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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
40/285

第38話 自分で武器を作ってみよう(1)

 後味の悪い気分を振り切り、武器、防具の店カヴァデール店へ向かう。

お金が入ったのだ。世話になりっぱなしのガルトに少しでも恩返しがしたかった。エレナが1000万Gを放棄したから、それなりの額を払う事が出来るだろう。

 

 カヴァデール店に入り、黒髪の店員の青年――ディヴに話かける。以前訪れたときに自己紹介は済ませておいたのである。


「こんにちは。ディヴさん。ガルトさんいますか?」


「親方は今、剣を鍛刀(たんとう)しています。あと数時間かかってしまうと思いますが、いかがなさいます?」


 さすがに数時間、店先で待つ気にはならない。翔太は元来せっかちである。何かをしていないといられないのだ。

 そこで今まで興味があったこの世界における(・・・・・・・・)刀剣の作成の現場を一度見学できないかこの機会に頼むこととした。


「ガルトさんが鍛刀(たんとう)するところを見学させてもらえませんか?」


 ディヴは少し思案していたが直ぐにガルトに聞いてくるといい店の奥に入って行った。すぐに上気した顔で戻って来る。


「親方からショウタさんを呼んで来るように申し付かりました。これはすごい事ですよ!親方が鍛冶師以外の者に鍛刀(たんとう)するところを見せたことなんて一度もありません」


 かなりすごい事らしいが実感がわかない。

ディヴに案内された先は、エルドベルグ一の鍛冶師ガルトの工房だった。

 工房のなかはランプと炉の炎の光だけで薄暗い。

数十年間ガルトと共に武器を鍛えて来た加工台は妙な威圧感を周囲に振り撒いていた。


 ガルトは玉のような汗を額に浮かべながら剣を金属のハンマーで叩いて剣を鍛えているところだ。カンカンと心地よい金属音が工房内に反響している。

 邪魔しても悪いので、少し離れて翔太はその工程をじっと見ていた。

 ゲームや小説でも鍛冶のシーンが出て来ることはよくある。鍛冶師は生産系ジョブの中でも憧れの職業ともいえる。大抵、主人公が他では作れないような伝説級の武器を作り、それを巡って各組織が争ったりするのだ。勿論、それはお話の中の話であり、現実はそれほど甘いものではないだろう。

 だがこの世界でもガルトの鍛えた刀がなければ、スライムやゴブリンすら翔太には倒せなかったに違いない。だから純粋に武器を生み出す鍛冶師という職業に強い憧れを感じていた。

 2時間程ガルトが剣を鍛える様を一心不乱に観察し続けたときだった。突如といて翔太の身体の中に、強大な力が発生するのを感じた。


(くっ! これってまさか……)


 軽い眩暈に耐えながら、ギルカードをポケットから取り出す。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

スキル

《鍛冶(第5 伝説級)》

■説明:

適切な素材を用いれば伝説級(レジェンド)の武器・防具まで作成可能

伝説級(レジェンド)までならば素材からできる武器や防具を予測することが可能

伝説級(レジェンド)までなら作成したい性能の武器・防具から素材を選択可能

伝説級(レジェンド)までなら武器・防具のクラスを識別可能

※ただし魔法の奇蹟を付与する事はできない。

■必要使用回数:0/32

―――――――――――――――――――――――――――――――――――


(だ、台無しだよ。まさか見学してただけで《鍛冶》スキルをラーニングするだなんて……。

 でも、なぜすぐにラーニングできなかったんだろう? 今までの状況を分析すれば、常時発動型のスキルは一定時間の連続した観察が必要ということ? 

これだけでは判断のしようがない。他で試すしかないね)


 その後、30分間程ガルトは剣をハンマーで叩きつけ炉に付けるといった作業を繰り返していた。

 ガルトは完成した剣を手に持ちその出来を見ていた。《鍛冶》スキルをラーニングした翔太ならば、その剣の出来が識別できた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

【ミスリルクレイモア】

■クラス:希少級(レア)

