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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
52/285

第48話 怪しい奴のたくらみを挫こう(1)

 

 本日(10月26日)3話目です。

現在メインストリートを歩いている。

翔太は宿屋キャメロンに速足で向かっている。翔太は今日キャメロンの自室待機だが、フィオン達は普通に冒険がある。翔太にはフィオン達が冒険に出る前に伝えるべき事があるのだ。

伝える内容は今晩宿屋キャメロンに帰宅するのが遅くなるという事。今日翔太はガルトのところで遅くまで鍛刀(たんとう)に勤しむつもりだ。したがって、確実に帰宅が遅くなる。心配させないよう一言伝えておくべきだろう。

そろそろレイナとフィオンが今日の冒険に出発する時間だ。喫茶店で朝食を食べて少し遅くなってしまったようだ。キャメロンでフィオン達を捕まえられないと探すのが面倒だ。

路地裏に出て少し近道をしよう。

中流区だが路地裏は時々人攫い等が起きて物騒だからあまり近づかない方が良いと初日にフィオンに忠告を受けた。レイナが真似をすると不味いので強くなった今でも路地裏は極力行かない事にしている。

だが今レイナはいないし翔太だけなら賊が襲ってきても返り討ちにできる。近道をすることにする。

 

今は初夏の正午近くで空には太陽が燦燦と照りつけている。それにもかかわらず路地は薄暗くまるで夜のようで気持ちまで沈んでくる。1秒でもこんな場所にいたくはない。翔太は小走りに路地を抜けようとする。

 

丁度路地裏の中程の辺りに来た時だった。


「殺……攫って……計画……」


物騒な言葉が翔太の耳に飛び込んで来る。翔太は声の聞こえてくる場所を特定しようと耳をそばだてる。

声が聞こえてくるのは非常に狭い路地からだった。そこは高い建物の間にあり人が何とか通れるくらいの幅しかない。薄暗いなど通り越して真っ暗闇だった。こんなところで話す事自体十分怪しいし、この話を聞けば厄介や事に巻き込まれるような気がしてならない。翔太も普通ならばこんな面倒なことは無視していただろう。だが声の中に『(さら)う』という言葉があった事が翔太をここから立ち去らせることを躊躇(ためら)わせた。

この『(さら)う』という言葉はエルフが攫われ奴隷として売られる事実を翔太に想起させた。本屋で別れたラシェルが頭に過り話を聞くことを決意する。

 スキル《隠密》を発動させ声のする方向へ行く。

どうやら5人のようだ。5人がこの狭い通路に器用にも話し合っていた。

彼らの恰好はゆったりとした黒いローブを着用しおまけにフードを深くかぶっているから顔の判別は全くつかない。だが一人は眼の下に斜めに走る傷らしきものがあった。

話を聞くことに集中する。


「‥‥‥SSクラスのエルフと貴族出の女は俺達には手に負えねえ。戦闘時の位置情報だけ依頼主に回せば良い。問題は獣人の冒険者の女とギルドの受付の女だ。こいつらは冒険者のクラスも低い。俺達が攫って引き渡せってよ」


「くくく……どうやら豚はすぐにやりたくて仕方ないらしいな。それほどの女なのか?」


 一人が下品な笑い声をあげる。


「ああ。確認はしたが今まで見たこともねえスゲーいい女共だぞ。片方はまだ幼さが残るが途轍もない美しい女だ。もう一人は顔も綺麗だし、いかにも良い体をしている。かなり気が強いがな」


(獣人の女? おそらく、いや間違いなくレイナの事だよね。

 受付の女とはギルドの受付嬢がヴァージルさんとネリーさんの二人だけだから彼女達の事だろう。でも多分ヴァ―ジルさんだ)


 ネリーの容姿も良い方だがヴァ―ジルの容姿はとてつもなく良い。初めて会ったとき日葵で慣れている翔太でさえあまりの綺麗さに思わず赤くなったほどだ。話の流れから言って彼女だろう。


