第39話 昇格試験を受けよう(2)
朝起きるとすぐにフィオンの部屋の扉に置手紙を差し入れてカヴァデール店に向かう。
ジャンとルネと遊べないのは残念だがガルトと約束してしまった。仕方なかろう。
翔太が店に顔をみせると、ガルトが飛んできた。
昨日、材料がそろい設備が調うまでには一週間はかかると言っていたが、結局2~3日で材料と設備を揃えることができるらしい。かなり無茶したと思われる。
今までの工房とは別の部屋に『日本刀』専用の工房を作るので、それまで開いている工房を好きに使ってよいとガルトに言われる。
そこで『日本刀モドキ』の色々なバージョンをひたすら作っていた。ガルトは翔太の鍛刀がよほど珍しいのか興味津々に脇でずっと注意深く観察していた。
その際聞いた事だが、この世界の鍛刀は叩く力の調節、温度の調節はかなり大雑把なものらしい。これは材料の鋼の性質にすらこだわる地球とはまるで異なるものである。
おそらく拙い鍛刀技術を伝説の金属の種類と魔力で補ってきたためだと思われる。だから翔太の日本刀と呼ぶのも恥ずかしい『日本刀モドキ』にも驚いているのだろう。
慣れてきたのか昨日の半分の時間で様々な刀ができた。大太刀、小太刀、脇差、短刀、打刀、軍刀、長巻などである。その結果、合計30本作成し、鍛冶スキルの等級が上がり、【神級】となった。
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スキル
《鍛冶(第6――神級)》
■説明:適切な素材を用いれば神話級の武器・防具まで作成可能
神話級までならば素材からできる武器や防具を予測することが可能
神話級までなら作成したい性能の武器・防具から素材を選択可能
神話級までなら武器・防具のクラスを識別可能
※ただし魔法の奇蹟を付与する事はできない。
■必要使用回数:8/64
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30本作成したところでDクラスへの昇格試験の時間となった。ガルトの工房を退出する際に、刀とローブの代金として1000万Gを払おうとしたが受け取ってくれなかった。
翔太が作成した『日本刀モドキ』で、十分元を取れるらしい。
特に翔太が《鍛冶》が【第6――神級】に上がってから作成した8本の内、1本が希少級、6本が特質級の価値があった。これらを売るだけで1000万Gなど優に超えるらしい。翔太は時間つぶしの感覚に過ぎなかったから、この現実に頬を引き攣らせていた。
これで本物の日本刀を作成したらどうなるのだろうか。もう冗談では済まないかもしれない。またやり過ぎたと少し心の中で猛省しつつ、カヴァデール店を後にする。
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ギルドハウスへ入り、デリックに言われた通り1階の受付前で待つ。まだ昼なのにもかかわらず、ヴァージルの前には数人の冒険者の列がある。ネリーを含めるその他の受付嬢の前には閑古鳥が鳴いていることにドン引きしながらネリーに話し掛ける。
「あの――ギルドの昇格試験のために来ました」
ネリーは翔太を見ると微笑みかけて来る。対しヴァージルは翔太に気付き壮絶に慌てふためいている。疑問符が翔太の頭上に多数舞踊る。
だがヴァージルの態度は心なしかアームレスリング大会終了時に戻っている……ような気がする。よって別途、害はないと解釈しスルーする事とした。
「はい、はい。聞いてますよ。実地試験の説明をいたしますね」
ネリーから試験の簡単な説明を受ける。本実地試験はD級クエストの達成である。
クエストの内容は、近隣の街メガラニカの近くにある鉱山にスカルスネイクが出没したらしい。このスカルスネイクにより夜勤の坑夫が怪我を負うなどの被害が出た。そこでこの討伐を頼みたいとのことだった。
エルドベルグからメガラニカまではおよそ大人の足で2時間程度であり、徒歩でも十分行ける距離であるが時間の節約のためメガラニカまでの馬車に乗るそうだ。それで城門前まで移動するようにネリーから指示される。
ネリーに礼をいい城門前まで移動する。
馬車の前には実地試験に同行する試験官が既に佇んでいた。
試験官を待たせて怒られるかとも思ったがそれは杞憂だったようだ。大袈裟に翔太に手を振っているのは優男試験官――チェスであったのだ。
チェスから道中色々根掘り葉掘り聞かれたがすべて適当にごまかしておく。
