第25話 魔の森中域を探索しよう(2)
『赤鬼国』に到着する。『赤鬼国』の中はもうすべてが非常識だった。綺麗にアスファルト舗装された幅のやたら広い道路が『赤鬼国』の中心部へ伸びている。その中心部には、巨大な高層ビルが聳え立っていた。あれが『中央議事堂』だろう。
巨大な道路と枝葉のようにいくつもの小さな道路が交差し、それらの道路の間に幾多の現代地球式の建物が立ち並ぶ。
暫らく歩くと商店街のアーケードに入った。スーパー、靴屋、ブティック、本屋、電機屋、喫茶店、ファミレス、ご丁寧にコンビニまである。その6割方が営業をしていない様子だが、4割近くに電気の光が灯っている。
そう。この『赤鬼国』には電気があるようなのだ。疑問に思い《解析》スキルを用いて解析したところ、電気を発生するマジックアイテムをメインとし、太陽光発電を補助的に利用して電気を発生させている事がわかった。
試しに、電気がついているコンビニ内を覗いてみる。すると、店員らしい角を生やした女性が慣れない手つきでレジを打っているところだった。教えているのは『七つの迷宮』のメイドだ。メイドは翔太に気付くと、満面に喜色を湛え臣下の礼をとる。それを見た、レジを打っていた魔物も慌てたようにメイドにならう。どうやら、仕事の邪魔をしてしまったらしい。右手を挙げて挨拶をして通り過ぎる。
よく観察してみると、至る所で『七つの迷宮』の住人がいて、魔物達に自動車の動かし方、レジの打ち方、掃除の仕方など様々な事を教えているのが確認できた。メイドや執事以外の作業着を着ている柱もいることから、7階層以外の『七つの迷宮』全ての住民が駆り出されている可能性が高い。あまりのテューポの徹底的さに戦慄を覚える翔太であった。
アーケード街を抜けると、そこは多数の高層ビルが立ち並ぶ『赤鬼国』の中心部だった。地球では沢山の人が行き交う高層ビル街は、現在魔物がまばらにしかおらず、かなり不気味だ。
そして、翔太達のすぐ前方には天空にまで届くのではないかというほどの摩天楼が聳え立っていた。
「主ぃ。ここが、『中央議事堂』です」
キサナが胸を張って自慢げに教えてくれた。
「ありがとう。キサナさん」
翔太の御礼の言葉にキサナは薄らと頬を染めて俯いた。この仕草も容姿もとても元ゴブリンだとは思えない。今翔太の周りにいる人間種の女性よりもずっと、女性らしいといえる。不意にヴァージルの事を思い出し、自分自身を棚に上げている自分に強烈な吐き気を覚えた。
「い、いえ。では主ぃ。建物内に案内しますね」
「うん。お願い」
歩き始めるキサナの後に続いて摩天楼――『中央議事堂』の中へ入る。中は、テレビでよく出て来る高級ホテルの1階のようであった。床にはお洒落なカーペットが張られており、天井には豪華なシャンデリアがあり、辺りを暖かく照らしてくれている。絢爛豪華な装飾品が飾り付けられ、ただでさえ高そうな部屋をより一層高級感あふれる質感へと変貌させている。
1階を真っ直ぐ突き進み、突き当りにあるエレベーターに乗り込む。ドアが閉まり、エレベーター特有のふわふわする感覚が翔太を襲う。
階数ボタンが999階になり、チーンという音がしてドアが開く。エレベーターを出ると、そこは、途轍もなく広い部屋だった。
床は真っ赤なカーペットが一面に張り巡らされており、部屋の中央には細長いドーナツ状の巨大なテーブルと高級感あふれる椅子が設置してあった。丁度エレベーターがある方と反対側には、巨大なスクリーンがある。おそらく、このスクリーンに画像が写し出されるのであろう。そのスクリーンの近くの席にテューポと炎鬼がいた。
テューポと炎鬼は翔太に気付くと直ぐに近づいて来て跪き臣下の礼をとる。
翔太は炎鬼を観察する。どう考えても、昨日見た炎鬼とは思えなかったからだ。この威圧感は、テューポには及ばないものの『七つの迷宮』の7階層のメイドや執事を遥かに超えている。昨日は実力的に翔太に遠く及ばなかった。それがたった1日で、【憤怒】を装備し、ステータスが3倍近く上がった翔太を軽く超える力を得ているのだ。どう考えてもこれは異常だろう。出来れば炎鬼を解析したいところだが……。
正面から尋ねることにした。その上で、炎鬼に解析させてくれるように頼む事にしよう。
「すいません。僕事情が全く呑み込めないんです。この騒動の原因をご説明いただければありがたいのですが」
