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第百二十七話 深層ロンギヌスのロンリネス

「よーし、じゃあ今日から営業再開だ!」


 いかつい外見に似合わずお茶目なジョークを余裕を見せたのは、我らがドルマゴム戦団の“帰ってきた”団長アイゼン。


 応! との一斉呼応にて、作業員全員が船の錨かと思うような巨大ツルハシを肩へと担ぎ上げる。

 手掘りとはいえドワーフの怪力にこのバケモノ工具。もうほとんど小型の削岩機と言って過言ではない。


 文様病の治療は順調に進み、大抵の者たちは現場に復帰できるようになった。ドルマゴム戦団も本格的に遺跡発掘戦の再開だ。もちろん奪い合いはなしの純粋な競争で。


 そうして煉界の門の捜索が始まる一方で、わーくにの知略チームによる古文書分析も快調で、


「まだ冒頭しか訳せていませんが、ロンギヌス高地での生活について詳しく書かれているようです。これが聖庁に認められれば、箱舟がたどり着いたのはこの地という話が定説になるかもしれません。すごい大発見です。それと……この本を書いたのは、もしかしたら天使文字の辞書を残した人かもしれません。ニュアンスというか雰囲気というか、訳がすごくしっくりくるんです。えへへ……」


 と、シノホルン司祭はちょっと嬉しそうに説明してくれた。


 筋肉と知性による二方面捜索。これで煉界への道を探す。忘れてはいけない。俺たちの目的は煉界への到達。そしてイクシードの危機を阻止することだ。


 もし一つ懸念点があるとしたら、例のヨハン率いるロンギヌス大戦団。彼らは疫病の被害が極小だったことから不戦協定には参加してない。彼らの妨害がある可能性も考慮しなければ。

 そうして俺たちドルマゴム戦団の発掘チームは元気よく拠点を発ったのだった!

 

 ※

 

 新ルートの縦穴を皆で下り、例のスターゲイジービル地帯も通過。ドワーフたちからすれば見慣れた光景だろうが、


「やっぱこれだぜ!」

「いつもの!」

「団長の顔より見た景色!」


 と大喜びだった。この中には病に侵され、もう二度と立ち上がれないと覚悟した者も多い。再び発掘探検に出られる歓喜はひとしおだろう。

 そんな同胞たちを見ながら、俺のそばにアイゼン団長が話しかけてくる。


「おめえらを最初に見た時は、不景気なツラの男と女子供ばかりの変な集団だと思ったが、思いもよらぬ力を秘めてやがった。世の中、見た目通りじゃねえことが山ほどあるもんだ」

