最終章 「絆を絶つ者」 六話
「……どうなるの?」
斐比伎はそっと訊いた。少彦名の語る神代の話はあまりにも壮大で、うまく想像することはできなかった。
「そもそも、大地に派生した自然を司る国津神と、宇宙の摂理を司る天津神とは、始めから相容れぬ存在じゃ。この地上は、大地から生まれた国津の神が育てていくのが、一番見合っておったのじゃ。しかし、まだ不完全な内に、まったく異質の天の力を注ぎこまれ、これまでとは違う統治の体制へ転化されてしまった……」
少彦名は悔しそうに角髪を掻き回した。
「よいか、これはの……『最悪』なのじゃ。まだ、原初から天津に支配されていたほうがましじゃった。異質の統治が対立したため、地上には多くの混沌が残り、国津の計画とも天津の計画とも違う、歪んだ未来が導かれることになってしまったのじゃ……」
少彦名は、遠くを見つめていった。
「この混沌は、地上に血や魂の混乱を引き起こす。この先大地には、歪んだ縁や淀んだ念が溢れ、やがて『邪しき絆』を背負った者が生まれてくるじゃろう--」
「……俺達みたいに、かい?」
五十猛が何故か楽しそうに言った。
「そう。おぬしや、磐城のような者が、じゃ。大王家を見い。天津自身の末裔でありながら、他のどこよりも同族殺しを繰り返す、呪われた一族となってしまっておるじゃろうが」
少彦名は呟いた。
「わしは、ここをそんな国にしたくはなかった。しかし、わしらは敗れた側じゃ。去らねばならぬ。……悔しかったがの。どうにもならぬことよ--しかし、その時じゃ。大国主が、ひとつの事を予見した」
少彦名は、斐比伎の肩の上で立ち上がった。
「これから導かれる未来は、誰の手にも止められぬものとなるだろう。地上には、陰を背負った『邪しき絆』を持つ者が多く生まれいずる。しかし、やがて、神と人との狭間に立ち、血と魂、全ての絡んだ縁の……『邪しき絆を絶つ者』が現れる。その者が、いつかこの陰の終焉を導くだろう、と……」
少彦名は、小さな手で斐比伎の頬をなでた。
「お前はのう、斐比伎。希有なる存在じゃ。……わしはお前に会える日を、ずうっと待っておった……」




