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第百二十六話 原初書庫

 文様病の治療法発見から糸を紡ぐようにして繋がった今回の出来事。

 シノホルンを連れて俺たちが向かった先は、すでに行き止まりが確認されている〈リバースヘブン〉旧ルートだ。


 正式な〈リバースヘブン〉入りは初めてとなる。ある意味この世界でもっとも謎に満ちたダンジョンということもあって、少年の冒険心真っ盛りなオーメルンなんかは大層浮足立った様子だ。あと大人になっても好奇心の制御が利かないエクリーフ女史も……。


〈リバースヘブン〉の入口は、堂々とした地下階段から始まっていた。

 周囲は砂をかぶった多数の遺跡に囲まれており、ここ自体が何らかの施設であったことがうかがえる。


「行き止まりっつっても、すべてをしらみつぶしにできたわけじゃねーからな。まだこっちを掘ってるヤツらもいる」


 ビールケがそう説明してくれて早々、俺たちの前に現れた人影があった。


「おっ、てめーら……」と警戒した態度でビールケに声を発した人間族の男たちは、彼女のすぐ後ろにいる少女を見るなり「聖女様!」と全員が一本の柱のように背筋を伸ばして固まった。


「おう、シー様の前で喧嘩はご法度だかんな。わかってんだろうな」

「(わか)ってらあ! てめーこそしっかりご案内しろよ。ドワーフはツアーガイドまでガサツだからな」

「なんだとー」


 ビールケと荒っぽい軽口を飛ばし合う男たちは、ひとまずアイゼン団長の不戦協定を守ってくれているようだ。強面に不気味すぎる笑顔を張り付けて見送られ、俺たちは大都市の地下鉄入口並の広々とした階段を下っていく。


 我がライフラインやまとさんの配信によると、〈リバースヘブン〉は何パターンかの外観を持った、時に時空が狂ってるんじゃないかと思うような地下空洞の連続だという。迷路みたいな階もあれば、広々とした場所もあり、果ては町の廃墟のようなところまで。


 例の、洪水伝説が実は大地自体を練り直している説を採るならば、ここは実は単一の地下施設ではなく、()ねられまくった世界のしわ寄せが結果的に集中した地点なのかもしれない。


 まあ、真相など知るすべもない俺たちは、〈リバースヘブン〉と名づけられたこのダンジョンを潜るのみだ。


 階段を下りた俺たちの前に広がったのは、入口にも負けない幅広の通路だった。


「この材質、新ルートの入口と同じつるぺたですわ」

「ああ。やっぱり同じもんなんだな」


 子供たちがそう話すのはあのコンクリート風の石材だ。ここでは壁だけでなく床や天井までつるりとコーティングされている。やはり現代からすると異質な外観と言える。


「みんな明かりは持ったな。広いエリアもあるからはぐれんなよ」


 ビールケが腰のランタンをくいっと押し出して示す。これは今回全員が持たされている装備で、中には光を発する不思議な石が収められていた。燃料切れを起こす心配もなくダンジョン探検には必須のアイテムだ。


「ザイゴール、あなたの隣にいてもいいですか……」


 とは言え、普段は日の下を歩いている人間には、地下に湛えられた底なしの闇は恐ろしいものだろう。シノホルンがおずおずと俺のそばに寄ってくるのを、俺はもちろん喜んで歓迎しようとした。が。

