表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜国の姫らしいですが、田舎で静かに暮らしたい  作者: コフク
第三章 光の国へ――闇を解くために

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/56

第8話 七色会議

 会議の招集を願い出るためにエセルが去ったあと、しばらくして別の案内係がやって来た。

「本日は、来賓用の客室をご利用ください」


 通されたのは、応接室の建物とは別の、白く大きな建物の中にある客室だった。

 扉も壁も白を基調としている。磨き込まれた石と、淡い木の色、薄い金の金具が整っていて、上質だけれど、無駄が美しく削ぎ落とされているような部屋だった。テーブルと椅子、簡単なキッチンもある部屋を挟んで、寝室が二つある。

 

 案内係が下がる。

「……きれいね」

 セレフィナがぽつりと言った。

「うん」

窓の外には塔が見え、その奥には青い山肌に雪を乗せた山脈が連なっていた。塀と結界で覆われているけれど、七つの領が集まっているというだけあって、相当の広さがあることが感じられる。


 コフクが窓辺に飛び上がって、羽をふくらませた。

『すごいね。七色会議と言い、この広い部屋と言い、良い扱いだ』

 その言葉に、私は顔を上げた。

「七色会議、七つの連邦の長が集まるって言ってたね」

 それだけ大きな願いを、自分たちは持ち込んだのだ。そう思うと、また少し、胸の奥に緊張が戻ってくる。


 するとセレフィナが、ふと思い出したように顔を上げた。

「あ、そろそろ、お茶の時間じゃない?」

 私はまばたいた。

 言われてみれば、確かにそうだ。壁にかかっている時計も、いつもの午後のお茶の時間を指していた。

「こんな時こそ、よ」

 セレフィナは少しだけ真面目な顔で言う。

「落ち着くためにも」

 どんな時でもお茶を忘れないのが、セレフィナらしくて可笑しい。

(今は待つしかない。休んでおこう)

そう思って、私も少しだけ肩の力を抜いた。


 セレフィナがテーブルに置いてあった鈴を振る。澄んだ鈴の音が響き渡ると、先ほどの案内係が戻ってきた。

「あの……お茶はありますか?」

案内係は軽く頭を下げた。

「承知しました。ご用意いたします」


 扉が閉まったあと、私は思わずセレフィナを見る。

「用意してもらえるのか」

「楽しみだね」

 

 しばらくして運ばれてきたのは、湯気の立つ白茶と、小さな皿にのせられた透明な砂糖菓子だった。茶は淡い黄色で、口に含むと優しい渋みと、ほんの少し花のような余韻がある。

「白茶でございます。こちらは、光砂糖の菓子です」

 皿の上の菓子は、小さくいくつも角があって、星のようだった。角の先が光を受けてきらきらと綺麗だ。口に入れるとごく素直な砂糖の甘さが広がった。

 セレフィナはひとつ口に入れて、少しだけ首を傾げた。

「きれい、ね」

「うん」

 私もうなずく。綺麗だし、上品だ。でも、セレフィナやフルールたちの菓子のような、複雑な味とは少し違う。

 その微妙な表情に気づいたのか、セレフィナが小さく言う。

「上品だし、悪くないの。でも……」

 コフクがひと欠片つついた。

『ただ、甘い』

「そう。甘い」

「そのまんまだね」

 思わず笑って、少しだけ緊張が解けた。


 結局、夕方になってエセルが戻り、会議は翌朝になると告げた。

「本日中に整うかと思いましたが、議長を含め、全員の予定を合わせる必要があります」

「明日……でも、開かれるんですね」

 少し明るい声で私が言うと、エセルはうなずいた。

「ええ。明日、会議は開かれます」

 その言い方には、曖昧さがなかった。

「明日の朝、お迎えに上がります。会議中呼ばれても良いように、別室で待機していただきます」


 少し、前に進んだ。


 夜、客室の灯りが落ち、窓の外の白い塔が月の光を受けて青く見える頃になっても、私はなかなか寝つけなかった。

 会議は開かれる。でも、承認されるかどうかは分からない。明日、会議に呼ばれて自分が何かを問われた結果で決まるのだろうか。象たちの夫のこと。父のこと。いろいろなものが、頭の中で静かに渦を巻く。


