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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
67/285

第63話 エルフのお兄さんに頼みごとをしよう


 本日9話目です。


 オーク戦の準備と言っても翔太自身はそこまでやることがあるわけではない。

しいて言えばポーションを多量に買い込むくらいだ。最上位ポーションを50個買い250万Gを支払った。前回も多額のお金を使ったせいかアイテムショップの店員からまるで王族のような待遇を受けた。

 最上位ポーションは25個をアイテムボックスに、残り25個をフィオンに初日に貰った皮の鞄に入れる。万が一、指を切り落とされたりして指輪を手放したときのためだ。このように翔太はポーション等の必要なアイテムは皮の鞄にも入れるようにしていた。

 

 アイテムショップを出てから直ぐある人物を探しまわる。

 今日は領主邸で式典が開かれる。その際にビフレスト王国の国王陛下も来るらしく、パレードがメインストリートに沿って開かれていた。だから見物人で溢れ返っており、目的の人物は中々見つからない。

 やっと城門付近で見つける事が出来た。翔太はその人物に向かって歩いて行く。相手も翔太の存在に気がついたようだが無視して通り過ぎようとする。


「ラシェルの仲間の方ですよね?」


 目的の人物である長い耳をした髪の長い金髪の美しい青年は面倒そうに翔太の正面を向く。

 周囲のエルフ達も一斉に翔太に向き直る。全員がかなり警戒していた。翔太が人間族であることを考えれば当り前の態度といえるだろう。


「何だ、貴様?」


「聞いていただきたい話があります」


 翔太が話しかけたエルフの金髪の青年は、少し考えるがすぐに拒否の態度をとった。


「人間と話す事など何もない。失せろ」


 青年の周囲のエルフも殺気立つ。だが翔太も必死だ。これが聞き入れられるか否かでラシェルの身の安全が数倍いや数十倍は異なってくる。もはや形振(なりふ)りかまってはいられなかった。

 しゃがみ込み、地面に額をこすりつけ土下座の恰好をとる。

 この異世界でこの格好がどんな意味を成すのかわからなかったがそんな些細なことは今の翔太にとってどうでもよかった。

 エルフ達は翔太のこの態度に戸惑っている様子であり、少なくとも今すぐ攻撃をしかけてくる事はなさそうだ。


「ラシェルに危険が迫っています。話だけでも聞いてください」


「……お前ラシェルの何だ?」


 この金髪の青年は翔太とラシェルが知り合いであることは知っている。だがどんな関係かまでは把握してはない。そんなところだろう。

 翔太はどう答えたものか迷う。翔太は友達だと思ってはいるが、ラシェルがそう思ってくれているかまでは自信がなかった。知り合って数日だ。そして何よりあまり翔太に対し良いイメージがあるとも思えない。だから翔太の思っている事を正直に伝える事にした。


「はい。ラシェルは僕の大切な友達です。ラシェルが僕を友達と思ってくれているかまでは自信がありませんが僕はそう思っています」


 エルフ達は完全に当惑している様子であった。犬猿の仲の人間からいきなり土下座のような低姿勢に出られることも、仲間のエルフを友達だと言われることも初めての経験なのだろう。


「ヘクター、こいつは人間だ。信用できない。無視して行こう」


「そうだ。俺達を騙してラシェルを売り飛ばそうという輩かもしれん。これ以上話を聞くのは危険だ」


 翔太が最初に話かけた金髪のエルフの青年ヘクターは、地べたに額をこすりつけて身動き一つしない翔太を見下ろしながら暫らく思案していた。


「話だけきこう」


「「「ヘクター!」」」


 周囲の数人のエルフ達がヘクターを咎める。


「別にこの人間を信用したわけではない。ただ仕入れる情報は多い方が良いと思っただけだ。あくまで数多ある情報の一つとして入手するだけ。問題はあるまい? 

