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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
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第73話 悪魔将兵の討伐 へクター


 ショウタ様とボス悪魔の戦闘は完璧に常軌を逸していた。なにせ【雷切】によってステータスが大幅に上昇したヘクターでさえも視認すらできないのだ。ただ光の煌めきと建物内部に亀裂が走ることがかろうじて戦闘を行っている事を実感させてくれる。そんな強さを語ること自体馬鹿馬鹿しくなるような非常識な景色がヘクター達の目の前に広がっていた。


 もっとも、ヘクター達も目の前の戦いをゆっくり見学していられるほど余裕があったわけではない。2柱の悪魔が襲いかかって来ていたからだ。この2柱の悪魔はボス悪魔には及ばないもののとにかく強かった。

 具体的には、模擬戦でみた世界で4人しかいないSSSクラスの冒険者――デリックか、アルフヘイム王国魔法騎士団最強の人物であり、ヘクターの上司でもあるルクレーシャ・ワースノップクラスの強さはある。【雷切】を持っていなければ勝負は一瞬で決していたかもしれない。今まで運が悪かったヘクターも今度ばかりは精霊王に感謝した。

 

 だからと言って、必ずしも事態が上手く運んでいるわけではなく、生きるか死ぬかのギリギリのところを低空飛行している状態だった。

 その理由はいくつかあるがここがギルドハウスである事とヘクター達の後ろにはショウタ様から任された保護すべき人間達が多数いた事であろう。

【雷切】の能力である雷操作の能力をこんな木造の閉鎖空間で使えば、下手をすればギルドハウスが全焼する可能性があるし、仲間のエルフ達や人間達が巻き添えを食う可能性があった。

 同じ理由で、威力の高すぎる【乱光包】の光操作能力――レーザーも使えない。操作を少しでも間違えばヘクターでさえも一瞬で骨まで残らず蒸発してしまうからだ。一応それを理解してはいるのか、ラシェルもレーザーを使用する様子はない。

 ヘクターの魔法剣とラシェルの魔法で対処するしかなかった。




「ラシェル、悪魔共の動きを止められないか?」


 小声でラシェルにヘクターは尋ねる。悪魔2柱の鋭い爪による連携攻撃を凌ぎ切るのに精いっぱいでヘクターの決め手のスキル《魔法剣》が使えないのである。ヘクターの《魔法剣》は対悪魔戦の切り札となりえる。さらに特別に対悪魔戦の知識も有していた。


 このアースガルズ大陸では悪魔はあくまで伝説上の怪物だ。だが過去に悪魔出現の報告が全くないわけでもない。


 ヘクターも騎士団長ルクレーシャ・ワースノップからアルフヘイム王国魔法騎士団に入団して間もなく悪魔の事に関し知らされる。それはヘクターが対悪魔の最大戦力に成りえたからだ。


 悪魔出現はルクレーシャ・ワースノップが魔法騎士団に入団してから200年間に数度あったらしい。

 もっとも出現したとされた街や都市は一つの例外を除いて全て壊滅していたから噂の域をでなかった。その唯一の例外がビフレスト王国の王都に出現した場合だ。最強の異世界人ノア・アズマによって悪魔は討伐され、このときはじめて悪魔は架空の化物から討伐可能な現実の化物になったのである。

 このときのアズマと悪魔との戦闘で悪魔にはある弱点があることが判明した。その弱点とは光属性と聖属性のスキル、魔法である。

 光属性も聖属性もこのアースガルズ大陸では非常に希少な属性だ。両方ともアンデット系の魔物に対しては非常に効果的な属性であるし、他の属性では到底なしえない奇跡を実現させる。

 ヘクターは光の精霊魔法を使用しえる数少ないエルフの一人である。光の精霊は数ある精霊の中でも、最上位に位置する精霊であり、光の精霊魔法を使えること自体が一流の魔法使いの証でもある。さらに、ヘクターはその魔法の効果を最大限凝集し高める事ができるスキル《魔法剣》も取得していた。

故に悪魔がアルフヘイム国周辺に出現したときのためにヘクターにはアズマによってもたらされた悪魔に対する知識が特別に与えられていたのだ。


「わかった、やってみる」


 ラシェルはすでに最上位のポーションを飲んでいたので怪我は全快していたが【体力】まで回復するわけではない。本心では彼女を休ませてやりたかった。だが今目の前の2柱の悪魔の動きを一時的にでも止められるだけの魔法を扱えるのはラシェルだけなのだ。

