第42話 昇格試験を受けよう(5)
翔太は鉱山の休憩所で横になっていた。
まだ意識が混濁している。バジリスクキングの前で仰向けになって死を覚悟したときの前後から全くと言っていいほど記憶がない。身体を起こすと左腕に激痛がする。見れば真赤に焼けただれている。翔太の異常な生命力、回復能力がなければ重度の熱傷で死んでいたかもしれない。
顔を顰めながら周囲を観察すると、アレシアが心配そうに翔太を見下ろしていた。この状況に軽いデジャヴを感じつつもアレシアに翔太が意識を失っている間の事を聞く。
アレシア達は山小屋の中にいてメガラニカまで退避する隙を伺っていた。
ビリビリするほどの凄まじい爆音が周囲に鳴り響き、土煙が空高くまで舞い上がる。何本もの火柱が上がり、しまいには上空に巨大な物体が浮かびそれらが森の一点に向けて落ちていった。
轟音が鳴り止み周囲が静かになった後、チェスが魔物の気配がなくなったと主張するので、現場を二人で見に行く。すると血だまりの地面の上に翔太が仰向けに気を失って倒れていた。こんなところだ。
アレシアは興奮した口調を抑えようともせずマシンガンのように一気に捲くし立てる。その話を聞きながらアイテムボックスから上級ポーションを取り出し一気に飲み干す。
(うぇ……。苦い!)
上級ポーションの赤い液体をすべて飲み干すと左腕の火傷は徐々に治っていき、少しひどい火傷程度には回復した。さらに数本飲み干すと火傷は後も残らず完全回復した。
(すごい回復だね。クスリの力……だけじゃないよね。僕の身体どうなっちゃうんだろ……)
この世界のポーションは身体を治すというより、その者が持つ身体の治癒力を数倍高める効果を持つに過ぎない。通常人ならば効きが悪い下級ポーションでも翔太のような人外の回復力があれば大抵の傷を修復することが可能だろう。
翔太はアレシアに一番気になっていた事を聞く。
「お父さんは見つかったの?」
これが本件クエストのキモだ。もっともアレシアの明るい表情からほとんど答えはわかってはいた。
「ショウタさんが気を失っている間にチェスさんが鉱山の採掘現場を調査しました。
採掘現場の一番奥の隠し部屋にお父さん達が隠れていたらしいんです。全員無事でピンピンしているらしいです」
アレシアは気持ちの良い笑顔を浮かべ答える。よほど嬉しかったのだろう。鉱山に来るまでの機嫌の悪さが嘘のようだ。
丁度チェスに連れられて数十人の坑夫が休憩所に入って来た。
「ショウタちゃん。起きたみたいだね。全員無事みたいだよ。これでクエストは終了! お疲れさん」
チェスは親指をつき出してクエスト終了宣言をする。
(えーとチェスさん。遠足は家につくまでとも言いますし、今終了宣言するのもまずいと思うのですが――それにいつの間にか『ショウタちゃん』になってるし……)
翔太がアホな感想を持っている傍らでアレシアとアレシアの父らしき人が抱き合って再会を喜んでいた。
それを横目で見ながら翔太は考える。今回は考えなければならない事が多すぎる。まずわかった事から整理するべきだ。
スキルラーニングの際の負荷についておおよその見当はついた。弱い魔物やフィオンやチェスなどの持つスキルはスキル自体あまり強くもない一般的なスキルだ。だからスキルを使用するのに最適な肉体に変質させるために必要な力も小さい。結果としてその負荷もたいしたことはなかった。
だがコカトリスロードやバジリスクキングなどのもつスキルは取得者であれば誰が使おうが凄まじい破壊力を示すスキルばかりだ。この場合にはスキルを使用するためにより激しい肉体改造を行う必要があり、体内に生じる力も莫大で負荷も大きい。
つまりは翔太が強敵と戦えば戦う程、スキルラーニングによる負荷は大きくなるということだ。これはある意味致命的ともいえる弱点だ。バジリスクキングの戦いでも、翔太の意識を刈り取ったのは結局のところ、スキルラーニングとレベルアップの負荷。これがなければ、楽勝とまでは言わないまでもあそこまでの苦戦はしなかった。この負荷を何とかしなくてはこれから出会うかもしれない強者との戦いは生き残れない。それは今回の事で良く分かった。翔太が望もうと望むまいと日葵、柚希、雪の居場所と元の世界――地球に戻る方法を探すためには強者とは戦わざるを得ない。
