表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
31/285

第30話 初めての強敵を倒そう 


 暫らく魔の森の奥へと進むと中域でもかなり深くほとんど『深域』が目と鼻の先という所まで来ていた。

 翔太が『深域』が目と鼻の先にあると判断できた事には理由がある。この理由は魔の森の構造と密接な関係がある。

 この魔の森は『浅域』、『中域』、『深域』という3段階からなっている。

『浅域』と『中域』の区別はその出現するモンスターの強さで判断する不明確なものに過ぎない。

 一方で『中域』、『深域』の区別は非常に明確であり、区別方法を違えることがない。なぜなら『深域』は『中域』の凡そ百メートル上方に聳え立つように存在するからである。つまり『深域』は崖の上に囲まれるようにして存在するとういわけだ。

 そして『深域』と『中域』のモンスターの強さは文字通り桁が違う。『深域』には、災害クラスの伝説の魔物がゴロゴロいる。まさに化物の巣窟だ。たまに『中域』で一流の冒険者が全滅するのもこの『深域』から『中域』へ落ちた魔物に襲われたせいと言われている。

 翔太達の周囲は見渡す限り木々ばかりで、太陽の光さえも差し込みはしない。だが、木々の枝の隙間から『深域』の崖がまるで高層ビルかのように聳え立っているのだけは確認できた。


               ◆

               ◆

               ◆


 今翔太達の前方には大量の太陽の光が差し込んでいる開けた空間がある。その場所はかなり巨大な円形の場所でありそこだけ木が全く生えていない。

 翔太はどうしょうもなく不安な気持ちになった。理由は良く分からない。だが翔太の本能は強烈な警鐘(けいしょう)を鳴らす。そこの光の集まる場所には決して行ってはいけない。そうその時、翔太には感じたのだ。だから思わず、フィオンに頼む。


「フィオン、そこは行かない方がいい。そんな気がする」


 フィオンも同様の胸騒ぎを感じていたらしく大きく頷くとその場所から離れようとした。

 しかし、レイナが翔太達の行動に納得がいかなかったらしく理由を求める。

 フィオンが『冒険者の勘だ』というと余計にむきになってしまった。冒険者の勘ならなぜレイナにだけわからないのか。そう考えてしまったらしい。一目、何があるかくらい見てもいいはずだと強固に主張した。通常ならばフィオンもこのようなレイナの主張はいつもの我侭だとして無視するのだが、今回はあくまで翔太とフィオンの勘という酷く曖昧なものだった。だから一目見るだけという条件を拒否できなかった。

 そして翔太達は太陽の光の下に入ってしまう。オレンジ色をした太陽の温もりが数時間ぶりに翔太達を出迎える。

そこは円形の巨大な広場のような場所であり、その中央に木々が山のように積まれている。それはまるで巨大な鳥の巣のようで……。


「鳥……の巣?」


 レイナが誰に問うでもなく呟く。


「ああ、これはヤバイ匂いしかしねぇ! 翔太! レイナ! ディートもすぐにここから離れるぞ!」


「う、うん。わかった」


 レイナは素直に頷いて踵を返す。よほどこの積まれた木々の織り成す鳥巣が不気味だったのだろう。レイナの足はいささか速足になっていた。

 だがその行動は少々遅かった。一番先を歩くレイナの前に突如、巨大な物体が空から降ってきた。


「ひっ!」


 レイナの悲鳴が上がると同時に鳥巣から巨大な鶏のような生き物が翔太達を取り囲む。その生物は雄鶏とトカゲやヘビと掛け合わせたような形態をしていた。

具体的には、緑色の羽毛、頭部には鶏冠をもち、毒々しい紫色で長く多数の棘をもつ尾を持っている。そしてその翼は鳥のものではなく、巨大な蝙蝠のものであった。

 この生物は『魔物全集編』に記載されていた。高速で頭から情報を引き出す。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


