第55話 自分で武器を作ってみよう(4)
幾本作ったのか正確な数はわからない。翔太とガルトは目の前の鍛刀に只々熱中した。まるで子供のように。
当初ガルトの《鍛冶》スキルが【第5級――伝説級】の間は翔太について行くのがやっとという感じだった。だが翔太と鍛刀を行うにつれメキメキと力を延ばしていき遂には【第6級――神級】まで等級が上がった。翔太の予想では《鍛冶》スキルが遥かに上の翔太と鍛刀をしたことにより戦闘におけるパワーレベリングと同様の効果を生んだのだと思われる。
ガルトが【第6級――神級】に上がってから【日本刀】作成はさらに加速した。色とりどりの様々な完成した武器が【日本刀工房】に山積に積まれていく。
作成本数が80本を超え暫らくした時点で身体にかつてない程の力の発生を感じた。それは、丁度レベルアップやスキルラーニングのときの負荷に近かった。倒れ込みそうになったので、椅子に座り休憩をする。ディヴがお茶らしきものを入れてくれたのでそれを飲みながら、ポッケットからギルカードを取り出す。
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スキル
《鍛冶(第8――深淵級)》
■説明:適切な素材を用いれば超越級の武器・防具まで作成可能
超越級までならば素材からできる武器や防具を予測することが可能
超越級までなら作成したい性能の武器・防具から素材を選択可能
超越級までなら武器・防具のクラスを識別可能
※ただし魔法の奇蹟を付与する事はできない
■【心眼(鍛冶)100%】が解放されました
■《錬金術》への進化の道が開けました
進化には《魔道具作成術(第8――深淵級)》を共に生贄に捧げる必要があります
■必要使用回数: ――――
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(やっぱり次があったんだね。【深淵級】が正真正銘最後らしい。ギルドカードを見る限りではさほど変わったところはないんだよな~。それにしては、スキルの等級アップではありえないくらいの身体の負担だったし。訳が分からない。
兎も角、【心眼(鍛冶)50%】から【心眼(鍛冶)100%】になった事と、《錬金術》への進化の道が開けたことが今回の大きな変更点だ。今後《魔道具作成術》を取得するのも面白いかもしれない。では【心眼(鍛冶)100%】も見ておこう)
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【心眼(鍛冶)100%開放】
■武器の下級から超越級までの各クラスにもレベルがある。
超越級までの各クラスのレベルを識別可能
■全金属の最適な加工の仕方を取得可能
■鍛冶の最適な方法を導きだすことにより鍛刀速度を4倍化
■鍛刀による完成度の差異を限りなく零にする
※用いた金属の種類で作成可能な最高の完成度に肯定する
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(は~い、チ~トキング!!
今までは僕のやり方によって、出来上がる【日本刀】は【神話級】レベル4から出来の悪いものなら【伝説級】も少なからずあった。それが【神話級】レベル4に固定されるってことでしょう。
これもう《鍛冶》じゃないよ。でもこれでレイナ強化計画を実行に移せる。後は少し試して、それで……)
再び鍛刀を開始する翔太。今までも途轍もない速さであったが、これはもう異常だろう。神のごとき腕で火と槌を操る翔太に当初はガルトも感嘆の声を上げながら目を見張っていたが、すぐに自らの作業に戻って行った。
結果40本を瞬く間に作り上げる。そのすべてが驚くべきことに【神話級】レベル4だった。
ついに、ガルトと翔太が合計で120本の【日本刀】を作った時点で、残りの金属が枯渇し始めた。もう頃合いだろう。
ガルズとディヴに視線を向けると二人とも神妙な顔で大きく頷いてくれた。
これから作るものは【日本刀】ではない。レイナは刀を上手く扱えないのだ。【日本刀】を持っても宝の持ち腐れになる可能性が高い。レイナのための武器だ。レイナにもっとも相応しいものでなければならないだろう。
