第101話:てんやわんやすぎる、ウエディングベル。
今日から新章「天使たちの黄昏ー選挙大戦決勝トーナメント編ー」に突入いたします。
決勝トーナメント開始までの一週間の休暇。リックのもとに送られた結婚式の招待状。
一次リーグが終わると一週間の休みが出る。ただ、それは休息の時と言うよりは備えの時なのである。リックは一次リーグの動画とデータのまとめに入っていた。
「一回戦は大宰府。波乱さえ起きなければ準々決勝は鎮守府だろう。戦力を計算すれば準決勝は黙示録騎士団。決勝は恐らく護法騎士団。はっきり言って、勝てる気がしない。」
データを見ればみるほどそう思えてならない。一次リーグでぶつかった衛門府も強豪だったが、それとは比べものにならないほどの強豪なのだ。祭りの奉納試合で彼らとぶつかるとその強さを実際に肌で感じることができるのだ。
「強さ⋯⋯か。」
リックも決して弱いわけではない。一次リーグの成績から、リックも選挙大戦後に準天位への昇格が決まった。叔父のヘンリーが30代を過ぎてやっと得た地位に20歳そこそこですでに手が届いたことになる。しかし、これはゼルの憑依のおかげでもある。これがなければ未だ人位のままだったかもしれない。
「リック、お前宛に封書が届いているぞ。」
ヘンリーがリックに封筒を手渡す。今どき封書なぞとはなんだろう、そう思って裏の差出人を見ると、かつての兄貴分だったブライアンからであった。それは彼の結婚式への招待状であったのだ。
添えられたメモ書きには選挙大戦で多忙だとは思うが、出席がかなわずとも祝いのメッセージの一つでも貰えると嬉しい、というものであった。日時は今週末の日曜日とあった。
「ちょっと、顔だけでも出してくるか。」
鎮守府とのアウェイのゲームは来週の週末だ。日曜だけなら、故郷のミーディアンの村へ帰省しても差し支えはないだろう。ゼルを通して旅団長の凜に出席の可否を尋ねると、快くに許可を出してくれた。
5年ほど前、村が海賊に襲われた時、自分の勇み足で窮地に立たせてしまった兄貴分のブライアン。(7、8話を参照)。それが気まずくて帰省しても連絡を取らずじまいであったが、これでようやく不義理も解消できるかもしれない。
「じゃあ、姉貴(リックの母親)やみんなにもによろしく伝えてくれ。」
ヘンリーに土産を手渡され、彼は店をでた。
この週末を利用してトムやメグも故郷に帰省するようである。
アヴァロンからミーディアンへは周辺の村を巡回する飛空艇の定期便が出ているのである。「飛空艇」といっても地上すれすれを飛ぶ低浮上型のものである。タイヤの無い自動車
スフィアでは都市間を結ぶハイウエイは須らく「車輪厳禁」なのである。舗装を必要としないので維持費もかからないし、たいていそこはグリーンベルトとして植栽や芝生が植えられるのだ。
アヴァロンには地球教の総本山、スフィア大聖堂が置かれているため、各地への自動運航飛空艇の大きなターミナルがあり、リックは自分の荷物と土産物を抱え、そこへ向かった。そして、偶然良く知る後ろ姿と遭遇したのである。
大きな男がベンチに鷹揚に腰掛け、キセルで煙草をふかしていた。
「ケイジさん。どうしたんですか?」
思わぬ再会にリックは声をかけた。
「おう、これはこれはリック。久しいのう。⋯⋯今しがた流れ行く雲の行方を眺めていたのだ。」
相変わらず人を食ったような答えであった。ケイジはリックの一次リーグの通過を祝うとどこへ行くのか尋ねた。リックが故郷の村へ帰省することを告げると、
「ほう、ではそれがしも付いて行って良いかの? 実は、俺も休暇でな。行くあてもなく、どうしようかと思案をしておったのだよ。」
そう言って豪快に笑った。
リックは一瞬戸惑ったが、快く同行を許した。考えてみれば何度か遊びに連れて行ってもらったが、自分が彼を招待したことなどこれまでなかったからだ。
しかし、リックはすぐに後悔することになる。「荷物持ち」の男女が一個中隊ほどついて来たからだ。いつもはガラガラのバスがいっぱいになる。