○コカトリス  討伐推奨クラスA

■形態:鶏にトカゲやヘビといった爬虫類の要素を組み合わせた容姿をしている。

■生息地:密林

■性質:敵を石化させる石化ブレスに、毒の尾が主な攻撃手段である。


■対策:最大の脅威の石化ブレスの対策は風上を占めつつ戦う事で対処が可能。

    風の防御壁を作ることにより石化ブレスは完全に防ぐことは可能。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 『コカトリス』――鶏と蛇、トカゲをあわせたような伝説上の生き物である。


 このコカトリスが3羽翔太達を逃がさないように取り囲んでいた。だがその3羽のコカトリスに加え一体の凶悪な生物が翔太達を鳥巣の上から見下ろしていた。


「コカトリス?」


 フィオンのこの疑問も当然であった。そもそも、本来コカトリスはAクラスの討伐推奨クラスに過ぎない。パーティーを適切に編成すれば、Bクラスでも十分に対処可能なモンスターであるはずだ。

 だが丁度、翔太達が鳥巣の上で翔太達をその鋭い眼光で睨み付ける一匹のコカトリスを見たとき、そんな甘い考えは完全に吹き飛んでいた。

 そのコカトリスは他の個体とは明らかにすべてが違っていたのだ。

 まず大きさが違う。通常の個体の数倍もある。

 翼も通常のコカトリスよりも巨大な禍々しい蝙蝠の翼をもつ。

 尻尾は周囲が歪むほどの毒気を発していた。

 さらに、その個体から放たれる覇気は通常のコカトリスの出すものとは量も質も段違いだった。


(あんな鳥、『魔物全集編』には載ってなかったよ。 マズイな。あれはかなりヤバイよ! 僕やフィオンはともかくレイナは危険だ)


 レイナを見ると足が竦んでしまっている。巨大なコカトリスを見て小刻みに身体を震わせている。

 フィオンも巨大なコカトリスの真紅な血走った眼に睥睨されてとっさに動けなくなってしまっている様子だ。翔太は仲間のこの反応に心底焦っていた。いま思考をフリーズさせることは片道切符だけ持って死の直通列車に乗車するに等しい。それほどの相手なのだ。


「ディートはレイナを守って! フィオンは雑魚のコカトリスをお願い! 僕はあのボスコカトリスをやる。この中で風の防御壁など作れる人いない?」


 翔太の豹変に呆気にとられる一同。

 だが、さすがはフィオンとディートである。すぐに、ディートはレイナを庇うように彼女の前に出る。

 フィオンは翔太の言いたいことを的確に理解し、翔太達を取り囲むコカトリスに向けて剣を構え翔太の問に答える。


「レイナがスキル《風の障壁》を作れるはずだ。レイナできるな? レイナ?」


「…………」


 レイナは生涯で初めてともいえる規格外の覇気を一心に受けショック状態に陥っている様子だ。背筋に冷たい氷を当てられたように身震いするだけで目の焦点すらあっていない。


(レイナ? 駄目だ。恐怖で固まってしまってる。このままじゃあ全滅だ……)


 翔太は幼い頃、怖い夢を見て眠れなくなったとき姉の柚希にしてもらい心が落ち着いたときの事を思い出した。それは魔法の様に翔太から恐怖を取り去ってくれたのだ。今のレイナにも効果はあるだろう。翔太はレイナを抱き寄せて彼女のおでこを自分の胸にそっと押し付け、できる限り優しく語り掛ける。


「レイナ落ち着いて。大丈夫だよ。僕たちは全員無事エルドベルグに帰れる。こいつらに勝つにはレイナの《風の障壁》が必要なんだ。できるね?」


 翔太が自分の胸にレイナの額を押し付けると、レイナの目から少しずつ光が戻ってくる。震えも止まる。そして今の状況を把握したのだろう。レイナの顔が真赤なトマトの様に染まっていく。そしてコクンと頷いた。

 翔太はレイナが頷くのを確認しレイナを自分から離す。刀を鞘から抜きレイナが障壁を作るのを待つ。


「《風の障壁》!」


 レイナはドーム状の風の不可視の壁を翔太達の周囲に作った。翔太は新たな力が身体の中で生じるのを感じ、その新たな力がレイナの持つ《風の障壁》であるとあたりをつける。


(僕とレイナで風の障壁を重ね掛けすれば、万が一にでも、コカトリスの石化ブレスが届くことがない。『魔物全集編』に書いてあることが正しければ確実にコカトリスは石化ブレスを使ってくる。そして多分、毒系の攻撃とかも。それを防げばコカトリスはただの雑魚モンスター!)