レイナのための武器として翔太が作りたいのは【超越級レベル2】の武器だ。本当は【超越級レベル4】を作りたかったのだが、それには金属以外の素材も必要で、それをガルトは持ち合わせていなかった。だから今作れる最高の一品はレベル2まで。
レイナのための武器――【超越級レベル2】の武器を作るのに必要な金属はオリハルコン、アミアントゥス、黒龍の鱗、マズカレイトである。
当初オリハルコンを多量に使うのを忌避してミスリルを使う事を考えていたが、それでは【超越級レベル1】までしか作れない。レベル1とレベル2では同じ【超越級】ではあるものの天と地のほど差がある。《鍛冶》スキルが【第8――深淵級】まで到達した翔太ならわかる。それは【上級】と【神話級】以上の差があるのだ。一切妥協したくはない翔太は駄目元でガルトに頼んでみたが、二つ返事でOKをもらえた。妥協をしたくないのはガルトも同じらしい。
オリハルコンは精神感応金属――魔力を消費することにより所持者の意思に反応して形態を変える事ができる金属だ。もっとも精神感応金属の性質を示すためにはオリハルコンを特殊な技法を用いて処理しなければならない。それは【日本刀】作成以上の緻密さが必要なのだ。温度の管理も大雑把にしかできなかった今までのガルトの工房では絶対に無理だ。現にガルトはオリハルコンに精神感応性があること自体を知らなかった。
だがこの【日本刀工房】ならばオリハルコンに精神反応性をもたせることができる。
次のアミアントゥスは、火山口でそれなりによくとれる真紅の金属。この金属は魔力を消費して温度を上昇させる効果を持つ。実際に各国は炎術魔法のブースターとして使用しているらしい。
それを聞いたとき翔太は正気を疑った。この石はオリハルコン以上に凶悪な金属だ。稚拙な魔法ごときのブースターに用いるなど宝の持ち腐れもいいところだ。
この金属の効果は分子の運動を加速させる機能。この機能は加工によって最高温度が異なってくる。アースガルズ大陸の加工技術がお粗末なのでこの異常な力を持つ石が今まで注目されなかったのだろう。
黒龍の鱗は更なる強靭さ確保と魔力の増幅のためだ。黒龍の鱗は適切に加工すれば、魔力を数百倍から数千倍近くも増幅させる機能がある。稚拙な加工では良くて魔力の倍増を示す程度だろう。
最後のマズカレイトが最も重要な金属だ。この金属は周囲から魔力を吸収しそれを蓄える力を持つ。この金属が周囲から蓄えた魔力を黒龍の鱗で増幅しこの金属に蓄え、オリハルコンの精神感応性や、アミアントゥスの温度上昇のために用いるのである。もっとも、この金属の加工が一番難しい。翔太の【心眼(鍛冶)100%開放】を獲得していなければ、何度か失敗していた事だろう。
翔太は意識を鍛刀だけ集中していく。【心眼(鍛冶)100%開放】を獲得しているから失敗はありえないのだが、これはレイナの武器なのだ。気持ちは十分に込めたかった。
未だかつてないほどの焼け付くような緊迫した空気にガルトとディヴがゴクリと唾を飲み込む。
翔太はゆっくりと動き出す。火と温度を自在に操り、槌を揺り籠に寝ている赤ん坊をあやす母親のように優しく、それでいて頼りになる父親のように力強く振るう。金属が産声を上げ、世界にその手足を伸ばそうとする。
ついに、このアースガルズ大陸に初めての【超越級】が誕生した。
それは黒と赤を基調とするガントレットだ。猛虎を象った絢爛豪華な装飾がなされている。翔太はすぐに能力を確認する。
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【フラゲルム・デイ】
■クラス:超越級
■レベル:2
■説明:神の鞭。スキタイ民族が生贄を捧げていた軍神の最強兵器
この武器で殺した血肉は軍神の生贄に使われ徐々に進化を遂げる
■性能:神の鞭が半径500mの全ての敵を認識し自動攻撃する
※物理攻撃+精神攻撃
半径500m全ての索敵が可能
神の鞭で攻撃した物体の分子運動を急激に加速させる
所持者に炎系完全無効付与
所持者スキル等級+3
筋力+500、体力+500、反射神経+500、知能+200
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(や、や、やり過ぎた。こんなの装備したら今の僕よりも強い。言い訳すれば、ここまで出鱈目だと思わなかったんだ。超越級。確かに最強の武器の一角。
……これレイナにあげたらフィオン怒るかな?)