「おう、特にシー様! シー様が一番すげえ!」


 ぴょんぴょん飛び跳ねるようにしてビールケが話題に乗っかってくる。


「オウ、シノホルン先生がお気に入りか。バカ娘」

「ったりめーだろ! シー様は最強なんだぞ。あの病気をやっつけたんだ! それから“先生”じゃねえ。“聖女”シー様だ! 二度と間違えんなアホ親父!」


 彼女はそう言って一人でずかずかと進んでいってしまう。


「ちょっと前まで親父が世界最強だったのに、寝て起きたらチャンピオンが入れ替わっちまったな」


 アイゼン団長の苦笑いに、俺もつられて微笑む。


「あれはここで生まれてここで育った。外の世界を知らん。親よりデカくてすげえものがこの世には五万とあるって、ようやく気づいたのかもしんねえ」

「そうやって子供は羽ばたいていくものです」

「旅が必要な時期、なのかもしんねえな……」


 少し嬉しげで寂しげな彼の声音が、俺の内に次は我が身という思いを去来させる。

 親離れか。


 アークエンデはユングラント魔導学園行きがほぼ決まっている。

 けれども彼女の経験、実力、そして功績はすでに同世代で並ぶ者はないだろう。広い世界ですらもう彼女には狭いかもしれない。

 そんな彼女が本当に羽ばたく時。俺はそれを笑顔で見送れるだろうか……。


「お父様」


 温かいものにふわりと手を包まれ、俺はいつの間にかそばに来ていたアークエンデへと顔を向けていた。彼女は優しく微笑む。


「アークエンデは離れませんわ。お父様から離れたら、わたくしは半分だけになってしまいますもの」

「半分かい?」

「ええ。わたくしの半分はお父様への愛でできていますの」


 これはこれは……。こう言うと自惚れが過ぎる感じだが、半分とは彼女にしては控えめだなと思ってしまった。過激なこの子のことだから、てっきり全部とか言い張るかと。


「そして、残りの半分はお父様からの愛でできているのですわ」

「あっ……そっかぁ……」


 娘は愛の少女であった。


「絶~対、離れませんわぁ~……<煉><〇>」

「あの、アークエンデさん、そうやってお父さんの腕にぶら下がって歩くのは危ないから……」

「……Φ_廿グイッ


 オォン。スノーカインも反対側からぶら下がってバランスだけは取れている。


 そう言えば、前回の書庫に入ってからスノーカインの様子が少し変なんだよな。いつも変と言えばそうだが……。何かを考え込んでいたかと思えば、いきなり俺に飛びかかってきたりもする。彼女の時代の文明品と出会ったとすれば、思うところは少ないどころではないのだろう。


 そうしているうちに、発掘チームは現在掘り進んでいる最新のエリアまでやってきた。

 手掘りのトンネルが迷路じみた複雑さを成している。下への道が見つからず、多くの戦団が横穴縦穴を掘りまくった結果らしい。


 そこで別の発掘チームと行き会った。


「おお!ドルマゴム戦団に目の下のクマの男じゃないか!」


 二メートルを軽く超えるクマ獣人の集団だった。俺は彼らの顔をまったく見分けられないが、むこうからはこちらがわかるらしい。親しげに握手の手を差し出しながら歩み寄ってくる。


「同じクマとして誇らしいよ。よく病気を倒してくれた」

「何言ってんだオメー」


 アイゼン団長が素でツッコむくらいの頭脳の持ち主が彼らだった。


「オメーらまたそこ掘ってんのか? 前に何も出なくて諦めてたじゃねえか」

「そうなんだが、いい感じのところはロンギヌス大戦団に取られちまっててな」


 なにっ。ロンギヌス大戦団だと。我が発掘チームに緊張が走る。


「聞いてるか? あそこは最近、連続でアタリを引いてるらしい。かなりシャクだがあいつらの尻尾を追いかけるのが一番確実かもしれん」


 俺たちは顔を見合わせた。ロンギヌス大戦団は好調。単なる幸運なのかそれとも……?


「連中の発掘ポイントはどこだ? 北東の右の左の下の上だ」

「わかった。ちょっと見てみる」


 そんな前後前前後前後みたいな説明でわかるのか……。


「ヴァンサンカン。聞いた話じゃ、おまえらだけならヤツらの発掘現場まで通してもらえるんだろ?」

「一応、そう聞かされてはいます」

「上手くいけばヤツらとも手を結べるかもしれん。頑張れ」


 期待を抱きつつ現場へと向かう。

 それまであっちこっちへと延びていたトンネルが、ある時から急に確信を得たかのような一本道になった。


 その新たに掘られた道の先。立ち塞がるようにして、数人のドワーフがたむろっていた。うち一人はアイゼン団長にも負けない大きな石角を持っている。


「おめぇはランペルツ……! んなトコで何してんだ?」


 アイゼン団長が驚きの声を上げると、名を呼ばれたドワーフは顔をしかめて応じた。


「おう、アイゼンか。くたばらなかったらしいじゃねえか」


 声には不服と不満が溢れている。が、それはドルマゴム戦団との不仲を表すものではないようだった。


「ここに立ってるってことは見張りか? ロンギヌス大戦団の団長であるおめぇが?」


 そうだ。どこかで見たことあると思ったら……この男、『アルカナ・クロニクル』の一勢力〈ロンギヌス大戦団〉の君主だ……!


 武力12、政治2のスーパー脳筋大将。率いる兵種のタフさもあって、武力最高値14の相手にも引けは取らない。

 一番の強敵は誰も内政ができないので速攻で他国に殴り込むしかない序盤選択肢の狭さ。が、戦略SLGとしては御腐人でもできるレベルで簡略化されたシステムとの噛み合いはいい。もちろんこんな劇画ヒゲオヤジを煉界女子は選ばないが……。


