第103話:びっくりすぎる、騎馬戦。
はいはい、皆さまお待ちかね戦闘回、再開です。決勝トーナメント16強から8強へと挑む第1戦。ただでさえ円卓では「ガチ」勢の双璧の一つ、「太宰府」との一戦です。
[星暦1554年10月5日。南の軍都ヴィヴィアン。]
南の軍都ヴィヴィアン。北の軍都イグレーヌと対ついを為す軍の中心部である。スフィア王国には常設軍は無く、軍事的な緊張が起こると円卓に命じて「機動軍」が複数の騎士団によって組織されるのだ。それで集結点として本部を設置する場所がこれら「軍都」なのである。それで、兵舎や補給物資を集積箇所となる巨大な倉庫が軒を連ねている。宇宙港、そして大規模な海港、巨大な地上港設備、そして巨大な生産施設もあり、非常事態以外は「工業都市」、「運輸のハブ施設」として活用されている。
二つの軍都にはそれぞれ「鎮守府」と「太宰府」の本拠地が置かれており、南の巨人族レファイムの北上、そして北の魔獣の南下を防いでいるのである。また、内側をむけばトムの故国アマレク人の国があるが、そちらに対しては「赤道方面防衛騎士団・兵衛府」の担当となっている。
ヴィヴィアンは南半球にあるため、これから夏へと向かう途上であった。
トムが身支度を整えていると、面会者が来た、と知らされる。そしてそれは彼の実兄でニュースライターを生業とするアンテフ・C・マクベインであった。
「兄さん、どうしてこんなところにまで?」
トムが迎えると
「よお、調子良さそうだな、カーメス。お前の活躍な、扱いは小さいけどこっちのニュースにはなってるんだ。」
そして実家の様子や近況を確かめ合った。
「実はな、お前にも聞いたことがあったが、例の『インプ』の件でな、あれがスフィア側に一機渡っているんじゃ無いか?って疑惑が出てるんだ。もともとコピーの技術自体はスフィアから持ち出して来たものだからな、お互い様、っていえばどうしようも無い話なんだがな。」
「つまり、アヌビスのコピーがまだ現存している、ってこと?」
トムは凜からも殆どの事情を聞いて知っていた。ハワードとゲラシウス前総督がタッグを組んでアヌビスのコピーを作り、あまつさえ大量に生産して売り出そうとしていたことを。
いわゆる劣化版がハワードの手に渡っている可能性が高いのだ。
「するとお兄ちゃんは『英雄』たちの持つ天使がそれだと推測しているのですね?」
リコの問いにトムは頷いた。
凜に相談も兼ねて報告すると凜もすでにその情報は入手していたようだった。
「ハワード卿が技システムがあれだけスムーズに導入できた、ということは、天使についてのかなり深い研究を重ねた結果だと思っていたが⋯⋯。恐らく、今回当たる『呂布』が持つ天使がそれに当たるのかどうなのか、トムが確かめられないかな?確かめられれば、今後打つ手は決まってくるからね。」
つまり、アマレクの前総督ゲラシウスは体良くハワードに利用されたに過ぎないのか、トムは心の中にモヤモヤしたものが沸き上がって来るのを感じた。
トムは一度だけ、あの「国民広場の殲滅戦」の後のタケロットを遠くから見たことがあった。自信と野心に燃え立つような瞳をしていたかつての一族期待の俊秀は、穏やかですっかり毒気の抜けた表情を浮かべていたのだ。
そう、彼はエリートコースから脱落してしまったのだ。彼の将来と引き換えにしてまで老人たちが力を弄ぶ、それは許されることなのだろうか。大きな目的のために多少の犠牲が出るのは仕方がないことかもしれない。その多少の犠牲になった当人は、この気持ちにどう対処すれば良いのだろうか。
「それは永遠に解決できないと思います。そのケアのために『宗教』というものが存在しているのです。創造主の元における絶対的な公平。しかし、その創造主とて、天使に階級を設けています。食物連鎖も創造主の意図であるなら、一体何が人の幸福と言えるのでしょう?」
リコの皮肉っぽい論評にトムはかぶりを振る。今はそれよりも「種」全体としての生存をかけたこの選挙を勝ち抜かねばならないのだ。金持ちや貴族は惑星を捨てれば済む話だ。では残された民はどうすれば良いのか?