次にレベルアップの際の動けなくなるほどの負荷については原因がだいぶ前からわかっていた。翔太のステータスの各項目が50ずつ上がるようになってからこの負荷が異常に増大した。ステータスの力の上昇にあうように身体を作り変えているようなのだ。だからあれほどの負荷がかかる。だが、それが分かっているのなら対処は簡単だ。ボス戦直接ではできる限り雑魚とは戦わないでレベルをあげないようにする。それに尽きる。現に、コカトリスロード戦ではレベル上昇の負荷がなかったから、勝負の最後までは意識を保てた。これはフィオンにはすでに言ってあるが、デリックにも伝えておくべきだろう。
どうやら感動の再会は終わったらしい。チェスにメガラニカの冒険者ギルドまで帰ると告げられた。
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メガラニカのギルドに帰る頃には午後16時過ぎになっていた。メガラニカの支部長に挨拶をしてチェスと一緒にギルドハウスを出ようとするとアレシアに呼び止められる。
「ショウタさん!」
「アレシアさん、今日はお疲れ様」
アレシアがかなり真剣な眼差しで翔太を見上げる。このような状況になれていない翔太は若干内心で狼狽えつつもアレシアの目を見つめる。
見つめ合う二人をチェスがニヤニヤと観察していたことがこの上なく鬱陶しかった。
「今日はごめんなさい。」
「え? あ、うん」
おそらく御礼でも言われるのだろうと思ったのが、いきなりのごめんなさいに内心では軽く戸惑う。
「最初試験と聞いたから新米の冒険者だと思ってしまって……貴方があんなに強いとは思わなかったの。失礼な態度をとってしまってごめんなさい」
「仕方ないよ。お父さんの無事がかかっているんだから。それに僕が新米冒険者なのは間違いないよ。だから謝る必要なんてない」
アレシアは翔太のその言葉にも納得がいかないようだ。
(この子、大分芯が強い子みたいだね。自分の世界を持っているっていうのかな? 僕は常に流されてきたから正直羨ましい)
「ショウタさんが倒した魔物、バジリスクっていうんでしょ? あの魔物の事ギルドの人に話したら滅茶苦茶驚いてた。S級冒険者のパーティーでも気を抜けば全滅するとも言ってた。翔太さんがもし今回のクエスト受けてくれなかったらお父さん達は多分生きてはいなかったと思う。だからどうもありがとうございます」
頭を深く下げるアレシア。さすがにそれは持ち上げすぎだ。否定すべきだろう。
「それは違うよ。僕が来なくても他の冒険者がちゃんと処理していたさ」
「そうだね。他の一流の冒険者が数百人、いや数千人規模で挑んでほとんど死んでたね。あれ洒落になってないもん」
横から口を出し、話を壮絶にややこしくするチェス。
「チェスさん!」
僕の非難の言葉にまたふざけたリアクションで返すのかとも思ったが、意外にもチェスは真剣な視線を翔太に向けてきた。こんな雰囲気のチェスなど初めて見る。翔太は喉まで出かかった言葉を思わず飲み込んでしまっていた。
「ショウタちゃんは自分が何を為したのかわかってない。まあデリック支部長達に今日の事を報告すればきっと分かるよ。嫌でも教えてくれると思うし」
それだけ言うとチェスはもう話す事もないとの仕草をしてギルドの入り口に向かって行ってしまった。残された翔太は若干気まずくもあるが話を再開しようとアレシアを見る。アレシアは目を輝かせて翔太を見ていた。
「やっぱりショウタさん、すごい人だったんですね。またメガラニカに来たら必ず私の母さんが経営してる店に寄ってください。私もそこで働いてます。店の名前はメラルダと言います。美味しいと街ではちょっとした評判の飲食店なんですよ。御馳走しますから必ずいらしてください! 必ずですよ!」
「う、うん。わかったよ」
あまりの押しの強さに思わず頷いてしまう翔太。アレシアと再会の約束をしてメガラニカを翔太達は後にした。