 それを止める手のひらが一つ。


「シノホルン司祭は最近ちょっとお父様にべったりすぎですわ。護衛のためについてきたソラとルーガが暇してしまいますから、そっちに守られてくださいまし」


 アークエンデがパチンと指先を一つ鳴らすと、シノホルンの左右をソラとルーガがガシィと固める。


「りょーかい」

「そうだ。こっちに来いシノホルン」

「あーん……」


 おお、シノホルンがアークエンデの仕切りで引きずられていく……。ちょっと悪役っぽい仕草だったが、ここは人を使う立場としての態度が身についてきたということで一つ。

 それにしてもシノホルン司祭、あなた正史通り聖女の通り名を得たのに何か子供っぽくなってませんか……。


「ムフン。ではお父様の空きスペースはわたくしが埋めますわ」


 そして俺の横に陣取るアークエンデ。右肩には変わらずスノーカインが居座っており、やったな伯爵、これでいつでもフライングヒューマノイドに進化できるぞ。


「なんか……こっちに進めって言われてるみたいな通路だ。道を知らない相手にも伝わるように」


 と、そんな小さな争奪戦をよそに真っ当に遺跡を分析しているオーメルンもいる。早くもこのダンジョンの製作者の意図が気になるようだ。でもなあ息子よ、ここはかの悪名高き〈リバースヘブン〉だ。そういうことあんまり考えてると……。


 ピコーン、ピコーン。


 あっ、そら、やまとさんからのアドバイスだ。


 ――「このゲームってホント意味ありげなものだけは豊富にあるんですよ。でも、あるだけですからね! 意図とか導線とか読んでも絶対裏切られますから! 入口だけなんですよ毎回! わかってんですけどねえわたしも!(半ギレ)」


 以上、毎回先読みしては裏切られているお姉さんからのありがたいお言葉でした。


 でも、裏切られても許しちゃうんですよね?


 ――「なぜかねえ!」


 ほどなくして現れた階段を下りて地下二階へ。


 いきなり何もない広々とした空間に出る。ロンギヌス高地の人々もこれにはさすがに辟易したのか、あちこちに共同の明かりを設置し、階下への道を示している。空間のど真ん中を横切る照明の場所からしても、このフロアにめぼしいものは何もないようだ。


 まるで運動場か地下駐車場。

 ビールケも真っ直ぐ階段へと向かい、地下三階へ……って、このペースでやってたら一万階下る前に寿命が尽きてしまう。巻きで行こう。


 俺たちが目指す場所は地下五階にあった。

 そこは今までと違ってもの凄く洞窟感のあるフロアだった。通路自体も手掘りで、どうやらここは何らかの原因で天井から押し潰されてしまったフロアらしい。ただ部屋だけは地中に残っているので、過去の戦団たちが人力で通路を繋いだそうな。正直、獣人やドワーフのパワーがなければやってられないだろうなとは思う。


「ん?」

「お?」


 と。ここでまた俺たちは別の戦団と遭遇する。

 ビールケが目的地まであと少しと説明した矢先のことだった。


「アイゼンとこのバカ(ぢから)娘ぢゃねえか」

「げっ、ラッドか」


 ネズミ――というかカピバラ系の獣人だった。図体もかなりの大きさで、他数人いる獣人たちも皆同じ顔だ。


「ほーう……(ΦωΦ)」と何やらタマネたちが興味を示しているのは、やはり猫とネズミの関係なのだろうか。


「何でこんなとこにいんだ? あたしらは聖女様を案内する途中なんだ。どけよ」


 ビールケがつっけんどんに言うが、ラッドと呼ばれた獣人も引く気はないらしく、


「この先の“開かずの間”に行くつもりだろ? おらたちも行こうとしてたとこだよ。新型のアタッチメントができたから、これでいよいよってな」


 言ってカピバラの一匹が見せたのは、自らの歯に取り付けた金属の装備だ。


「何でおまえが“開かずの間”のことを知ってんだよ。あたしらが隠してたのに」

「キヒヒッ、ネズミの鼻をバカにしちゃいけねー。聖女様の邪魔をする気はねえけど、先に来たのはおらたちなんだから、まずはこっちから試させてもらうぜ」

「そんなもんつけてもあそこは一ミリも掘れねーと思うけどな。まあ、シー様の邪魔しねえなら好きにしろ」


 思いがけず同行者ができてしまった。ビールケたちの隠蔽を見破ったあたり、なかなか抜け目のない人物のようだ。さすがに、俺もオーメルンもタマネもいる前で抜け駆けはさせないが。


 そこからほんの十メートル進んだところで、俺たちは目的地へとたどり着いた。

 金属質の重苦しい色の壁が、掘られた岩の壁面から露出している。

 そのいかにも硬そうな表面に何か掘られていた。天使文字だ。


「今まで何が書いてあるのかも読めねーし、壁を掘ることもできなかった。だがそれも今日で終わりだ。食らえ、おらのアルティメットスーパーマエバーーーーーッッッ!」


 ガキン!!