「一番強いヤツが門番をしろと言われたんだよ。うちの作戦担当にな」


 ヨハンしかいない。


「素直に従ったのか?」

「仕方ねえだろ。ヤツが立て続けにアタリを引くせいで人望がむこうに集まっちまった。オレが駄々こねて戦団を割るわけにはいかねー」


 脳筋な外見の割に団長としての度量はしっかりしているようだ。伊達に複数の種族を束ねてはいない。


「ランペルツ、こいつは人間族のヴァンサンカンだ。そっちの作戦係から何か聞いてるか?」

「ほう。そいつとその仲間に関しては通していい――というか会いに来させろと言われてる。通りたければ通っていいぜ。ただし、おまえらだけな」


 アイゼン団長はそれに不服を唱えることもなく、俺たちに向かってあごをしゃくった。


「オレたちゃあ近くを掘ってるから、帰りに声をかけろ」


 そう言い残してトンネルを戻っていく。ロンギヌス大戦団とは争わないと言っているのだ。不戦協定を結ばない相手であっても。彼らは争いに疲れたのだ。今は、少しだけ。


 ランペルツたちに道を空けてもらい、その先へ。

 ほどなくして、広々とした空間に出る。天井も見上げるほどに高い。元からあった空洞だろう。

 あちこちに強い照明が設置されている。


 数十人規模の坑夫が奥で穴を掘っているのが見えた。そしてそれよりもずっと手前に――ヨハンは一人ぽつんといた。

 驚愕すべきは、この環境でも読書に耽っているそのふてぶてしさではない。

 彼が腰かけているもの。そしてその背後で山のように積み上げられているもの。


 おびただしい数の、首無しセルガイア像……!


「ヨハン」


「やあ」との返事は、彼が本からこちらへ目を移す前に告げられた。俺がここに来ることに何の驚きもない。


「久しぶりだね伯爵」


 彼の様子は前に会ったままだ。日陰で育ったような色白な肌に、ラッフルのついた高級そうなシャツ。革のズボンにブーツ。華美に着飾るのとは違うが、洗練された貴族の品格と出で立ち。


「ヨハン様。ごきげんよう」

「アークエンデか。相変わらず愛らしく気品に満ちて何よりだよ」

「ありがとうございます。ヨハン様もお元気そうで」


 こんな地の底でも日の下と変わらぬ挨拶を交わすアークエンデや他の面々は、ヨハンに対する悪印象はない。王国第二位の大貴族ゴルゴンパイクの男は、むしろ無条件で尊敬され首を垂れさせる相手だ。


 聞きたいことは色々あるが……。


「ヨハン、その像はどうした?」


 俺はまず彼が尻の下に敷いているセルガイア像についてたずねた。


「文字通り山ほど出て来てるんだよ。これだけ数があるとありがたみもなくてね。あの司祭はいるかい? 怒られたくないから、いるなら立つよ」


 シノホルンはここにはいないと告げると、彼は臆面もなく尻の位置を置き直すにとどまった。いつも教会を手伝っているアークエンデやオーメルンはいい気分ではないだろうが、これはさんざん敵として叩き潰してきた首無しバージョンでもある。表情は複雑だ。


「どうして地面からセルガイア像が出てくる? それも首のない状態で」

「全然わからないね。失敗作を地中深くまで埋めたんじゃないか?」


 正解でないことはわかっている口振り。この像の謎も何かに関わっているんだろうな……。


「この中に動き出すものはあったか? 攻撃されたりだとか」

「ない。あったら呑気に尻を載せてないよ。畏れ多い」

「よく言う。古い本を探してるんだろう?」


 ぴくりと、これまで継続されていたヨハンの微笑に変化があった。

 より、鮮明な笑みに。


「ああ……。僕は前々から思ってたんだ。アレが根っこから潰れたら世の中どうなるかって」


 セルガイア教団のことをアレとぼかしたのは、子供たちとの無用な争いを起こさないためか。いくらマッチとポンプを常時見せびらかしながら歩く男でも、子供と無益なケンカはしたくないらしい。


「見たいんだ。大きすぎる支えを失った世界はどんな形で崩れるのか? いつも頭の上にあると思っていた空が落ちてきたら、人々はどの方角に逃げるのか? 伯母上も、うちの家族も甘いよねえ。ちょっと政治的に有利になれればそれでいいなんてさ……」


 恐ろしい男だ。こいつが無邪気に笑えば笑うほど、顔にできた陰が深くなっていく気がする。


「……どこまで本気だ?」

「アハハ、別に妄想くらいしてもいいだろ? ロンギヌス写本が裏社会じゃ有名なガセネタだってことは知ってる。まあ我が家はその裏側が本体みたいなものから。それをして実在をキャッチできないなら信憑性もその程度なのだろう。ただね……」


 ヨハンは繊細な指先を耳にあてた。


「何かが聞こえるんだ。ここに来てから……いや、来る前からずっと。何かに呼ばれているような……」


 耳ならば俺にも特別な聴覚がある。盗賊本来のスキルを竜血が非現実な方面にまで拡張した。しかし今、澄ましてみても聞こえるのはせいぜい坑夫たちの作業音くらいのもの。それでも単なる幻聴と決めつけるには、ヨハンはあまりにも特異な人間だ。