 それに人間ごときの策謀などたかが知れている。この人間が我々に危害を加える事が目的だと判明した時点で殺せばよい。その方が後々、憂いがなくてよかろう?」


 ヘクターの言葉に戸惑いつつも周囲のエルフ達もヘクターの提案に頷く。周囲のエルフ達の意見の合致があることを確かめた後で、ヘクターは翔太を見下ろして語り掛ける。


「そういう訳だ。人間。話だけは聞こう」


「ありがとうございます!!」


 翔太は嬉しくて声が弾む。


(話だけでも聞いてもらえれば仲間のエルフ達もラシェルを一人にするような馬鹿な真似はしないだろう。ラシェル自身が強いなら身の安全はかなり高レベルで確保できる。

 加えて、【神話級(ゴッズ)レベル4】を受け取ってもらえれば、万が一の危険も無くなるはずだ。ヴァージルさんに拒否されたし、人間嫌いのエルフに受取ってもらえる自信はないけどね)


「お前は顔を地面につけたまま話をするつもりか? 

 立て。我々エルフは人間のような悪趣味ではない。そのような格好を取られても嬉しくもなんともない」


(やっぱり、文化の違いというやつ? 

 まあ確かに僕もされて良い気持ちはしないけどさ……)


 翔太はすぐに立ち上がって礼を言う。


「話をお聞きいただきありがとうございます」


 頭を深く下げる。周囲のエルフ達は翔太の先ほどからの一連の行為にすっかり毒気を抜かれたようで警戒心はあるが殺気までは消していた。


「いいから、早く話せ。私達も暇ではない」


「はい」


               ◆

               ◆

               ◆


 翔太はヘクター達に一連の事件を事細かに話す。話終わったときエルフ達の顔には強い嫌悪と怒気が浮かんでいた。


「まさか豚共と手を組むとはな。人間と言うやつは全く救いのないくらい業が深い生き物だ」


「耳が痛いですね。でも危機感を持っていただけましたか?」


 どうやら信用してもらえたらしい。胸を撫で下ろす。


「ああ。この情報はお前には全く利益がないからな。我々エルフに人間の醜態をバラすんだ。むしろ裏切り者と罵られるかもしれんぞ?」


「今の僕はラシェルの安全さえ確保できればそれで構いません。それに僕は罵られるのには慣れていますから」


「貴様人間にしては変わってるな。人間とはもっと利己的な生き物だと思うんだが?」


「十分僕は利己的で我侭です。大勢のメガラニカの住民の安全よりも友達の安全を優先しようとしているのですから」


 今まで事件の事を話しても眉一つ動かさなかったヘクターの心が僅かに乱れるのが付き合いの短い翔太にもわかった。


「貴様まさか、人間を、同じ種族の者を売るつもりか?」


 他のエルフ達もヘクターの言葉の意味を理解したのか一同に様々な感情を翔太にぶつけて来た。殆どが否定的なものであったが……それほど、エルフにとって同種族を売ることは許せない事なのだろう。


「これから僕が貴方たちにするお願いは同じ人間を売る事かもしれません。それでも聞き届けていただきたいのです」


 ヘクターは再び無表情となり冷めた目で翔太を見る。


「貴様のお願いとやらも予想はつくがな。言ってみろ」


「今回のクエスト、貴方たちのチームはラシェルの安全確保を一番に考えてほしいのです」


 エルフ達から驚きと苦悶の声が上がる。


「そんなことはギルドに対する裏切り行為だ。到底許されることではない」


 ラシェルの仲間のエルフの男性が翔太のお願いを真っ向から否定する。


「けど現に薄汚い人間達にラシェルが狙われているのよ。その人間を守るために、ラシェルを危険に晒す気?」


 しかし、これをすぐ脇の女性のエルフが否定した。どうやら言い争いになりそうな雰囲気である。


「そうは言ってはいない。だがラシェルはエルドベルグに4人しかいないSSクラスの冒険者だぞ。そう簡単に攫われるわけが……」


「いえ、そうとも限らない。この人間の話が本当なら今回の敵は非常に狡猾な連中よ。どんな巧妙な罠が張り巡らせられているかわからない。

 確かにラシェルは力だけなら私達の中では一番強い。でもどこか抜けてるところはあるし、危機感も私達の中では一番少ない。あのラシェルなら攫われてしまう可能性も零とは言えないわ」