「アーッ!!」


 痛ってええええええ……! 大口を開けて壁へと立ち向かったものの、ラッドは頭蓋まで響く痛烈な金属音と共に、こちらの足元まで弾き返されてきた。間違えて硬いものを噛んでしまった記憶のある人はわかるはずだ、このガチン! という痛み。


「じゃシー様、こんなバカほっといて頼むよ」


 のたうち回るラッドを最初からいなかったレベルで無視し、ビールケはシノホルンを壁の前へと引っ張り出した。一応、シノホルンはラッドを心配する素振りは見せてくれたことは追記しておく。


「えーと、これは……。緊急用……シャッター……パネル……右、左、左、下……? どういうことでしょう?」


 読めはしたものの意味まではわからず、シノホルンは目をぱちくりさせた。読めるけど意味不明というのは俺にも身に覚えのあることだ。しかも時代な異なる相手となればなおさらに。


 パネル……パネルか。今よりもっと高度な文明の産物だとすると……。


「シノホルン司祭、少し試してみていいか?」


 俺が挙手すると皆から期待の視線が注がれる。いや、そんな目で見られても何の根拠もないのだが……。


 ピコーン、ピコーン。


 ――「これはひっかけですね。そういう雰囲気を楽しむだけにしておきましょう。ほしいところに何も無いのが煉界ゲーの鉄則……」


 パネルらしきものがないので、天使文字の上に指を置いて右、左、左、下とスワイプしてみる。


 ガコン、と内部で何かが動く音がした。


 ――「!!!!!????????」

『動いた!』


 俺たち全員と、そして思いの出の中のやまとさんが驚愕する。

 次の瞬間、壁から発された光が俺の体を包み込んだ。何だこれは。何をされている?


 それがほんの数瞬で終わると、引き戸が開くように目の前の壁が左右にスライドした。次の壁は上下に、その次の壁は斜めにと、まるで堅固なシャッターが一枚一枚剥がされていくように障壁が解除されていく。

 そうして現れたのは……。


「書庫……!」


 シノホルンが喜びの声を上げた。

 何枚もの壁の先に現れた小部屋は、四方の壁を棚で埋められ、内容物もびっしりと詰まっている。


「た、宝の山よ~!」とエクリーフが舞い踊りながら入室していくのに対し、ビールケと、それとちゃっかり中をのぞいていたラッドは「本かぁ……」との微妙な反応。


「本ぢゃいらねーや……。もっとすげえお宝が眠ってると思ったのに」


 テンションを一気に落としながらとぼとぼと引き上げていくカピバラ戦団を見やりつつ、俺はビールケに聞いてみる。


「本は戦団に人気ないのか?」

「ねえな。まず読めねーし。読むのもめんどくせー」


 繰り返しになるが、ロンギヌス高地では眼鏡キャラでも“政治5”どまり。ステータスの最大値は14なので半分以下だ。


「壁にあったのも古い文字なんだろ? しかも人間族の。じゃなおさらあたしらには読めねー。もっと武器とかキラキラしたもんだよ、ほしいのは」

「知識も大切なものですよ。わたしが薬を作れたのも先人の知恵のおかげです」


 ビールケの不満を聞いたシノホルンが、いかにも優等生らしく諭す声を向ける。


「うっ、それはそうかもしんねーけどシー様……。読んでると頭痛くなるんだよ。そうだ、ルーガもそうだろ!?」

「わたしは勉強は嫌いじゃない。一緒にするな」


 脳筋仲間に抱き込もうとしたルーガにまでつれなくされて、ビールケの顔が歪む。ルーガはゴリラ級の筋力があるためドルマゴム戦団でも細身のドワーフと勘違いされている節がある。

