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リモート  作者: 飛鳥 友
第1章 鬼畜と呼ばれたパーティにさえも見捨てられた超人見知りのこいつは、どうやって生きていくのだろうか?
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大きな成果

25.大きな成果


「じゃあ、そろそろしゅっぱ……」

 解体した残り……骨も持ち帰りたかったが、まだ入って間もないので骨と内臓はやめて肉のみとし、残りは穴を掘って埋め、少し休憩した後、イチの号令で再出発するため立ち上がった。


「ぴぎー……ぴぎー……」

(うん?)

 イチが分岐奥へと目をやる。


「さっきから、何か泣いていましたよ……。」

 イチの横に桜子が寄ってきて囁いた。


「まっまだ……群れが……のの残っているのかもしれない。はっ背後を……おお襲われるとやや厄介だから……始末していくぞ!」

 そういいのこしイチは桜子を置いて、すぐさま駆けだした。


「まっ……待ってください……。」

 すぐに全員が続いて駆けて行く。



「ぴぎー……ぴぎー……」

「子牛ですね……。」

 足の速い菖蒲がイチに追いつき、行き止まり手前で止まった。


「あっああ……ちっ乳離れしたばかりくらいだろう……。」

 恐らくそこが牛系魔物たちの住みかだったのだろう。分岐の奥の行き止まりに、どこから持ってきたのか大量の藁が敷かれていて、そこに子牛が一頭寝そべって泣いていた。


「ぴもーっ!」


 子牛はイチたちの姿に気づくと立ち上がり、イチたちの方へ駆け足で向かって来た。すぐさま構えたが、何をするでもなく、イチたちをやり過ごして向こう側へと歩いていく。

 そうして首だけ振り返ると、そこから子牛は一目散に逃げだした。


「さっ桜子!撃て!逃げられるぞ!撃て!」

 すぐにイチは最後尾にいる桜子に、矢を射るよう命じた。


「えっ……いえ……でも……。」

 桜子は戸惑い、弓は持ったまま構えもせず、じっとイチの方へ顔を向けた。


「早く……撃てっ!」

 逃げた子牛を仕留めるよう、なおもイチが叫ぶ。


「だめです……かわいそう。」

 桜子は首を横に振りながら、うなだれた。


「馬鹿っ……!」

 イチは仕方なく皆をかき分け数歩駆け出し、逃げる子牛の背中めがけて一撃……30mほど先の分岐出口手前で、子牛の体はそのまま崩れた。


「ええっ……どうして……まだ子牛なのに……。」

「こっ子牛だからだ……あいつだけじゃ、生きていけない。」


「そんな……分からないじゃないですか……生まれたばかりで……。」

 桜子はピクリとも動かなくなった子牛の姿を眺め、両手で顔を覆ってその場にしゃがみこんでしまった。


「こっこのダンジョンは……お狼系魔物が多そうだから……すっすぐに奴らに見つかる……。そっそうなれば……いいくら逃げようとしても後ろ足にかみつかれ、うう動けなくなったところを生きたまま、なな内臓を食われることになる……。そっそれよりも……い一撃で殺してやった方が……しっ幸せだ……。」


 パシンッ 突然甲高い音が響いた……なんと菖蒲が……イチのほほを平打ちにしたのだ。


「馬鹿っ!桜子の気持ちも知らないで……イチ先生なんか……鬼だわ!

 桜子……元気を出して……ほら……。」


 菖蒲は涙を流しながらイチの目をじっと睨みつけたあと、膝から崩れた桜子を慰めようと、背後から覆いかぶさるように抱きしめた。


(ありゃりゃ……黙っていたほうがいいだろうと思っていたんだが……まあ仕方がない。このような場合に桜子たちに何を言い訳しようとも逆効果だ。下手に声をかけないほうがいい。とりあえず子牛の処理を進めよう。狼系魔物が集まって来たら困るからな。)


 突然の平手打ちに多少動揺したが、すぐに気を取り直して何事もなかったかのように子牛のもとへと歩み寄って行く。



「俺は……イチ先生が正しいと思いますよ……。桜子たちはイチ先生から見れば子供でも……女だから……ね……子牛……なんかだと……母性が……働くのでしょうね。


 でも……かわいそうだからって……じゃあ、どうするんだって話ですよね?連れ帰って育てるわけにもいかないんだから……結局イチ先生が言う通りに、狼たちのえさに……なるだけですよね?