「しかしこの人間の言う通りにしたら我々ばかりか祖国まで巻き添えにされかねないぞ」


「じゃあ貴方はラシェルを見捨てろと? それでも男なの? 軟弱者!」


「なんだと?」


 先ほどの男女のエルフは完璧に口論となってしまった。


「お前ら止めろ」

 

 それをヘクターが止める。一息ついて仲間のエルフ達が落ち着いてから翔太に向けて尋ねてくる。


「もしギルドにお前の言うお願いとやらを私達が実行している事がばれたら? 私達はギルドから追放だ。さらには祖国にまで非難の目が向けられるだろう。貴様はそれが分かっているのか?」


 エルフ達が翔太のお願いを受けられない一番の根子は翔太のお願いが誰かにばれたときのエルフ達のギルドからの追放と祖国への非難の集中なのだ。翔太にはこれに対する打開策もすでに考慮済みだった。だからヘクターの問に答える。


「全部僕に弱みを握られて脅されていたことにしてもらって構いません。そうすれば、貴方達や貴方たちの祖国に迷惑はかからないでしょう? 

 弱みはそうですね……ラシェルに僕がお金を貸したとでも適当に捏ちあげてください。僕がそれを肯定すればギルドはそれを信用します。僕のギルドでの評判はもう知っておいででしょう? ギルドの全員が疑いすらしませんよ」


「貴様馬鹿か? お前のお願いとやらは俺達エルフに今回の戦いで手を抜けと言っているんだ。下手をしたらお前が豚共の仲間だとされてしまうぞ。もしそうなれば……」


 ヘクターの隣にいた先ほど口論していた男性のエルフが我慢できなくなったように口を挟んできた。


「先ほども言ったでしょう? 僕は利己的で我侭です。僕にとって大切なものが守れるならあとはすべてどうでもいいんです。それにもうこれしか方法がないですよ」


「その妙に達観した態度気に入らんな。だが貴様のいう通りそれしか方法はないか……よかろう。お前のお願いとやら聞き届けよう」


「ありがとうございます。最後にあと一つだけ聞いていただきたいお願いがあります」


「なんだ? 話だけは聞いてやる」


「貴方に受取ってほしいものがあるのです」


 アイテムボックスから、【日本刀】を2本取り出す。一本は【神話級(ゴッズ)レベル4】最強の【雷切】、もう一本は【乱光包】――【神話級(ゴッズ)レベル4】の中でも【雷切】と同等の力を有する一振りだ。ただ【雷切】とは方向性が真逆だが。【雷切】が武なら、【乱光包】は術の最強と言える。

 【乱光包】の能力もまた異常だ。光の精霊――ケトの縮小版みたいなものだと思う。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


【乱光包】

■クラス:神話級(ゴッズ)

■レベル:4

■説明:刀身に光を吸収し乱反射する神刀

徳川将軍家伝来の短刀

■性能:始点と終点の2点を設定し始点から終点の間に光の束を放つ。

    所持者から半径10mの者全てを徐々に自動的に回復する

    筋力+35 体力+35 魔力+70、魔力の強さ+70

―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 金髪の美青年エルフ――ヘクターは腰にレイピアを下げている。ならば【雷切】も扱えるだろう。まあ受け取ってくれるかは別問題だが。

