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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
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第58話 受付のお姉さんを護衛しよう(3)

「あの~、ヴァージルさん?」


 翔太は尋ねるがヴァージルは一言も話さず黙々と目的地まで歩いて行く。翔太は仕方なく後ろから少し離れてついて行くことにした。今日は《隠密》スキルは発動させない。翔太がいない事で賊がヴァージルを攫おうと行動しても困るのだ。ヴァージルに【神話級(ゴッズ)レベル4】を持たせられれば一番良かったが、今は不可能だろう。

 レイナと異なりヴァージルは人通りの多い所をわざわざ選択して歩いているようだ。これなら賊も簡単には襲ってくることはできない。若干ヴァージルを見直しつつ周囲の気配を観察する。


(索敵スキルみたいのがあれば楽なんだけどな。ゲームや小説では必ずと言っていいほどあるし、《隠密》もあったんだから、いつかラーニングできるかもしれないよね)


 中流区でも上流区に限りなく近い宿屋にヴァージルは到着した。Cクラス以上の冒険者ともなればかなりいい場所に宿泊できるくらいの金銭を稼いでいる。当然と言えるかもしれない。

 ヴァージルに迷惑がかかると困るので、スキル《隠密》を発動させた。ヴァージルはいきなり翔太の気配が消えたので驚いて辺りをキョロキョロ見渡している。

 どうやら目的の人物が来たらしい。スキンヘッドの男ダンカン――翔太のGクラス昇格試験のときの試験官である。ヴァージルは先ほど翔太達に話した内容をダンカンにも話すと再び歩き出す。そこで意外にもヴァージルから声を掛けられる。


「ショウタさん?」


「はい。なんでしょう」


 【索敵】スキルを切って翔太は気配をヴァージルの背後に出現させる。突如背後に気配が現れたことに心臓が跳ね上がらんばかりに驚いたのだろう。ヴァージルはビクンと身体を跳ね上げた。


「心臓に悪い現れ方しないでください。寿命が縮みます」


「すいません。以後気を付けますね」


 ヴァージルは少し思案してから翔太に言葉を発する。


「まだいたんですね……」


 背後の翔太からはヴァージルの表情はわからないが話の流れから早くギルドへ行けという事なのだろう。どう考えても彼女は翔太が付いて来ることを認めていないから。


「はい。貴方が拒否しようと僕はついて行きますよ」


(これって傍からみると悪質なストーカーだよね。なんか情けなくなってきた)


「…………」


 ヴァージルは翔太の言葉に答えず歩き出してしまった。

 翔太も少し離れてついて行く。目的の宿屋は一軒目の宿屋の50m程離れた場所にあり直ぐに到着した。再びスキル【隠密】を発動させ、説明が終わった後、ヴァージルに十分距離をとりつつスキル【隠密】を切る。ヴァージルはすぐに翔太方を振り返り、ほっとしたような表情を浮かべてまた前を向いて歩き出した。


(いきなり背後から気配が出現したらそりゃあ不気味だよね。ほっとする気持ちもわかるよ)


 ヴァージルに僅かな罪悪感を抱きつつ後をついて行く。

 最後の場所は少々厄介だった。中流区でも下流区に限りなく近い場所にあったのだ。ヴァージルはできる限り人通りの少ない裏通りを通らないようなルート、すなわちメインストリートを限界まで行くルートをとるらしい。


(こういうところはヴァージルさん、レイナと違って大人で助かる)


 翔太達がメインストリートをゆっくりと歩いて行くと、眼前に中流区から下流区への移行ポイントが見えて来た。

 この移行ポイントにはヴァージルや翔太から見て右側に小さなストリートが走っている。このストリートは他のストリートよりもかなり幅が狭く人の通りも少ない。加えて、薄暗く、この場所の治安が極めて良くない事は一目瞭然だ。これはメインストリートを何度か通れば嫌でも目につく事である。

 ヴァージルが向かうべき宿屋はこの危険なストリート沿いにあると予想される。なぜなら、下流区にはCクラスの冒険者が宿泊するような宿はない。もう、ヴァージルの進む先にある右の小さな危険なストリートしか残されていないのだ。

