03
ーー白いヨットが一艘、海に浮かんでいた。
見渡す限りの水平線。突き抜けるように青い空。そして白い雲。
この雄大な景色に自然と歌声が漏れる。
「う~み~は~、広いな~。大きいな~。
つ~き~が~、昇るし~、日が沈む~」
気持ち良く歌っていた少年の頭をもう一人の少年が殴りつけた。
「痛って~な」と振り返ると、
「海は広いな、じゃない!! その広い海にオレたちは漂流してるんだぞ! 漂流を!!」
殴りつけた少年は怒鳴り声を上げ、もう一人少年を思いっきり叱りつけた。
「いいじゃんか。そんなことで目くじらを立てたって、事態は好転しないぜ。 見ろよ。この素晴らしい風景を」
「うるせ~!! お前の音痴な声を聴いているとストレスが溜まるんだよ!!」
「・・・さては、おれの美声に嫉妬してるな~」
「するか!!」
その後も二人は怒鳴り合いを続ける。ーーといっても、本気でケンカをしてるわけではない。
この二人の口喧嘩は日常茶飯事なもので、じゃれ合いの延長だ。
現に、二人を見ていたさらにもう一人の少年は、また始まったか、という表情で気にも留めていなかった。
しかし、いつもとは何処となく違っているのを感じてもいた。
漂流という、非日常な出来事に遭遇した不安な気持ちを押し殺し、無理にでも気を落ちつけようとしているために。
「そんなカッカばかりしていると、将来ハゲるぞ」
「個のもま帰れなかったら、将来もクソもねえだろ!」
先ほどからの会話通り、まさしくこのヨットは漂流していた。右も左も、そして前も後ろも、海、海、海、海・・・・・・
ーー彼らは未知なる海への冒険を挑んだのではなかった。勿論海賊の一味でもない。
先ほど怒鳴り合っていた少年たち。彼らこそがこの物語の主人公だ。
歌を歌っていた少年。彼の名は天野タケシ。16歳。高校一年生で、T県の県立高校へ通っている。かなりの秀才で、二年後の大学受験に今から期待が持たれている。ユーモラスな少年なのだが、時に無神経なのが、玉に疵。
そして、さっき怒鳴っていたのがタケシの友人である草薙ケンジ。同じ高校に通う高校一年生。剣道部に所属しているスポーツマン。ただし、成績は今ひとつ。脳筋とも言う。
二人の怒鳴り合いを横で見ていた同じくクラスメイトの坂本リョウ。これといった特技に秀でていないが、勉強も運動もなんでもそつなくこなすオールマイティーな少年だ。
この三人のほかに、口を出さずに、じっと見守っていた保護者も草薙雄司。38歳。苗字から分かる通り、ケンジの父親。職業は警察官。県警で剣道師範をやっているほどの猛者である。
ケンジが剣道をやっているのも、雄司の影響だ。
ーー高校初めての夏休み。夏と言えば、山だ! 海だ!
ということで(何が、という事なんだか分からないが・・・・)、この4人で夏休みを利用してヨットを借りて近海の海へ海釣りへ出かけた。
別に、外洋に出た訳ではない。陸地が見えるか見えないか、という付近で釣りを楽しんでいた。海岸からは10kmと離れていなかったはずだ。
天気も白い雲がちらほら見えるだけで、ほぼ快晴と言ってよかった。
各テレビ局の天気予報でも今日一日の天気を約束していた。
何も漂流する要素は無かった・・・はずだ。
釣りの成果はというと、午前中いっぱいで、雄司がタイを一匹、リョウがアジを三匹、ケンジ・タケシの2人はボウズだった。
昼にはさっそく釣った魚を雄司がさばいて、刺身にした。さすがにとれたてはおいしく、4人で舌鼓を打っていた・・・・、その時! それは起った。
突如として、小さな雷雲が発生し、空気の渦がまるでブラックホールの様に4人を船ごと吸い込んでいた。
タケシの「気象庁はどうしたぁぁ~!」という叫び声と共に。
ゆきね「さて、今話で主人公達の登場よ!」
まさと「前話と雰囲気が随分変わったな。やっぱり今回もコメディだな」
ゆきね「正統派ファンタジー・・・っぽい小説を目指すって言っているでしょ!」
まさと「意気込みは大事だね。っていうか、主人公が登場したならオレたちはお役御免じゃないの?」
ゆきね「・・・彼らのキャラが固まるまで、アタシらの出番は継続らしいわ」
まさと「それっていつ頃?」
ゆきね「将来は未定だからこそ、面白いの!!」