「人間というものは、自分の宿題を押し付けるために子孫を作るのかもしれないな⋯⋯。いや、『賢者モード』に入るにはいささか早いかもしれない。」
トムがつぶやく。
[星暦1554年10月6日。南の軍都ヴィヴィアン。決勝トーナメント第1戦。大宰府対 聖槍騎士団。]
太宰府は陸戦が圧倒的に強い。補佐騎士団からの戦闘データも吸い上げ、日々戦闘スキルを磨き続ける騎士団なのだ。
リック、ロゼと立て続けに落とし、中堅のトムにいきなり第1ゲームの勝敗を分けるという重圧がかかる。
「中堅、東、ルーク・フォンダ人位。西、アトゥム・クレメンス人位。」
しかも、トムと相対するのはルークであった。
「『大将』じゃ無いんですね?」
トムの言葉にルークは気を悪くした様子は無かったようだ。
「『客将』の扱いとしては悪くは無いと思うぞ。」
「前世」では転々と主君を替えて行った呂布にとって、さほど驚くことではなかったようだ。
開始の礼を交わす。トムも最初に体力増強技、加速技の二つのスキルを使い、フォームとする。
「サイクロン・フォーム。」
トムが「救世偃月鎌」を構える。
「恒山・玄武」
ルークも同じようだ。「方天画戟」を構える。音もなくトムが宙を舞い、いきなり斬撃を浴びせる。加速されたデスサイズの斬撃は目にも止まらぬ速さでルークを襲う。
斬撃を受け、踏みしめたルークの足がじりじりと下がる。しかし、ルークの堅い守りにトムは一旦引く。
「見事である。次は俺の番だ。崋山・白虎。」
戟が激しく乱打される。今度は反対にトムが押し込まれる。
(なんて力だ。これを技無しで出すだと?人間じゃねえぞ。)
「タイフーン・フォーム」
慌ててトムもパワー優先にフォームを変え、「救世偃月鎌」でその乱打を受けるも今度はルークの力で防戦一方となる。
トムも攻撃を受けきると一旦距離を取り召喚技を使う。
「出でよ、ホルスの子ら!イムセティ、ケベフセヌエフ、 ドゥアムテフ、ハピ!」
4体のガーゴイルが現れる。それは4方向から一斉にルークに襲いかかった。
しかし、ルークは方天画戟を巧みに操り、次々と落としてしまう。もちろん、その時間を無駄にするトムでは無い。
「セトの砂塵嵐!」
今度は砂嵐がルークを襲い絡め取ろうとする。トムの枷技である。
しかし、ルークはニヤリとする。
「ぬるいわ。出でよ。渾沌!」
すると巨大な犬が召喚され、反対にトムに襲いかかる。
「おいおい、どう見ても『人位』同士の試合じゃねーよ。」
大技同士の激しいぶつかり合いにリックが呆れたように言う。
「そりゃそうでしょう。町の走り屋同士のレースにF1マシンが飛び込んで来たようなものですからね。」
ゼルがそう喩えた。
(なんとかこの召喚獣をさばけば勝機が来る!)
しかし、トムの目論見とは違い、救世偃月鎌に噛み付いた渾沌は重力を吐き出す。リコが異変に気づいた。
(お兄ちゃん、これは召喚獣じゃありません。枷技です!)