 間の部屋へ出て行き、水を飲む。

「眠れない?」

 隣の寝室から、セレフィナの声がした。

「少し」

「私も」

 セレフィナが続ける。

「でも、来てよかった気はする」

 私はグラスを手にしたまま、ゆっくり息をついた。

 窓辺ではコフクが丸くなって眠っていた。こんな場所でも平気そうなのが、少しだけ頼もしい。

「うん。私も」

 それだけ言って、寝室へ戻った。

そして私も、いつの間にか寝ていた。


 ◇


 翌朝。

 白い回廊を、エセルに案内されて歩く。昨日よりも、こつこつと、足音が響いて感じられた。

 大きな扉の前で、エセルが足を止める。

「ここが、七色会議の間です。お隣の控室にご案内します」

 そう言って、大きな扉の前を通り過ぎ、隣の小さな部屋へ通された。セレフィナと席に座り、コフクもテーブルに留まって、出されたお茶を飲みながらしばらく待つ。


 コンコン、と扉を叩く音がして、私は思わず立ち上がった。入ってきたエセルが静かに告げる。

「会議が終わりましたので、お越しくださいとのことです」


 そのまま、大きな扉の前へ連れて行かれる。

 私は思わず喉を鳴らした。

 扉の向こうに、自分たちの願いを測る者たちがいる。昨日から分かっていた。けれど、いざその前に立つと、胸の鼓動が速くなる。

 

 エセルが扉を開いた。


 その先には、朝の光を受けた広間と、円形に置かれた七つの席があった。

 それぞれ赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、七色の光の付いた席を背に、七人の長たちがこちらを見ている。

 中央奥の、紫の席に座る初老の男が、静かに口を開いた。

「私は議長ルミエル。紫の領の長です。あなたたちの願いについて、まずは合議しました」

 声は穏やかだった。けれど、重い。

 七つの席にいる長たちの視線が、静かに二人へ注がれていた。見られている。測られている。その感覚が、肌の上を冷たくなぞる。


 私はまっすぐ前を見た。

 どんな結論でも、受けとめなければいけない。


 少しの沈黙のあと、ルミエルは続けた。

「しかし、結論はまだ出せないとなりました」

 議長は続ける。

「あなたたちが求めるのは、浄化の力。帝国の闇に対抗する力。軽々しく託せば、この国の責任が問われます」

 セレフィナも隣で息を潜めている。

「ですが――」

 そこで、議長の視線が少しだけ和らいだ。

「願いが真であり、その器があるなら、試す価値はあります」


 七つの席の気配が、わずかに動いた。


「ここに揃った、七色の長の課題を受けなさい」

 そう言うと、ルミエルは手に持っていた白金の小箱を差し出し、蓋を開いた。

 セレフィナが小さく息を呑み、私も目を瞬く。

 箱は手に収まるほどの大きさだったが、中には赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七つのくぼみが円を描くように刻まれていた。


 ルミエルは蓋を閉めてこちらに近づき、小箱を私の差し出した手の上に置いた。

「あなた方が光を託すに足る者であるか。各色の長が、それぞれの問いをあなたたちに与えます」

 ルミエルの声に合わせるように、卓の中央の光が七つに分かれた。

「課題を越えた時、その色の長は、ひとつずつ証を渡します。それを、この箱に納めなさい」


 私は、箱の表面を見つめた。白金の縁の中に、七色の窪みが静かに光を待っている。

 ルミエルは続ける。

「渡されるものは、それぞれの問いに応えた証であり、最後の試練に必要な素材でもあります」

「素材……?」

 セレフィナが思わず聞き返す。

 ルミエルの菫色の瞳が二人をまっすぐに見た。

「はい。七つの課題を越え、七つの素材を集めた後――あなたたちには最後に、それを使ったある課題を行ってもらいます」

 他の六人の長も、それぞれの表情で、私たちを見ていた。 


 私は、箱から目を離せなかった。

 七つの課題と素材。最後の課題。

 まだ何を作るのかまでは分からない。


 ルミエルは、小箱に視線を落とした。

「七つを集め、最終課題を越えたなら――その時初めて、我々は力を与えます」

 セレフィナが、箱を見つめたまま小さく呟く。

「……つまり、試されるのは力だけじゃないのね」

「我々が見たいのは、何のためにその力を求めるのか、です」

 私は、自分の胸の中へ意識を向けた。

 父を助けたい。象たちの夫を助けたい。闇を解きたい。それは、間違いなく本当だ。けれど、それだけではだめなのだろうか。


 ルミエルが最後に言う。

「これが、アルカルキス連邦七色会議の決定です」

 箱は、二人の前で静かに光っていた。


 私は、静かに息を吸った。

 これから、試される。何が来るかは分からない。

 でも、確かなことは一つ。

 ――力を得たいなら、逃げずに、越えるしかない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