イチの決心
第2章開始です。ここから事態は急展開していきます。ご期待ください。
1.イチの決心
(この半年間……よくやったよ。菖蒲たちが冒険者になってから隔週でダンジョン挑戦だからな。お前の兄妹たちとのチームでは、せいぜい月一が普通だったから、初級ダンジョンとはいえ格段に多い。しかも最近ではボス魔物が成長し始めたC級ダンジョンへの挑戦も始まっている。
子供たちは中学を卒業したばかりで若いし、体力が有り余っているというか、一晩寝るだけでダンジョンの疲れもほとんど回復していて、翌日からの訓練も平気でこなせるようになってきたからな。
菖蒲がやっていた気づきノートを他の子たちも真似しだして、前回のダンジョン挑戦で気づいた良かった点と悪かった点を書き出して、それぞれどうすればよい点が持続できるか、どうすれば悪い点を修正できるかを自問自答して答えを導きだそうとしている。それを自主的にやりだしたんだから大したもんだ。
それは全てお前の……子供たちを気遣いながら大半の魔物を相手にして危なげない……ちょっとでも不安要素があれば挑戦スケジュールを見直させるつもりでいたんだが、全く持って文句のつけようがない……いつもお前を見ている子供たちは、少しでもお前に追いつきたいと考えて自ら切磋琢磨するようになった。
このままあの子たちを導いてやれば、将来的にはSクラス冒険者だけで構成するチームも夢じゃないんじゃあないか?いよいよ未攻略ダンジョンへの挑戦も見えて来たしな……。)
(いや……未攻略ダンジョンでも軽度のものなら、あの子たちだったら攻略できる。複数階層あると分かれば、中断して出て来ればいい……問題ない。期限は1ヶ月迄伸ばせるから、何度も出入りしてゆっくり攻略すれば、恐らく攻略可能だろう。)
(おおそうか……でもお前と一緒なら、複数階層でも一気に進んで攻略可能なんじゃないのか?どうして挑戦しない?お前はB級なんだから、十分未攻略ダンジョン挑戦可能な資格があるはずだ。人数だって7人いるんだからな……そこそこのパーティと言えるんじゃないのか?)
(俺はもう……あの子たちと一緒にはいられない。家族探しに行く……)
(はあー……まだそんなこと言ってやがるのか……いい加減あきらめたものと思っていたのに……)
(あきらめる訳ない……家族探す……)
(お前にとっては家族でも、向こうはそうは思っていないかもしれないんだぞ!なにせお前は生贄にされかかったんだからな。家族だったら……そんなことするか?)
(向こうはどう思っていても……俺にとっては家族だ。それに……あんなひどいこと……もしまだ続けようとしていたら、どうやってでも止めなければならない。もうやめたとしても、冒険者としてのけじめを付けさせるために警察へ連れて行く。そうして俺も一緒に罰せられる。これは俺にしかできない。)
(ああ……そうか……確かに1年も経って……ほとぼりが冷める頃だからな……またチーム登録して生贄の研修生募集……なんてされたら大変だな……分かったよ……止めないよ……この1年で十分な金が貯まったからな。遊びに出ることもなく……必死でため込んだ金だ……。
いい宿に泊まろうとしなければ……2年は各地を転々として探し回れるくらいだよな。1年活動していなければ、自動的にチーム登録が抹消されるんだったな?活動履歴も消えてしまうから……鬼畜行為で疑われた状況証拠も一緒に消えてしまう。だったらこのタイミングだろうな……いい読みだと思うよ。
でも……勝手にいなくならずに、ちゃんとサーティンに事情を説明して、子供たちともきちんとお別れして出ていくんだぞ!分かっているな?)
