エピローグ
◇◇
「……いつまで私に引っ付いているおつもりですか。早くお仕事に行ってきてください」
「そうは言ってもなぁ!キミ、自分がどれだけ重傷かわかってないだろ」
「分かっていますよ?ですが、それはそれ、これはこれです」
「分かってないから言ってるんだぞ……あ、こら、背中を押すんじゃない!」
「おーおーまたやってるよ……お二人さん!イチャつくなら他所でやってくれ!」
「イチャついてない」
「イチャついてないです!」
花飾りの祭りから四日経った頃の話。
エリーは命に別状はなかったが、二の腕を斬られたことによる力の入りにくさや肘を曲げきれないといった後遺症が残った。
それを聞いてダンはちょこちょこ店に顔を出すようになり、エリーが少々鬱陶しがっているのである。
「……しょうがない、今日は仕事に行くよ」
「今日だけじゃなくて毎日まっすぐお仕事に向かってほしいものですが」
「つれないなぁ……エリー」
「もう、なんです……か……」
ダンはエリーの髪をひと束掬うとそっとくちづけを落とし、愛おしそうに耳にかけた。
「それじゃあ、また」
満足げに店から出ていったダンと入れ違うように、本日一人目の客が訪ねてきた。
「エリーちゃん、お花をお願いしたいのだけど……あらあら、随分と可愛らしい花飾りを貰ったのねぇ」
「…………はい?」
エリーはバッとダンに触れられた髪に手をやるとカサリ、と音がした。
慌てて窓ガラスに映る自分を確認すると、耳の上にピンクのガーベラの花飾りが添えられている。
「……っあんのちゃっかり者ぉ!」
◇◇
劇場内は拍手の嵐だった。
演じきった劇団員たちがカーテンコールで舞台にあがり、最後に監督のデュルガーが舞台上に現れた。
「えー、本日は我々"春告鳥"の新作お披露目会を、このような素晴らしい劇場で行えましたことに感謝申し上げます」
デュルガーが深々とお辞儀すると拍手が贈られた。
「……今回の新作ですが、原案は私ではなく別の方なのです。その方は"自分は舞台に上がるような人間ではないから"と言われたので私が名代としてここに立たせていただいております」
デュルガーは挨拶を述べていく。
イーサンの名前は一切出さずに。
「皆さまにお願いがあります。原案者の方を、この物語のモデルになった方々を、詮索しないでください。この物語は空想の物語……今まで我々が皆さまの前で公演させていただいてきたものと同じです。だから好きなように考察されるのは結構ですが、答え合わせはせずそういう解釈もあるな、という皆さまの寛大な御心の中に閉じ込めておいてください。私たち"春告鳥"からのお願いです……本日は劇団"春告鳥"による【ガーベラの花飾りを君に】初回公演にお越しいただき、誠にありがとうございました」
劇団員一同が深々と頭を下げた。
まばらだった拍手が大きくなり、スタンディングオベーションへ。
異例の監督からのお願いで幕を閉じた初回公演は大盛況と共に、必ず見るべき、新しい身分差の恋物語として評されることとなった。
ウィルト市内中の花屋はピンクのガーベラを売り出し、アクセサリー職人は劇中の花飾りを模した物を売り出し、世の中の女性のほとんどがエリーのような服装をするなど。
空前の【ガーベラの花飾りを君に】ブーム到来である。
原案者イーサンはと言うと、デュルガーの挨拶のおかげで探られることなく悠々自適に博物館スタッフの仕事が出来ている。
もちろん原案使用料がデュルガーから支払われているのもあるが。
「イーサン」
「んー?どした」
「イーサン宛に小包が届いてるよ」
休憩でバックヤードに引っ込んでいたイーサンにジーンが小包を手渡した。
イーサンは小首を傾げながら受け取ると、差出人を確認するためにクルクルと回し見るが、どこにも名前がない。
「え、誰から?」
「開けてみたら分かるんじゃない?」
「いやいや、危ないもんだったらどうすんだよ」
「うーん……私の勘だけど、開けて大丈夫だと思う」
「無責任すぎじゃね?………えぇい!どうなっても知らん!…………へ?」
イーサンは勢いよく小包を開けたが、ポンともバンとも無く、箱の中にはピンクの花のブローチと手紙が入っているだけだった。
何かを感じ取ったイーサンは手紙を裏返し、封蝋を確認した。
本と羽ペンのシーリングだ。
封蝋を破らないように丁寧に剥がして手紙に目を通す。
【拝啓 『ガーベラの花飾りを君に』の原案者様】
貴方の作品を観ました。
本当は直接会って感想を言いたいのですが、貴方も本業の方がお忙しいでしょう。
私の方も落ち着くまではまだまだ時間がかかりそうです。
お互い落ち着いた頃にこちらに遊びに来てください。
美味しいお茶とお菓子を用意して、家族一同でお待ちしております。 敬具
追伸 作中は髪飾りだったけどブローチにしたよ。このガーベラは枯れないようにおまじないをかけておいたから、遊びに来る時は付けてきてね。
【貴方の中のエリーより】
イーサンは箱からブローチを取り出してクルクルと弄る。
「……ほんととんでもねぇお茶会の招待状だな」
「ははぁん?さてはあの人からのお手紙だねぇ?」
「そうだよ」
「あら素直に認めるのね」
「だって隠す必要ねぇもん。オレ、原案者だし」
「……調子乗んなチョップ!」
「いっっった!!」
現実は小説より奇なり。
これは本当だったらしい。
信じられないって?
大丈夫、オレが一番信じられてないからな。
─完─
スピンオフ、完結いたしました。
次回は本作『ご指名いただきましたので、ガイドさせていただきます』の続編をお届け予定です。
よろしくお願いいたします。