(しまった。)
トムの動きが封じられる。裏をかかれたトムに対して、すでにルークは最終技の準備が出来ていた。
「かかりおったわ。絶技!元始天尊・盤古!」
大出力の重力波攻撃が決まり、トムのライフゲージは一気にゼロになる。
(やられたか⋯⋯)
ノーサイドの握手を交わす。トムはダグアウトに戻ると凜に
「すまない、地上戦を落とした。」
告げる。
「まあ、次、取り返そう。ところで、どうだった?ルークの装備は?」
凜はそれほど気にした様子ではなかった。トムは慌てて報告をつづける。
「間違いない。インプと同じ気、それも四枚翅のバージョンの気を感じた。やつは重力使いだと思う。地上戦ではかなり強いはずだ。」
「なるほど、やはりそうか。ありがとう、トム。君の『犠牲』は無駄にはしないさ。」
凜の言葉にトムは思わず反応してしまった。
「俺の『犠牲』?それはなんか意味があるのか?」
トムとしては自分が負けた結果、第1ゲームを落としたのであり、それを責める権利が凜にはあるだろう、そう思っていたからだ。凜は少し笑った。
「ああ、あるよ。その犠牲を無駄にしない責任が僕にはあるからね。もっとも、僕が犠牲になったら、責任はその後の奴らに先送りしてやるけどね。⋯⋯確かに、きっちり結果が出ればそれに越したことはないけど、挑み続ける姿勢がもっと大切だと思うよ。それしか僕らが後の人に残せるものはないからね。」
一ゲームは落としたものの、次の空戦は聖槍が取る。そして団体戦はホームである太宰府の指定したシチュエーションである。
「騎馬戦⋯⋯だと?」
凜たちは思わぬ展開に愕然とする。
「無理だ、フィールドが狭すぎる。馬の脚をなんだと思っているのだ。」
メグが抗議するように言った。
しかし、そこは「重力」を操る技術が発達した時代、バトルフィールドが立体化したのだ。つまり、バトルフィールドを底にして箱型のバリアフィールドを築き、その広さを8倍にしたのである。騎馬競技の最古参であるポロのフィールドの面積がフットボール場の9倍であることから、それとそう遜色ない広さであることがうかがえる。
「なるほど⋯⋯とか感心している場合ではありません。呂布は乗馬の名手です。しかも、太宰府の連中は馬も乗り馴れています。しかも、戦闘となると馬の首を考えながらしなければなりません。」
「銃しか無いね。」
無論、乗り馴れていないとはいえ、普通の騎馬競技と違うところが一つある。それは、馬が本物では無い、ということだ。
「今回、僕らの勝機はそこにしかない。」
凜の作戦に皆頷いた。
「騎馬戦」とは古代地球の中世ヨーロッパで生まれた「馬上槍試合」に由来する。選挙大戦で試合をそう呼ぶのはそのなごりである。馬に乗った騎士が大槍を持って突進し、槍を突き合って落馬した方が負けとなるのである。ただし、団体戦の旗取りのルールは変わらず、旗手である凜とルーク、落ちた方のチームが負けとなるのだ。
地上戦、空戦の召喚技なら出現時間の制限があるが「騎馬戦」である以上決着が着くまで使用可能だ。
背中合わせにスタートした両軍がやがて激突しようとする。
「オラ、オラ、オラ。」
ルークが雄叫びを上げる。ルークと凜が激突する。物凄い金属音と共に凜の持つ大槍が弾き飛ばされた。
(やはり、騎馬戦術では呂布に一日の長があるか。)
一方で、凜のチームの馬たちの首がいきなり変化する。
「ケンタウロス⋯⋯だと。」
馬の首から手が生え、大楯を構えると槍の切っ先を交わす。その後ろから出た槍先が当たった。虚を突かれた太宰府の2騎が落馬する。交差した両軍は馬の首をそれぞれ左に向けるとフィールドを立て方向に馬を走らせ助走をつける。
「あれ(ケンタウロス)はルール違反では無いのか?」
疑義を差し挟むチームメンバーをルークは笑い飛ばす。
「愉快ではないか?勝つために死力を尽くす。結構なことだ。人の倫に反せぬ限り、文句をつけるなぞ、野暮な事だ。それよりも、もっとヤツらを驚かせるような仕掛けは無いのか?」
今度は互いに威力増強技を使っての激突になる。かなりの勢いでぶつかり合うことになる。ルークとぶつかりあったロゼの馬が弾き飛ばされて、ロゼが落馬する。ただ、猫並みの三半規管のため見事な三点着地を決めた。
「どや⋯⋯、って落ちたらあかんやーん。」
そして、再び馬の鼻を互いに左に向け、次の激突に備えた助走を始める。しかし、今度は太宰府の馬が宙を掛け始めた。ルークに斜め後ろからの死角をつかれ、リックが転げおとされる。
「ペガサスかよ!?」
しかし、先にケンタウロスをやってしまっているため文句も言えない。呂布は前世では「飛将」と称されたが、当時の人々は彼が本当に飛ぶとは思ってもみなかっただろう。
一方、凜の魔弓、空前絶後からの矢の攻撃が始まる。十本以上の矢が次々に僚友を屠る。ルークは刀をぬいて、2,3本落とす。