 しかし彼女は、例えば不真面目なソラよりもずっと勤勉だった。ユングレリオ陛下の差し金なのかポニテ眼鏡ルーガでいる日もあり、その時は屋敷の廊下にメイドさんが点々と倒れている異様な光景が見られる。


「なっ、何これ~!?」


 と。そんなやり取りの外側から悲鳴が上がり、俺たちの首を一斉に振り向かせた。

 エクリーフが早速棚から一冊を抜き出し、開いてみたようだ。

 だが――。


「本が光ってるぞ……」


 オーメルンのつぶやき通り、開いたページから光がこぼれ出ていた。いや、そもそもそれは本ではなかった。

 本の形をしたケース。フタを開けてみれば、そこにあったのは光る極薄の石板――。

 いや……“タブレット”と言った方がいいか……。


 俺も本を一冊抜き取り、タブレットを取り出す。

 うっ……何だこれ。手に持ってる感じが一切ない。映像だけが指に張り付いているみたいだ。振り落とそうとすると、今度は空中に静止状態になる。俺が知っている科学技術よりもさらに先。これが、洪水前文明の技術なのか……?


 表示されている文字列もまた天使文字だった。

 だがここまで来ると、彼女には文字は読めても意味はチンプンカンプンかもしれない。

 素人が専門用語の羅列に溺れるように。


 不意に、視界の横からすっと伸ばされた手がある。

 俺の肩にじっとしがみついているスノーカイン。


 彼女が映像を指先で撫でると、ページがめくれるようにして違う文字列が現れた。映像やロゴマークも。

 これの使い方がわかっている。やはりスノーカインと同時代の発明品……! 


「えっ、えっ、それどうやったの~?」


 エクリーフも真似をしてスワイプを試みているが、指は空振りするばかりでうまく反応しないらしい。経年劣化してしまったものもあるのだろうか?


「お父様! こっちにある本は普通の本ですわ!」


 部屋の反対側から、アークエンデが高々と一冊の本を持ち上げた。棚のほとんどを埋めるタブレットケースとは異なり、見るからに年代物。そして質感も馴染みのあるものだった。


「あっ……! その装丁は教会のものです!」


 シノホルンが嬉々として駆け寄っていく。

 なに……? 教会の本がここに?


「すごい。すべて天使文字で書かれています。これなら読めそうです。拠点に持ち帰ってもいいでしょうか?」

「当然だぜシー様! どうせ誰もほしがらねー!」

「あっ、じゃあこの光る本も一緒に~」


 ホクホク顔で戦利品を回収しにかかる面々。


 だが、俺は一人不景気な顔を晒したままだった。

 ここは前文明が遺した書庫のはずだ。洪水後に発足したセルガイア教団の本があるのはいささか奇妙である。天使文字が読める以上、絶対に入れないとは言い切れないが……。


 ともあれ、貴重な歴史の品を回収し、俺たちはこの神話以前の不思議な書庫を後にしたのだった。


もしかしたら子供らの中ではアークエンデに次いで総合力が高いかもしれないルーガ。

・所有技能

怪力

勤勉

メイド殺し

性癖破壊(創造)

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記憶の中のやまとさんが呼び掛けに応えて発見に驚いとる。 もはやイマジナリーフレンド。 セルガイア以前のセルガイア教と言える存在の示唆は今まで色々と敷かれているが、原作ゲームでキリスト教とユダヤ教の関…
おましょうま! >みんな明かりは持ったな この手のセリフを見ると丸太が脳裏に浮かんでしまう件 >シノホルンがおずおずと俺のそばに寄ってくる 毎度こういうので成功体験をしてるので味をしめてるなw …
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