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第百四十三話 スクールデイズ・デスゲイズ

 アークエンデたちが見学させてもらうのは一年生の教室だ。

 入学前から高学年の授業なんて見せられてもチンプンカンプンだろうから、このチョイスは正しい。


 ただ、今の時期は年次カリキュラムも後半に差し掛かっているそうで、教室最後尾に特別席を設けてもらったアークエンデたちは、貸し出されたテキストと板書される何かの術式をしかめっ面で見比べていた。


 素地の魔力は破格とはいえ、学問に関しては学ばないうちは何もわからないものだ。教室の隅っこで見学させてもらっている俺はさらにさっぱり。一人で特殊技能科に行ったオーメルンの方が、まだ何をしているか理解できたかもしれない。


 体験入学というイベントはあれど、授業は平時と変わらず粛々と行われているようだった。ただ、生徒たちの間には少し浮ついた空気がある。


 理由は一つしかない。

 先ほど、ユングラント魔導学園を突如としてラスボスの一団が襲った。主人公とラスボスと未実装の隠しボスと騎士の娘二人という、誰と戦う気だよという極悪パーティによる“こんにちは、しね!”


 一応ケガ人はいなかったということだが、発生源の光景をまるで知らず、破壊の余波のみを浴びることになった大勢の在校生たちは口々に噂する。


 曰く、魔王の娘が転校してきた。曰く、国内に潜伏していたテロリストが学園を占拠しに来た……。


 そしてちょうど学園には体験入学生という部外者がいる。両者を結びつけることは、噂の段階でなら何ら困難ではない。

 しかし……。それだけじゃないんだ、問題は。


「……! ……!!!」

「?? ……????!」


 俺の位置からは、教室の何人かの男子がまるで後方に引っ張られるかのような奇妙な動きを見せているのがわかった。

 机にかじりつくようにして何とか耐えている。


 原因はそう、この世界『アルカナ・アルカディア』の主人公たるアルカナが持つ、スーパー愛され引力……!


 ――「以前も説明しましたが念のためもう一度お話しましょう! 『アルカナ・アルカディア1』では好感度設定にバグがあって、どんな攻略対象だろうとアルカナちゃんが二度、三度話した相手は勝手に好感度がマックスになってしまうのです。これによって各キャラのノーマルエンドやバッドエンドを見るには、相手との遭遇回数を完全にコントールし、選択肢も絶妙に嫌われるものを選ぶという逆ストーカーみたいな精密さが求められます。わたしがこのゲーム何かがおかしいと気づいたのは全キャラ分やった後でした!」


 はい、いつだって気づくのが遅いのが人生ですよね。ありがとうございます、やまとさん。


 この“惹かれる力”は俺もアルカナとの初対面で味わっている。ただ、学園の男子全員を狂わせるほどの大災害は今のところを起きてはいない。


 それはなぜか? 俺なりの考察がある。


 どうも彼女の吸引力は無差別範囲攻撃ではなく、範囲内の相手を識別単体攻撃しているらしい。

 トリガーは恐らく彼女への関心。今、教室で引き寄せられている男子はきっとアルカナに興味を抱いたのだ。ゲーム本編で彼女の引力に捕まった貴公子たちのように。


『アルカナ・アルカディア』におけるアルカナのルックス設定は“平凡な田舎娘”でしかない。だからこそ、普段から煌びやかなものに囲まれているイケメン以外はあまり関心を示さなかった。被害もその範囲で済んでいた。


 現在こうして一般生徒にも影響が出ているのは、やはりさっきの騒ぎが原因。

 他の面子に比べてアルカナは一人だけ覇気がない。いや邪気がないというべきか……。それが逆に浮いて見え、まわりの関心を引いてしまったのだ。


 まあ、アルカナのまわりはアークエンデたちが自然とガードする形になっているので、接触して即堕ちするみたいな在校生は出ずに済みそうだが……。


「では、この制御性魔導回路の効果を誰かに実演してもらいましょう」


 ……っと、そんなことを考えている間にも授業が進んでいた。

 教室内にかすかな緊張が走る。俺には忘れて久しい感覚だ。みんなの前で課題に答えるなんて誰もやりたがらないからな。あー見ているだけってなんて楽なんだろう。


「その前に、まずは動いている的を魔法で捉えることがいかに難しいかから……。そうね、せっかくだから体験生のアークエンデさん、お願いできるかしら?」

「はっ、はいっ」


 女性教師に指名され、アークエンデが席からぴょんと立ち上がる。教室から上がるクスクスという笑い声は、可愛いものが可愛い仕草をした時に現れるタイプのものだった。やっぱり噂なんてあてにならないな、と――。


