第47話 魔法の教科書を買おう
26日2話目です。
本屋に入り、店員に魔法の参考書の場所を聞く。魔法関連書物は3階がすべてそれになっているらしい。
3階に上がりざっと見て回る。一冊手に取って中身を見るが魔法の研究中心の本であり、魔法の骨子は書いてない。今知りたいのは魔法の骨子――即ち、魔法の基礎に関する本である。研究の本などどうでもよい。
本を探し回っていると翔太のよく知る人物に出くわした。
(この頃よく会うな~)
エルフの少女ラシェルだった。ラシェルは本を取ろうとしていた。ただし彼女が命一杯背伸びをして手を伸ばしても人差し指がつくかどうかの位置に彼女の求める本がある。
そのため彼女はぴょんぴょんと本を取ろうと何度もジャンプしていた。その様子がまるで小動物のようで思わず翔太は吹き出してしまう。
ラシェルは翔太が真後ろまで来ても本をとるのに集中していて気がつかない。
「はい。君の取りたい本はこれだろう?」
翔太は後ろから、ラシェルが取ろうとしていた本を取って彼女に渡した。
本を渡された彼女は暫し呆然としていたが徐々に顔がトマトのように真っ赤に染まっていく。
「余計なお世話!」
ラシェルはいきなり翔太にキレてきた。多分、翔太に本を取られたことで怒り心頭なのだろう。相変わらず訳の分からないところで怒る子だ。だが、そんな所がラシェルの魅力なのかもしれない。
そんなラシェルの姿を見ていたら不意に翔太の脳裏に浮かぶものがあった。
浮かんだものは不完全で輪郭すら掴めなかった。だが、それは翔太にとって命よりも大切なもの――。
(ん? なにこれ?)
翔太は自分の頬に伝う暖かなものを感じ取り、左手でそっとそれに触れる。
(涙? 僕が? なぜ?)
翔太の頭は混乱する。しかし、反面暖かい気持ちは体中から溢れてくる。
だから笑顔を浮かべながらもラシェルの頭をとんがり帽子の上からグリグリとやや乱暴に撫でた。
自分の良く分からない気持ちをごまかしたかったのかもしれない。
「や、やめろ」
ラシェルの拒否の言葉にもお構いなしに暫し頭を撫でていると、ラシェルはとんがり帽子を深くかぶって俯いてしまう。もうラシェルの全身は発火状態だ。少しやり過ぎたかもしれない。
名残惜しくはあるがこれ以上はマジではヤバイ。本の捜索を開始することにする。
ラシェルの頭から手を離し初心者向けの魔法の本が置いてありそうな本棚へ向かう。
背後からラシェルが何やら大声を張り上げるのが聞こえてきたがスルーする。翔太も暇ではない。お子様に構ってはいられないのである。
少し歩くと大声は聞こえなくなったが、ラシェルは翔太の後を一定の距離を保ちつつもついて来る。
(構ってもらいたいのかな?)
そう思い肩越しに軽く振り返るが、顔を赤く染めたラシェルの射殺さんばかりの眼光が視界に飛び込んできた。よほど腹に据えかねているのだろう。
(うへぇ……違うね。本気で怒ってるよ。
子供が頭撫でられたくらいでそこまで過剰反応しなくてもいいのに。もしかして反抗期?)
「…………」
翔太は遂に服を掴まれてしまった。
仕方なく翔太はラシェルに向き直り彼女を見つめる。
意外にもラシェルの顔からは怒りの表情が消失していた。もしかしたら、翔太が頭を撫でたことではなく無視された事に怒っていたのかもしれない。
ラシェルは恥ずかしそうにトン狩り帽子を深くかぶり顔を隠しながら翔太に聞いて来た。
「魔法の本を探してる?」
「うん。魔法の基本を丁寧に書いてある本がないかと思ってさ」
「それならいい本知ってる」
ついて来いと言うジェスチャーをしつつラシェルは得意気に翔太の前を歩いて行く。
ラシェルが案内してくれた本棚は翔太が探そうとしていた本棚のある場所からちょうど正反対の場所にあった。ラシェルに教えてもらえなければ探し出すのに数時間かかっていたのかもしれない。
ラシェルは背伸びをして一冊の本に手を伸ばし本棚から取り出し翔太に渡す。
その本は翔太が学校で使っている教科書くらいの厚さだ。中身も基本から記載されているようで翔太が知りたかった魔法の骨子も書いてあるようである。
「これなら基本から魔法を学べる」
「ありがとう!」
そう言いながらもまた頭を撫でてしまった。
(しまった! 怒られるかな?)
思わず目を瞑るがいつまでたっても怒声が飛んでこないので目を恐る恐る開けると、ラシェルは尖がり帽子を深くかぶって俯いていた。
おそらく恥ずかしいのだろう。気のせいか頬が薄ら紅色に染まっているような気がする。いつもと違うリアクションに罪悪感が翔太に初めて生まれる。
(恥ずかしがらせちゃった。確かに子供とはいえ女の子だもんね。何度も頭を撫でるのは失礼だ。悪いことしたな)
もうラシェルの頭を撫でるのをやめよう。
(ごめんね)
頭を下げるとラシェルも手をブラブラ振って『わかったからもう行け』というジェスチャーをしてきた。
(こういう仕草は子供とは思えないんだよな。ませた子だ)
翔太がラシェルに背を向け歩き始めると、背後から声が飛んできた。
「さっきの涙……」
立ち止まるが、一向に再び口を開く気配がない。独り言だと判断し翔太は歩きだす。
背中にラシェルの視線を感じつつも本の会計を済ませるべく、受付の1階へと向かった。