故郷の村に着くと、そこはまるでお祭りのようであった。ブライアンの結婚式のためだ。ブライアンはリックより三つ年上の23歳である。ずいぶんと早婚に思われるが、ベーシックインカムをはじめとして福祉は手厚いため、結婚はできるかできないかではなく、したいかしたくないかで選ぶ世界なのである。ちなみに筆者はうらやましいと思っている。
リックが姿を現すと、村中が大騒ぎになった。故郷の英雄の思わぬ帰還に村のみんなは色めきたつ。まあ「オリンピック」のメジャー競技に出場している選手が目の前に現れたら、とイメージしてもらえれば分かりやすいだろう。ただ、リックは戸惑っていた。
「ほう、陸殿は人気者じゃのう?」
慶次は意地悪そうに尋ねた。リックの反応は慶次にとっては意外なものだった。
「困ったな……。」
何がどう困るのか、慶次はリックを試すように問う。
「ケイジさん。今回俺はブライアンの結婚式を盛り上げるために帰ってきたのであって、俺が目立つためじゃない。ごめん、ほんとはケイジさんたちをいろいろ案内してあげたかったんだけど、俺は実家にこもることにするよ。」
「そうか、ではそれがしも陸殿につきあうとしよう。せっかくの休暇だ、暇をもてあそぶのもまた一興じゃな。」
慶次もリックの家に転がり込んだのだ。リックの実家はリックから「貧乏子だくさん」と聞いて想像していたよりも立派なものであった。
リックの弟妹たちはいきなり来訪した大男に驚き、最初は警戒心から遠巻きに眺めているだけであったが、あっという間に懐いてしまった。
遊び相手をねだる弟妹たちに慶次は提案する。
「そうじゃ、みんなでブライアンの結婚式の余興をやろうではないか。」
結婚式当日、リックは友人代表として登壇し、祝辞を述べた。
しかし、彼が姿を現しただけで列席者の女性たちから黄色い嬌声が飛ぶ。リックはしどろもどろになりながらもなんとか大役を果たした。
結婚式の後、披露宴に当たるダンスパーティが開かれる。そこに供される料理を監修したのがリックだったのである。まだ蓄えがそれほど無い若いカップルのために皆が用意してくれた食材を見事な料理に変えていた。
(これはなかなか憎い演出ではあるな。)
コック姿で精力的に働くリックを慶次は目を細めて見つめる。彼の元にステージ衣装を身にまとったリックの弟妹たちが集まって来た。
「さて、兄上殿の活躍に負けてはおられん。次は我らが出番じゃ。」
司会者が次に 紹介したのは「ヴィントハウスブラザース」である。ちなみにヴィントハウスはリックの本名である。
彼らがケイジに引率されてかわいらしい衣装で登場すると参加者は大いに盛り上がった。彼らが披露したのは「ジャクソ●5」の「ABC」だった。
「ありがとう、リック。忙しいところ、わざわざ来てくれて。」
ダンスパーティが終わり、「ハネムーンに出かける段」に差し掛かったブライアンが見送りの列にリックを見つけると近づいて来た。リックが敬礼するとブライアンも笑顔で答礼する。
「立派になったな、リック。あの海賊事件の時、キツイこと言ってすまなかった。それがずっと気になっていたんだ。お前もすぐに家出同然にいなくなってしまったからな。でも、選挙大戦で戦っているお前の姿に励まされているよ。これからキツイところと当たるだろうが、頑張ってくれ。お前は俺たちの村の誇りなんだ。」
ブライアンの言葉にリックは涙が出そうになった。あの時の絶望感は決して忘れられない。弱い、ということがあれほど辛いことだとおもい知らされたあの日の事件こそが、リックの原動力であったのだ。
「ありがとう、ブライアン。俺もようやくあの時に兄貴に言われた言葉の意味が分かるようになってきたんだ。故郷の名に恥じないよう頑張るよ。」
ブライアンは新婦と共にいくつも空き缶が下げられた浮上自動車でハネムーンへと旅だって行った。
ダンスパーティが終わり、1日家族と過ごしてからリックはアヴァロンへの帰路についた。
「ところでリックは養子に行かれたのか?」
帰りの道すがら、ケイジが尋ねる。弟妹たちと名字が違っていたことからそう思ったのかもしれない。
