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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
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第59話 受付のお姉さんを護衛しよう(4)

 メインストリートまで来ると、ラシェルが心配そうに翔太達を待っていた。

 だが翔太がヴァージルをおぶっているのを見た途端、何やら汚物を見るような目になり、踵を返し立ち去ってしまった。そのあまりにも冷たい目に正直泣けてきたが心を強くし歩き続ける。

 

 喫茶店――ブリューエットの店の前まで来る。

 もう一人で歩けると強固に主張するのでヴァージルを地面に下ろす。まだ、フラフラしており翔太の服を掴んでないとへたり込んでしまうのだが確かに一応歩けるようだ。

 おそらく友達のブレンダに無様な姿をみせたくはないのだろう。店の中に入ると、店中の視線が翔太とヴァージルに集まった。ヴァージルのような壮絶美女が翔太のようなダサ男の服を掴みながら歩いているのだ。注目もされると言うものだ。

 ブレンダとオカマ店長がヴァージルの死人のような顔と足が小刻みに震えている様を見て、事情を察したのかすぐに近くのテーブルに案内してくれる。

そしてすぐに注文もしていないのに温かなお茶とケーキらしきものを持ってきてくれた。温かなお茶を飲めば多少、身体の震えも治まるだろう。

 暫らく、二人は黙々とお茶を飲み、ケーキを食べていた。ヴァージルはまだ気が動転しているようだ。フォークを持つ手が震えている。

 だが翔太にはそんな彼女に対して真っ先にしなければならない事があった。だから、ケーキらしき物体をフォークでつつきながら勇気を溜める。

翔太はヴァージルを真剣な顔で見つめる。


「ヴァージルさん。本当に守れなくてごめんなさい。僕が目を離したすきに……」


 翔太の身体中に充満している罪悪感を吐き出すかのように翔太はヴァージルに謝る。


「ラシェルさんとお知り合いだったんですね」


(ん? メインストリートを右に曲がる際に僕とラシェルが話しているところを目にしたのかな? なら、なぜヴァージルさんは僕を待っててくれなかったの? まあ、当然か……)


「はい」


 護衛対象から目を離し知り会いと話すなど、失態もいいところだ。氷のように冷たい汗が背筋に流れる。


「私があんな目にあっている間も楽しそうにしてらしたのでしょう?」


「…………」


 言い訳をすることもできなかった。なぜならそれは全て本当のことだから。あんなせっぱつまった瞬間でもラシェルに会えた事にどこかで喜んでいる自分がいた事は間違いない。

 ラシェルは翔太にとって不思議な子だった。勿論憧れのエルフという事もあるが、どこか懐かしい感じがするのだ。

 だがそれはあり得ない。元の世界でもラシェルに似た子などいなかった。

 だいたいラシェルは金髪エルフの子供だ。そんな特徴的な子日本にいるはずがない。懐かしく思うシチュエーションなど皆無だろう。

 翔太の沈黙を肯定と判断したのだろう。ヴァージルの顔には非難の表情が浮かんでいた。


「私を守るって言ったのに……」


「ごめんさない」


 再び頭を下げ謝る翔太。そんな翔太をヴァージルはただじっと見つめていた。


「許してもらえるとは思っていません。でも万一にでも許していただけるなら次は絶対に貴方を守ります。必ず」


「…………」


 ヴァージルは翔太の言葉には何も答えず、ただ翔太の目をずっと見続けていた。


               ◆

               ◆

               ◆


 そのうちヴァージルの青白かった頬に赤みが戻って来る。どうやら落ち着いて来たらしい。


「ショウタさん。さっきは失礼なこと言ってごめんなさい。私、気が動転してしまって」


(両手両足縛られて、おまけに猿轡までされて攫われた直後だ。誰だって気は動転するよ)


「いいですよ。先ほども言った通り僕にも確かに非がありますから」


「そんな事ないです。元々私が支部長に通常業務を行いたいと頼んだんです。それに私、翔太さんについてくるなとまで言ったのに」


「それが貴方の仕事です。仕方ないですよ。

 それにこの護衛依頼は僕がデリックさんから受けたものです。貴方に来るなと言われても反故にすることは絶対できませんでした。それを僕は貴方に来るなと言われて頭に血が上ってしまい、フィオンに投げようとした。