ガルムとディムにはこのいかれた武器の真の能力は解析不可能なのだろう。三人の中で一番血の気が引いた顔をしているのが翔太だった。性能について説明をしようか迷う翔太。
「この武器からは……禍々しいオーラを感じる。だが儂には……解析は不可能だ。どういう性能なのだ?」
ガルトも翔太の死人のような青白い顔を見て躊躇しながらも尋ねる。怖いもの見たさからだろう。
「……聞いて後悔しません?」
ガルトは汗を滝のように身体中流しながらゆっくり頷く。
能力の詳細を伝えると顔をヒクヒクと引き攣らせていた。翔太と同様、幽鬼のように真っ青だ。もう気絶しないのは翔太と関わって驚くのに疲れ果てたのだろう。
「ショウタ、もうこの手の武器を作るのは本当に必要なとき以外止めにしよう。世界のバランスが確実に崩れる」
「そうだね。でもフィオンともう一人だけ贈りたい人がいるんだ。駄目?」
「…………ん――いや、ショウタの見る目は確かだろう。儂の口出すことではないな」
「ありがとう。ガルトさん」
「ああ、こちらこそだ」
翔太はガルトに握手を求め、ガルトもこれに応じ固く手を握りあう。
腕時計を見ると、もう朝の5時だ。レイナとフィオンに武器の説明もしなければならない。
「ガルトさん。今日は僕帰ります」
ガルトは片側の口角を吊り上げ、翔太の目を凝視する。
「おう。ご苦労さん、ショウタ。
…………そうだ。お前に伝えたい事があった。今日ほとんど金属を使い果たしてしまった。儂は祖国――ドヴェルグ王国に戻ろうと思う。
その際にお前の事も国王に報告しようと思う。な~に、人間の王と違い、我らの王は祭り騒ぎが好きなただのジジイだ。悪いようには決してすまい。構わないか?」
翔太は考える。ドワーフの王国には七賢人もいる。彼らに会う事が目的の一つである翔太にとってこのガルトからの提案は翔太にとっても願ってもない事だった。
「構いませんよ。道中十分気を付けてくださいね」
「心配はいらん。翔太が作った武器があるからな。あれがあれば、盗賊なら団体ごと壊滅できそうだ」
ガルトは悪戯っ子のようにニヤッと髭面の頬を緩ませる。
「フフ、違いありませんね。それで、ガルトさんがいない間、カヴァデール店はお閉めになるんですか? 良ければ僕、引き続き手伝いますよ」
ディヴの目が商売人の目に変わる。だが、ガルトはこれをやんわりと断った。
「いや、もうショウタには希少級や特質級を作るのは難しいのだろう?」
「そうでもないですよ。粗悪な材料を使えば、理論上、希少級や特質級もできるはずです」
この言葉にディヴは目を輝かせて身を乗り出してくる。
「それは本当ですか? では私が市場から売り物にならない粗悪な鉄屑を多量に仕入れてきますので、作っていただけませんか?」
「喜んで!」
ガルトが呆れたような目でディヴを見る。そして翔太に視線を移す。
「わかった。ではショウタ、儂の留守中店をお願いする。その間、工房と余った金属は自由に使って良いぞ。オリハルコンもあと1~2トンはあるはずだ。フィオンともう一人に作ってやりたいのだろう。好きにすれば良い」
「ありがとう! ガルトさん!」
再びガッチリ手を握り合う翔太とガルト。どうやら、すっかり暑苦しい挨拶に慣れてしまったようだ。
「ああ、次にエルドベルグに戻るときには他の貴重な金属も多量に仕入れて来る事にする。楽しみにまっとれ!」
「はい。楽しみにしています」
ガルトに心から感謝し、カヴァデール店を後にした。
結局、『日本刀工房』を稼働させてから作成された120本の内訳は【伝説級レベル4】が5本、【神話級レベル1】が14本、【神話級レベル2】が22本、【神話級レベル3】が24本、【神話級レベル4】が55本となった。
この中で【神話級レベル4】の40本は翔太が所有する事となった。アイテムボックスを所持していて本当に良かったと思う。