炎鬼が非常に言いにくそうにしているので、テューポが変わりに説明するようだ。いつもの微笑を浮かべながら恭しい態度をとりつつ話始めた。
「主よ。私の勝手なふるまいお許しください」
テューポは頭を深く垂れる。もっとも、その表情からは全く悪いとは思っていないようであったが。この頃、翔太もテューポがどういう柱なのかがわかって来た。要は翔太の事となると躊躇う事を知らない柱なのだ。
「うん。テューポさんのやることなんだから何か意味ある事なんだろうし僕は構わないよ」
「主のその寛大な心にこのテューポ深く感謝いたします。
この度、中域の怪物なるものを私が討伐いたしました。その結果、この魔の森中域が荒れ果ててしまいましたので、その有効活用を図った次第です。
このエンキはその私の戦いを見て配下に加わりたいと志願いたしましたので、眷属として私の末席に加えることを許しました。エンキの力の上昇はそれが理由です」
(やっぱり、神様騒動はテューポさんが原因か……中域の怪物騒ぎで素材探しが出来ず、僕が四苦八苦していたから、気を使ってくれたのかな? 多分そうだよね。
炎鬼さんがテューポさんの眷属。なるほどね。炎鬼さんが、僕にむず痒くなる態度をとる理由もわかったよ。
それにしても、眷属に加えたくらいでこんなに力って伸びるもんなんだ。スキル《契約》って危険すぎない?)
「わかったよ。ありがとう。テューポさん。でもこの国は何? 荒野化した中域の有効活用って言ってたけど?」
「中域が荒れ果て事実上、魔物共が住めなくなりました。そこで、主の寛大な慈悲を中域に住まう魔物共にも与えようというわけです」
「うん。別にいいと思うよ。魔物さん達が住めなくなったのも僕のせいみたいなものだしね」
テューポがこの中域を更地に変えたとするならその責任の一端は翔太にある。その責任は負わなければならないだろう。炎鬼と会うまでは翔太にとって魔物はゲームによく出て来るモンスターに過ぎず、正反対の返答をしていたかもしれない。だが、炎鬼達魔物にも、人間種同様感情があり、家族があり、仲間がいる事がわかった。だから、もう責任がないとは口が裂けても言えない。
それに魔物の国をテューポが作ったとしても別に翔太自信が何ら痛むわけではない。確かにこの科学力と軍事力はこの世界には脅威かもしれないが、魔物達がこの魔物の森から出て世界征服をするとも思えない。もしその気があれば、以前の炎鬼でも一瞬でここら一体の街など火の海に変えることが可能なのだ。とうの昔に世界征服を実行に移していることだろう。それを今までしなかったということは、他種族の支配事態には全くといって良いほど関心がないと思われる。加えて、炎鬼達はテューポの眷属なのだ。万が一、世界征服を実行に移そうとしても、翔太がテューポを介して止めればよいだけだ。とするば、魔物達自身が快適に暮らす分には世界に対する影響もさほど強いものでもあるまい。
「流石は我が主。その寛大なるご配慮、魔の森の魔物共も深く感謝する事でありましょう」
「まあ、恨まれる筋合いはあっても、感謝される筋合いは全くないんだけどね」
「そんな事はございやせん! 俺っち達はショウタ様に感謝しこそすれ、恨むなんて絶対あり得やせん」
炎鬼が跪きながらも、必死の形相で翔太を見上げ訴えて来る。その極めて真剣な姿に思わず一歩後退する。キサナもウンウンと大袈裟に頷いている。
「そ、そうですか。喜んでくれたなら良かったです。あと、敬語は止めてね」
炎鬼は今やテューポの眷属だ。主であるテューポが敬語を使うのだ。敬語を使うなという方が酷だとは思う。無理は承知だが、身体中がむず痒くなるのに耐えられず炎鬼に頼む。
「「それはできやせん(できません)」」
即座に炎鬼とキサナにその頼みは拒否されてしまう。炎鬼の態度を見ても翻意する可能性は限りなく低い。この話題は時間の無駄だ。次の話題に移ろう。
「一応、炎鬼さん達を解析させてもらっても良いですか?」
「もちろん構いやせん」
思いのほかあっさり了承をもらえた。キサナも大袈裟に頷く。テューポだけが僅かに顔を崩した。このテューポの様子からすると解析はしてほしくはないだろう。