 もっとも、翔太としてはこんな幅が狭い薄暗いストリートに沿った宿屋でも泊まる人いるのがむしろ驚きだった。しかも金を稼いでると思しきCクラスの冒険者がだ。

 とは言え、ここが一番の危険ポイントとなるのは間違いない。

 翔太が気を引き締めるべく頬を叩いていると、前方から知った顔が翔太の方向に向かって歩いてくる。エルフの少女――ラシェルだ。この頃頻繁にラシェルと出会う。忙しくさえなければ、構ってやれるのだが、この数日間はとにかく忙しすぎる。特に今はヴァージルを護衛中だ。無視させてもらおう。

 ヴァ―ジルは丁度危険で薄暗いストリートへ差掛かろうとしていた。

 ラシェルのすぐ脇をすり抜けるようにしてヴァージルの後を追おうとする。

翔太はラシェルには限界まで気を抜いてしまう。

 その理由は不明だが、それは翔太を形作る最も重要な構成要素。通常、野生の母象が決して自身の子象を踏み潰さないようにいくら肉体的に人間を止めようがラシェルの前では翔太はただの少年。そしてそれは翔太の意識の有無とは無関係。

 故に――。


「えい」


 丁度、翔太が地面を踏み込む足に力を込めようとしたその瞬間、突然背中に衝撃が走り、バランスを崩し前につんのめってしまう。多分背中を押されたのだろう。

 翔太はすぐに後ろを向いてラシェルに批難の言葉を投げかける。


「ラシェル何するのさ?」


「ショウタ、無視した」


 とんがり帽子を押さえながら、地面を蹴っている。構ってほしいのだろう。だけど――。


「そんなこと言われても今は忙しい……」

 

 ラシェルに今の翔太の置かれた状況を説明しようとしたが、すでにヴァージルが視界から消えている事に気がついた。ヴァージルが向かったストリートの方へ駆け出すが、ヴァージルはどこにもいなかった。焦りが翔太を支配する。


(ヴァージルさん、絶対これ攫われたよね。どうしよう。僕には索敵スキルみたいな便利なスキルはないし)


 ラシェルが翔太の下まで走って来るが見える。駄目もとで彼女に尋ねてみよう。


「ラシェル、索敵スキルみたいなの持ってない? 今ヴァージルさんの護衛の依頼実行中なんだ」


 翔太が無視した訳を理解したのだろう。ラシェルは済まそうな表情を浮かべ俯いてしまう。


「ごめん。私、索敵スキルも索敵の魔法もしらない」


「だよね~」


 間の抜けた声とは裏腹にかなり翔太は焦っていた。こんな馬鹿なことで、ヴァージルを失うわけにもいかないし、ラシェルに変な罪悪感を与えたくもない。


「ご、ごめん」


 再び謝るラシェル。ラシェルの頭をとんがり帽子の上から優しく撫でながら尋ねる。


「ねえ、ラシェル。君ならこの曲がり角で女性を攫ったら次にどこに向かう?」


 少し思案したがラシェルはすぐに答えてくれた。


「下流区。下流区なら衛兵も人通りも少ない。この通りで下流区へ向かうには一つの通りしかない。その通りの方角はあっち」


 ラシェルは指をさして翔太が向かうべき道を示してくれる。


「ありがと。ラシェル」


「私も手伝う」


「サンキュー。ラシェル。でも必要ないよ。此処に居て」


 再びラシェルの頭を撫でると翔太は地面を蹴り近くの建物の屋根へと登る。これは地面を移動するより屋根の間を移動した方が視野は広がり、賊を発見しやすいからだ。 


 路地を確認しつつも高速で屋根の上を移動する。すると数分で肩にヴァージルを担ぐ黒服達を発見できた。


(よし! 僕マジついている)


 ドオオォォン!


 翔太はヴァージルを担いでいる黒服の背後に爆音と土煙を撒き散らしながら降り立つ。

 黒服の後頭部を右手で握り、左腕でヴァージルを黒服から奪いとると、そっと抱き寄せる。そして手加減をしながら右手に力を入れていく。


 ミシ! ミシ! ミシ! 