 絶対に許される事じゃありませんよ。加えて、あんな典型的なミスです。ホント、自分が嫌になります」


「…………」


 ヴァージルの世界の終わりのようにしょげている様子が翔太の言葉で大分払拭されて来た。ヴァージルは無言のままお茶をクピクピ飲んでいる。調子が戻って来たようだ。もう大丈夫だろう。

 考えなければならないことがある。

 勿論、襲撃についてだ。

 ヴァージルが狙われていたのは確かだ。

 だがいささかタイミングが良すぎやしないか。この時間ヴァージルは通常ギルドハウスにいる。ヴァージルを攫うのは不可能な時間帯だ。それが、オークの襲撃の件でヴァージルが外出せざるを得なくなり、偶々外に出たら狙われた。これを偶然で片付ける程翔太も愚かではない。考えたくはないが、ギルド職員に裏切り者がいるのかもしれない。

 

 思考を巡らせていると、ヴァージルが面白くなさそうにケーキを口に放り込んでいた。


「あの~、ヴァージルさん?」


「…………」


 黙々と口に運んでいる。気まずい雰囲気が立ち込めるが、助っ人が現れた。ただし、いつもあまり役には立たないのだが。


「ヴァージル、どうやら落ち着いたみたいね」


 ウエイトレス――ブレンダが気前のよい笑顔を振りまきながら翔太達の前まで追加のケーキとお茶を持ってきた。


「え? 頼んでませんよ?」


「これは店長からのサービス」


「ありがとうございます」


 巨漢のオカマ店長が翔太達に掌をヒラヒラさせている。相変わらず濃い人である。内心でげんなりしながらも、軽く会釈し感謝の意を述べる。

 そんな翔太を見てブレンダも片目を瞑って見せる。思わずドキッと顔に熱が持ち始める。ブレンダは非常に魅力がある人だ。

 優しい、気がつく、暴力を振るわない。この三拍子がそろっている人は翔太の周りにはいない。姉――柚希と暴力教師――心菜のせいで気の強い女性には苦手意識を通り越して恐怖を感じる翔太からすると、この世界ではブレンダは最も翔太の好みの女性と言えるかもしれない。

 僅かに頬を染めてブレンダを見惚れていると、ヴァージルに足を踏まれた。どうやら完全に立ち直ったようだ。まあ、こんな立ち直り方、あまり嬉しくはないが。


「それでどうしたの? ヴァージル、幽霊みたいな顔をしてたけど……」


 ブレンダはヴァージルに不安と温かさが混在したような表情を浮かべながらも尋ねる。


「…………」


 ヴァージルは自分があっさり攫われた事に引け目があるのか俯いたまま何も答えない。

 ブレンダはその姿をみて納得してポンと手を打つ。


「もしかして、痴話喧嘩してたとか?」


「「っ!?」」


『ゴホッ! ゲホッ!』


 予想の遥か斜め上を行く言葉に翔太は飲んでいたお茶を気管に入れてしまうというテンプレリアクションをとってしまう。


「違うわ、ブレンダ。翔太さんと私は別にそんな関係じゃあ……」


 ヴァージルは顔を真っ赤にさせて俯きながら、ボソボソと呟く。


(真っ赤な顔で控えめに否定しても、照れてるようにしか見えませんよ。

 ほら、絶対にブレンダさん、勘違いしている。ドヤ顔だし。ホント、日葵ちゃん二世だね。ヴァージルさん)


「今の貴方達恋人同士にしか見えないわよ。ショウタ君、隠すとは水臭いわね。

この、この~」


 ショウタの脇腹を軽くひじ打ちするブレンダ。ブレンダの言葉に頭の天辺まで沸騰しそうなくらい発火しているヴァージルはさらに否定の言葉を紡ぐ。しかし……。


「だから……違うのよ……」


 鬼灯のように頬を赤く染めあげ俯いたまま、途切れ途切れのように否定する。


(ヴァージルさん、もう止めて! マジ止めて! それ状況もっと悪化するから! 最悪になるから!)


