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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
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第84話 竜人族の王子を配下にしたぞ

 エルドベルグ城門がショウ達の視界に入って来た。

 突然アドルフがショウの前に出て頭を深く下げて来る。


「頼みがある。俺を弟子にしてほしい!」


 フローラはこのアドルフの言葉を予想だにしなかったのか阿呆みたいに小さい口をポカーンと開けている。

 アドルフは人間種では最強の種族である竜人。さらにSSクラスの冒険者であり、エルドベルグの冒険者を指揮する立場にある。フローラのアドルフに対する態度とその日頃の立ち振る舞いからも人間種の弟子になるなど通常では考えられないことなのだろう。

 ショウは興味がなさそうにアドルフに視線を送る。


「嫌だね。俺にメリットが何もねぇ」


 ショウの言葉を予想していたのかアドルフはさほど狼狽えなかった。


「アドルフさん。僕らは仮にもSSクラスの冒険者だよ。それが――」


 フローラはひどく狼狽しつつもアドルフに詰め寄る。

 確かにSSクラスのアドルフがいくら強くてもDクラスに過ぎないショウの下につけばSSランクの面目は丸つぶれだ。それはクラス制を採用する冒険者ギルドのマイナスにも繋がる。

 見るからに無頓着なラシェルやチェスは兎も角、アドルフは本来その手の配慮が効く奴だ。フローラのこの発言も理解はできる。


「俺は今回の件で心底、自身が井の中の蛙であることを思い知った。このままではダメだ。今の俺は弱すぎる。今まで通りの修行を何十年、いや、何百年続けてもこれ以上強くはなれないだろう」


「そ、そんな事はないよ。僕達もいつかは――」


「強がりはよせ、フローラ。お前も十分にわかっているんだろう?」


「…………」


 フローラは悔しそうに無言となる。ショウは勝手に話を進める二人に対し不快そうに顔を歪めながら刺すような視線をアドルフに向ける。


「テメエが強くなりたかろうが、俺の知った事か! 勝手に話を進めんじゃねぇ!」


「弟子で駄目なら配下でもいい。お願いだ。俺に戦い方を教えてくれ!」


 ショウが進もうと歩き出すと、ショウの前に出て頭を深く下げる。


(ちっ! 此奴もフローラのような真似しやがって。そうすれば俺が首を縦にすると思ってやがんのか?)


「だから、NOだと言ってんだろうが! そこをどけ。退かなければ――」


 ショウから途轍もない量と質の殺気が発生し、渦を巻きアドルフを襲う。


「ヒッ!」


 フローラはショウの殺気を真面に受けたわけではない。だがその余波で小さな悲鳴を上げ地面に尻餅をつく。


「くっ……」


 一方、直接殺気を向けられたアドルフは、苦悶の表情を浮かべながら胸を掻き毟ってはいるが踏みとどまっていた。


(ほ~~、あれを耐えるか。力や才能はともかく根性だけはあるようだな。

 確かに、俺のシゴキについて来れるなら、多少使えるようにはなるかもしれん。俺は基本貧弱翔太が寝ている間しか意識を保てない。俺の手足となる奴も必要だ。アドルフを鍛えて、俺の手足とするか? だがその前に俺のシゴキについて来れるかを調べにゃならん。試してみるか……)


「テメエ、面白いな。少しだけ興味が出たぞ。俺の今からの本気の覇気を受け切ったら弟子でも部下でも好きなものにしてやる。だが死ぬかもしれねぇ! それでもいいか?」


「構わない。礼を言う」


 アドルフは即答する。ショウはそれを見て満足そうに顔を歪める。

 ショウがアドルフを殺すかもしれないと聞き、フローラは地面に尻餅をついたまま必死の形相で止めるようにショウに叫びかける。だがショウもアドルフも外野の声などもはや耳には入らない。


(トリケラトプス女が腰を抜かしてる。このままで俺の覇気浴びたら此奴死ぬな。殺せばロニーに狙われ、貧弱ショウが昇天か……ああ、面倒くせぇ!)


「アドルフ、少し場所を変えるぞ」


 アドルフは勢いよく頷く。腰を抜かしているフローラの脇にロニーをそっと寝かせる。


「フローラ、魔物や盗賊に襲われたら叫べよ。一応助けてやる。その場合、礼は後でテメエにしっかり返してもらう」


 フローラは例のごとくショウの言葉を別の意味に勝手に解釈し、真っ赤になって俯いてしまう。ショウとアドルフはゆっくりと歩き出す。


「ここくらいでいいだろう。そろそろ始めるぞ」


 ショウは立ち止まり、振り返りアドルフに視線を向ける。


 ショウがいう覇気とは、闘気と殺気の集合体の事だ。先ほどは殺気だけで闘気までは含まなかった。まだ戦う意思まではなかったのだ。次は闘気も込める。殺気だけの先ほどとは全てが比較にならない。殺気ではなく覇気ならば悪魔子爵――マンティコアでも暫らくの間、行動不能とする自信がショウにはあった。