 すぐに気づいて機嫌を直しますよ。」


 イチが子牛の頸椎に突き刺さった矢を抜いていると、松五郎がやってきて解体を手伝ってくれた。


(そうだったな……子供……と言っても女の子……しかももう中学を卒業して、高校生だものな。抵抗なく話せるようになって来て、元のチームと同じように考えていたんだろ?あの時は、もしイチが間違っていたら、ゼロが訂正してくれたんだろうからな……だがまあ……今のはお前が正しいさ。


 桜子たちの見てないところで仕留めてしまうのが……大人なのかもしれないけれどもな……)


(どど……どうすれば……)

(大丈夫さ……松五郎が言っていただろ?あの子たちなら、すぐに分かってくれるよ……賢い子たちだから大丈夫だよ。)


「子牛は肉も皮も柔らかいから、すごい高値で売れるって聞いたことがありますよ。子牛肉は油紙の上にマジックで子牛って書いておきましょう……そうすれば完璧です。」

 そうして懐からマジックを取り出して、子牛肉を包んだ油紙に子牛と書き込み始めた。


(ただのビビりかと思っていたけど……意外とまめで賢い子のようだな……)


「次は……俺の番ですよね?菊之助の後ろで構えるのは?次はやりますから……安心していてください。」

 そうして松五郎は、気合の入ったまっすぐな目でイチを見つめてきた。


(おおいいねえ……梅吉が結構機敏に動けるのを見たから自分だって……という気になったのだろうな。同年代のライバルというか……仲間がいるのは互いに励みになるからいいもんだな……これも子供たちを分散させずに、一つのチームで教育させるようにした、サーティンの計算のうちなのかなあ……


 模擬訓練を思い出して、リラックスするように言っておくといいぞ……)


「あっああ……つつ次は頼むよ。緊張しなくてもいい……普段の模擬訓練のつもりで突けばいいんだ。」

「はいっ……任せてください。」


 梅吉たちもやってきて穴を掘り、残った骨や内臓などを埋めた。後片付けがすむころには、菖蒲たちも泣き止んでやってきて、頭を下げた。イチはイチで、彼女たちに気遣いしなかったことを謝った。



 以降は順調に進んだ。次は狼系魔物の群れだったが、宣言通りに松五郎は一撃で魔物を仕留めて見せた。桜子の矢も急所とまではいかなかったが、素早く動き回る狼系魔物の頭部に近い部分に当たるようになってきた。


 松明の炎が反射する魔物の目の近くを狙う……というイチの教えをしっかりと守っていることが、よくわかった。菊之助のブロックも安定してきたし、直接魔物と接触する菊之助や梅吉たちが擦り傷などを負うため、僧侶の萩雄の活躍の場も増えて行った。


 何より菖蒲が繰り出す魔法は的確で、常に敵魔物集団の足を奪う魔法攻撃はチームの防御力を格段に上げた。


 皆が慣れてくるにつれて、イチは突っ込んでくる魔物を2頭に増やしたが、それでも変わらずに菊之助と梅吉や松五郎が対処して、問題なく倒すことが出来た。最下層まで回ってから戻って出てくる頃には、全員の冒険者の袋の中は、倒した獲物の肉と毛皮でいっぱいになっていた。



「最深部のボスステージにボス魔物はいなかったけど、代わりに猪系魔物が巣くっていたからよかったですね。

 桜子たちの射的の腕も上がったし、何より牛系だけじゃなく猪系の食肉を獲得できたのはよかった。組合に卸すだけじゃなく、うちにもずいぶん持ち帰れそうですね。」


「なあに言っているのよ、梅吉なんて……まだ大人になりかけの小さい猪魔物に追いかけられて、ボスステージ内を逃げ回っていたじゃない。」


「なっ……いや……あれは逃げていたんじゃない。相手を疲れさせてから止めを刺そうとしたんだ。ちゃんと、急所を剣を突き刺して倒して見せただろ?」

 菖蒲の言葉に梅吉が反論する。


「どうだか……たまたま目をつぶって振った一撃が当たっただけじゃあ……。」

 菖蒲は常に、男の子に対しては辛口の様子だ。


(辛口の批評もいいけど、みんなを誉めておけ。初級とはいえ、初めて入ってこれだけ戦えるのは、大したもんなんだろ?模擬訓練のおかげなのかもしれないけど、それにしてもすごい……。)


「まっまあまあ……うっ梅吉だって、考えて魔物に斬りかかれるようになって来たんだ……すごい成長だ。

 たった1日の実戦で、みんなすごく成長した。この調子で行けば、もう少し上のクラスのダンジョンだって、すっすぐに行けるようになれるぞ。」


 イチが間に入って、皆の成長ぶりを讃えてやる。


「えーっ……ほんとですか?」

「やったぁー……。」

 やはり自分たちが成長したと言われるのは、うれしいようだ。皆飛び上がって喜んだ。



 ダンジョン出口の小高い丘の洞窟から出ると、まだ日が沈むにはもう少し時間がありそうだった。予定よりもずいぶん早い時間で戻ってこられたということになる。


(ううむ……予定では夕刻に出てくるはずだったんだろ?仕留めた魔物肉の処理も、みんな呑み込みが早いから短時間で終えられたし、男の子たちは自ら進んで穴掘っていたからな。このチームはいいチームになるぞ。


 清算は明日になるかもと思っていたが、助かったな……サーティンヒルズへ寄ってからでも十分晩飯の支度には間に合う)