「マジかよ? 豚には勿体ね~な。俺達で先に食ってもいいんじゃあね~か?」


 黒ずくめの一人が同じく吐き気がするくらい下品な笑い声をあげてキズの男に質問する。


「それは構わん。豚には獣人の女と受付の女を引き渡せとしか要求されていない。別に生娘のままで捕えろとまではいわれていないからな。だが決して壊すなよ」


 眼の下に斜めのキズがある男がリーダーなのだろう。話を極めて冷静に仕切っている。翔太にはこの男が一番厄介なように思えた。なんせ他の男達のように自分の欲望を一切出さないのだ。このような者が戦いでは一番倒すのに苦労する。


「わかってる。俺はガキには興味がね~からその受付の女を貰う」


「ケヘヘヘ。じゃあ俺は獣人の女だ」


「俺は受付嬢をもらう。一度上品な女を抱いてみたかったんだ」


 レイナとヴァ―ジルに対する言葉を聞き翔太は今まで経験したこともないどす黒い感情が身体の中心から源泉のごとく湧き上がるのを感じた。そう。それは殺意。

 こいつらの力を観察はしたが、傷の男以外全員ゴブリン程度の圧しか感じない。傷の男もオークジェネラル程度だろう。翔太が戦えば勝敗は一瞬で決する。目の前の男達を戦闘不能にしようかとも思ったが、まだ他に仲間がいたら困るので聞き続けることにした。それが今回は功を奏した。


「それで俺達は何をすれば良い?」


 黒いローブの男達の一人が傷の男に問いかける。


「お前達は受付の女を襲い攫え。すでに獣人の女には手を回している」


(っ!? レ、レイナ? マズイ! マズイ! レイナが危ない)


 目の前のクズ共を叩きのめして衛兵詰所に突き出そうとも思ったが、それをすればおそらく事情聴取に時間がとられその間にレイナが捕まる。それは先ほどの会話が現実になることを意味する。それだけは翔太には絶対に許せない。今はレイナを見つける事が先決だ。翔太なら大抵の賊は問題がないのだから。

 すぐにその場を離れ宿屋キャメロンに向かう。時間の短縮のために人外の脚力で屋根に飛び上がり屋根の上を高速で移動した。

 ものの数分でキャメロンに着く。すると丁度レイナが宿屋キャメロンの正面玄関のドアを開けて外に出てきた。安心して思わず翔太はレイナに駆け寄ろうとするが思いとどまる。


(もしこのまま僕がレイナの隣に居れば賊は確実に撃退できるよね。でも万が一、僕がいて賊が襲ってこなかったら? ずっとレイナの傍を離れないなんてできるわけない。レイナにはレイナの生活があるし、僕も早く安心したい。

 このままレイナの後をつけて襲ってきた賊を撃退する? しかしレイナを僅かでも危険に晒すことになる。でも……)


 レイナが今日のように一人で行動する事の方が遥かに危険だ。レイナの後をつけることにする。


(ごめん、レイナ。僕が必ず守るから)


 レイナに心の中で謝りがなら隠密スキルを発動させ尾行をする。


 レイナはおそらくメインストリートへ行こうとしているらしい。この方角からすると中流区でも下流区に近い場所に向かっているらしかった。マジで頭を抱えたくなる。

 普段から彼女はこんな危険な場所を一人で歩いているのだろうか? レイナはもう少し自分の事をわかったほうが良い。レイナがこんな治安の悪いところに来ればさっきのような男達に攫われることも十分ありえる。


(あのお子様エルフ――ラシェルでもこんな治安の悪いところを一人では歩かないよ。宿屋に送って行くときもそちらは危険だとか言っていたし)


 この事は絶対にフィオンに告げ口してやろうと心に誓い彼女の後を追う。

 

 さらに翔太は絶句していた。レイナはおそらく近道をしたかったのだろう。裏路地に入り込んだ。ほとんど下流区に近い場所の裏路地である。先ほどの上流区に近い裏路地でも十分危険だったのだ。危険度はマックスだろう。


(……レイナ、お願いだよ。もうこれ以上僕に心配させないで!)