■説明:篭柄(かごえ)の片手用刀剣である。ミスリル製。

■性能:鉄さえも切断する

―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ガルトさん。お邪魔しています」


「おお、ショウタ。待たせてすまなかったな」


 ガルトは翔太に視線を向ける。


「いえ、こちらこそ貴重な仕事場を見せていただき、ありがとうございます」


 翔太がお礼をすると、ガルトも少年のように無邪気に微笑む。


「ふむ? ショウタは鍛冶にも興味があるのか? 長い時間熱心に見ていたようだが?」


「はい。その【ミスリルクレイモア】、希少級(レア)ですよね?」


 ガルトはぎょっとして翔太の顔を見つめる  


「驚いた……。わかるのか?」


「はい。前から武器を生み出す事にはすごく興味があったんです。一度簡単な武器を作らせてくれませんか?」


 これは嘘ではない。ゲームや小説で剣や刀作成シーンは多々出て来るが、その度にその現場を想像し胸を躍らせたものだ。

 もっともラーニングしたスキル――《鍛冶》スキルを試したかった事が一番大きい理由であるが……。

 ガルトは翔太のこの頼みに当惑ぎみであったが、すぐに口角を吊り上げた。


「ぐはははははっ! 工房をみせてもらいたいという冒険者はそれなりにいたが、鍛刀(たんとう)をさせてくれと頼んできたのはお前が初めてだ。

ショウタ、お前が絡むと本当に面白いな! いいだろう鍛刀(たんとう)させてやる。

 だが、一度だけだ。もし儂が認めるものを作れなければ次は決してさせん。それでもいいか?」


「もちろんです。ありがとうございます」


 翔太は喜びを顔にみなぎらせつつガルトの手を強く握る。ガルトも照れたようにニヤリと笑みを浮かべる。

 ディヴは呆気にとられてガルトと翔太を見ながらブツブツ呟いていた。


「お、親方が素人に鍛刀(たんとう)させるだなんて――。

僕もまだ碌にさせてもらっていないのに……」


 翔太に与えられた材料は軟鉄、鋼、接着剤としての酸化鉄紛であった。これを材料にハンマーと炉を用いて刀を作成する。ガルトには何を作っても良いと言われたが、今一番作りたかったのは翔太を普段から助けてくれている刀だった。


(さあ始めよう。地球の頃の知識で刀に関する十分な知識はある。不思議だよ。作業の詳細な工程を頭ではなく身体が覚えているよう)


 翔太はガルトさえも居るのを忘れて作業に熱中していく。すべての雑音が遮断され音は消失する。視界さえも、目の前の軟鉄の角材に固定される。


 まず、軟鉄の角材を炉で熱する。真っ赤になった角材をハンマーで叩いて行く。それは、金属を目的の形状にする事だけが理由ではない。ハンマーで叩いて圧力を加える事で、金属内部の空隙をつぶし、結晶を微細化し、結晶の方向を整え強度を高めること目的としている。つまり、このハンマーの叩き方でさえ、ただ力を込めるだけでは駄目なんだ。形状を整えつつ、強度を高める最適な強さでなければならない。

 次に、接着剤の鉄紛を加え、鋼を乗せ1000度もの温度で加熱する。この温度も綺麗でなめらかな刀を形成するうえで最適な温度でなければならない。赤くなればよいというものでは決してないのだ。

 次の工程は、軟鉄と鋼をハンマーで叩いて圧着させる。このハンマーで叩くことにより、鉄紛の酸化被膜がノリの役目をし、軟鉄と鋼を接着する。だからこのハンマーで叩く加減やタイミングにも高度な技術がいる。

 さらに炉で加熱し叩いて行く。これにより形状を凡その刀の形に整え、金属を締め上げてより強度にしてゆく。

 さて、次は仕上げの工程だ。綺麗な刀の形にカットしていく。そして、焼き入れ――焼き土をつけて、炉で熱し、それを水で急激に冷やす。最後に焼き戻し――低温の炉に入れゆっくり空気に馴染ませる。

 翔太はこの一連の作業をほんの十数分で完了させた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

【日本刀 小太刀】

■クラス:上級(ハイ)

■説明:異世界の刀。

■性能:切断、突きの両方に極めて優れている。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――


(よし、上級(ハイ)! 初めてだもの、上出来だよね! しかし、日本刀……見様見真似でできちゃったよ……)


「ガルトさん、出来ました。後は刃を研ぐだけです」


「…………」


 ガルトは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたが、完成した刀を翔太から奪いとると睨みつけるほど真剣な目つきで日本刀を眺め見る。

 暫らくガルトは無言で日本刀を手に取り眺め廻していた。


「ガ、ガルトさん?」


「……翔太、お前、この刀作成の技術どこで覚えた?」


 ガルトの射殺すような視線に翔太は挙動不審となる。


(ガルトさんが怒ってる? 日本刀作っちゃまずかたったのかな? まさかこの世界で特許みたいなことがあるとか? 貴族のふざけた特権が多数あるこの世界では強ち冗談に聞こえない)


「知り合いに習いました」


 実際にはスキル《鍛冶》と翔太が地球で得た知識のおかげだ。ゲーム等で頻繁に出て来る日本刀や剣等の作り方に一時期興味を持ちネットで調べた。それで満足できず、祖父の知り合いの日本刀の鍛冶師の下へ見学にさえ行った事さえあるのだ。

