衝撃の通達
11.衝撃の通達
「しし下積み……みみみんな……きっ嫌う……ととと特に……ささ最近……わわわ若いもも者……だだだから……おお俺たち……しっ下積み……かかか代わり……けっ研修生……ししし新人……ぼっ冒険者……さささ参加……さささせた。
ととところが……ささ最近……わわ若い子……だだダンジョン……つつつ連れて行って……やややっても……ととと途中で……にに逃げだす……。たたた大抵……いいい1回……にに2回……だだダンジョン……こここ怖く……なななって……ににに逃げだす。
くくく組合……たた頼んで……そそ捜索隊……ほほ保険料……ずず随分……ああ上がって……たた大変……だだだった。
だっだから……ここ今回……ほほ保険……かかかけず……だだダンジョン……いい行った……。はは半年……すすすれば……けけけ契約……きっ切れて……ああ上がった……ほほ保険料……もっ戻る……。おおおおれ……ししし……らなかったけど……たっ多分……そそそうだ。」
(ちょっとお寒いチーム事情だがなあ……まあ事実なんだから仕方がないさ。見習いに雑用ばかりさせておくことが、自分たちの経験通して嫌だったんだろ?それなのに……今の若い奴らは、ダンジョン連れて行ってやっても、ちょっとした雑用ばかりを嫌って逃げ出すと……まあ仕方がない、時代がそうさせるのさ。)
イチの言葉はゆっくりなので、かなりの時間がかかってしまったが、何とか話し終えた。その間サーティンはというと、じっと話し手のイチを見つめて聞き入っていた。
「はぁ……やっぱりかぁ……。
まっどの道、捜索隊は保険料を払っていたとしても出はしなかっただろうから、ちょうどよかったな。」
ところがサーティンはイチの打ち明けた言葉に反応して、深いため息をつくと同時に笑顔で慰めてくれた。
(そうだ……確か組合の受付嬢は冒険者たちも軍隊も出払っていて、捜索隊は1ヶ月間は出せないって言っていたよな。何か知っているか聞いてみろ?)
「あっ……ああ……おおお王宮……けけ警護……いいい忙しくて……ぼっぼぼ冒険者……ぱぱパーティ……ぐぐぐ軍隊……ででで出払った……いいいっていた。ななな何か……ししし知って……いるか……?」
「まあな……自慢になってしまいそうだが、うちは腕利きの冒険者が集まって複数のチームを編成し、大規模パーティも内輪だけで可能な巨大冒険者組織だ。
ここ……畿西公国の宮殿警護なんかにもよく駆り出される。いわゆる宮殿御用達というやつだな。表向きは宮殿警護と発表してはいるが、恒例ともいえる犯罪撲滅月間だったわけだな……人買いや麻薬密売などの凶悪犯罪を撲滅させるために、連邦中の警察や軍隊及び冒険者たちが協力して取り締まりに当たる。
もちろん俺たちも参加していて、畿西国内の犯罪組織の取り締まり活動を行っていたのだが、まあ……毎回毎回うまくいかなくてね……活動期間内だったが早々に引き上げて新人教育に切り替えたところ、お前さんに遭遇したというわけだ。何か虫の知らせというか……そんな力が働いたのかもしれないね。
前回戻ってから聞かされたんだが……今年は……恒例行事以外でもお隣の本国……というか日ノ本連邦の長たる畿東国国内は王家にまつわる催しごとがあって、より一層の警備強化が行われているということなんだが……なんと22年間行方不明だった王子様に関わる新たな情報が出てきた……とかいう話だ。
近々正式発表されるまで、超がつくくらいの極秘事項だ……と言っても、なにせ22年も前のことだ。今更行方不明になられた地域とか預け先などの名称が分かったところで、そこから先の足取りを辿ることは容易ではないはずだ。戦後の混乱もあったし、ほぼ絶望的だと俺は思っているさ。
だからまあ……お前さんなら話してもいいだろう。悪いが……見たところ友達付き合いもよさそうではないから、うわさが広がる恐れもないだろうだからな?がぁっはっはっはー……。」
サーティンはそう言いながら、豪快に笑った。
確かにイチは友達が少ない……というか、孤児院で共に育ったゼロ達兄妹以外で知り合いと言えば教会の神父様たちか近所の人たちで、他は修業先の師匠や先輩たちしかいない。それだって、一言も口をきいたことがない先輩もいたほどだ。名前を知っている先輩の数ですら、十指で余るだろう。
修業中は同世代の見習いもいなかったので、親しく口をきく仲間と言えるのは兄のゼロと弟のニイしかいなかった。賄の買い物なども外に出ていくのはゼロの役割で、ニイが修業に入ってからは2人で行くようにはなったが、イチは残って風呂焚きや雑巾がけを行っていたから、外出経験はほぼないといってよかった。
内向的なイチは、その状況をどちらかというと歓迎していて、人当たりのいいゼロやニイに対外的なことは全て任せて、自分は体一つでできる雑用が向いていると常に思っていた。
だから畿東国でも近所の地形など全く知らなかったし、ダンジョンへの往復もゼロ達がいなければ道に迷ってしまうほどだった。唯一知っているのは、アパートと冒険者組合への道順だけというありさまで、取り残されたダンジョンから戻った時は馬車に拾ってもらったからアパートまで戻れたが、そうでなければ帰ることもままならなかったのは、左足のけがのせいだけではなかった。
つまり孤児院育ちの家族以外の知り合いは、いないといってもいい。
(捜索隊出せないと言っていた事情は分かったと……じゃあ今度は、サーティンがずっと匂わせていた、イチのチーム事情だ。やっぱりというのはどういうことなのか、ストレートに聞いてみろ!
