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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
33/285

第32話 冒険者ギルドで魔晶石を売ろう 

 ステータスとスキルの確認が終わったところで、魔晶石の採取が終わったのだろう。フィオンが翔太達の傍に近づいてきた。


「よう! 起きたか、ショウタ!」


「心配させたみたいでごめん」


「いや、大丈夫だ。だが相変わらず非常識だな。とうとう火まで吐きやがって、どんどん人間から卒業していくんじゃないのか?」


 ニヤニヤしながらいうフィオン。見た感じ冗談半分なのだろうが、僕は若干痛いところをつかれて顔を引き攣らせていた。

 翔太もさすがにこの自分の力が異常であることに薄々だが気づき始めていた。通常人間はどう頑張っても石化の効力を有する炎など吐かない。

 何とか笑顔で誤魔化しながら、これからどうするのかをフィオンに尋ねる。

 もう今日はかなりの魔物を倒したからエルドベルグに戻ると告げられ、翔太もそれに賛同する。今日はかなりレベルも上がったしスキルも覚えた。1日の成果としては十分だ。

 それにかなり肉体的にも精神的にも疲れていたのだ。




 

 エルドベルグに戻る途中、フィオンに都市に戻ったら冒険者ギルドに直行すると言われた。今日までに倒した魔物の魔晶石を換金するらしい。

 今日手に入れた魔晶石は換金すればかなりの額になると思われる。翔太はエレナに負わされた1000万Gの返却をしなければならない。そのためにもどの程度の強さの魔物をどれだけ倒す必要があるのかを把握する必要があるのだ。今回のボスコカトリスの魔晶石が高額で売れれば、あの魔物クラスを狩りの中心にしようと考えている。

 フィオンからギルドの受付で自分の倒した魔物は自分で換金するように言われた。

 その際、翔太のギルドカードは提出しなければならないが、冒険者のエチケットとして、ギルドカードのステータスとスキル欄は隠すように指示される。ギルドカードには自らのステータスの数値と取得スキルを隠す機能があるらしい。冒険者は自らのステータスと取得スキルは通常隠して受付に提出する。

 この一つ目の理由はプライバシーの関係からだ。ステータスを示してギルドに提出すると何らかの理由で衆人にその者のステータスが広まりかねない。現に過去に冒険者ギルドの受付の職員が不正を働き、各冒険者のステータスリストが高額で売買され、冒険者からクレームが殺到するという事件が起きた。そこでギルドが対策を講じたのがギルドカードのステータス欄とスキル欄の非表示機能の追加である。これによりこの手の情報の売買が撲滅された。また、ギルドとしてもステータスリストの売買などの嫌疑がかけられては困る。だからギルドも非表示を推奨している。

 次の理由がステータス、スキル第一主義に走らないためである。上記の理由でステータスリストなどが各国、各組織にばら撒かれ、高ステータス者に対するスカウトが増えた。

 その結果、国や有名組織にスカウトされようと、ステータスだけに目を向ける冒険者が後を絶たないという現象がおきた。そもそもステータスやスキルは確かに重要ではあるが、戦いはそれだけで決まるわけではない。そのような教訓も踏まえて、ステータス欄とスキル欄は非表示にしておくことがマナーとなっている。





 エルドベルグの門衛アルに簡単な挨拶をして都市の中に入る。


 エルドベルグの都市に、夕日が差し込み幻想的な風景を作り出している。

 人々がせわしなく歩いている。仕事が終わり、愛する妻子がいる我が家に帰る男性。お使いの帰り道であろう女中。今日は店じまいだと店に布をかぶせる果物屋の店主。様々な人々が帰るべき場所に帰ろうと歩いている。

 翔太はそんな様子がただ羨ましく、そして懐かしかった。それは元の世界にいるときは当然に享受していた幸せであったが、今の帰るべき場所がない翔太には決して手に入れることができない幸せであったから。首を振って、少し寂しくなる気持ちを振り払う。