 普通の人間なら覇気を受ければ行動不能どころか確実に死亡する。要はアドルフが普通の人間を超えられるか否かの試練なのだ。


「わかった。よろしく頼む」


 アドルフの決意にニンマリと頬を緩めるショウ。


「このゲームのルールは簡単。お前が俺の覇気を浴びて生きていることだ。行くぞ。俺を失望させるなよ!」


 ショウが邪悪に顔を歪めると同時に、ショウの周りからもはや可視できる真紅の覇気が大量に湧き出てきた。その覇気はショウの足元から渦をなし巨大な竜巻のごとく上空へ巻き上がる。そしてそれが徐々に形を成していく。3本の巨大な頭を持つ龍の姿に。

 龍は咆哮を上げる。覇気がショウから同心円状に雪崩のように放たれ、空気を振動させ、世界を凍結させる。

 3本の頭をもつ龍はアドルフにその顔を向ける。3本の頭の持つ6個の眼光がひ弱な人間種に過ぎないアドルフに突き刺さる。


「――っ!!!」


 アドルフは眼と鼻から水分を垂れ流し、ガタガタと身体を振るえさせる。歯が砕ける程きつく口は閉じられているのだ。これでは息をする事もできないのだろう。右手で胸を掻き毟る姿をしながら、3本の頭を持つ真紅の龍を睨み付ける。

 3本の頭を有する真紅の龍がアドルフに大きな咢を開けながら一斉に押し寄せて来る。龍の3個の血の様に赤く鋭い咢がアドルフに突き立てられる。

 アドルフは左手で腰の短刀を手に取り、自分の左脚に深々と突き刺した。滝のように汗が流れ、顔は死人のようだ。それでも、アドルフは立ち続ける。


 暫らくして、真紅の龍はアドルフに咢を突き立てたままスーと煙の様に消えていく。ショウが覇気を解いたのだ。


「な……に?」


 ショウは驚きで(わず)かに眉を(しか)める。ショウの視線の先にはアドルフが佇んでいたのだ。

 ショウの殺気に耐えたアドルフならば50%の確率で生き残る事が出来ると踏んでいた。だが、仮にも悪魔子爵を行動不能に陥らせる覇気だ。生き残ったとしても瀕死の状態であるとも考えていた。

 だが現実は膝さえもついてはいない。アドルフは左脚に短刀を突き立てていたが、その程度でショウの覇気に耐えられるならば世話はない。


(マジかよ……。掘り出し物かもしれねぇな)


 アドルフはドスンと地面に這いつくばり、肺に咳き込みながらも空気を入れる。

 ショウは鞄から最高位のポーションを取り出し、アドルフに放り投げる。アドルフは左脚の短刀を引き抜き、止血をしながら受け取ったポーションを一気に飲み干す。


「合格だ。テメエは中々、見所満載な野郎だ。徹底的に鍛え直してやる。だがその際に一つ条件がある」


 ショウをゆっくりと見上げるアドルフ。


「条件とは?」


「今回の事件に加担した悪魔をすべてぶっ殺すまで俺の手足として動いてもらう。それでもいいか?」


 アドルフは苦しそうに顔を顰めながらも、片膝を付き臣下の礼をとる。ショウは心底意外そうにそれを見下ろしていた。


「もちろんです。俺は一度死に、貴方に命を吹き込んで頂いた。あの時俺は文字通り生まれ変わったのです。そして今の貴方の覇気で俺の過去は完全に消えてなくなった。ちっぽけな命なれど、生涯をかけて貴方に仕えます」


 ショウは二度目のしかもはっきりとした驚きと戸惑いを覚えていた。


「テメエは竜人族の王とやらに仕えてんじゃねえのか? 俺は別に弟子でもかまわねぇぜ。 要は事件の首謀者共を皆殺しにするまで力を貸せと言っているだけだ」


「いえ、是非貴方に仕えさせていただきたい」


 断固として譲らないアドルフにショウは生じた強い疑問をぶつける。


「理由は? どうやら敵討ちだけじゃあなさそうだが?」


「貴方には我が道を指示していただいた恩がある。竜人国の王は我が父、俺が使えるべき主君を見つけたと知ればむしろ喜ぶでしょう」


(こいつも王族か……翔太の野郎~、引き良すぎだろ! 王族から上位悪魔まで次から次へとゴキブリホイホイみてぇに引き寄せやがって!)