「これから動かす的を得意な魔法で撃ち落としてみて。と言っても、これはとても難しいことだから、できなくても全然かまわないわ」


 人前で失敗を求めておきながら、にこにこと笑う教師に悪意はない。ただ本場の授業に直に関わってほしいだけなのだろう。


「は、はい。頑張ります」


 まあ当のアークエンデは、失敗しちゃいけないという()()でガチガチに固まっているが。


 教師が何かをつぶやくと、浮遊する小さなガラス板のような物体が浮き上がる。

 当てずっぽうだが水属性のバリアのようなものだろう。教師の元を離れたそれは教室の天井付近を不規則に動き始めた。あれを狙うのは確かに難しそうだ。


 生徒たちの顔には「自分があれをやらされなくてよかった」という安堵が浮かんでいる。失敗が前提とはいえ、誰も恥はかかされたくないものだ。


「さ、どうぞ。いつでも始めてちょうだい」

「はい」


 言った直後、アークエンデの目がすっと据わった。


 ビー、ボン!


 一瞬の早撃ちだった。詠唱も何もない、いつもやってる無言の奇襲ビーム。それで的は落ちた。


 えっ……。

 彼女の悪戦苦闘を予想していた教室が、一瞬で静まり返る。


「お、お見事……。ええと、ちょっと的を増やさせてもらうわね?」


 これでは本題に入れないという感じで、標的が増やされる。


 ビービービー、ボンボンボン……。

 またしてもクリーンヒット。しかもほとんど間を開けずに速射だ。


「……こ、困ったわね。優秀と聞いてはいたけど。ありがとうアークエンデさん、もういいわ。じゃあ次、申し訳ないけれど、スノーカインさん? お願いできるかしら」

「ウン Φx廿」


 今度はスノーカインが実演役となる。

 アークエンデの時のことを踏まえてか、より複雑な動きを見せる的。生徒たちからも、それはさすがに……との引いた表情が浮かぶ。


「では、どうぞ」


 許可が出た直後、スノーカインは無造作にデコピンで魔法の礫を放った。狙いは正確だったが直前で標的が突如向きを変える。さすがにはずれる――教室中がそう思った瞬間、スノーカインの魔法もまたぐにゃりと軌道を変え、標的を撃ち抜いた。


 ええっ……。

 再び言葉を失う生徒一同。


 今のは……カナブンの亡霊だったな。光の中に薄っすら見えた。学園のどこかで死んだやつを引っ張ってきたんだろう。

 彼女の操霊術は撃って終わりではない。そこからいくらでもコントロールできる。この授業との兼ね合いは……最悪。


 どこか呆けたような顔の教師が言う。


「次……アルカナさん」

「はっ、はい……」

「失敗して。お願い」

「えっ、はあ……」


 三人目のアルカナが実力相応に的を外し、「ありがとう。ありがとう……!」と教師から手を握られ感謝されていた。


 うん……まあその、先生は悪くない。最初に指名した二人がまずかった。実戦値は歴戦の英雄級。経験値も神話の登場人物レベル……。これでまだ最新の魔導理論は導入されていないわけだから、正式に学問を修めたらどんな魔人が生まれてしまうかわかったものじゃない。これは学園側も見逃せないはずだ……。


 そうして平穏に(?)一つの授業が終わり、生徒たちは別の教室へと移動を開始する。

 場所の変更は頻繁に行われるらしく、他の教室からも生徒がわらわらと出て来ていた。


「あなたたちもついてきてね」とアークエンデに声をかけてくれたのは、藍色のロングヘア―をした生真面目そうな女生徒だ。すごく学級委員長っぽい。とてもいいですね、はい。