 演唱に入ろうとするラシェルを見ながらヘクターは悔しさで唇を強く噛みながらも、スキル《魔法剣》を発動させ自らの剣に光の精霊魔法を纏わせる。


「天に揺らめく光の精霊よ。我と汝の契約に従い敵を滅ぼす剣とならん。《(ライト)(セイバー)》」


 演唱が終了すると部屋内の全ての光が集まったと錯覚するほどの強烈な光の奔流がヘクターの持つ【雷切】に収束する。

 2柱の悪魔達もヘクターの《(ライト)(セイバー)》に危機感を覚えたらしく、すぐにラシェルを捕える事からヘクターへの攻撃へ作戦を変更してくる。だがそれはどうやら一歩遅かったようだ。


「空を渡りし風の精霊よ。汝の偉大な鎖もて契約に従い束縛の力とならん。【(ウインド)束縛(バインド)】!」


 ラシェルの澄んだ声がギルドハウスに木霊する。同時に悪魔2柱の足元に魔法陣が出現し、数えきれないほどの無数の風の鎖がラシェルの切り込むような気負いを表すかのように悪魔2柱の全身を雁字搦めにする。

 2柱の悪魔は何とか抜け出そうと全身全霊を掛けての抵抗を試みるが風の無数の鎖が腕一本たりとも動かすことを拒絶する。

 

 そしてこんな絶好なチャンスを見逃すヘクターではない。ラシェルの【(ウインド)束縛(バインド)】の発動と同時に床を蹴り1柱の悪魔に高速で接近すると輝く光の渦を纏った【雷切】を横一文字に横凪にする。


 ズパッ!


 光を纏った【雷切】は悪魔の腹部をまるで豆腐のようにいとも簡単に切り裂き横断する。

 悪魔の上半身が重力に従って床に落ちる音を聞きもせずに、ヘクターは次の悪魔へ接近し袈裟懸けに【雷切】を振り下ろす。


『ウオォォォォッ!』


 もっとも悪魔も最後のチャンスに自分の生命の火を賭けるかのように、喉の奥から絞り出すような唸り声をあげながら風の鎖を引きちぎる。悪魔が風の鎖を霧散させるのとヘクターの【雷切】が悪魔の右肩へ吸い込まれるのはほぼ同時だった。

 悪魔はバックステップで身体全体の切断自体は免れたが誰が見ても一目でわかるくらいの深い傷を負う。


「お、おのれ~~、人間の亜種ごときが!」


「…………」


 悪魔が片膝を床につきながら憎悪を顔一面に浮かべている。ヘクターは無言で悪魔に再度接近し、【雷切】を上段から垂直に振り下ろす。


 ザンッ!


 凄まじい速度で【雷切】は悪魔の頭部を垂直に切り裂き丁度胸のところで止まった。ヘクターは即座に【雷切】を引き抜くと念のため悪魔の首を刎ねる。

 

 仲間のエルフ達は恐ろしい悲劇が一歩遠退いたことが実感できたのか胸を撫で下ろしている。 

 だがショウタ様とボス悪魔の戦闘はまだ終わっていない。安心など1ミリたりともできないのだ。そう考えヘクターはすぐに仲間のエルフに指示を飛ばす。


「今から全員で人間達を連れてこのギルドハウスを離脱する。ギルドハウスを出たら、ラシェルとアナはこのメガラニカから脱出しエルドベルグのギルド支部長――デリックのところへ行き、現状を伝えろ。

 その他の者は俺とともに領主の館へ行き、チェスと合流し状況を説明する。その後、市民のメガラニカからの脱出に協力する」


 エルフ達はヘクターの指示に異論がないらしく素直に頷く。当然だ。ショウタ様とボス悪魔の戦いを見ればこのギルドハウス内でエルフ達のやることはもはやない。此処に留まってもショウタ様の足手纏いになるだけだ。

 だが唯一人納得しない者がいる。ラシェルである。


「私、ショウタと一緒にアイツと戦う」


 ヘクターは苦悩が嵐のように自分に襲ってくるのが分かった。本来ラシェルはここまで聞き分けがない娘ではない。(むし)ろいままでヘクターの指示に従わないことなどなかったほどだ。