「……それだけか?」


 道を指示しただけなら、覇気を浴びる前と浴びた後の対応の変化が違う理由を説明できない。当然の疑問だ。


「我が竜人国ドゥルックの神殿の碑文には世界を創造したという三つの頭をもつ伝説の神龍が刻まれています。その化身の貴方に仕えるのこそ俺の本願なのです」


(俺の覇気が三頭紅龍の理由は俺自身、よくわかってねぇ。おそらく俺のこのグチャグチャの記憶の混濁と関係はあるんだろう。だが、だが今それを此奴に説明する義理もねぇし、必要性も感じねぇ。まあ、仕えてぇと言ってるんだ。理由などどうでもいいか……)


「わかった。今日からテメエは俺のもんだ。ただし、敬語は止めろ! これは命令だ。反論は許さねぇ! わかったな?」


 アドルフはショウの言葉に法悦の笑みを浮かべ、涙を止めなく流している。


(一々リアクションのオーバーな奴だ。だが――そんな馬鹿も嫌いじゃない)


「ありがとうご……。わかった。よろしくお願いする」


 ショウは片側の口角を吊り上げ、フローラの方に向きを変え歩き出す。

 



 フローラは顔を真っ青にして震えていた。ショウの覇気の放出のせいだろう。どうやら腰を抜かしたらしい。相変わらず面倒な奴。


「フローラ、立てるか?」


「うん」


 ショウの言葉に頷き立ち上がろうとするが、腰に力が入らないようだ。何度も立ち上がろうとして、ステンと地面に倒れる。

 ショウは肺にたっぷり溜まった空気を吐き出し、アドルフに視線を向ける。


「アドルフ、お前、ロニー背負えるか?」


 アドルフがフローラを背負うとなればこの御姫様のことだ。再び、一人で歩けるなどと強がって時間を無駄にしかねない。時間は今のショウにとって何よりも価値があるものだ。それだけは御免被る。拒否すれば無理矢理にでも連れていく。その際は一番恥ずかしいお姫様抱っこで運んでいやる。


「問題ない。それくらいの体力はまだある」


「じゃあ、頼む。俺はこの腰抜けのお姫様を運ぶ」


 ショウが近づくとフローラは顔を苺のように真っ赤にしつつも俯いてしまった。

多少は拒否するかと思っていたのだが予想が外れた。


(一体俺は何をやってんだろうな……)


 トリケラトプス女を助けない選択肢を選び取れない自分に軽く自己嫌悪に陥りながらも、フローラの前で背中を向けてしゃがみ込む。フローラは戸惑いがちにもショウの背中にしがみ付いて来た。

 

               ◆

               ◆

               ◆


 無言でエルドベルグの城門前まで来る。門をくぐる前に、アドルフとフローラに言っておかなければならない事があった。


「お前らに伝えておく事がある」


 アドルフが向き直る。フローラはショウの背中にしがみ付いたまま何も答えない。二人が聞く準備ができているとみなし、話始める。


「もう気付いていると思うが、俺はショウタ・タミヤじゃねぇ。詳しい事は意味がねぇから、話すつもりもねぇ。日和ったショウタと別人とだけ理解していればいい。ここまでいいか?」


 アドルフは大きく頷き、フローラもショウの背中で頷いているのが気配からわかった。話を続けるショウ。


「俺は、通常夜しか動けねぇ。理由は聞くな。俺とコンタクトをとりたければ、俺がこの格好のときに会いに来い。以上だ。質問あるか?」


 アドルフはショウの言葉なら疑問など持たない様子だ。当然のように頷く。

そこに、遠慮がちに声が背中からショウの耳に入ってくる。


「じゃあ……君の事なんて呼べばよいのだ?」


「『ショウ』と呼べ」


「『ショウ』……『ショウ』……わかった。そう呼ぶよ」


(フローラとロニーとはもう会うつもりはねぇ。俺の名前など知っても意味はねぇんだがな)


「ロニーにもちゃんと伝えておけよ」


 フローラが無言で頷く。二人が納得したようなのでエルドベルグの城門へ入って行く。


               ◆

               ◆

               ◆


「よう、ご苦労さん。眠そうだな」


 アルはショウを見ると、不思議そう顔をして眺め回すと、ポンと右拳を左手のひらに打つ。


「お前、ショウタか? 随分、綺麗な顔してたんだな。でも……イメージ、違くないか? 言葉使いもそうだが、それ以前に雰囲気が全く以前とは違うような……」


「そこら変は気にすんな。反抗期ってやつさぁ。んなことより、やけに衛兵が多いようだが何かあったのか?」


 アルはショウの言葉に納得がいかないようだが、欠伸をしながら答えてくれる。


「メガラニカが化物の襲撃を受けて壊滅したらしいぞ。今、エルドベルグの都市中がメガラニカの避難民でごった返している。化物の襲撃に備えて非番の者まで駆り出されているのさ」


(ヘクターはショウの指示を忠実に守ったらしいな。ヘクターは使える。彼奴(あいつ)とラシェルをくっ付けて守らせるか……)


「それは災難だったな。仕事頑張んな!」


「ああ、ショウタも早く宿にかえって寝るんだぞ。子供には今日は危険な夜だ」


「ありがとうよ!」


 腕を挙げて挨拶をして、エルドベルグの城門内へ歩を進める。



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