 翔太は急いでレイナを追う。すると複数の気配がレイナに近づくのを察知した。気配の数は4人。すぐ守れるようにレイナのすぐ後ろに翔太は移動する。

レイナの前に黒ローブを着用し、フードを深くかぶり顔を隠した者達が音もなく現れる。おそらく人を攫う事のプロだろう。

 レイナは初めて気がついたようで焦ったように剣を腰から抜こうとした。レイナに剣を抜かせるよりも早く黒服たちは一斉にレイナに襲いかかる。一人の大柄な黒ずくめの男がレイナの鳩尾目掛けて右拳が打ち込まれる。

翔太は右手でレイナに拳を打ち込んだ男の右手首を掴み、そのままへし折った。


 ゴキンッ!


「ぐがあああッ!」


 翔太がへし折った右手首はブラブラと揺れていた。男は地面に座り込み痛みを必死で耐えているようだ。


(この程度でレイナをフィオンから奪おうとしたの? 馬鹿馬鹿しい)


 殺意が急速に冷めてくる。まるで魔物のような悲鳴を上げている男の腹に軽く蹴りをいれる。男はゴムマリのように何度も地面や建物の壁をバウンドし路地の壁に衝突し動かなくなった。


(死んではいない……と思う)


 他の男達は慌てて陣形を整えようとするが翔太は一番近い男に高速で接近すると、左手で裏拳を殺さないよう十分注意しながら打つ。男は左の壁に高速で頭から衝突し動かなくなった。


(殺しちゃった? まだ加減がわからないや)


 相手もプロである。すぐに翔太の心臓目がけてナイフを突き立ててきた。ナイフが届くよりも先に右脚を軸にした左回し蹴りを相手にお見舞いする。これも十分手加減に注意を払ったつもりだった。だが……。

 翔太の左脚の脛が豪風を纏いながら男の右腹部に迫る。男は右腕で受けたらしいが腕ごと、ボキリとへし折られ壁に衝突する。男は壁に蜘蛛状のヒビを入れて動かなくなった。

 最後の男は逃げようとするが、翔太が接近し背中からヤクザキックをすると男は弾丸のように地面をバウンドしながら飛んでいき数十メートル先でやっと止まった。

 敵全員の無力化に成功したことを確認しレイナに向き直る。


「レイナ、無事?」


「ショ……ウ……タ?」


 レイナはまだ何が起こっているのか認識できかねているようだ。突っ立ったまま放心状態でいる。


「無事みたいだね。よかった。詳しい説明は後でするよ。今はギルドへ一緒に来てもらえる?」


 レイナは躊躇いがちにも頷く。

 翔太は倒した男達の生存確認を開始する。どうやらかろうじて全員息はあるらしい。もっとも戦いは二度とできない可能性がある者もいたが、それでも息があるだけ御の字だろう。レイナにしようとしていた事を考えると心は全く痛まなかった。

 ただ人間を殺してしまうのはさすがに不味いだろう。生きていてよかったと考えるべきか。


(十分手加減したはずなのに、上手くいかなかったな……)


 レイナが連れ去られ、酷い目に逢されたときの事を想像し手加減をしたつもりだったが、つい力が入ってしまった。

 それでも男達に命があったのは単なる偶然か、翔太の体術が素人同然であり効率の良い力の使い方をわかっていなかったせいだ。


「レイナ、こいつら縛る物持ってない?」


 レイナは少し思案して腰の鞄から数本の細い茶色の紐を取り出した。


「これでいい? 魔物の素材部位を馬車に固定するための紐だから丈夫だと思う」


 レイナはまだ混乱中らしく不安そうに翔太を見上げている。翔太は男達を一か所に集めて、両手、両足を紐で縛って地面に転がしておく。

 全員縛り終わった後レイナを連れてギルドへ向かう。向かう途中レイナはしつこく翔太にどういう事なのかを聞いて来たが、レイナが狙われているとしか伝えなかった。

 レイナを過度に心配さたくはなかったし、何よりレイナにこんな薄汚い世界を覗いてほしくはなかったのだ。だからフィオンにのみ話す事にした。後はフィオンが伝えるか否かを判断してくれるだろう。


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