 頭の骨が軋む嫌な音が聞こえる。


「いた、いだだ、いだい……ばなぜ……」


 少々やりすぎたかもしれない。黒服の男はぐったりして動かなくなった。


(息はあるから生きてるよ。たぶん……)


 周囲の黒服の者達はナイフらしきものを一斉に投げてきた。翔太は気絶した黒服の男を地面に放り投げて、鞘から抜いた刀を横凪にしてナイフらしきものをすべて撃ち落とす。

 すぐに次の攻撃に備えようとするも、負傷者を担いで全力で逃げていく賊の背中が視界に入る。

 追う事も可能だがヴァージルを抱きかかえたまま戦うのは危険だし、ここに動けないヴァージルを放置していくのはもっと論外だ。賊の追撃は諦めることにしよう。

 ヴァージルは両手両足を縛られ、おまけに猿轡までされていたのでそれを全部外す。


「ヴァージルさん。怪我ないですか?」


 できる限り優しく問いかけるとヴァージルはゆっくり頷いた。

 ヴァージルはよほど怖い思いをしたのだろう。翔太が見てもわかるくらい震えていた。こんなにも怯えているヴァージルを動かすのは気が引けたが、ここは下流区、治安は最悪だ。早くヴァージルをこの場所から移動させたかった。


「自分で立てます?」


 ヴァージルは立ち上がろうとするが足がガタガタと小刻みに震えて立つことはできそうもない。翔太の服にしがみ付きつつ何度も立とうと試みるが足がひどく震えている。何より腰に力が入っていないようなのだ。

 普段の快活なヴァージとは思えぬ弱々しい姿に翔太は申し訳なさで一杯になった。

 経緯はどうあれ翔太がデッリクから一度請け負った依頼だ。それなのに護衛対象者から目を逸らすという典型的ともいえるミスを犯してしまった。その結果護衛対象をここまで怖がらせた。


「ごめんなさい、ヴァージルさん」


 翔太は震えるヴァージルを抱きしめて、背中をあやすように優しく叩いた。ヴァージルの目から涙が溢れる。ヴァージル嗚咽を漏らし静かに泣き始めた。それは翔太の罪悪感をさらに刺激する。

 やっと泣き止むとヴァージルの全身の震えは止まっていた。だがやはり腰が抜けて立てないのは同じだ。翔太はヴァージルの前で背中を向けてしゃがみ込む。


「おぶさってください。ここは下流区、治安が良いとは言えません」


「一人で歩けます」


 ヴァージルは立ち上がろうとするが全く腰に力が入らない。時間の無駄だろう。


「ヴァージルさん、これ以上駄々をこねるなら僕も実力行使します。別に僕はお姫様抱っこでもかまいませんから。でもその方が遥かに恥ずかしいと思いますよ」


 ヴァージルはお姫様抱っこをされたときの事を想像したのだろう。顔から火が出たように真っ赤になっていた。やっと観念したのかしゃがみ込む翔太の背中に恐る恐るしがみ付く。


「ヴァージルさんが歩けるようになるまで中流区で一休みしましょう」


「いえ、すぐに次の冒険者の方に知らせなくては」


(この人はあんな事があったのにまだそんな事を気にしているのか? まったく……)


「だめです。もう僕の言う事には従ってもらいます。少なくともギルドに到着するまでは」


「しかし、そういうわけには」


 ヴァージルはそれでも食い下がった。凄まじい使命感だ。だがこの使命感こそが彼女のアキレス腱なのだろう。


「わかりました。では僕がヴァージルさんの命で冒険者の方に話を伝える事にします。貴方は喫茶店――ブリューエットで休んでいてください」


「嫌!!」


 ヴァージルは悲鳴のような声を上げると、翔太をきつく背中から抱きしめてくる。


(ホント怖い思いをしたね。護衛者の僕が離れること自体がトラウマになっているようだ。攫われそうになった直後だ。無理もないか)


「じゃあ、一休みでよろしいですね?」


 コクンと頷く気配を感じ翔太は胸を撫で下ろしつつ歩き続ける。


「あの……ヴァージルさん?」


 もう一度改めて謝罪しようと、ヴァージルに話しかける翔太。


「…………」


 だがヴァージルは全く力を緩めようともせずに無言で翔太の背中に抱き付いたままだ。


(もしかしたら寝ちゃった? 起こすと不味い。黙ってよう)


 ヴァージルに返答がないので寝てしまったと判断し、それ以上何も言わずにメインストリートまで歩いた。


 あと1話でヴァージルさんの護衛は終了します。

 

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