06
ケンジは身軽にヨットに飛び乗った。続いてタケシが飛び移った。
遅れて、雄司がリョウに肩を貸しながら来た。すぐに二人で船上に引き上げた。
「どうした?」
見ると、リョウの左足のふくらはぎがザックリ切れ、血が流れている。
「大丈夫か?」
「うん。何とかね」
リョウは顔を歪めて答える。
血に弱いらしいタケシは心配しながらも、リョウの足を直視しない。
雄司は救急箱から包帯を取り出し、タオルで血をぬぐった後に左足に巻きつけ止血する。残念ながら傷口を縫うような機材はない。
「何で足を切ったんだ?」
「途中の草むらの中に落ちていた、多分・・・何かの刃物で切ったみたいだ」
「そうか、大丈夫だ。そんなに傷は深くない」
確かに、出血は多いが、傷自体は深くない。入院の必要もないだろう。これが、病院で治療のできる場所で起こった事だったらなら。
ここにある救急用品では十分な治療ができない。このままだと傷口からの化膿が心配だ。抗生物質などの用意はない。
この間、ケンジもぼ~っとしていた訳ではなかった。イカリを上げ、ヨットを動かそうとした。しかし、船先が浜にめり込んでいるため、方向転換することができない。それに燃料は使い切ってしまっているのでエンジンをふかすこともできない。
オーガーは足が遅く、まだここも出たどり着いていないが遠からず来るだろう。
ピンチだ!
「父さん、船動かないよ」
「・・・そうか」
手当てを終えたリョウを寝かせ、雄司は答える。
そうこうしているうちに、オーガーが姿を見せ始めた。3匹はゆっくりと獲物を狙う様に近づいてきた。実際、あいつらにとってこの4人は獲物なのだろう。
もう、目前まで迫っている。
ヨットに立て籠もったのは失敗か。逃げ場がない。
もう、ダメだ・・・
ケンジはそう思ったが、オーガーたちは甲板に上がってこない。
「一体、どうなってんだ?」
どうやら、足が短くて上がってこれないらしい。手を使って上がって来れば良いのだろうが、それに気が付かないほどの馬鹿なのだろうか?
「グギャァァ!」
「ギャゴォォォン!」
オーガーは悔しげに吠えまくる。
雄司は釣竿を突いて牽制をするが、効いていない。ケンジも加勢するが同様だ。
「チャンスだ!」
タケシはそう叫ぶと船室へ行き、荷物をあさる。
「何やってんだ」
ケンジの言葉を無視し、目的のものを探し出す。
「ジャジャジャジャ~ン」
自ら効果音をつけて、躍り出る。
「例え化け物といえども、動物。ならば火を恐れるのは道理。と、言う訳で花火を持ってきたよ~ん」
「おぉぅ。タケシにしては良い考え」
「おれにしては、ってのが引っかかるけど。 まあ、良いか。喰らえ~!!」
パチッパチッパチッ・・・・・・・
タケシの手の先から線香花火が音を立てて燃え上がった。
「おい、こら! 線香花火なんかが効くか!? 打ち上げ花火はどうした」
「そんなの元からなかったよ。他にはヘビ花火しかない」
「そんなモン、役に立つか!!」
一応、火のついた線香花火をオーガーへ投げつけてみるが、効いた様子はない。
「このアホ~!!」
雄司はそんな二人をよそに、釣竿からオールに武器を変えて応戦して甲板に上げないようにしている。
しかし、オールでも大したダメージを与えられない。
殴られても殴られても、オーガーは痛がる様子もなく、逆に凶暴さを増すばかりだ。
これではらちが明かない。
「よし、こうなったらケンジに囮になってもらって、そのうちにおれたちが逃げるってのはどうだ?」
名案とばかりにタケシは手を打つ。
「誰が囮になるか!? お前がやれ! お前が!」
「ほんの冗談なんだから、そんなに怒ることないだろ」
「こんな時に冗談を言うんじゃない」
「この場を和ませようとしただけなのに・・・」
「そんなんで、和むか~!」