 沈んだ気分を変えるために隣のレイナとディードを見る。

 丁度、ディートが普通の狼のサイズに戻った。こうしてみると本当にレイナが番犬を連れて歩いているみたいだ。

 翔太がクスッと笑うと『何が可笑しいの?』とレイナに睨まれてしまった。慌てて謝る翔太。

 あのコカトリスの一件以来またいつものレイナに戻った。翔太はそれが嬉しくて思わずテンションが高くなる。





 冒険者のギルドハウスに入ると、ギルドは魔晶石を換金する冒険者と魔物の素材を売ろうとする冒険者でごった返していた。

 フィオンに冒険者としての初めての換金をしてくるように指示される。フィオンから4日間で翔太が倒した魔物の魔晶石を受け取り受付カウンターに向けて歩いて行く。

 受付カウンターにはヴァージルと20代前半の桃色ボブカットの女性が対応していた。

 今日の魔晶石の換金のためだろう。受付カウンターには長蛇の列が出来ている。列は不自然にヴァージルだけ長い。別に桃色ボブカットのお姉さんの容姿が醜いわけではない。むしろ、かなりの美人だ。ただ、ヴァージルの容姿があまりに美しすぎるだけだ。

 普段遠くから眺めるしかない冒険者達にとって、ヴァージルを間近で見ることができるのはこの魔晶石の換金のときしかあるまい。筋骨隆々の巨躯の男達が顔を赤く染め並んでいるシーンは独特の哀愁がある。

 翔太はもちろん桃色ボブカットのお姉さんの列に並ぶ。本意ではないにしてもヴァージルを泣かせてしまった。泣いた理由も不明であるが、翔太の態度に一因があるのは明らかであろう。今ヴァージルと正面から向き合うだけの勇気が翔太にはなかった。

 桃色ボブカットのお姉さんは慣れた手つきで次々に作業をこなしていくのですぐに翔太の番がくる。

 翔太に気付いたヴァージルは翔太と目が合うと慌てて目を逸らす。そんな奇怪なヴァージルの姿を見た周囲の冒険者達は怪訝な顔をして翔太に疑いの視線を投げかけて来る。


(周りにいる冒険者さん達、絶対僕がヴァージルさんによからぬ事をしたと思ってるよね。)

 数人今にも僕に掴みかかってきそうな人もいるし。ヴァージルさん、ホント日葵ちゃんと激似だな。姉妹と言われても信じるかも)


 桃色ボブカットのお姉さんは営業スマイルで翔太にお辞儀をする。


「今回担当させていただくネリーと申します。御用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「僕が倒した魔物の魔晶石です。換金お願いします」


 魔晶石はかなり多く、隣や後ろの冒険者達の奇異の目が翔太に集まる。翔太はその視線を無視して受付カウンターにドカッと魔晶石の入った布袋を置いた。


 受付カウンターに翔太が置いた布袋から魔晶石を取り出しカウンターに置いていく。ネリーはあまりにも多い魔晶石に目を丸くしながらも翔太に礼節をもって対応した。


「承りました。只今機械により魔晶石の種類の解析と金額を算定しますので暫らくの間お待ちいただけますか?」


「はい! もちろんです。よろしくお願いします」


 翔太にしては元気よく笑顔で答える。この晒し者の状況、笑わなきゃやっていられない。


「それでは、ギルドカードをお借りしてもよろしいでしょうか?」


「はい。どうぞ」


 翔太はポケットからギルドカードを取り出し、ステータス欄とスキル欄の非表示機能をONにしてからネリーに渡す。


「お預かりいたします。では少々お待ちください」


 ネリーは翔太からギルドカードを預かると、近くにある自分の背丈ほどある機械の透明な引き出しを開けてそこに、魔晶石を縦に設置していく。すべての魔晶石を設置した後、引き出しを占めて。機械のスイッチを押す。『ブーン』と音がして機械が動き始めた。


 ネリーは作業を終え翔太の下まで来る。


「数分で結果が出ますので少々お待ちください。

 ところで、あの魔晶石はショウタ様一人で取得なされたのですか? よろしければ教えていただきたいのですが?」


 ネリーは今まで気になって仕方なかったのか、機械から翔太の下に戻ると直ぐに尋ねてくる。これは翔太がHクラスの新米冒険者であるからに違いない。

 通常新米冒険者はHクラスの雑務依頼をこなすのが通常だそうだ。仮に魔物の討伐を行うにしてもほとんどがスライム、良くてゴブリンが数体というところだろう。それが極めて多種多様な魔物の魔晶石を換金しに来た。知りたいと思う事も仕方ないものと言えよう。