 そんな翔太からすると今回の日本刀は例え材料と設備が十分ではなかったことを考慮に入れても、到底日本刀と呼べる代物ではない。

 祖父の知人の鍛冶師の作成した日本刀は美しさと禍々さを備えた極めて兇悪なものだった。祖父の知人の鍛冶師がこの刀を見れば、怒りの形相で叩き折っている事だろう。


「知り……合いに習った……だと?」


 ガルトは依然として刺すような眼差しを緩めない。


「はい。何か変ですか?」


 ガルトの視線が緩まり、代わりに呆れた様な表情が顔に浮かぶ。


「変も何も――全て変だし、異常だ!」


 ディヴが無言で、ウンウンと頷き、さらにたたみかける。


「そうです! 変ですよ! あれほど、僅かな温度、ハンマーで叩く力さえ調節する精密な刀作成の技法などこのビフレスト王国にはありません。それに出来上がった刀も普通の刀にはとても見えない」


「そうだ。この刀は武器としての性能を極限まで突き詰めたものだ。魔剣? 馬鹿馬鹿しい。そんな魔力に頼った邪道ではない。この刀は鍛冶師の一つの到達点。一体この刀は何だ?」


 ガルトも捲くし立てる様にディヴに同意の意を示す。


「日本刀と言われる特殊な刀です。日本刀は『折れず、曲がらず、よく切れる』という性質を追求した僕の国の武器です」


 ガルトが身を乗り出し翔太に詰め寄る。


「『折れず、曲がらず、よく切れる』だと? その性質はそもそも同時に存在し得るのか? 儂には相反するとしか思えないのだが……」


「そうです。日本刀はその相反する性質を極限まで追求した武器です」


「ぜひ、作成方法を儂に教えてくれ! 後生だ!」


 ガルト必死の形相で翔太に頭を垂れる。もともと翔太が編み出したものではないし、ガルトには世話になりっぱなしであり、断る理由がない。


「構いませんよ。ですが、材料と設備がなければ不完全なものしか作れません。それでもよろしいですか?」


「いや、どんな材料でも揃えてみせる。どんな設備でも作ってみせる。だから、完全な『日本刀』の作り方を享受願いたい」


 ガルトは妥協を一切したくない様子だ。その姿に翔太も元ゲーマーの悪い血が騒ぎだした。このようなお祭り騒ぎ、本来大好物なのだ。

 そこでガルトに材料と設備を詳しく羊皮紙に記載し渡す。ガルトもディヴも顔が火の出るように上気させて、留守番を翔太に任せ店の外に飛び出して行こうとする。慌ててガルトを引き止め、『日本刀モドキ』作成の許可を貰い、数本作成しておいた。

 ギルドカードで確認すると《鍛冶》スキルの次の等級までの必要使用回数は10/32となっていた。日本刀を10本作ったので、一本完成させるごとに、必要使用回数が上がるらしい。

 ディヴが帰って来た。もう午後23時を時計の針は示している。これ以上帰るのが遅くなるとフィオンとレイナが心配する。今日のところは宿屋キャメロンに帰る事にする。

 明日はギルドの昇格試験が午後からあるので、午後は無理だと伝える。すると、明日の午前中に必ず顔をみせる事を固く約束させられた。苦笑しつつもカヴァデール店を後にする。





 宿屋キャメロンに帰ると案の定フィオンとレイナが心配に堪えないような顔で待っていた。

 フィオンからは帰りが遅くなるなら事前に伝えろと叱られ、レイナからは何をしていたのかと質問攻めにあう。

 二人にガルトの工房を見学していたと説明する。

 フィオンはまた翔太が面倒な事件に巻き込まれたのではないかと考えていたようだ。確かに翔太が22時を過ぎても部屋に戻らないのはアームレスリング大会の時以来だ。以後気をつけることにしよう。

 謝罪と感謝を込めてレイナの頭に手を乗せて謝り、感謝の意を述べる。どうやらレイナにリアクションをとるときの癖になってしまったようだ。レイナは真っ赤になって俯いてしまう。あまりやりすぎるとセクハラになりかねない。今後はレイナの怒りが頂点に達した時の裏技のみに使用することにする。

 フィオン達に聞くところによれば今、部屋にジャンとルネが来ているらしい。凡そ30分ほど前にジャンとルネが眠ったので翔太の帰りをキャメロンの食堂で待っていたそうだ。

 二人に改めて感謝の意を述べて自室へ戻る。

 今晩は『七つの迷宮(セブンラビリンス)』の取説をひたすら読む。半分程読んだところで、いつの間にか意識を失っていた。




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