これまでの思わせぶりな態度はイラつくんだが……なんせ相手は命の恩人ともいえる立場だからな。気を落ち着かせて、丁寧な言葉で問いかけるんだ。)
「ややや……やっぱり……どどど……どういう?ななな何が……ややや……やっぱり?」
「お前さんたちのチームのことかい?これは……あくまでも伝え聞いたうわさをもとにしたお触れ……だから、確かなことではないのだということを念を押しておく……いいかね?」
サーティンはイチの気持ちを察して教えてくれそうだ。神妙な面持ちでイチの様子をうかがってきた。
(ふえー……前置きがなげえなあ……なんでまた……こんなにもったいぶらなければならないんだ?)
(たっ多分……冒険者組合の規律……確たる証拠なしに他チームの悪評を流して不利益を被らせた場合は、廃業……元……冒険者同士の取り決めだった……組合が規律にした。
活躍している冒険者チームの悪い噂……でっち上げて、仕官するのを妨害する……流行った。だから……証拠なければ……罰する……。ゼロが昔教えてくれた。だから……明確な証拠ないと、良くても悪くても他チームの話……出来ない。)
(はあ……そんな規律があるのか……じゃあ、はっきりとは言わないわな……前置き長くても当たり前か。何言われても怒らないから教えてくれって言うしかないな。)
「いいい……言ってること……いい意味……わわわからない……ままま前置き……いいいい……ううううちの……ぱぱパーティ……わわわ悪い……うっ噂……おおお教えて……ほっほしい。さささサーティンさん……おおお恩人……なっ何言われても……おお怒らない……。」
イチは何とかお願いして、気になる噂を聞き出そうとした。
「お前さんたちのパーティは、今は畿東国に滞在しているが、その前は蝦夷国の組合に所属していたんじゃあないかね?1年から半年ほど前に蝦夷国から畿東国へ国替えした……まあ冒険者パーティが、様々なダンジョンを経験したくて、国を変えることはよくあることだがね。」
(イチは蝦夷国の生まれだって言っていたよな?ズバリ言い当てられたということか……)
「あっ……ああ……そそそ……そうだ……どどどうして……そそそ……そんなこと?」
イチ自身もチームの変遷をズバリと言い当てられたことに愕然とした。大きな実績など上げたことは一度もなく、またクエスト失敗経験もない、言ってみればよくもない悪くもない普通のチームだったはずだ。
確かに研修生をパーティに加えたことにより、逃げ出すトラブルは発生したが、そんなことはどのチームにでも起こりえることだった。現にイチが師匠の下で修業していた際にも、一緒に修行していた弟子たちの大半は修業途中で逃げ出し、ダンジョンに同行を許される頃には、イチたち以外では1割程しか残っていなかった。
「さっきお前さんに、チームの話を聞いて確信した……お前さんたちのもとのチーム名は……ロックだろ?
