05
ケンジたちはきょろきょろと辺りを見渡す。周囲を探索するに当たっても、見当くらいはつけておきたい。
「んんっ?」
ケンジは視界の端に動くものを見つけ、声を上げた。
「ケンジどうした?」
「あれ」と林の奥を指したが、もうその方向には動くものー人影っぽかったーは見えなかった。
ーー少し休憩した後、4人は林の中を歩いていた。ケンジが人影を見たという場所の先だ。
ケンジが指した場所は、確かに折れた草があり、何者かがここを通ったことは確実だった。
木がうっそうと茂り、林の中は昼間だというのにかなり薄暗い。進むにしたがって、下草はまばらになり細い倒木や腐葉土が足元に広がる。
ガサガサ、バキッボキッ
下に落ちている枯葉や枯れ枝を踏む音が響く。
「ホントに人影なんか見たのかよ。こんなところに人がいる訳ないだろ」
変わらない景色に愚痴がこぼれる。方位磁針で確認しているが、こんな景色が続けば愚痴の一つも出るし、方向感覚も狂いそうだ。
「五月蝿いなぁ。そんなら砂浜のところで待っていれば良かっただろ」
ーーガサガサッ
4人の足が止まる。その音は雄司たちが出した音ではない。前方の木々から聞こえたものだった。
「何だろ?」
声を落として、タケシが尋ねる。
「・・・さあ?」
ほかの3人にも分からない。
ーーバキッバキ
もう一度、聞こえた。それはどうやら、ひときわ大きな大木の後ろから聞こえていた。
3人をを抑え、雄司がひとり木の裏に回り、ゆっくり傍へ寄る。
「・・・んんんっ」
雄司はそれを見て叫び声を上げそうになったが、押し殺す。大人として、息子たちを前に醜態をさらせない。
大きな樹が邪魔をしてのぞきこむまで見えなかったが、そこには異様な姿をしたーー化け物がいた。
雄司は自分の目を疑ったが、目を擦って再度凝視しても消えない。はっきりと目に映っている。
化け物の身長は雄司の1.5倍~2倍。豚とカバとイノシシと人間を組み合わせたようなデブな生き物。
それはファンタジー小説やロールプレイングゲームなどに出てくる人食鬼、オーガーの姿をしている。
そのオーガーが3匹、地べたに伏している。おそらく寝ているのだろう。先ほどの音は寝返りで立てた音のようだ。
しかし、何故こんな怪物がここにいるのだろうか。訳が分からない。
「父さ~ん。何かあった~?」
何も知らないケンジが大声を出して尋ねてくる。大樹の陰でケンジらにはオーガーの姿は見えない。
おい、バカ息子! 能天気に声を出しているんじゃない!! 心の中で雄司は叫んだ。
訳が分からないなりに、こいつらに気づかれない方が安全だという事だけは分かる。
自分のバカ息子を呪いたくなった。
「静かにしろ!」
音量を下げ、できるだけ低い声でケンジに怒鳴る。
「なんだって~?」
更に大きな声でケンジが尋ねてくる。
「黙れって言ってるんだ! バカ息子!!」
思わず、後ろを向いて音量も気にせず怒鳴る。
全く、もう・・・
雄司は苛立ちを抑え、目線を化け物へ戻した。
ーー1匹のオーガーと目が合った。・・・時が止まる。
やばい・・・!?
雄司の背中に寒気が走る。
動けない・・・
オーガーは寝ぼけ眼で雄司を見据える。
「・・・? ・・・ギャオォォォォ~!!」
覚醒したオーガーが叫ぶ。その叫びに他の2匹も目を覚ます。
呪縛が解けたように、雄司の体に自由が戻る。
「逃げろ!!」
3人に声を送る。
「何だって? 父さん? さっきの叫び声は?」
「いいから、逃げろ!!」
声より早く、雄司は大樹の裏から顔を出す。
「グオオォォォ~!!」
二本足で立ち上がったオーガーの声が林の中にこだまし、3人の前にも姿を現す。突然の化け物の出現に面食らう。
「何だ~!? あれは・・・」
「知らん!!」
「とにかく、逃げろぉ!」
4人は全力で駆け出す。
「もしかして、ケンジが見た人影って、これ?」
「・・・かもしれない」
ケンジらは無我夢中で走った。ヨットのある砂浜まで。
オーガーは鈍足ながら、後ろを追ってきている。
「何で、あんなモンがいるんだ?」
身体は思ったより速く、草をかき分けて走ったというのに世界記録が出るのでは?というほどのスピードだった。
それは少し大げさだったかもしれないが、火事場の馬鹿力って凄いと実感した。