 周囲の男達から嫉妬と言う殺意が翔太に向けられる。これはどう見てもテンプレ展開だ。だが、それはオットーや有馬のような壮絶イケメンにのみ許される展開だろう。翔太には少々荷が重い。

 そこで、最終手段のスキルを発動させる。

 地球で日葵の過激なスキンシップを薄めるために編み出したテクニックだ。この悲しいスキルは地球の暗黒時代で培ったものだ。最後はあまり役には立たなかったが。

 

「やだな~、ブレンダさん。ヴァージルさんと僕はそんな色っぽい関係じゃないって前にも言ったじゃあないですか。

 僕達今日パーティーを組んであるクエストに参加していたんですが、その際に僕のミスでヴァージルさんが負傷なさってしまったのです。そのキズが原因で一時的に彼女が歩けなくなってしまったので今ここで回復しているだけです」


 その1.口調は静かに慌てず極めて冷静に聞こえるようにすること。

 その2.非常に無難なありそうな理論構成をでっちあげる事。

 その3.その他のより気になる話題を話しの中に交ぜる事。

 これにより当初、翔太も衆人環視の目から気を逸らしてきたのだ。そのうちクラスのアホ共が勝手に自分の妄想を膨らませ過ぎてこのスキルの効果がなくなってしまったのだが……。

 もっとも今回は翔太の言った事は大部分が本当の事だ。デリック命じられてヴァージルの護衛をしているのは、共にクエストをしていると言えなくもないし、怪我も精神的なダメージとも言えなくもない。


「け、怪我って大丈夫なの?」


「うん……」


 ブレンダはヴァージルの頷きに安心しながらも、翔太の説明で完璧に納得がいったようであった。


「なるほど、だから、ヴァージル、店に入って来るとき、真っ青な顔してたのね。合点がいったわ。それに、ヴァージル、あの金髪のイケメンの彼氏がいるんですものね。

 確かにね。ショウタ君とヴァージルでは全く釣り合ってないかな」


(うっ……相も変らずハッキリ言う人だな)


 翔太が若干顔を引き攣らせるのを見て慌てたように取り繕うブレンダ。


「別に変な意味で行ったんじゃないわよ。

 ただヴァージルみたいな子にはこの前の金髪の王子様みたいな人がイメージでしょ。それに、ショウタ君は私みたいな庶民が似合いそうだしさ」


 翔太は最後の言葉を聞いて自分の頬に熱が持つのを感じた。それをブレンダにばれないように必死に取り繕う。


「あ、それ、僕もわかります。そうですよね! ヴァージルさん、そんな感じです!」


 翔太がブレンダの主張に同調したが最後、翔太とブレンダは完璧に意気投合し始めた。


「そうそう! やっぱり君にもわかる? この子、とんでもなく綺麗でしょ? それに加えて、実は大貴族の一人娘で、なおかつビフレスト王国魔法学院を極めて優秀な成績で卒業。卒業して数年でBクラスの冒険者まで昇格。我が友ならが、超人的な才能よ」


「高スペック過ぎて言葉も出ませんね。さぞモテるんじゃないんですか?」


「モテるってもんじゃないわよ~数日前に許嫁の貴族さんが婚約破棄してからほんの数日間で次々にプロポーズに来る男達。王国一のイケメン魔法使いから王国一の豪商までよりどりみどりよ」


「うへぇ! 胸焼けするくらいの凄まじさです。でもよく僕なんかと彼女が恋人と間違えましたね? どう考えてお門違いも甚だしいと思うのですが?」


「ああ、そうねぇ~。この子のいつもの意味ありげの態度に騙されたわ。パーティー組んだ君ならわかるでしょ?」


「わかります! わかります! とんでもなくわかります!」


 頻繁に実害を被っている翔太は身を乗り出してブレンダに顔を近づける。ブレンダは頬をやや紅色にしながらも翔太のノリに付き合ってくれる。


「私と店長はヴァージルの顔が青白いことに気付いていたけど、それに気付かなかったお客さんは絶対に君たちの事、勘違いしてるわよ」


「はぁ? どういうことです?」


「店に入って来るとき、この子が君の服を掴んで席まで歩いて行ったじゃない? 