「Aクラス冒険者のフィオンとパーティーを組んでもらったので達成できただけですよ。ほとんどがフィオンのおかげです」


 この事を聞かれることは十分予想していたので、事前に十分に考えて用意していた答えをネリーに伝える。


ネリーも納得がいったとばかりに、後ろでまるで子供の帰りを心配して待つ父のような様子で佇んでいるフィオンを見て微笑む。


「そうだとしてもすごいと思いますよ。たった数日であれほどの量と種類の魔物を討伐するなど、年に数回程しかありません」


 これはネリーのお世辞だろう。確かにあの魔晶石の量と種類は圧巻ではあるが、Hクラスの翔太自身の力で討伐したとは通常誰も考えない。

 それに先ほどフィオンとパーティーを組んで達成できたと聞いたときのネリーの顔には羨望の眼差しがみえた。

 レイナが言うにはフィオンの実力はSSクラスと言っても何ら遜色がないらしい。ただ昇格試験を受けていないだけなのだ。

 さらにフィオンは面倒見が極めてよい。新人に魔物の倒し方を手とり足とり教え、本来フィオンの手柄の魔物まで新人の功績にすることも考えられる。だから今回の魔晶石もすべてフィオンの力によって獲得したものだとネリーは思っているのだろう。

 まあ実際にフィオンがいなければ、スライム一匹たりとも仕留めることはできなかったと翔太自身が思っているのだから否定しようもないのだが。だから御座なりの言葉を返すことにした。


「いえ、フィオンにすべておんぶ抱っこでこなしたに過ぎません。実力には程遠いです。

 速く自分の実力で達成したと言えるようになりたいですね」


 ネリーも笑顔で頷き返してくる。

 翔太がフィオンに手を貸してもらい達成した事を自分の実力と勘違いしているわけではないとわかったからだろう。なんとなくネリーとうまく打ち解けていることを実感し翔太は内心かなり嬉しかった。


 ネリーと他愛もない世間話をしているうちに、魔晶石の解析と金額の算定が完了したらしい。『ピ――』という電子音がしてネリーが機械の前に行き解析結果と金額の算定結果が記載された用紙を機械から取り出して確認をする。


 ネリーはプロの手際で機械から出て来た用紙を高速で流し読みをする。紙は3枚にもわたった。まあ魔晶石は軽く見積もっても数十個はあったからそれくらいはあるだろう。

 ネリーは1枚目の最後を見たとき難しい顔をしてブツブツ独り言を呟き始めた。かなり小さな声であり、以前の翔太なら決して聞こえはしなかっただろう。

だがステータスが上昇し人外の聴力を経た現在の翔太にはそのネリー言葉をはっきりと聞き取る事できた。


(オークジェネラルが3体? オージェネラルの討伐推奨クラスはB。Hクラスが討伐できるはずがない。

 とするとフィオンさんのおかげか。フィオンさんなら楽に勝てる相手だし。新米冒険者に花を持たせたのかしらね。信頼性確保の観点からは、あまりこのような事はしてほしくないんだけど……)


 翔太はこのネリーの呟きの内容に苦笑いをする。

 魔晶石の採取の仕方を習った際にフィオンから聞いたところによれば、冒険者が自分の採取した魔晶石を他の冒険者に与えるのは禁止まではされていないが忌避されている。ネリーのギルドの受付嬢という立場からすれば当然の意見だ。



 次にネリーが2枚目に目を通し始めると徐々にその表情が険しくなっていく。


(どういうこと? スライム、ゴブリンはHクラスで比較的初心者の相手だからわかる。オークも冒険者の装備さえしっかりしていれば、弱いオークならば討伐推奨クラスはGクラスまで落ちるから理解できる。

