最終章 「絆を絶つ者」 七話
「少彦名……」
斐比伎は呟く。
少彦名は答えず、ただ目を閉じた。
「--わかったかい、嬢ちゃん」
構えた剣の切っ先を浮かしながら、五十猛は言った。
「俺たちは、戦わなきゃいけないのさ」
「--どうしても? 私たちが、代わりに神代の決着を担わなくてはならないの?」
「ああそうだ。それが、背負った血の運命だ。--さあ、嬢ちゃん、剣を構えな。あんたが真の『絆を絶つ者』ならば」
斐比伎は、立ち尽くしたまま逡巡した。
あまりにも、多くのことを聞かされて。大き過ぎるものを、担わされて。
どうすれば--何をすればいいのか。古からの結論を託されてしまったからといって……この自分に何ができるのか。
心が決まらぬまま、斐比伎はただ布都御魂剣を握り締めた。
「……斐比伎。お前は、あらゆる絆を背負い、なおその絆を断ち切る者じゃ。……それが、お前に与えられた運命。……じゃがのう」
動揺する斐比伎に対して、肩の上にいる少彦名が優しく語りかけた。
「わしはお前に会って思ったのじゃ。定めとか、担う物とかよりも……わしは、お前という娘に『強く』なってほしかった。絆を絶つのは、人にとって最も辛いことじゃ。じゃが、それを振り切ってなお、生きていけるだけの強さを……前に進むことのできる強さを、わしはお前の中に感じたのじゃぞ」
「少彦名……」
斐比伎は己の肩に乗った小人神を見やる。
彼女を励ますように、少彦名は笑った。
「そうだよね……」
斐比伎は呟いた。
強くなる、ということ。
皆、それを斐比伎に望んだ。大切な父も、いつも助けてくれたこの小さな友達も。
……どんなに苦しいことや、耐えられないことに出会っても、それでも毅然と自分の足で立っていられる人間になりたい。
穢れたものを見せつけられても、それでも尚、浄らかに鮮やかに笑って見せるために。
--そんな自分になるために、選ぶべき道は……自分の答えは、何だ!?




