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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
82/285

閑話 信仰 ヘクター(2)


 オークとの戦闘が始まった。だが、非現実的な光景が目の前に広がっていた。獣王国の姫が暴れまわっているのだ。まるでオーク共がゴミようだ。闘いにすらなっていない。この事態の原因にヘクターは心辺りがあった。

 ショウタ様に近づき尋ねる。

 あの武器は【超越級(トランセンデンス)】であり、ショウタ様が獣王国の姫に与えたものらしい。ギルドハウスでそれに気が付かなかったのも迂闊だった。

おそらく、エルフに敵対する人間達が部屋には多くおり、それに気が向いてしまい、獣人達に視線を向けもしなかった事が原因であろう。これでは感覚の鈍い人間達と同じだ。少し自己嫌悪になる。

兎も角も、翔太様が獣人の姫に与えたのは【超越級(トランセンデンス)】であるらしい。

 【超越級(トランセンデンス)】は、神々の武器の中でも最強を誇る武器である。アースガルズ大陸の言い伝えでは、超越神のみが作成することができ、功績のある最上級神に与えたものであると言われている。ショウタ様は超越神に謁見が叶うほどの高位の精霊王なのだろうか。それとも……。


               ◆

               ◆

               ◆


 事態は動く。多量のオークキングとオークジェネラルがワラワラと湧いているようだが、不思議と不安は皆無だった。オークごときがいくらこようとも、精霊王に勝てるはずもあるまい。

 案の定、ショウタ様は獣王国の姫と共にあっという間にオークキング共を屠りヘクター達にその強大さを見せつけた。



 ショウタ様が冒険者から指揮権を奪い取るつもりらしい。馬鹿な人間の貴族がそれに怒り不敬を働いている。我らが神にも等しい存在に暴言を吐くなど……殺意がボコボコと沸き立つ。だが、ここでヘクターが暴れるのはショウタ様の本意ではないはずだ。見届ける事にする。

 

 Sクラス冒険者の一人が剣を翔太様に向ける。正気かだろうか。あれだけ超常的な行為を見て、この者達は力の差も理解できなかったのだろうか。そのような者達に我らエルフが信仰する精霊王をコケにされるとは……柄に自然に手がいく自分に気付く。他の事情を知るエルフの仲間も同様らしく射殺すような目を愚か者に向ける。

 だがラシェルの存在を忘れていた。ヘクターはむしろ止めなければならなかったのだ。内心で舌打ちして、ラシェルを止めようとするが、ラシェルはすでに【乱光包】を握り締めていた。マズイと思ったその瞬間、Sクラスの冒険者が指先一つで吹き飛ばされる。さすがに、実力の差がわかったのかショウタ様に向けられた敵意は薄れ畏怖が沸き起こる。

 ショウタ様がデリック支部長に、ヴァージル嬢の護衛を依頼されていたと知り冒険者達の雰囲気は一変する。

 その後、不敬を働いていた人間の貴族の中に裏切り者がいることが判明した。罵声が飛び交う中、完全に据わり切った目でアナが剣の柄に手を掛ける。ラシェルを豚に売り渡そうとした屑共が心底憎いのだと思う。気持ちは十二分にわかる。ヘクターも今すぐ首を刈り取りたい衝動に駆られているのだから。

 だが、それはできない。背後関係は聞かねばならないし、どうせ、獣王国の姫まで手を出そうとしたのだ。おぞましい事にしかならないだろうから。

 案の定、獣王の弟が発明王に引き渡すといって、場の空気は収まるどころか冷え切った。


               ◆

               ◆

               ◆


 ギルドの支部長との約束により、ショウタ様がヴァージル嬢の救出へ向かう。

そして獣王国の姫が【超越級(トランセンデンス)】の本質をさらけ出す。

 それはまさに最高神が振るうべき武器による奇跡であった。上空に舞う千に近い数の神の剣。それが流星のごとく地上へと落ちてきた。それは宙に浮かぶ数多の星々の煌めきのように地上を這うオークに突き刺さり神罰が下される。900近く居たオークは煙の様にその姿を掻き消していた。