「こっ……こんな街中のダンジョンにもかかわらず、うっ牛系ばかりか猪系までいるとは驚いた。うれしい誤算だった。梅吉が言った通り、一旦宿舎まで戻って割り当て分を置いたら、組合行って清算しよう。」


 ダンジョンで取得した魔物の毛皮や肉は、もちろん自分たちも食べるのだが、多くは売って金に換える。市場へ持っていってもいいが、市場は開いている時間が限られるし市場価格で上下するため、冒険者組合のほうが少々安値でも安定価格で買ってくれるため、面倒が少ないのだ。しかも年中無休。



「ご苦労様です。全員お戻りのため、保険料の割戻金200Gです。お先にお返しいたします。」


 馬車に乗ってギルドへ行き清算を申し込むと、受付嬢がイチたちの顔を覚えていて、すぐに割戻金を持ってきてくれた。日曜は休みの冒険者が多いのか、いつもなら清算目的の冒険者たちで混雑する受付も、閑散としていた。菖蒲たち初心者を連れているため、いかつい冒険者たちに囲まれずに済むのはありがたかった。


「牛系魔物の食肉と皮、猪系魔物の食肉に……狼系魔物の毛皮に加え、子牛の食肉ですね。

 占めて……9000Gになります。お改めください。」


 受付嬢が差し出した肉や毛皮を秤で重さを計っていき、相場表を見せてくれながら、合計金額を割り出した。端数に関しては、組合手数料という暗黙のルールがある。


「みっみんなよくやった……じゃあこれは、皆の取り分だ。」

 カウンターを離れるとイチは、事務所の隅の方へ皆を誘い込み、全員に一人1300Gずつ、硬貨と紙幣で手渡した。


「い……イチ先生……この金額は……。」


「あっああ……攻略済みダンジョンだと、今日はましな方だ。食肉系が結構あったからな。下手をすると、狼系魔物だけだったり……もっとひどいのは地方にもよるが……アンデッド系のダンジョンは悲惨だ。

 倒しても倒しても向かってくるし……それでいて実入りがない。だから……これでもいい方だ。」


「いえ……そうじゃなくて、多すぎます。こんなに受け取れません。魔物だってほとんどイチ先生が倒したんだし、もっと多くとってください!」

 菖蒲も桜子も受け取った札束をイチにつき返し、松五郎たちも続いた。


「きゅ9000Gだろ?7人だから、大体一人1300だ。計算できないのか?みんなはまだ冒険者始めたばかりで装備もろくに揃ってないし、冒険者の袋だって……金を貯めて買わなくてはならない。だからちょっとだけ多くしておいた……そんな恩義に感じるほどではない。」


「でも……普通は、チームリーダーが半分とって……残りを分配じゃないんですか?」

 イチがいいと言っているのに、桜子は納得していない様子だ。


「そっそれは……つっ通常はリーダーがメンバー全員の宿から食事まで、全て手配するからだ。とっところがうちの場合は……宿も食事も全てサーティンさんのところで賄われている。


 また……俺たちの収益の返礼は、宿舎に食肉を提供するだけでいいと……サーティンさんから言われている。その分皆の……小遣いにしてやってくれと言われた。だから……リーダーの取り分はいらない。」

 そうして今度はイチが、桜子たちの手をつき返した。


「だったら……せめてイチ先生が払った、クエストの申請費と保険料と……馬車代で……120Gずつ戻せばいいですか?」

 菖蒲が言い出すと全員が100G紙幣と10G硬貨を2枚突き出した。


(受け取っておけよ……みんな、イチがクエスト申請時に金を使ったことを覚えているんだ。また次も同じようにイチが申請費やら保険料やら払うと、イチの稼ぎは半分も残らないことになっちまう。みんなそのことを心配しているんだ。)


(しかし……この子たちは装備をこれから揃えなければ……)


(装備をそろえなきゃならんのは、お前だって同じだろ?弓だけは寝ていてもしっかりつかんで離さなかったんだか知らんがな……防具はあらかた剥がされていたじゃないか。


 ほとんどの冒険者が武器だけ揃えて初級ダンジョン巡りをして段々と装備をそろえていくんだし、お前だってそうだがこの子たちは幸いにも住むところがあるし、食べることに事欠かないし、親と一緒に生活している。だから……完全割り勘にするべきだ。


 お前はさらに家族探すために……色々と土地を回るためにも金が必要なんだから……有難く受け取っておけ。俺は草だけかじって探し回るのは、ごめんだからな……)


「わっ分った分かった……し申請手数料とほ保険料……馬車代込みで……均等割り……だな……。」

 皆が差し出す金を、イチも素直に受け取った。


 チームナナファイターズの初回ダンジョン挑戦は、大成功となった。


続く


 第1章はここで終了です。ようやく仲間が出来つつあるイチですが、自ら大きな転機へと進むことになります。大きく展開が変わる第2章は……明日から続いて掲載いたします。

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