 翔太は《風の障壁》を全力で使用する。その結果は劇的であった。分厚い風の壁が翔太達の周囲に形成される。かなりの強度の障壁だ。これなら万が一にも石化ブレスは届くまい。


(よし、これでお膳立ては全て済んだ。あとは、僕があのボス鶏を倒すだけ)


「フィオン、合図をお願い!」


「おう!! 俺のこの技が合図だ。この魔物はコカトリス、石化ブレスと毒系の攻撃を使ってくる。この風の壁から出ずに魔法や遠距離攻撃スキルで攻撃を行え!」


 そういうと、フィオンは剣を上段に構えて力を溜める。

フィオンの身体からは可視できるほどのオーラが立ち上り、上段に構えた剣に凝集されていく。


「《破斬》!!」 


 フィオンはオーラを纏った剣を渾身の力で振り下ろす。フィオンの剣から幾多もの鋭い空気の刃が高速で正面のコカトリスに殺到し、コカトリスをズタズタの肉片に引き裂いていく。翔太は横目でフィオンの《破斬》を見てこれをラーニングし、自ら風の障壁を出て、ボスコカトリスの注意をレイナ達から逸らす。


 結果としてはこの翔太の行為がフィオン達を全滅の危機から救ったといえる。

翔太は風の障壁を出てから隙があれば《水龍》のスキルか先ほどフィオンからラーニングした《破斬》を全力でボスコカトリスに撃ち込もうとしていた。

 ボスコカトリスも翔太の攻撃は致命傷たり得ることを野生の本能の察知したのだろう。翔太以外眼中にないようであり、射殺すような血の様に赤い眼光を鳥巣の山の上から翔太に向けて来る。

 翔太とボスコカトリスは暫らくの間睨みあっていたが、痺れを切らしたボスコカトリスは口を大きく開けた。口の中に黒紫色の如何にも毒々しい球体が出現する。


(やばい! あれは危険だ! 真面に受けたら僕も多分死ぬ。魔法じゃ絶対間に合わない。スキルだ)


 ボスコカトリスの口に出現した豆粒ほどの黒紫色の球体は徐々に大きくなり、サッカーボール程になっている。おそらく超高熱となっているだろう。球体の周囲の空間がグニャッと歪んでいる。

 突如死を象徴する黒紫色の球体は空気を凄まじい速度で伝搬し、翔太の髪の毛一本さえも焼き尽くさんと(ほとばし)る。

翔太も指をくわえてこれを見ていたわけではない。自らの周囲に全力の《風の障壁》をかけると同時に、右手の掌を迫り狂う黒紫色のブレスに向けスキル《水龍》を全力で放つ。

 黒紫色のブレスと巨大な和風の細長い体躯の水の龍はお互い喰いあうように絡み合う。


 ジュッー!


 水が蒸発する音と気化された水蒸気が辺りに立ち込める。

 黒紫色の灼熱のブレスと水の龍はお互いを喰い合い相殺されてしまった。同時に例のごとくスキルをラーニングしたときに生じる負荷が翔太の動きを鈍くする。


(くっ! いつものやつだ。結構……キツイ。でもやった! さっきの灼熱のブレスはかなり使えるスキル。これでこの戦闘もかなり楽になるよ。どうやって使うんだろう? ボスコカトリスは口から吐いてたよね。やっぱり僕が使っても口から吐くのかな? 