 でもウォータースネイクが2匹? ウォータースネイクは討伐推奨クラスE、絶対に冒険者になったばかりの新米に討伐できる魔物ではないわ……。

 ちょっと待って、ビックベアが3匹? 討伐推奨クラスDよ。こんなのこの都市でも中位以上の冒険者しか討伐できない。

 んな!? 毒大蛇が6匹? ケルピ―? ふざけないでよ! 毒大蛇の討伐推奨クラスはD+。ケルピ―はB。新米冒険者に花を持たせるにしても限度があるわ。今後もあるし、これは釘を刺す必要があるわね。でもフィオンさんがこんな事するなんて……)


 ネリーの呟きがどんどん不穏な方向へ全力疾走し始めたので翔太は冷や汗をかきながらどうするか思案する。


(お姉さん聞こえてるよ! でもこのままではフィオンに迷惑かかるよね。全てフィオンのおかげと言ったのがまずかったかな? マジどうしよう?)


 翔太の焦りもよそにネリーは最後の3枚目に手を掛ける。3枚目を目にした途端手が震えだした。


「コ、コ、コ、コ」


 ネリーの表情は悪夢でも見たかのように盛大に歪んでおり、顔中に玉のような汗を大量に浮かべている。

 相変わらず紙を持つ手はガタガタと小刻みに震え、口からは『コ、コ、コ』という死にかけの雄鶏のような呟きだけが漏れる。ネリーのような美女がこのような態度をとるのを見るのはかなり心臓に悪い。


(お姉さんが驚いている魔物っておそらくボスコカトリスのことだよね。あの魔物、倒していけない天然記念物的な魔物だったとか? でもそれならフィオンが教えてくれるはずだし……)


「コカトリスロード!!!」


 ネリーの大声が1階のギルドハウス中に響き渡る。みんな何事かとネリーと翔太に視線が集まる。

 翔太からずっと目を逸らしていたヴァージルもネリーの奇天烈な行動に目を白黒させてネリーと翔太に視線を送る。

 翔太と目が合うが今度は視線を逸らさなかった。自分の感情を押し殺すところがさすがはプロというところか。

 ネリーの奇行によりギルドのほぼ全員の視線がネリーと翔太に集中している。かかる現状を打開すべく、ヴァージルは冒険者達に頭を下げる。


「皆様。お騒がせしてしまい申し訳ありません」


「ネリー! 冒険者の皆様の前で失礼よ!」


 ヴァージルはネリーが青ざめてわなわなと震えているのを見て只事ではないと察知したのだろう。ネリーの両肩を掴みネリーの目を見つめる。


「ネリー? 一体どうしたの? 顔が真っ青よ!」


「こ、これ見て……」


 ヴァージルはネリ―から用紙を受け取ると目を向ける。


「コカトリス? 

 なるほどね。確かにHクラスのショウタさんが討伐推奨クラスAのコカトリスを討伐するのは異常に感じるかもしれないけど、ショウタさん、いろいろ出鱈目だから。このくらい何の問題もないわ」


 なぜか得意そうに失礼な事を言うヴァージル。だがネリーはその言葉に全く反応もせず逆にヒステリックな声を上げる。


「違う! よく見て!」


 ネリーの必死の形相に躊躇(ためら)いつつも、ヴァージルはもう一度用紙に目を向け注視する。するとヴァージルも手が震え始めた。


「コ……カトリス……ロード!!?」


 暫らくの間、ネリーとヴァージルは魂を奪われたみたいにぼんやりしていたが、翔太との付き合いが僅かに長い、ヴァージルが覚醒する。


「ネリー! その用紙を支部長に提出してもらえる?」


「わ、わかったわ」


 ネリーは頷くとすぐに受付の奥の部屋へ向かって走って行ってしまった。


「ショウタさん! 前回は納得のいく説明をしてもらえませんでしたが、今回はそうはいきません。すべて喋ってもらいます」


 そういうと、ヴァージルは両手をバンと受付カウンターに乗せて、血走った眼を翔太に向ける。まるで刑事ドラマに出て来る怖い女刑事のようだ。身震いする翔太。


(こ、怖いよ……完璧に眼が据わっちゃてるし……)


 翔太は豹変したヴァージルを見てこれは面倒なことになりそうだという予感を猛烈に覚えていた。




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