 ただ、少し警戒しているように見える。実演のあれを見て噂と照らし合わせているのか、それとも何か別の――。

 と。


「なんかさ、生意気じゃない? あの子たち」


 不意に悪意のある囁きが俺の耳元をかすめた。

 さりげなく目をやれば、さっき同じ教室にいた女生徒二人が意地の悪そうな顔でアークエンデたちの後ろ姿を見つめている。


「ちょっと後ろから小突いてやろうよ。出る杭は打たれるって教えてあげないと」

「いいね、知らないフリしちゃえばバレないし」


 クスクスと邪悪な笑いを交わし、彼女たちはアークエンデたちの背中めがけて魔法を放った。


 おい、まさかいきなり……!?

 信じがたい光景に俺が目を剥いた時には、光弾はもう子供たちの間近まで迫っている。


 瞬間!


 <煉><〇>)(Φ_廿


 バッ! とアークエンデとスノーカインが二人同時に振り返った。


 瞬間的に放たれた眼光だけで女生徒たちが放った光弾は掻き消え、その暴威は床を波打たせながら犯人たちに逆襲する。


「ひいっ!?」


 あまりの圧に犯人たちはその場で尻餅をついた。魔獣の眼光は、彼女たちが必死に縮こめた足のぎりぎり手前で、計算されていたかのように消失した。


「アークエンデ、スノーカイン、急に立ち止まってどうしたの?」


 何も知らないアルカナが二人に素朴な顔で質問している。


「何でもございませんわ」

「蚊が飛んでた……」


 本当に何事もなかったかのように答え、歩いていく彼女たち。


「なっ、なに今の……!」

「絶対やばいってあいつら……! ……に……知らせ……!」


 犯人たちはお互いを身代わりにするみたいに掴み合いながら、ほうほうのていで逃げていく。何か言っていたようにも聞こえたが……舌がもつれすぎてて言葉になってなかった。


 しかし……。いくら目立ったからと言って、入学すらしていない子供に手を出してくるとはとんでもない生徒たちがいたものだ。


 ピコーン、ピコーン。


 ――「このユングラント魔導学園は、各地から優秀な人材が集まってきています。故郷では神童ともてはやされた子たちも多いですからプライドも当然高いし、生徒間の衝突はたびたび起こっていると設定資料集にも書かれています。特にイケメンたちの争いは見所ですよぉ。特に二年生のベリアンという不良少年は、切れた頬から流れる血がセクシーでぇ――」


 あっ、長くなりそうなのでそこまででいいです。やまとさんありがとうございます。

 ううむ……。まあ他ならぬ正史アークエンデがそういう生徒の代表格でもあったわけだしな……。ハリー〇ポッターの学校だって結構荒れてた。けど、それにしたって初日でこれは、この学園思ったより治安が悪いような……?

 

なんだその哀れな術は……。


※お知らせ

里帰りのアレコレのため、次回投稿は5月8日を予定しています。投稿の際は活動報告とXでお知らせしますので、そちらで確認していただけると幸いです。

少し間が空いてしまいますが、また見に来てもらえるととても嬉しいです! それでは次回でお会いしましょう!


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― 新着の感想 ―
アルカナさん、ちょっとした生物兵器では。 こんなん放り込まれた学園側と生徒は被害者なんじゃ。 乙女ゲーのヒロイン、おそろしい子……。
リス「ネキセニキの里帰りかぁ…僕とメガトンコインの呪いあるけど無事に帰れるかな?」 鎖マン「すっげぇ他人事みたいに言ってやがるコイツ…!張本人のくせに!」 ロビカス「我にもプニキからたまには帰って…
アルカナちゃんの極まった愛されパワーはあのヴァンサンカン伯爵様だって吸い寄せたからなぁ… 後、学園もので引き合いに出される例のホ○ワーツは治安が悪いってレベルじゃ無い…致死性の能力持った動植物が自生し…
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