畿東国に移った時にチーム名も変えた……。」
(おいおいおい……ズバリなんだろ?お前の動揺というか心臓の鼓動が伝わってくるよ。理由は分からんが、とりあえず正直にそうですって答えておけ。)
「たたた……確かに……そそそ……そうだが……どどど……どうして……そそそそこまで?」
「これは……あくまでも状況証拠……というか、伝わってきたことをもとに想定した最悪の事態に対して、冒険者組合を通して畿西国の冒険者チームに通達された極秘の情報だ。
他チームからの届け出があったわけではないし、また被害者からの証言が得られた訳ではない。
そういうことだから、あまり深刻にならずに聞いてくれ。」
サーティンは未だに意味深に……そうして前置きを慎重に行なった。
(なんだかなあ……前置きが長いということは、向こうも確証はないということだろうな。あくまでも噂ベースの話……なのだろうが通達があったということはずいぶんと信憑性の高い……取り敢えず頷いておけ。)
イチも神妙な面持ちで頷いた。
「とある冒険者パーティの話だ……そのパーティのうわさが広まったのは、最初は蝦夷国にて……1年半ほど前のことだ。対象となるパーティ名が判明したのはちょうど1年前だ……。
そのあまりに非道な行いから、そのパーティは鬼畜と称され、冒険者組合からマークされて活動を制限されようとしていたのだが、それに気づいたのか1年前に忽然と姿を消した。それでも鬼畜然としたパーティの噂は絶えることがなかったようだ。
そうして最近……畿東国でも同様の鬼畜ともいえる所業を行うチームが現れた。そのチームの履歴より、畿東国に登録されたのはちょうど半年前……その経緯から、蝦夷国要注意扱いとなったパーティを運営していたのと同一のチームと推定された。
何が鬼畜……かというと……そいつらは仲間のうちの誰かを犠牲にして、自分たちのダンジョン内行動を優位に進め、容易に攻略するという悪魔の所業を繰り返していたと言われている。
いわゆる生贄を捧げる……わけだな?ダンジョンの……ボスに対して……。」
(おいおいおい……なななんという……本当に生贄を供えていたとはな……。)
「いいい……生贄……だだだ……だって?」
サーティの口から以前も聞いた、聞きなれない言葉が出てきた……それが事実とすれば恐ろしい事だ……。
「ああ……まさに生贄さ……。
ダンジョン最深部には大抵の場合ボス魔物が巣くっている。お宝を守っているというより、ダンジョン奥へ行くほど草食系魔物たちの餌となる野菜や果物が豊富で、それを目当てに肉食魔物たちがはびこるわけだ。
そこではまさに弱肉強食で、その中で頂点に立つ魔物がボスとなるわけだが、食べ物が豊富だとどこまでも大きく成長していく魔物たちだ……その成長過程で魔法能力や、想像を絶する身体能力を得て、まさにボスとして長期間君臨するわけだな。
俺たち冒険者がダンジョン最深部にあるお宝をゲットするには、どうしてもそのボスを倒さなければならないわけだ。お宝の大部分は、ボスの住みかの周りと相場が決まっているからな。
ところがそこで……生贄の登場だ。普段ダンジョン内では見かけることがない人間という餌を……まともに戦うことが出来ない状態で……差し出すことにより一気に周辺の魔物たちが喰らいつく。魔物たちが集まってくると……ボスもつられてやってくるというわけだ。
そこで雑魚魔物たちとボス魔物とのバトルが始まるわな……人間という餌の取り合いとなるわけだ。
そのすきに……ほかの奴らがボスの寝床を探って、お宝をゲットして逃げ出すというわけさ。」
サーティンの話す内容は、イチにとって思いもかけない衝撃の連続だった。
「そんな鬼畜ともいえる所業を繰り返しているパーティの主体チーム名が……今はハッチでその前はロックだと……十分注意するようお触れが出ていた。外国語の……出入口と鍵か……外国かぶれのようなチーム名だという御触れだったが……まさにズバリだ。
修業中の弟子を研修生として迎え入れるとの申し出があっても、絶対に断るようにとね……今は畿東国に滞在しているが、いずれは畿西国へもやってくるだろうから、警戒するようにと冒険者組合から通達が回ってきていたのさ。
勿論逃げ出した冒険者は家にも戻れずにホームレス化する傾向が強いから、行方不明者=生贄……とは言えないため、あくまでも噂レベルでの話ではあるのだが……あまりにも頻繁に発生するため、可能性を排除できずの注意喚起だね。」
「な……ばばば……馬鹿……な……」
あまりのことに、イチは発する言葉を失っていた……。
(はやー……ひどいな……だがイチがこれまでに思い出していたチーム事情に生贄を当てはめてみると、かなりぴったりとはまるな……研修生がいつも行方不明になっていたわけだろ?)
(ででで……でも……おおお俺……いつも魔物たち……戦っていた。)
(それはイチは……だろ?お前の兄弟たちはどうなんだよ!戦っていたのか?多くの魔物たち仕留めて、魔物肉や毛皮をゲットしていたのか?)
(…………………………)
(考えないようにしても無駄だ。まさに言われた通りだろ?イチの背筋が凍り付いているのが、伝わってきているぞ!集魔香と言い……最後の生贄は……イチだったということだ。)
「お前さんがダンジョン内で傷ついた状態で置き去りにされたということを知り、この件を思い出したというわけだ。お前さんの話を聞く限り、チームメンバー全員がこの所業を知っていたわけではないのだろう、お前さんは全く知らない風だったからね。
だから……一部のメンバーが皆には内緒で、行っていたのだろうと考えている。最深部手前で野営したときに生贄の研修生を眠らせ、ボスステージのどこかに隠しておく。細工をして、お前さんたちがボスステージに入るころに、そいつが魔物たちの目に触れるようにしておくのだろう。
お前さんの様子を見た時の想像では、集魔香を生贄の体につけて置き、遅延魔法を使って何時間か遅れて発火するように仕込んでおいたのだろうな……そうしてその生贄に魔物たちが集中している間に事を終える。
超強力なボス魔物と戦わないだけでも、相当楽にクエストをこなすことが出来ただろう。違うかい?」