 うえぇ……それはそれでいやだな~)


 翔太はそんな事をぼんやりと呑気に考えていた。おそらく先ほどのブレスがボスコカトリスの最強の一撃。それを防いだことでもう翔太は目の前の魔物がただの鶏にしか見えなかった。ボスコカトリスもそれを感じているのか退却する気満々の様子だ。


(だ~め。君はフィオンとレイナを殺そうとしたんだ。その報いキッチリ受けてもらうよ)


 口を開けてブレスを吐くイメージをする。すると、翔太の前に黒紫色の如何にも毒々しい火炎の球体が出現し、周囲に黒紫色の霧を振りまいた。その黒紫色の霧に触れたものはすべて石化するらしい。翔太の服や口元さえも石化していく。自身のスキルで石化してしまったことに内心で焦りながら、その球体をボスコカトリスに向けて放つようなイメージを頭の中で構成する。黒紫色の球体は放たれ、その形を崩し拡散しボスコカトリスのいる空へ光速で広がっていき空を黒紫色一色に染める。

 ボスコカトリスも最後の足掻きをするようだ。

 翼をはばたかせて数個の竜巻を発生させ、このブレスを吹き飛ばそうとするが、その数千度にもなる熱自体をすべて吹き飛ばせるはずもなく、翔太のブレスの発する高熱に全身を蒸し焼きにされる。


『グギャアーーーーーー!!!』


 ボスコカトリスは怨嗟と恐怖の入り混じった眼差しを翔太に向けてくる。

一方翔太は複数のスキルをラーニングしたときに来る負荷で地面に片膝をついていた。

 おそらくこの負荷はボスコカトリスの発生させた《竜巻》とボスコカトリスのもつ《石化耐性》をラーニングしたせいだろう。自分の肉体と服の石化が解けていたのがその証拠だ。灼熱の石化ブレスがボスコカトリスの全身を焼いたときに、石化に対する耐性を獲得したのだ。


(つぅ――! またこれか。僕の戦闘では常にこの活動停止状態が付き纏う。これってかなりのハンデだよね? 

 今回のような雑魚鶏ならなんとかなるけど、強敵と出会ったら確実に殺される。今後これの対策を立てなければならない……か。遊んでないでさっさとけりをつけよう)


 翔太はスキル《水龍》をボスコカトリスへ放つ。ボスコカトリスもブレスを吐くが、ブレスと水の龍が相殺されているうちに、新たな水龍を出しボスコカトリス目掛けて放つ。そもそも《水龍》のたった1匹にブレスが相殺したに過ぎないのだ。ブレスと水の龍の均衡は呆気なく崩れ去り、水の龍はボスコカトリスの身体を締め上げ大きな口を開けその喉笛をかみ砕かんとする。翔太が止めとばかりに放った三匹目の水の龍がボスコカトリスに来襲する。

 2匹の水龍はボスコカトリスの蝙蝠の翼、毒の尾を喰い破り、胴体にその鋭い牙を突きたてる。


『グギャャャャャャャ~~~~~~!!!』


 ボスコカトリスは絶叫をあげてもがき苦しむ。

 翔太は、刀を上段に構えて体内で渦巻く力を刀に集中させる。途轍もない力が刀に集中していき、奔流となって暴れ狂う。その刀をボスコカトリスに向けて高速で振り下ろす。


(くらいなよ!)


「《破斬》!!」


 ザン! ズン! ザシュ! ズシュ! 


 翔太の殺害の命を受けた巨大で鋭い幾多もの空気の刃がボスコカトリスを肉塊にせんと高速で来襲し、その体を骨ごと細切れに切断し鶏肉へと変え、血と臓物を撒き散らす。

 翔太はレベルアップの際の負荷に耐えつつ辺りの様子を窺う。すでに、雑魚コカトリスの2匹はフィオン達に倒されあと1匹しか残っていなかった。ボスコカトリスが倒れたのを見て残り1匹のコカトリスも空に飛んで逃げようとした。


(アホ! さすが鶏! 鳥頭だね。空に逃げたら撃ち落としてくれって言ってるようなものじゃないか)


 口から灼熱のブレスを吐き一瞬にしてローストチキンに変える。もっとも、ローストチキンにしてはこんがり焼き過ぎで食えたものでなかったが……。

 事切れ炭化したコカトリスは、魔の森に落下しバキバキと木を薙ぎ倒し地面に衝突し轟音を上げる。


(終わったよね)

 

 これで終わったと思った途端、今まで我慢していたスキルの複数ラーニング、レベルアップの際の身体の中で暴れる力が翔太の意識を根こそぎ奪って行った。




 お読みいただきありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