 この子、男に免疫が皆無でしょ? 今まで男性の服掴んで歩くなんてした事なかったからさ。他のお客さんが見たら勘違いもするわ」


「そういう事ですか。納得いきました」


「気付かない? かなり殺気だった視線感じるでしょ?」

 

 実は視線に敏感な翔太はとっくの昔に気付いていた。ヴァージルのもったいぶった態度により殺気が増強されたことから確信に変わったのだが……。

 これ以上の面倒事は御免だ。翔太はブレンダに頼む。


「お客さんに僕とヴァージルさんが、単なる冒険者の仲間だって伝えてもらえます? あまり恨まれたくはないんです」


「了解。まかせて! 確かにショウタ君、弱そうだものね。変なのに絡まれたら一撃か……。じゃあね~。あまりヴァージルに迷惑かけないようにね」


 アームレスリング大会で優勝したことをブレンダは噂で聞いていてるはずなのに、すっかり翔太が弱いと決めつけている。都市伝説程度に考えているのかもしれない。まあ、傍から聞こえて来る翔太の噂は着色され過ぎていて空想の話になっていたから無理もない。


「はい。そうします。ありがとうございました」


 翔太が頭を下げるとブレンダはにこやかに持ち場に戻っていく。


「ブレンダさん。素敵な人ですよね。僕達の事もちゃんとお客さんに説明していただけるらしいですし一安心です」


「…………」


「ヴァージルさん?」


「…………」


 翔太は同意をヴァージルに求めるが、彼女は無表情でお茶を飲みながら、お菓子をつつくのみで何も答えない。それから翔太はヴァージルに幾度となく話かけるがすべて無視されてしまった。だがそれも彼女の本調子が戻ったからだろう。一安心だ。弱気なヴァージルなど彼女らしくないし。

 会計を済ませ、喫茶店を出ると彼女はちゃんと歩けるようになっていた。今までと同様に彼女の後ろを少し離れてついて行く。

 

 メインストリートと交差する例の人気のないストリートの手前で彼女は一歩も動けなくなってしまった。数十分前に襲われた事を克明に思い出してしまっているのだろう。

 僅かに彼女が震えているのが分かった。翔太はヴァージルの左隣へ移動し並んで歩き出す。どうせこのような人気のない場所など人は殆ど通らない。並んで歩いても誤解されることなどないのだ。翔太が横に来ると躊躇いがちにもヴァージルは歩き始めた。だが彼女の顔は真っ青で、玉のような汗が多数額に浮かんでいた。

 ヴァージルを少しでも楽にしてやりたい。だが良い案は全く思いつかなかった。

 暫らく進むと通路は昼間なのにもかかわらず特に狭く暗いストリートに変わっていた。

 もう、ヴァージルは一歩も動けない。また立ち止まってしまう。このままここにいるわけにもいかない。ヴァージルの手を引きつつどうにかその暗い場所を抜けきった。

 手を離そうとする。

 しかし、ヴァージルが手を離さない。まあいいかと思いそのまま目的の宿屋まで行く。

 宿屋の中で冒険者にオークの襲撃の件につき理路整然(りろせいぜん)と説明し終えギルドまでの帰路に着く。

 メインストリートまでの人気のないストリートはやはり彼女には精神的に堪えるらしく翔太が横に並ぶとすぐに手を握って来た。驚いてヴァージルに視線を向けるが、真っ青な顔に浮かぶ多量の汗を見て放置することに決めた。

 メインストリートに入りかけても手を離してくれなかったので、『ヴァージルさん?』と問い掛けるとやっと離してくれた。おそらく手が恐怖の際の緊張で固まって中々外れなかったからだと思われる。

 再びメインストリートをヴァージルのすぐ後ろについて歩いて行く。暫らくして冒険者ギルドに着いた。面倒な噂になっても困るので、翔太はヴァージルが完全にギルドに入るまでギルドの前のストリートに待機していた。ヴァージルは翔太を何度も振り返りながらもギルドハウス内へ入って行く。



 ラシェルのキャラデザは結構温和にしたつもりです。相変わらず我侭ですが……。

 次がオーク殲滅戦の作戦会議のお話です。

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