「何だか暗い海で輝く灯台の光のように感じられてね。その方角に穴を掘らせている。すると色々出てくるんだ。不思議だね」


 ヨハンは異能と呼ばれる魔法とは別体系の神秘の力を持っている。ゴルゴンパイクの人間に多いそうだが、それと関係があるのだろうか。


 それと灯台の光……? あれ、何だったかな……。何だか似たようなニュアンスの言葉を最近どこかで聞いたような……。


「その様子だと君には何も聞こえないようだ。では、あの子ならどうだ?」

「なに? どの子だ?」

「ファーバニス島の住人だった子だ。日焼けして、灰色の髪の」

「ルーガ!?」


 意外な指名に思わず声が上擦る。


「上にはいるが地下には来ていない。どうしていきなり彼女のことを?」


 二人の共通点はあるようでない。一時、同じ島の同じ森に住んでいた。だが面識はほぼなく、ヨハンがルーガのことを覚えているだけでも驚きだ。


「なぜかね、近しいものを感じるんだ」

「ルーガが? おいおい、まさか彼女までゴルゴンパイクの子とか言うんじゃないだろうな」

「どうだろうね。少なくとも同じ血という感じではない。悪辣な蛇の血というわけではね……。僕にもよくわからないが、もっと素朴な似た者同士感があるんだ」


 俺は思わず子供たちに振り返る。屋敷に入ってからのルーガは、俺よりも他の大勢と接する機会が多い。が、二人ともピンと来た様子は一切なく、首を横に振るばかりだった。


「彼女に何か特別な力があったりは? 僕の〈エンジェルトーク〉のような」

「ない。強いて言うなら、力が超強い。でもそれは普通に両親譲りだ」

「力か。ふむ……。なら、まあ僕の勘違いか……」


 さしたる執着もなく彼は持論を撤回した。よかった。ゴルゴンパイクの隠し子がうちの屋敷でメイドさんたちを篭絡してるとかになったら、もう政治的に収拾がつかない。


「それにしても君は相変わらず奇縁に恵まれていると見える。うちの狩人から聞いたけど、その子……スノーカインというのかい?


 改めて彼が振った話題は、見慣れない異界の巫女服に身を包んだスノーカイン。まあヨハンのような好奇心旺盛な人物なら放ってはおくまい。


「僕はヨハンという。よろしくねスノーカイン……おっと」


 ヨハンの挨拶の途中で、スノーカインは俺の肩の後ろに逃げ込んでしまった。警戒する小動物のように、そこからそっと相手をうかがう。


「どうしたスノーカイン?」

「パパ。この人、何だか怖い」


「パパ?」と聞き返す言葉の中でヨハンはくすくすと笑った。


「面白い子だ。向こう側は透けて見えるけど、中身は今まで会った人間の中で一番見えない。希薄というのとも違う。ふむ……“波長が合わない”“ずれている”“すれ違う”そんな感じだ。そんな彼女が何者なのか、多分教えてはくれないんだろうね?」


 俺たちの目的をアンサーに伏せたことを踏まえての発言なのだろう。だが。


「いや、ヨハン、実はこの子は、煉界の子だ」

「……なに……?」


 俺があっさりとそれを告げたことに、さしもの彼も一瞬理解が飛んだ様子だった。うちのメンバーからも驚きの視線が集まるのを感じる。


 しかし……さっきのやり取りでわかった。ヨハンはこの地に何かの適性を見せている。地下を掘ることに対し彼の協力は必須だ。そのためにはこちらも相応のものを差し出さないといけない。


「彼女は煉界にいる仲間の元へ戻りたがっている。ここにはその門を探しに来た」

「煉界の門ということかい……?」


 薄笑いをやめ神妙な顔つきになるヨハン。普通なら笑い飛ばすか口から突然コーヒーを吹くような突拍子もない話題を、真剣に噛み砕いている。それが彼の怖いところだった。


「それは〈リバースヘブン〉の底にあるとわたしたちは考えている。だから穴を掘れる仲間が必要なんだ」

「なるほど。それが僕か。悪くない……それに面白い。そんな物騒なものが眠る土地なら、ロンギヌス写本だって出て来てもおかしくない。では、そのお嬢さんが出てきたのが、煉界の門ということかい?」