「いや、違うんだ。『ウインザー』は俺が勝手に名乗ってる『騎士ネーム』なんだ。昔、地球にあったヨーロッパの王室の家名を頂戴してね。」
これはリックの『中二病』の拗らせ加減を見事に表しているのだ。
「……左様か。」
ケイジはかつて自分が前田家に養子に出されたことを語った。受け継がれる名前、その重みを語りたかったのだろうか。しかし、リックは全く別のことを考えていた。
「ケイジさん、俺に、その眷属語の名字を考えてくれないかな?」
訝しげに見つめ返すケイジにリックは頼んだ。
「凜は間違いなく天下をとる。その時、凜みたいなカッコいい名字が欲しいんだ。ねえ、ケイジさんの時代の強い戦士とか、いなかったの?」
ケイジはあっけにとられた顔をしていた。彼はリックがチームの戦力分析係であることを知っていたし、各騎士団の戦力を分析した上でそういったとは思えなかったからだ。
「そりゃいたさ。それこそ掃いて捨てるほどな。しかし、それがしでなくても凜殿に頼むのが筋ではないのか?」
「うーん。でも、俺はケイジさんがいいな。凜に貰うと、一生あいつに頭が上がんない気がして、それもいやなんだ。で、どんなすごい奴らだったの?」
「聞きたいか?」
ケイジは嬉しそうに話しを始めた。
「おお、月が綺麗だねえ。」
ケビンが宇宙港から見える故郷の惑星を見やった。
「そうですね。そして、今現在、普段我々が月と呼んでいる惑星にいる、という事実をお忘れなく。」
ケビンに「巻き込まれて」月へ降り立った、ジーン・マクファイアがぼやくようにつぶやいた。
ケビンとジーンはスフィア王国政府から「短剣党」と呼ばれるテロ組織への対策の協力を請われ、スフィアへ渡ったのだ。
「短剣党」は大統領選挙の後、活動が沈静化したと見られていた。しかし、それは組織の活動範囲がスフィアとその周辺に移ったに過ぎない。現に、スフィアのラグランジュポイントを周回する小衛星ベルトの周辺で海賊行為が活発化しているのだ。
これまで短剣党と戦ってきたガイアの政府に協力を要請するのは自然なことであった。また、「選挙大戦」の観光資源化を進めて来た円卓にとっても、ガイアからの観光客の受け入れのためにガイアの諸政府との連携を求め始めていたのだ。
「スフィアへようこそ、ケビン。」
凜の姿を見つけるとケビンは大げさに嘆いてみせた。
「やれやれ、疫病神が見えるようになってしまったよ。わざわざのお出迎えどうも。」
二人は挨拶の握手を交わした。
「ケビン、なんで出迎えがグレイスじゃないんだ?という顔をしていますね。」
ゼルがケビンの心情を言い当てる。
「彼女は選挙大戦中ですから、忙しいのですよ。」
グレイス率いる「ヴァルキュリア女子修道騎士会」は決勝トーナメントに進出したものの、いきなり優勝候補筆頭の護法騎士団と当たることになったのだ。
「いいね、是非生で観戦したいね。」
ただ、決勝トーナメントの緒戦のチケットは発売とほぼ同時に売り切れソールドアウトしており、すでにSNSではチケットを求める声が嵐のように吹き荒れているのだ。
「しかし、ここはグラストンベリー、キミのホームとは随分離れているじゃないか?」
ゼルはVサインをする。
「それは配慮無用です。わたしは『どこでもドア』を持っているので大丈夫です。」
「まあ、短剣党対策は伝令使杖騎士団に任せているのでね。その本部がここにあるんだ。団長のラドラー卿に紹介するよ。」
トムも久しぶりにメンフィスに帰省する。ただ、あいかわらず、養家の人間はトムに無関心であった。屋敷に自分に部屋も割り当てられてはいたが、正直居心地が悪いだけだった。 狭いがカフェ・ド・シュバリエの部屋の方が落ち着くのである。ただ、狭いといっても3部屋を占有しているためいささか説得力には欠けるかもしれない。
親しい友人がいるわけでもなく、単に形式的に顔を出したに過ぎないのである。出不精にもほどがある宿主にリコが見かねて提案する。
「兄さん、どこかに出かけませんか?」
リックに漢字の名字が?⋯⋯実はこれが結構な伏線だったりするのですが⋯⋯。
次回、第102話:「覇道すぎる、英傑。」トムが休暇中にからんだのは?
3/9投稿予定です。




