからな。


 わしも家持も……戦争などしたくはなかった……だが側近連中がな……この国を掌握するという利権が絡むものだから、勝手にドンパチを始めよった。


 サーティンはまだ子供だった時分だから、よく知らないだろうが、当初はわが陣営……家邦派軍勢が優勢でな。陥落した城から家持たちが散り散りになって逃げ落ち、その時に家持の子供……長男だな……を預かっていた従者が守りきれないと判断し、貧しい上での捨て子を装い、どこかの教会前に捨てたらしい。この長男が……なんと、今になって見つかったということだな……。」


 畿西卿が王子が行方不明になっていた、いきさつを説明し始めた。


「従者は国中を逃げ回っており、さらに身を隠している途中で病に倒れ死んだようで、長男を預けたのが今のどこの国のなんという教会かすら分かっておらん。


 この辺りのことは……学校の歴史の授業では習わない……連邦の黒歴史だからな……割愛しておるから知らないだろうが、そのような不幸なことが実際に起きてしまった。


 のちにその報告を聞いて……家持の子と言えばわしにとっても甥だ。そのような身内を不幸にするような争いは即刻止めなければならないと、家持に使者を出して和平協定を結んだ。


 わしはとりわけ将軍になる気もなかったし、家持は1歳しか違わんとは言え兄だしな……せっかく優位に戦いを進めていた側近連中には申し訳なかったが、家持に家督を譲って長とし、代わりに連邦制を敷くことを認めさせ、将軍を廃止して王政として今の領地配分にした。


 畿東国は大きな港に面しており、海外との貿易の拠点だが、わが畿西国も西の諸国と陸続きで、交易路を有しているから、どちらの陣営からも不平は出なかった。この国の周囲は全て遠浅で、遠洋へ航海できる大きな船が帰港できる港は畿東国にしかないが、こちらは地続きだからな。


 そうして跡目争いで今後揉めないよう、世継ぎは常に明確にしておくよう定めた。代替わりごとに吟味するのは大変なので、家督は嫡男……つまり長男だな……が継ぐと決めた。男の世継ぎがいない場合は、長女とすることも明文化した。


 だから……行方不明となっていた王子が見つかったということは……彼が畿東国のお世継ぎとなる。そうしてこの日ノ本連邦の長となるわけだな。」

 畿西卿は連邦誕生の歴史も交え、行方知れずの王子のいきさつを簡単に教えてくれた。


「でも今更どうして……王子様が現れたのですか?」


「ああ……行方知れずになった王子のことは王宮がさりげなく主導して、畿東国城下では民衆たちに囁かれていたようだな。そのうわさを聞き付けた本人が名乗り出たらしい。本人は全く知らなかったようだが、噂と自分の境遇が、あまりにも酷似しているということで、万が一と思い名乗り出てみたということだ。」


「それで……王子様かどうかの見極めに……1年もかかったわけですね?噂を聞いた偽物が現れたかもしれないから……。連邦内では軍や主要冒険者パーティあげての凶悪犯罪撲滅月間なるものが、半年に一度行われてますから、そちらにも手を割く必要性があった為と聞きましたが、信憑性の確認で時間がかかったと……。」


「もちろんだ……昔から王子を名乗る、不逞な輩は多かったようだからな。都度、偽物とわかれば極刑を与えていたようだ。実の親がいるのに孤児と不正に身の上を偽ったりして王子の名を語ったやつは、生涯を監獄で暮らすことになるようだな。その話も伝わって、最近は王子を名乗り出るやつもめっきり減っていた。」


「それが突然……1年前に現れたというわけですね?」


「ああ……22年も経って……どうして今頃……?ということは、王宮内でも囁かられていたようだ。


 だが……名乗り出た者は、蝦夷国の孤児院で育ったらしい。つまり畿東国での噂は、蝦夷国までは流れていなかったようだな……元は一つの国だったが、今は連邦とはいえ別な国となっているからな。


 ワシや畿東王の妹の婿である一ツ橋伯爵が治める国で、彼は根っからの商人で、商売には熱心だが連邦の家督に関しては全く無頓着のため、王子の噂など全く気にもかけていなかったようだ。


 年に一度……年度初めに畿東国王宮から、先の戦乱で行方不明となった王子の捜索願が連邦中に発せられ、その時に王子の身体的特徴などが噂として口頭で、それとなく伝えられるわけだ。民衆には何ヶ月かかけてそれとなく伝わって行くのだろうな……。


 本人は知らないはずだから、捨てられた時の状態や身体的特徴などが一致して、もしかすると……となって名乗り出てくることを期待してな……わが畿西国でも、10年前まではうわさ話など宮殿からわざと流しておったのだが、そのうちに面倒になって告示が回っても破り捨てておった。


 もう王子なんか見つかりはしないとな……そう思って。」


 畿西卿は行方不明になった王子の噂が、どのようにして広まっていたのか、その裏事情までも説明してくれた。そうなると……王子が畿東国内で生活していない限り、見つかりようもないような気が……今になって……ということが、サーティンにも十分に納得できた。


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