 これが、劈くような轟音が起こり、地上を焦土ごとく焼き払ったのならば、ここまでの非現実感はなかっただろう。だが実際には轟音どころから、ピッシュンという風切音が聞こえたに過ぎない。一瞬でオーク達は煙のように消失したのだ。まるで初めからなにもいなかったように……。

 ショウタ様が神か精霊王のいずれであるかは、ヘクターでは判断ができない。だが、仮に精霊王だとしても四大精霊王ではない。アルフヘイム王の扱う風の精霊王――ジンは何度か見たことがある。

 ――過去に空から竜巻を発生し人間の一軍を薙ぎ払った。

 ――暴風を吹かせ、大軍1000人を上空へ舞わせた。

 ――鎌鼬を発生し、数百人を一瞬で肉片へと変えた。

 だが、神の武器を自ら作り出し他者に与えるなどなかったし、ましてや最高神のみが持つ【超越級(トランセンデンス)】を他者に与えるなど絶対にできはしない。もっと自然と気象を扱う現実味がある精霊王であったと思う。

 ラシェルに異常に執着していることから見ても神よりも精霊王近い存在だとヘクターは予想していた。ならばラシェルと契約は可能なはずだ。是非ともラシェルと契約してもらいたい。そうすればアルフヘイム王国は安泰だし、何よりもラシェルが喜ぶ。


               ◆

               ◆

               ◆

 住民の避難誘導を行う者達からギルドハウスから女性の叫び声が聞こえるという報告がアドルフの下まで届けられる。嫌な予感しかしないが、アドルフ達と共にギルドハウスまで行く。 

 確かに女性の悲鳴が聞こえる。可哀想だがショウタ様が来るまで待った方が賢明だ。1匹だと思われたオークキングが50匹もいたのだ。それを率いているオークが確実にいるだろう。そして、オークキングを率いることができるのはオークエンペラーだけだ。此処にいる全員がそれを朧には予想をしているはずだ。ヘクターの【雷切】とラシェルの【乱光包】があれば十中八九倒せる。だが確実ではない。ショウタ様からラシェルの安全を任された身、ラシェルを安全かどうかもわからないところへ連れて行く事は絶対にできない。

 2班の冒険者達からはショウタ様の到着を待つべきだという声が大半だった。獣王国の姫と共にオーク達を圧倒した事が強い印象として残っているのだろう。勿論ヘクターも同じ考えでそれに賛同の意を示す。だが……。


「僕は誰が何と言おうと助けに行く」


 フローラが意気揚々と他の冒険者を眺めながら、同意を求める。


「…………」


だが2班の冒険者のほとんどがフローラから目を逸らす。その様子に激怒するフローラ。


「皆にはあの悲鳴が聞こえないのか? 今助けにいかなきゃあの子の心は確実に壊れる!」


そんな事はフローラに指摘されるまでもなくここにいる冒険者の全員がわかっていた。

 だが、同時にギルドハウスの中にオークエンペラーがいる可能性が高いことも理解していたのだ。オークエンペラーは討伐推定SSS-クラス以上の伝説上の魔物だ。本来、大陸最強のSSSクラスの冒険者が討伐することになるはずなのだ。SSクラスでさえ、行っても無駄死するだけだろう。

 もし、無傷でオークエンペラーに勝てるとすればそれは、SSSクラスと同等以上の力を有する者――獣王国の姫とショウタ様だけである。その事は骨の髄まで理解したはずなのだ。