チェスはどうやら翔太をどこかの名のある傭兵か何かだと勘違いしているらしい。幼少期のいつから戦闘訓練をしていたのかとしつこく聞かれた。この話題を色々な人から聞かれるのだがなぜだろう。
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メガラニカまでは徒歩で二時間である。馬車ならば45分程度でつく。
馬車に乗りチェスと談話という名の訊問を受けていたら直ぐに目的のメガラニカまで到着した。すぐに街の冒険者ギルドに立ち寄る。
冒険者ギルドの受付に行くと、チェスはどうやらかなり有名人らしく注目が翔太達に集まる。もっともチェスが試験官で来ていると聞くとみんな納得したようで翔太達から視線を外した。
受付で話を聞くと、どうやら厄介な問題が起きているらしい。
スカルスネイクの討伐を依頼した鉱山の坑夫が昨日から帰ってこない。これは前代未聞のことで坑夫の身内が今相談に来ている。こんな話だった。
チェスがその身内に会うといい、ギルドハウスの応接間に通された。
案内された応接間に入ると、そこには支部長らしき中年の白髪の混じった男性とブラウン色の長髪の可愛らしい女の子が座っていた。少女の恰好はエルドベルグでもよく見かけるブラウンと白から成るワンピースを着ていた。いわゆる町娘というやつだろう。
(この子僕とタメくらいかな。でも大丈夫かな? かなり顔色悪いみたいだけど……)
ギルド支部長の話によると昨日の朝に出勤した坑夫達が帰宅時間になっても戻ってこない。そこで早朝に戻って来ない坑夫の家族が集まり話し合いワンピースの少女が代表でギルドに出向いたらしい。
(見かけによらずしっかりした子みたいだね)
彼女は本件クエストが昇格試験対象クエストであると知ると、怒髪天を衝くような勢いで試験官であるチェスに詰め寄った。
「聞いてません! お父さん達の救助について先ほど支部長は一流の冒険者に任せると仰ったじゃないですか? 試験対象クエストなど馬鹿にしてます!」
女の子は大層憤慨しているらしく盛大に肩を震わせている。自分の父の命がかかっているクエストを試験対象などにされたのだ。気持ちは十二分にわかる。
翔太も別に今日中にDクラスにならなければならないわけでもない。むしろそれはデリック達が勝手に話を進めたことだ。だから試験は後日にして今日はチェスにクエストを引き受けてもらうことにする。その旨の発言をしようとするがそれをチェスが遮った。
「大丈夫ですって! 俺達に任せてください。試験と言いましても僕もついて行きますもん。心配ないですよ。仮にショウタの手に負えないときは僕が変わりに討伐します」
「チェスさん!」
「ショウタの言いたいこともよぉ~くわかる。だが我慢してや。こういうアクシデントも試験のうち」
満面の笑みでチェスは翔太に親指を突き出してくる。
(チェスさん。絶対面白がってるよね。ああ、女の子の顔が……怒ってる、あれ絶対怒ってるって!)
女の子はチェスのあまりにも軽い対応に怒り心頭らしく、肩を一段と震わせ全身でそれを表現している。
女の子もこれ以上何を言っても無駄だとわかったのだろう。思案し始めた。
嫌な汗がダラダラと全身から流れ出る。
(このジリジリとした雰囲気……僕、こういう修羅場には慣れてないんだ。女の子もこれで納得してくれるといいけど)
女の子は決心をしたように真剣な目で翔太とチェスを見つめる。
「なら私もついて行きます。あなた達がちゃんと討伐したのかを私の目で確かめます。異論はありませんね?」
「へ? ちょ――」
翔太の慌てた言葉をチェスはにんまりと笑いながら制止して答える。
「わかりました。それでかまいませんよ。僕もショウタの護衛スキルがどれほどのものか見たかったしね」
その言葉を聞いてさらに村娘の怒りが増した。それは爆発しそうな火山を翔太に連想させる。キリキリ痛む胃を押さえながら、小声でチェスにその真意を尋ねる。
(チェスさん! いったいどういうつもりですか?)
(ショウタの護衛スキルを見たいだけだよ。さっき言ったじゃん?)
(どう考えてもDクラスを逸脱しているクエストだと思うのですが?)
ヴァージルがギルド登録の日に教えてくれた情報が真実なら、討伐クエストと護衛クエストは当然別々のクエストである。同時に受けるとするとそれは数段難易度が上昇するはずだ。それをわからないチェスでもないだろうに。
(大丈夫! ショウタならやれる!)
何の根拠もない励ましなどいらない。そう思いながらも翔太はこのクエストが無事に終わることを心の底から願った。