 最初普段ライバル視しているフローラがこのギルドハウス内へ入った事が原因かと思っていた。

 だがギルドハウス内から転がるように逃げ出してきた人間の女にショウタが魔物と戦闘をしている事を聞くとラシェルは我を忘れたようにヘクター達の制止も聞かずにギルド内へ入ってしまった。このラシェルの態度から見るに原因はフローラではなくショウタ様にある事は明白である。

 ラシェルの今の気持ちが恋なのかまではヘクターにはわからないし、ラシェル本人にもわかってはいないだろう。

 

 ラシェルはヘクターと同じ25歳だ。だが今まで恋人がいるという噂は耳にしたことがない。いくら1000年を生きる長寿のエルフといえど成人が18歳であることを鑑みればこの事は異常である。

 それはラシェルの容姿に問題があるわけでは勿論ない。ラシェルは美形が多いと言われるエルフの中でも断トツに美しい。物思いに耽っているところなど、とても同じエルフには見えない。現に、そのラシェルの様子をみて男女問わず高等魔法学院の同級生が卒倒していた。

 もっとも、大抵そのときのラシェルは、今日の昼食の事などたいした事は考えていないのだが。僅かに問題があるとすればその幼い容姿だが、それも魔法学院の同級生たちの反応を見ている限りさほど強い要因にはなりえない。

 一番の要因はラシェルが王族であり、親たちが決めた許嫁がいるせいかもしれない。ラシェルには竜人国の王子と許嫁の関係にある。これは閉鎖的なエルフ族には珍しい事だ。

 エルフは人間族とは現在緊張関係にあり大陸最高の種族の竜人族とのつながりを深めたいのが主な理由だろう。

 もっともこれにはアルフヘイム王国の各方面から反対の声が上がった。

 特にラシェルはエルダーエルフの娘であり、『始まりのエルフ』の再来とまで言われた逸材だ。それをみすみす竜人族に嫁がせることをよしとしない者達は多かった。いや、それがほとんどだと言って良かった。

 だが、七賢人の一人魔法王――ベレンガリア・アラスが竜人族とエルフ族の混血児にはきわめて強い魔法適正があり、ラシェルと竜人族の王子の子供はエルフ史上最高の魔導士となる可能性があると口走った。この発言により王国上層部は呆気なく掌を返す。竜人族とエルフ族との取り決めによりラシェルの子供はエルフの王族とみなされるという取り決めがなされて婚約が成立した。

 国が決めた婚約者がいるのだ。それは最高の男よけであろう。魔法学院時代にも誰もラシェルに告白しようとする者はいなかった。憧れている者は死ぬほどいたわけであるが……。そして、魔法学院卒業後も同じであったと予想される。

 だから、もしショウタ様への思いが恋だとすればそれは初恋なのだろう。その恋は今のラシェルにとって命より大切な物なのかもしれない。

 ヘクター達にとってラシェルは今や妹同然の大切な存在である。だから相手がたとえ誰であってもでもできる限り応援はしてやりたい。それが決して結ばれない恋であり、結果的にラシェルを傷つける事になったとしても。


 だがラシェルのショウタ様への思いを応援できるのはあくまで平常時での事だ。今のような非常時ではラシェルのショウタ様への思いは枷にしかならない。それはラシェルの身を危険に導くだけでなくボス悪魔と戦っているショウタ様の枷にすらなる。


「馬鹿な事を言うな! 今のお前はショウタ様の足手纏いにしかならない」


「そんなことない。きっとショウタの力になれる」


「もっと冷静になれ! あの戦いを見てお前に何ができる? こんなときに駄々を捏ねるんじゃない!」


「嫌、ショウタを見捨てて行けない」


「…………」


 ヘクターは油断なくショウタ様とボス悪魔との戦いを注視しながらどうやってラシェルをこのギルドハウスから脱出させるかについて唇を噛みしめ、考えを巡らせる。仲間のエルフ達もラシェルの我侭にほとほと困り果てているようだ。

 そして事態はまた動き出す。ヘクターの予想外への事態へと。



 お読みいただきありがとうございます。

 もう少しで『俺』の登場です。物語はそこからがスタートです。ご期待いただければ幸いです。

 一度読んでしまっている方はもう少しお待ちください。修正が済み次第新しい話を投稿します。今時分でも読んでそれなりの楽しめるので結構いけると思います。ただ話はぶっ飛んでいるので相変わらず人は選ぶと思います。

 それでは最後までお読みいただければ幸いです。

 

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