「お嬢さま。今回ばかりはショウタの到着を待った方が良いと思われます」


 まさか、全幅の信頼を置いているロニーにまで否定されるとは思わなかったのだろう。血相を変えて捲くし立てる。


「なせだ? あの子を見捨てるつもりか?」


「いえ、そういう訳では……もう少し待ってみてはと申し上げているのです」


 フローラはロニーの態度を見て頭に血が上ってしまった。


「それでは遅いっていってる! もういい。僕は一人でも行く!」


 フローラは冒険者達に侮蔑の視線を送るとギルドハウスの正門に歩を進める。溜息を吐いてロニーも直ぐに後に続く。もう一人、フローラと同じパーティーらしき女性がその後を慌ててついていく。やれやれと肩を竦めるとアドルフが冒険者の皆に向き直る。


「フローラ達だけに向かわせるわけにもいくまい。メイソン、悪いがお前もついて来てくれ。後は――」


 アドルフはラシェルとヘクター達エルフに視線を向けてくる。冗談ではない。フローラ、アドルフではオークエンペラーには勝てない。

 【神話級(ゴッズ)】の刀を所持している今だからわかる。討伐推奨SSSクラスの魔物は正真正銘の怪物だ。SSSクラスに片足を突っ込んでいるロニーがかろうじて太刀打ちできる程度だ。そんな危険な場所にラシェルを連れて行けるものか。それに今回の事態は、フローラの独断専行だ。否は向こうにあろう。


「私はショウタ殿をあくまで待つべきだと思う。故に我々はここで待機する」


 アドルフはフローラと異なり目には非難の色は宿していなかった。


「そうか。では引き続き残党オークの討伐をお願いする。それと、残党狩りの指揮もやってもらえまいか?」


「わかった。任されよう」


「感謝する」


 アドルフはメイソンという竜人族を引き攣れてギルドハウスに入って行った。これでショウタ様の命を守れると思っていたのだが、例によってラシェルが駄々をこね始めた。フローラに向けられた侮蔑の視線が許せなかったのだろう。あんな女など放っておけばよいものを……。


(全くなぜこうも子供なんだ……君も私と同じ25歳だろう? いい加減に大人になってくれ)


 口には出さず、ラシェルに悪態をつきながら、ギルドハウスに入るべきと主張するラシェルを説得し続ける。ついにはフローラ同様、ギルドハウスに一人でも入ると言い出した。

 そこにショウタ様がやって来る。ヘクター達がギルドハウスに入らなかった事を上手く正当化してくれた。有り難い話である。

 ラシェルはショウタ様にも食ってかかったが、強烈な殺気をぶつけられ押し黙ってしまう。アルフヘイム王国でそれなりの修羅場をくぐってきているヘクターでさえも震え上がる程の殺気だ。お嬢様育ちのラシェルに耐えられる胆力はない。

 ショウタ様はギルドハウスに入って行く。


               ◆

               ◆

  

 ラシェルを残党狩りに連れて行こうとするが、ショウタ様が出てくるまで待つと聞かない。ショウタ様が心配なのだろう。顔が死人のように真っ青だ。

だが、ラシェルが近づく程、戦いはショウタ様に不利に傾くことを理解していない。

 説得を試みていたところで、ギルド内から轟音が轟き、ギルドハウスが衝撃で揺れる。暫らくすると再び静寂が辺りを支配した。呆然と見ていると暫らくして中から人間の女性が出て来る。


 女性は意外に落ち着いており、話を比較的簡単に聞き出すことができた。その話は以下のようである。

 ギルドハウスの中に保護対象の人間達が多数いる。そして、ギルド内にいる魔物とショウタ様が戦闘状態に突入しそうだ。その戦闘に巻き込まれるのを防ぐため冒険者達に保護対象の人間達をギルド外へ避難させるよう言うように指示されたらしい。

 ヘクターが次の行動を考えるより先にラシェルがギルドハウスの中に入って行ってしまう。

 勿論、ラシェルを見捨てる事はできない。ヘクター達もすぐにギルドハウスに入る。

 こうして、ヘクターは正真正銘の怪物と対面する事となる。それは最悪と絶望の化身。アルフヘイム王国最強の王でさえも、正面からぶつかるのは危険だとみなした伝説上の存在であったのだ。



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