「なるほどな、今どき、弓矢にも斯様な使い道があったか。⋯⋯みておれ、俺が決着をつけてやろうぞ。」
ルークがコースを調整し、凜の方へむきを変えた時、馬が突然頽れる。その拍子に慣性の法則でルークの身体が投げ出される。
無論、天使を纏っているため、身体にはダメージがないが、落馬による失格になる。ルークが馬を見ると後脚を刈られていたのだ。それはトムの仕業であった。
「馬の脚を刈ったか。なるほどな。」
馬が本物であれば躊躇もあったろうが、作りモノであれば遠慮の必要はなかった。古代にも馬の足止めの戦法はあったが、歩兵との戦いでのことであった。
「馬を狙うとは卑怯な!」
太宰府の騎士たちが怒る。
(それを卑怯呼ばわりするには勝たねばならん。戦いとは結果が全てよ。)
旗手のルークを失った時点で聖槍の勝利となった。凜は思わぬ展開に苦笑をもらした。
「馬の脚を狙うとはね。ルークも予想しなかったろうが、僕も予想してなかったよ。なんとなくこうだろう、と前例で決めつける癖が誰にでもあるもんだな。」
第4戦の殲滅戦である。
ここは、リーナの独壇場である。
「竜騎士飛龍公リンドブルム、形成!」
リーナが宣告すると、地面に魔法陣が描かれ、そこから白銀の鎧を纏った騎士姿のロボットが現れる。白銀の西洋兜を被ている。白い鞘と銀細工が施された鍔があしらわれた大小二振りの刀を腰に下げていた。そしてその背には龍の銀翼がついていた。
今回、「翼手」は凜「盾手」をロゼ、「打撃手」はリックが務める。そして「砲撃手」をトムとメグ、そしてジェシカが務める。
「原初の巨人フォルショート、形成!」
一方、ルークは「砲撃手」に回ったようだ。実は、この競技は太宰府が十八番にしていたものだった。しかし、リーナの成長ぶりは彼らの「得意」をすでに凌駕していた。傀儡を手足のように使うことに幼少期から馴れ親しんでいるアポロニア人にとってこの競技こそ得手だったのだ。
「動きがまた格段に良くなっていますね。」
マーリンが留守番仲間のアンに言う。
「そうなんだ⋯⋯。よくわかんないけど。ただ、すごくリーナが楽しそうなのは、わかるよ。」
リーナは超記憶症候群という特異体質のため見たものをすべて記憶してしまうことができるが、医学を修めることによって、より解剖学的に人の動きが把握できるようになっているのだ。そのため、どの操作者よりも細やかなイメージを発することができるのだ。
「速い。⋯⋯。」
太宰府のアクターが唸る。
「いったいどんな操作システムを組んでいやがるんだ?あり得ん。」
ただ、太宰府が日夜相対している巨人族レファイムたちは力が強いとはいえ、訓練された戦士という訳ではない。
彼らがスフィアに対する入植政策を強めるのはもう少し先の時代なのである。
「まるでこちらの動きが見えているかのようだ。」
ルークはC3について、知っている事を言ってやった方がいいのかどうか、考えた結果、黙っていることにしたのだ。なまじっか今助言アドバイスを与えたところで、成果を上げたところで自分に帰ってくる誉はほぼないのだ。それなら、自分の価値を高めておいた方がいいだろう。
ルークはハワード親子に1年ほど仕えてみて理解したことがある。それは彼らがこの「選挙大戦」で出た結果が、自分たちにとって思惑通りで無かった場合どうするか、ということだ。間違いなく彼らはその結果をひっくり返すような手を打つだろうということだ。
無論、それはルーク自身が、「呂布」として人生を送った経験から感じたものだ。為政者を志す者は「潔く」てはならないのだ。あらゆる布石を打つべきなのだ。
「潔い」劉玄徳は敗れ、「強か」な曹孟徳は生き残った。今回の自分の人生はどうなるのか。
やがて、勝敗は決する。これでリーナは「操作者」としての評価を得たことになる。以後リーナは研究の対象となることだろう。
ホームアンドアウェイのホーム戦を落とす、ということは太宰府にとってはかなりの誤算であった。しかし、「聖槍」相手であるため、まだ勝機は充分にあると目論んでいたのだ。
「トムよ。」
ノーサイドの後、ルークはトムを呼び止めた。ルークは「カナン人」の集落についてトムが誰かに口外したか確かめたかったのだ。しかし、トムも誰にも言うつもりはなかったため、それを否定した。
「そうか、よかったらそちもたまに顔を出してやってくれ。」
次回は「第104話:テンプレすぎる、野望」。対太宰府戦ホームゲームの様子です。3/23日投稿予定です。
円卓を構成する正統十二騎士団には「府」がつく騎士団が多いのです。「近衛府」「衛門府」「兵衛府」「太宰府」「鎮守府」となるのですが、これも終盤にかけての一つの伏線なのでございます。ではまた。