だが、テューポが眷属にした場合どれほどの事態になるのか知りたい。今後のためもある。押しとおらせてもらう。すぐに解析にかかるとする。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
○炎鬼
■種族:鬼神 (神)
■クラス:鬼神王
■眷属:■■■■
■称号:【剣神】、【魔道神】
■スキル:
【炎操作】、【炎刃乱舞】、【演唱短縮】、【連続魔法】、【剣術】、【炎化】
※眷属は主の取得スキルを使用可能
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
ステータス エンキ
レベル 71
才能 800
体力 6102
筋力 6112
反射神経 6200
魔力 6202
魔力の強さ 6011
知能 6109
※眷属補正:才能以外全ステータス+2000
才能+200
EXP 99224/1050000
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
(っ!!? こ、この出鱈目なステータス。【憤怒】を装備した僕の3倍近くある。それに、鬼神王? 鬼神(神)って……炎鬼さん、テューポさんの眷属になって魔物止めて神様になっちゃったの? とすると、テューポさんもきっと神様なんだよね。テューポさんにも、解析スキル…………使えない。絶対に無理。明らかに嫌そうだもの。次に、キサナさんも見てみよう)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
○鬼無里
■種族:鬼神 (神)
■クラス:最上級鬼神
■眷属:鬼神王
■称号:【剣王】
■スキル:
《剣術》、《破斬》、《二連続突き》
※眷属は主の取得スキルの半数を使用可能
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
ステータス キサナ
レベル 60
才能 650
体力 4201
筋力 4209
反射神経 4199
魔力 1605
魔力の強さ 1608
知能 1610
※眷属補正:才能以外全ステータス+1500
才能+150
EXP 637/500000
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
(……キサナさんも出鱈目だ。僕が簡単に制圧されるはずだよ。キサナさんも神様になっちゃてるし……神様のバーゲンセールじゃあるまいし、そんなに簡単に神様ってなれるものなの?)
「主……」
テューポにしては珍しく躊躇いがちに声をかけて来る。
「うん? どうしたの? テューポさん?」
「エンキの眷属には何と?」
(眷属? ああ、あのどうやっても解析できなかったところね)
「うん。解析できなかった。なんでだろう? テューポさん理由わかる?」
テューポはほっとしたような表情を一瞬浮かべたと思うと、いつもの微笑という鉄仮面に戻っていた。
「いえ、私ごときには……申し訳ありません」
テューポが頭を下げたので、慌ててそれを止めさせる。
「や、やめてよ。それしても、この国凄いね? 『七つの迷宮』の7階層から持ってきたんでしょう?」
「はい。7階層ですでに形成されていた地区をそのままこの場所へ移転しております」
「へ~、やっぱりそうだったんだ」
相槌を打っていると、テューポが頭を深く垂れてきた。
「主よ。一つ、お願いがあります。聞き届けていただけませんでしょうか?」
「願い? 何?」
「『七つの迷宮』の1階層を炎鬼達に解放していただきたいのです」
「1階層は余ってるし、別にいいんじゃない? テューポさんに任せるよ。色々いつもありがとう。テューポさん」
「身に余る……光栄なお言葉!」
テューポは珍しく翔太の言葉に感銘を受けているようだ。これほど色々な感情を表すテューポを見たのは今日が初めてかもしれない。暫く妙な感動を覚えていたが、もうここには用はあるまい。疑問も解消できた事だし、そろそろエルドベルグに戻るとしよう。
どうせ、翔太が黙っていても中域の探索を開始した冒険者にいつかはばれる。その際に、いざこざがあっては面倒だ。というよりもそうなった場合、冒険者達の命が心配だ。冒険者ギルドに報告すべきだろう。テューポと炎鬼にデリックに報告しても良いかを尋ねるがあっさりと了解をもらえた。




