最終章 「絆を絶つ者」 三話
既に何年も前に完成しており、自サイトなどに掲載している長編を、少しずつ分割しながら連載投稿しています。
前作「月傾く淡海」よりは、ややライトなテイスト(ラノベより)で、恋愛要素もあります。
全五章で、一章が約十話前後です。
一話の長さにはばらつきがあります。
一度アナログで作ったデータをデジタル変換した際に、一部改行に不具合が出た部分があります。
「……五十猛!」
「嬢ちゃん、随分派手にやったじゃねーか」
五十猛は、にやにやと笑いながら斐比伎を誉めた。
「なんで--何故、あなたがここに?」
「そりゃ、用があるからさ。--嬢ちゃん、覚えてないかい? 俺も、あんたと似たような生き物だって言ったのを」
「--え?」
聞き返す斐比伎に答えず、五十猛は磐城のほうを向いて、手に持った神剣・十拳剣を振りかざした。
「おい、伊佐芹彦! 吉備津彦を思い出したんなら、ついでにこれ見て俺の事も思い出しな!」
五十猛は、人々全てに見せつけるように、十拳剣を振り回す。
不愉快気な表情でそれを睨んでいた磐城は、やがて思い出したように呟いた。
「それは……確か、十拳剣。……では、お前は……」
「そーさ。吉備津彦の次にあんたの謀略にはまって殺された、古の出雲王・出雲振根だ!」
五十猛は大声で叫んだ。
「出雲振根……出雲王? あなたが!?」
驚いたのは、斐比伎のほうだった。
「そうさ、嬢ちゃん。俺も昔、あの皇子にあんたと同じ目にあわされた。あいつは本当に汚ねえ野郎だったよ」
そう言いながら、五十猛は斐比伎に向かってにやっと笑った。
「つまり、今生に蘇り者は三人いたってことだよな」
「それにしても……あなたなんでそんなに楽しそうなの?」
斐比伎は、怪訝そうに言った。
宿敵に相対しているはずの五十猛の表情は随分と軽やかで--おかげで、すっかり調子を乱されてしまった。
「ああ? ……そりゃまあ、やっと宿願を果たせるって時だしな。こう見えても、俺だってここまで来るには、いろいろあったんだぜ。もうちょっと遅けりゃ、嬢ちゃんに先を越されちまうところだった」
言うと、五十猛は豪快に笑った。
「それに、あいつと違って、俺は立ち向かう為にここへきたんだ」
「--立ち向かう?」
「ああ。俺は、確かに『振根』の記憶を持ってはいるさ。だが俺は、今生きている自分が、間違いなく『五十猛』だってことを知っている。だから、心の奥底まで振根の憎しみにひきずられることはない。--だが、あの皇子はまったく違うぜ」
言うと、五十猛は急に真面目な顔になった。
「あいつは、『磐城』の自我まで『伊佐芹彦』に飲み込まれてる。もう、自分がどっちだかわかんねえんだ。……壊れちまってるんだよ」
「……そうなの」
斐比伎は、磐城を見下ろして呟いた。
あの美しい皇子の内側にあるのは、一体、どれほどのおぞましい混沌なのだろうか。
「……だが、気をつけな。注意しないと、嬢ちゃんもそうなるとこだったぜ」
「私--私が?」
斐比伎は驚いて五十猛を見上げた。
五十猛は頷いて、諭すように言う。
「大事なのは戦う理由と、自分が誰でいたいかって事だ。嬢ちゃんにはそれがわかるか?」
「私--私は……」
斐比伎は燃え盛る宮殿を見渡して呟いた。
炎が、人の造り出したものを飲み込んでいく。古からの大王が、多くの犠牲の上に造り出した権力の象徴は、こうして脆く儚く崩れ去っていくのだ。
--けれど。大和の天空は、人の無惨な終焉とかかわりなく、ただ美しく輝く。
光を放つ朝日を見上げて、斐比伎は思った。
……かえりたい場所。戻りたいところ。かけがえのない人。
--その傍にいたい自分は、いったい誰なのか。