「いや。この子は別口からだ。ただ色々あって帰れなくなってしまった。だからその……わたしの責任として父親役というか、保護役を買ってでている」


「それでパパか」とヨハンは合点がいったように笑った。「よかったよ変な愛人関係とかじゃなくて」「おい」


 彼は膝を叩き立ち上がった。手を差し出してくる。


「いいだろう。もしそれらしい門を見つけたら、手を出さずに君らに提供しよう。さすがにまだ僕もそこを通りたくはない」


 契約の握手を前に、俺は少し躊躇した。


「話がスムーズすぎてちょっと怖いな」

「見返りの心配をしているのか? 意外と見くびられているな。スノーカインの素性は僕に対しては絶対死守の内容だったはずだ。違うかい? それを君から話したということで十分つり合いは取れている。甘く見るな」

「!」


 その通りだ。誠意を見せたつもりだった。だがそれで通るか、まずそれが気づいてもらえるかは相手次第。しかし……話術に長けたヨハンにはそんな心配は無用だったらしい。そして宣言している。誰に話したかわかってるんだろうな、と。


「でもそんなに警戒はしなくていい。煉界の実在、そこに住む者の顕在、それだけで知的報酬としては莫大だ。探るのはまた次の機会にしたい。今は写本の方が気になるからね……」


 彼が積みゲーをきちんと下から崩す人間でよかった。

 俺は彼の手を取った。これで同盟成立だ。

 

「だが一つだけ残念だ。それだけの数奇な出会いを果たした君でも、僕の探し物に行き当たらないとは……」

「それは……」


〈イヨルの声〉についての話だ。すでにアンサーから報告は伝わっている様子。


「けれどそれも()()かもしれない。何か予感があるんだ。今までにない、少し寒気のするような予感が」


 その薄暗い笑みは、俺にまで彼が味わう寒気を伝えるようだった。最後まで付き合ってはいけない。どこかで切れと、俺の中の慎重な盗賊が囁いた、その直後。


「ヨハンの旦那ァ! 新しい空間が見つかりやした! 旦那の言った方角でドンピシャでさあ!」


 発掘を続けていたロンギヌス大戦団のメンバーから報告が入る。


「発掘品もたんまりあるみたいでさ! こんなにホイホイ見つかるたあ、旦那が来てから笑いが止まらねえや!」

「何度も言っているけど、僕が欲しいのは本や巻物といった記録媒体だ。他のものは君らのルールで好きに分け合ってくれていいから、それだけは最優先で確保してくれ」


 ヨハンはそう返事をすると、握りっぱなしだった手をようやく離した。


「彼らは本類には全然興味がないようでね。好みが別でとても助かるよ。さて、僕も少々忙しくなる。ここらでお暇しよう。もし煉界の門らしきものを見たら君らに伝えるようにするが、ちょくちょく見に来てくれても構わない。僕も話し相手がほしいところだしね」

「ありがとうヨハン。では、わたしたちも一旦戻ることにする」

「ごきげんようヨハン様」


 そうやってヨハンとの再会は存外平穏に終わった。いや、悪魔とはそういうものかもしれないが。


 収穫は十二分にあったと言えるだろう。発掘のスピードはこれで一気に上がる。彼を引き寄せる声というのが少し気がかりだが、今は身を任せよう。


 下手したらこれから一万階の底だ。やまとさんたち煉界症候群の猛者でさえ震える地の底。ヨハンが、あるいは古文書解読中のシノホルンが思わぬ近道を見つけてくれることを今は祈ることにする……。

 

 

長くなってしまいましたが途中で切ったら味気なかったので詰め込みました。センセンシャル!


※お知らせ

次回投稿は一日遅れの3月27日となります。こちらもセンセンシャル! 物語が大きく動きます。是非見てね!

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― 新着の感想 ―
謎の声(ヨハン…ヨハンよ……ちょっと女の子になって伯爵様の人たらしパワーに曝されてみませんかヨハンよ…きっと楽しいですようへへ) というか破滅願望に近いの持ってるイケメン人たらしとかもうラスボスの風…
それ存在が愛100%だから離れたら消滅しない?愛はアークエンデで魂はシノホルンにあるとか、伯爵もう脱け殻では・・・ 気紛れに飛びかかるスノーカイン可愛い
すっかりロンギヌス戦団の参謀と化しているヨハン…… しかしヨハンは伯爵が居なければ普通に流刑地にて果てていた可能性が高い。 だとすると原作においてロンギヌス戦団がこの地の覇者となっていた原因はなんだろ…
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