第9話 ギルド支部長に報告しよう
エルドベルグに着くと、テューポとジズには『七つの世界』へ戻ってもらう事とした。どうせ、ギルドハウスへ行っても冒険者ではない二柱はデリックには会えず、受付で待ってもらう事になる。それはあまりにも申し訳がないからだ。二柱とも優雅に翔太に一礼して眩い光と共に姿を消す。
冒険者ギルドハウスへ、救助者十数人と共に直行する。一斉に翔太達に視線が集まる。
ヴァージルとネリーが駆け寄ってきて何事かと聞くとフィオンがうまく説明してくれた。
すぐに支部長室のデリックの下まで来るように言われる。救助者はギルドハウスまで来て張りつめていた緊張の糸がプッツリと切れたのか、座り込んでしまう者まで出たので、職員が奥の部屋まで連れて行く。
その後、ヴァージルに案内されて、翔太、フィオン、レイナは支部長室へついて行く。
ヴァージルは翔太にチラチラと視線を向けて来る。翔太はそれに首をかしげていると、レイナの右肘が翔太の鳩尾に突き刺さる。ステータスが人外となったレイナのこの暴力的スキンシップはマジ辛い。勘弁してほしい。涙目でレイナに非難の視線を向けると、頬をリスのように膨らませてそっぽを向いてしまった。このような仕草はとんでもなく可愛いが、命がいくつあっても足りない。もっとも、スキル《高速再生》で半分アンデッド化しているので、所詮比喩ではあるのだが……少し人間を辞めた事に悲しくなった翔太であった。
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支部長室にいつものように入り、応接間のソファーの上に座る。この面子での支部長室もすっかりお馴染みになってしまった。
「今日はまたどうした?」
デリックももう遠慮は全くしない。用件だけをズバリ聞いて来る。
「実は――――」
フィオンが今日あった事をデリックに詳しく話す。デリックは腕を組みながら聞き入っている。
「中域の怪物か……そんなのいるんだな。中域で何かが起こっているのかもしれないとは思っていたが、本当に起こっていたとはな……。
大体、俺には中域の魔物の王達の話も初耳だぞ。そいつらはどれくらいの強さなんだ?」
フィオンが困り顔で翔太に視線を向ける。フィオンは《解析》スキルを持つわけではない。【村正】を装備した自分よりは強くない程度にしか判別はできないだろう。
そこで、翔太が代わりに説明をする事にする。無論、打ち解けた炎鬼のステータスを勝手に覗き見てそれを他者に伝えるなどしたくはない。だが、それを隠した事で中域の怪物の討伐をギルドから命じられるなんてことになっては困る。
「一番強い炎鬼さんが、ステータスの平均が170近くありました。オストロスと白猿王さんが、120近くです」
デリックが狼狽を顔に漂わせる。
フィオン、レイナ、ヴァージルも驚いてはいるが、デリックの驚きとは種類が異なるようだ。後者は翔太が詳細なステータスを知っている事にむしろ驚いている様子だったから。
(170……【小狐丸】を装備した俺より強いじゃねぇか。そんな強者が手におえない奴がエルドベルグ近隣の魔の森――中域にいるってのか~? これは完璧に彼奴に頼むしかねえなぁ。全く、面倒な事になった。彼奴が素直に引き受けてくれる……わけねぇよなぁ。散々嫌み言われるんだろうな。胃が痛てぇよ。
まあ、なんとかなるか。性格が少々捻じ曲がってはいるが芯まで腐っちゃあいねぇ。回りくどい理由をつけて引き受けてくれるだろう。彼奴はそういう奴だ)
デリックは頭を抱えて自分の世界に入り独り言を垂れ流している。ほとんどが意味不明な言葉ではあったが……。
「あ、あの、デリックさん?」
「ああ、大丈夫だ。その件はギルドで何とかしよう。ショウタ、フィオン、レイナ、今日はご苦労だった。エルドベルグの支部長として礼を言う」
あまりにも簡単にデリックが引き下がったので翔太は呆気にとられてしまった。
(てっきり、中域の怪物を討伐してくれとか言われると思った。ギルドで何とかするって、何とかできるの? ……どうでもいいか。討伐しなくていいと言うんだしさ。
兎も角、首の皮一つ繋がった。今はレベル上げとスキルの進化をすべきときだ。強者と戦うときでは決してない)
デリックはやる事があるようだ。おそらくは中域の怪物の対策を練るのだろう。これ以上、この部屋にいても邪魔になるだけだ。そろそろ暇乞いさせてもらおう。
立ち上がり、頭を軽く下げて立ち去ろうとする。
「ショウタ、今日は疲れただろう。できる限り早く寝ろよ。いいな! これは支部長命令だ!」
などと訳の分からない事をデリックから言われた。デリックのあまりにも必死な様子に恐る恐る頷く翔太。フィオン達もデリックの突然の奇天烈な発言に面食らっている様子だった。
下種悪魔から受けた拷問の精神的疲労がまだとれていないらしく、かなり身体がだるい。自分専用の武器を作ったらすぐにキャメロンの自室へ行き寝ようと思っていたところだった。だからこのデリックの支部長命令はむしろ好都合だった。
今度こそデリックに別れを告げ、ギルドハウスを出る。
ヴァージルはデリックから大量の仕事を任された様子で、名残惜しそうに翔太を何度も見ながら1階受付カウンターの奥に姿を消した。
レイナは終始機嫌が悪く、一言も話さない。耳もピンと立っている。怒っているのは明らかだ。今日は疲れているし、まだやる事もある。手っ取り早く機嫌を直すことにする。
いつものように、レイナの頭に手を乗せてごめんというと顔を林檎のように真っ赤に上気させながら、俯いていてしまった。やはり、レイナの機嫌を直すのはこの方法が一番効果的だ。
ただし、一歩間違えばセクハラになる禁断の方法ではあるのだが……。
翔太はその後、フィオン、レイナと少し遅い昼食を食べる。
午後から再び、魔の森――深域の探索に行く事をレイナが強固に主張したが、フィオンはデリックから今回の詳細な報告を書類として提出するように求められたらしい。とても今日の冒険は無理だろう。
レイナは予想を裏切らず、ふくれっ面だ。仕方なく、『七つの世界』の7階層にレイナ達の住居ができたからそこを訪れたらどうかと提案すると機嫌が一気に好転した。こんな所はまだまだ子供だ。思わず頬が緩む。よほど嬉しいのか、そんな翔太を見ても怒りもしない。
ちなみに、『七つの世界』の7階層は9割方翔太の世界を再現できたと言える。9割方というのは基本情報が足りないことから海が再現できないという事とテレビ等のメディアやインターネットが使えないという事だ。
もっとも、過去に翔太が見たテレビドラマや映画、アニメ、ゲーム等は再現が可能らしく、レイナの暇つぶしには十分対応出来ることだろう。
当初、引っかかっていた『七つの世界』の世界の大きさについては出鱈目に広大な事がわかった。テューポから聞くところによると、少なくとも海を含めた地球の面積の30%程あるらしい。この世界の途轍もない大きさの理由は不明だ。少なくとも翔太の魔力と体力でこれほどの大きさを再現できるとは思えない。魔力と体力以外にも他に要因があるのかもしれない。
ともあれ、これで海の情報を取得すれば、完璧な地球も再現できることだろう。少し、ワクワクする。