 【乱光包】はもちろんラシェルだ。ラシェルは力がなさそうだし、どう見ても魔法使いだ。より相応しいといえる。

 今回を無事乗り切ったら、できる限りはやくラシェルの【超越級(トランセンデンス)】を作るべきだ。肝を冷やすのは今回限りに願いたい。

 ヘクター以外のエルフ達は、翔太がアイテムボックスから【日本刀】を取り出そうとしたのを見て攻撃態勢にはいろうとしたが、ヘクターに手で止められた。

翔太が取り出した【雷切】と【乱光包】を見てエルフの大半は案の定、フィオンと同様に真白に燃え尽きてしまった。

 ヘクターだけは何とか翔太と会話が成立していた。翔太は、ヘクターに2本の【日本刀】を渡す。

 ヘクターは自らの手にある【雷切】と【乱光包】に視線をむけ、見てはいけないものを見てしまったかのように、ハッと息を引き切っている。


「こ、これは……。お、おい、おい、ふざけるな!!」


(フィオンといい、ヘクターさんといい、【神話級(ゴッズ)レベル4】見ただけでこうも狼狽えなくてもいいだろうに。毎回怒鳴られる身にもなってよ。時間もない。受け取ってもらえなければ、アイテムボックスに戻すだけ)


「その太刀、【雷切】は貴方がお使いください。その短刀、【乱光包】はラシェルにお渡しください。これが取扱説明書です」


 言葉で説明するのが面倒なので、このときのために予め書き留めておいたのだ。ヘクターは翔太から取扱説明書を受け取ると、フィオンと同様、表情にピシッと亀裂が入る。この手のリアクションに飽きている翔太は、次にどんな言葉が来るかも明確に予想できた。


「この武器、どこで手に入れた?」


(やはり、この質問ね。お次は……)


「僕が作りました」


 他のエルフ達と同様に真白な灰になりかけているヘクター。何とか言葉を絞り出す。


「お前が作った? この神の武器を? 人間のお前が?」


「はい」


「…………お前、人間……ではないな。まさか精霊王か? それならラシェルを庇うのもわかる。ラシェルは精霊に殊の外愛されているからな。それなら私は……私達は精霊王にあんな屈辱的な態度をとらせてしまったのか……」


 ヘクターの翔太を見る目の中に恐れと畏れが灯る。


(お? 初めて違うリアクション。もはや人外と断定されてしまった。この際だ。壮絶に勘違いしててもらおう)


「僕が何者かなんてどうでもいいでしょう? 大事なのは結果です。

 ラシェルにもしものことがあったら、魔物が関わってるならその魔物全部、組織がかかわっているなら組織ごと、国が関わってるなら国ごと徹底的に破壊し滅ぼします」


 これは事実だ。翔太はラシェルが豚に攫われるなど絶対に許せない。最悪を想像する自分が許せない。そんな自分を呪い殺したくなる。もし傷一つでもつけられれば豚をこの世から一匹残らず駆逐するだろう。人間ももしかしたら同じかもしれない。

 最悪を想像し人外の殺気を撒き散らしていたらしい。ヘクターには得体のしれない怪物がいるようにしか見えないだろう。息をするのも苦しそうに翔太を見ている。


(や、やり過ぎたかな? まあいいや。これで武器を受け取ってもらえそうだし)


「わ、わかり……ました。ラシェルは俺達にお任せください。この武器はラシェルに渡して置きます」


(ありゃ、とうとう敬語になっちゃったよ。まあいいや。今はこの方が都合が良い。今回の事が終わって、ラシェルの【超越級(トランセンデンス)】を届けるときにまた土下座して謝ろう。うん。そうしよう)


 結局ヘクター達は素直に翔太の言葉に従ってくれた。人生初の恭しい態度で扱われ、罪悪感がムクムクと身体中から湧いてくる。


(友達になりたかったエルフを騙すのはとんでもなく気が引けるけど、この際だからよしとしよう。 これで首の皮一つ繋がった。やれる! 僕はやれる! )


 自らに言い聞かせるように翔太は何度も心の中で呟く。



 お読みいただきありがとうございます。

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