(ああ……分かっている……)
「なんだって?ここを出ていく?はあ?……ちょ……ちょっと待て……お前さんのチームメンバーは成長著しく、未攻略ダンジョンへいよいよ挑戦だろう……と言われていたんだが……お前さんがいないと、またC−に逆戻りだ……かわいそうだと思わないか?せめてもう少し……。」
サーティンに出ていくと申し出たら、予想通りサーティンは寝耳に水といった驚きようだ。すぐに引き留めにかかる。
「いや……悪いが……か」
(待て待て……お前の事情だけ押し付けてどうする。とりあえず子供たちは十分実力を備えたから、問題ないと安心させておけ。嘘はいけないが、そうでもしなければ放置して出ていかれると思われてしまうからな。)
「いいや……あいつら……俺いなくて問題ない。的確に指示出せる冒険者一人つけば……剣士でも弓使いでも魔法使いでも……それぞれ職種が揃っている……誰が加わっても十分……チームとして戦っていける……。たとえ僧侶とか神官でも……問題ない。
十分C+ダンジョン挑戦できる。未攻略だって……指導を申し出てくれるのいなければ……チームをばらして各チームに振り分ければ……それぞれエース級で……活躍できる……筈。俺はもう……必要ない。」
イチは言われた通りに、子供たちの優秀さを説明した。
「まあそうだろうな……中学を出たばかりの新米冒険者で構成されたチームの活躍は……組合の中でも評判になっていて、どんな奴が指導しているのかって、うちに色々なチームから問い合わせが絶えない。
どのチームも優秀な指導者を、喉から手が出るほど欲しがっているからね。
お前さんなら、どのチームからでも破格の待遇で迎えられるだろう……うちみたいな用務係兼なんて安月給じゃなくてね……。
そうじゃなくても……お前さんのダンジョン内での戦い方を、菖蒲たちから何度も聞かされた……。いや……その……別にスパイ……させていた訳じゃあないから……誤解せんでくれよ……。
菖蒲も桜子も……本当に……お前さんのことを自慢したくて……自慢したくて……仕方がない様子なんだな……松五郎や梅吉たちだって同様だ……。」
サーティンは、ここでふうっと大きく息を吐いた。
「前にも言ったことがあるが……お前さんは出会ったばかりの時に弓の腕前はB級と言っていたが、ダンジョンでの戦い方を聞いた限りでは、弓使いのくせに最前線で精密連射をするようだ。恐らく……お前さんがいた前のチームでは……魔物に囲まれた状態で、走り回りながら標的を射抜いていたんだろう。
そんなやり方じゃあ、うまく急所を射抜けるもんじゃあない。しかも魔物の攻撃を避けながらだから……ますます狙いがぶれて何発も射かけることになり、B級評価だったはずだ。
それが一人残されて、くぼみに収まって襲い掛かってくる魔物を狙い撃ちに変えた。生きるか死ぬかの瀬戸際で、覚醒したのだろう。元から得意だった連射能力も手伝って、瞬時に4頭までなら正確に射貫けるようになった。まさに神業だな……そんな凄腕にはお目にかかるどころか、噂でも聞いたことがない。」
(お前の腕前に評価がいったか……だけど……前のチームにいた時点ではそこまで達人と言ったわけではなかったんだろ?あの出来事で……まさに覚醒したんだろうな……。)
「確かに前にも聞いた……俺は自分の評価に興味ない……もし俺にそんな腕があったら、ゼロ達は俺のこと……見捨てたりしなかっただろう。
いや……覚醒と言われたか?そうか……もし置き去りにされ一人で戦ったことで……潜在能力が覚醒したのなら……もっと早くに目覚めていたら……置き去りにされることなく……生贄を使う鬼畜の行為も……やらずに……ダンジョン攻略できていたはず……残念でならない……。」
(ああそうか……イチはそう考える訳か……俺はそうは思わないね……ますます実力の差が大きくなり向こうは焦り……大規模ダンジョンに挑戦したくなって生贄も一度に複数人……なんてことになっていたんじゃあないのか?あくまでも……俺の考え方では……ということだが……)
「覚醒……と言ったのは、そういうことではない。お前さんはかなり前から今と同様に凄腕で、しかもその力をいかんなく発揮してダンジョン攻略していたはずだ。覚醒したのは、お前さんの戦い方の姿勢だな。」
ところがサーティンは意外な事実を告げる。
「ばっ……馬鹿な……そんなはずない。俺の力が足りなかったからゼロ達、あんな非道な行為に身を染めて……俺にそんなすごい力があれば……。俺はB級……チームでは一番レベル上だった。リーダーで年長のゼロですらB−で……弟のニイもB−だった。
だがそれは……2人ともチームの運営の仕事に手いっぱい……訓練の時間が取れなかったからだ。俺はチームのことはほとんど何もせずに……飯炊きやふろ焚き程度で買い物にも寄合にも行かない。ダンジョン行かない日はほぼ1日中訓練……。師匠の下で修業時代に、雑用で使った時間を取り戻せるように……。
もちろん俺がそうしたわけでない……皆それぞれの役割をこなそうというのがゼロの口癖……俺はやはり戦闘要員として扱われてた……。だから時間がかかる雑務などは免除されてた。
だから俺がチームで一番レベルが上で当たり前……それなのにたったの半レベルしか変わらないからあきれられて……置き去りにされた……覚醒……できていなかったからだな。
なのに研修生の扱いや……中学を卒業したばかりのサンとヨンの修業に関して口出ししたから……これでは、いつまで経っても一人前になれないから、きちんと修行させないといけないと……自分は雑用なんて、ほとんど何もしようともしていなかったくせに……あきれられるわけだ……思っている。」
(ふうん……お前にはお前なりの……受け止め方があるのだな?だが……前にも言ったが……俺の推定ではゼロ達の上達が遅いのは……雑用で訓練時間を取られていたからではないと思うぞ。彼らが訓練よりもそちらを選択したんだ……そっちの方が楽だと思ったんだろうな……。)
(うるさい……俺はそうは思っていない。)
「ああ……俺もお前さんみたいに有能な奴が、どうしてチームから置き去りにされたのか、力が足りないからと考えるのが普通と思っていたのだが……。そう考えること自体で……俺にはお前さんのいたチームでの、お前さんの役割というか立ち位置がはっきりと分かる。
桜子に言われて気づいたのだが……お前さんの弓を見せてはくれないか?訓練用の弓ではないぞ、ダンジョンでいつもお前さんが使っている弓を見せてくれ。」
「あっ?ああ……でもどうして?」
サーティンが言っていることは、先ほどからイチにはずっと呑み込めずにいたが、この場は素直に冒険者の袋から、愛用の弓を取り出した。
「ああ、この弓だ……お前さんに最初に出会った時にもこの弓と、長さを詰めた短い矢を使っていたな?
この弓で威力のある攻撃をするために、テンションをがちがちに張ってある。通常の人間では射るどころか弦を引くこともできないくらいにね。」
そういいながらサーティンは、イチから受け取った弓を少し引いて見せた。サーティンの顔がかなり歪んで、ようやく少し弦を引くことが出来た。それくらいに強い張りをしているのだろう。
「この弓は通常の2/3くらいの長さで、スナイパー用のものと比べると半分ほどの長さしかない。初級者用だってもっともっと長いもんだ。にもかかわらず魔物の急所を射抜けるように、テンションをガンガンに上げている……それに耐えうるように、弓自体の厚みは通常の倍以上あるし、幅も体半分覆えるくらいにある。
最初見た時はそう理解していた……だがお前さんの戦い方を聞いた俺の想定は、先ほど述べたとおりだ。
わかりやすく言ってやると……お前さんは戦闘時チームの最前線に立って斥候の役割を果たして敵の位置を見極め、敵が襲い掛かろうとする出ばなをくじく初段攻撃を自ら行う。魔法攻撃を仕掛けようものなら、その発射個所に正確な射撃をしますよという、警告のようなものだな?上級ダンジョンでは必須の役割だ。
この役割は通常ならスナイパーか魔法使いが行うわけだ。
さらに魔法攻撃をあきらめて突進してくる魔物を連射で足を止め分散し、自陣に達した魔物を幅広の弓を盾代わりに使って受け止め、至近距離から矢を放って仕留める。弓使いと魔法使いと機甲兵と剣士の役割を、一人だけでほぼ同時にこなしてしまうわけだ。
ところが組合の評価では、お前さんがたった一人だけで戦っていることは知らない。チームでの戦闘評価として、お前さんの弓使いとしての評価としては、ぶれた狙いの正確性がよくないからB評価となってしまっていた。だが、こんな戦い方をしていればチームメンバーは、お前さんの力を知っていたはずだ。」
(ほら見ろ……俺だってそう思っていたぞ……)
「だったら……?」
「もしお前さんの力を知っていたなら、お前さんを見捨てはしなかっただろうし、鬼畜のような行為もしなかったはずと言いたいのだろうが……さすがにダンジョン最下層のボスステージで、雑魚魔物とともにボス魔物と戦う時は、お前さん一人だけでは絶対に手が足りない。
組合だって一人だけでのダンジョン挑戦は禁止しているだろ?だから……生贄を使っていたというわけさ。
俺の勝手な推測では、お前さんの兄弟のB−評価も怪しいもんだな。
最終のボスステージではお前さんが切り込み隊長として飛び込んで行き、中をかき回して雑魚魔物の大半を惹きつける。そうして後から侵入した本隊が、少数の雑魚魔物とボス魔物を担当するような分担だっただろ?
最初は偶然だったのかもしれない……研修生を入れたのはいいが、まだ不慣れな弟や妹を守るのが精いっぱいで、研修生を見てやれなかった。そのうちに研修生が犠牲となって、雑魚魔物どころかボス魔物まで巻き込んでの争奪戦となってしまった。ところが、そのすきにお宝を悠々とゲットできたわけだ。
お前さんにはボスステージ直前で、おじけづいた研修生が逃げ出したとでも言っておけばいい。そうして次からは味を占めて毎回……鬼畜のような行為を繰り返していた……お前さんの兄弟のうち、どこまで承知していたのかは、俺には全く分からないがね。少なくともリーダーのゼロは意識して行っていたはずだ。」
サーティンの説明は一つ一つイチの胸を貫き、そうしてイチを愕然とさせた。
(ほら見ろ……俺の言った通りだ。)
「まあ、お前さんが一人取り残されてしまった細かな理由などどうでもいいさ……今更な。
それよりも、お前さんだったら組合へ行って、弓使いとしてのクラスの更新を願い出て審査を受ければ、恐らくS級かS+級のはずだ。指導者としてではなく、冒険者として宮殿付きにだってなれるだろう。
大きなお屋敷をあてがってくれて、お前さんを迎えてくれる筈だ。
だから……菖蒲たちの手前引き留めはしたが、お前さんの出世を妨げるつもりはさらさらない。知り合いが出世するのは、喜ばしいことだからな。なんだったら、畿西公国の宮殿を紹介してもいいぞ。」
意外とあっさりとサーティンは、イチが出ていくことを認めてくれた。




