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ーーその時、「止めい!!」
鋭い声が響き渡る。
だが、雄司はそれどころではない。声の方向に首を向ける余裕もない。カンは制止の声がしても、力を緩めない。
「止めろと言っているのが、聞こえんか!!」
一陣の風が吹き、雄司とカンは共に吹き飛ばされる。
「なっ、何だ?」
風の吹いてきた方向を見ると、アルタァが立っていた。
「止めろと言ったのが聞こえなかったのか? バカ者めが!!」
周囲にいた観衆も道をあける。
「ゲッ、長老!?」
「アルタァさん?」
カンと雄司が驚く。
「・・・何をやっていたんじゃ、カン」
「いや~、これは、その・・・・」
カンはしどろもどろになって、答えに窮した。
「彼らはワシの客人じゃ。彼らに危害を加えるとは、どう言う事じゃ?」
「しかし、それは・・・」
カンは何とか言い訳しようとしたが、アルタァがそれを遮る。
「え~い。もう良い。だが、この場は彼らを引き取らせてもらうぞ」
「それはもう、長老のご自由に」
「では雄司殿。行きましょうか」
アルタァは雄司たちを先導して自宅に帰った。
「いやぁ、申し訳ありません。村の者が乱暴を働きまして」
「いえ、大丈夫でしたから」
「いや~、おじさん。偉いんだね?」
タケシが感心したように言う。
「な~に。単に年を喰っているだけじゃ」
「それより、さっき父さんたちを吹き飛ばしたのも、魔法なんですか?」
ケンジが不思議そうに尋ねた。
「そうじゃ。魔法の一種じゃよ。それより、ちょっと早いが夕食にでもしましょうか。リナも待っていることだし」
ーーその日の夕食は有事たちが思っていたより、豪華なものだった。
ハンバーグにサラダ、野菜スープなどお馴染みのものをはじめ、色々な料理が並んでいた。
タケシたちの世界のレストランで食べているものと遜色ない。全てリナの手作りだそうだ。
しかし、アルタァは食卓に姿がない。
「おじいちゃん。食欲ないんですって。リョウさん、足は大丈夫ですか」
心配そうにリナがリョウをうかがう。
「大丈夫だよ。まだ痛みはあるけど」
「・・・おかしいわねぇ~。私の魔法があまり効かなかったのかしら」
リナは首をかしげた。回復魔法をかけた場合、痛みもすぐに引くらしい。
「大丈夫だって。傷口はふさがっているんだし。明日には痛みも治まっているさ」
リョウはそう請け負う。
「ねぇねぇ。それより、この世界がどんな風になってるのか教えてよ。魔王のこととかも」
タケシが尋ねる。雄司は、まだそんなことを言っているか、と睨みつける。
「いや、勇者を気取って、魔王退治するとかは言わないよ。ただ、興味で聞くだけだよ」
まあ、それならと、雄司もうなずいた。
「え~と。この世界には、・・・正確に言うと、このインゼル大陸にはケミストと名乗る魔王がいます。
8年ほど前、大規模な地震が大陸全体を襲いました。その地震で、ルーイン王国にあるデュースター島という島の海岸に瞑した村々がその地震による津波で消えたと言います。ちなみにデュースター島というのは、かつて古の魔王がいたと信じられている島です。その後、ルーイン王国全体を覆い尽くすような魔王の声が響いたと言います。
『我は魔王ケミスト。我こそはインゼル大陸の支配者である。この国を、まず闇と化し、やがてはこの大陸全てを。そして、果てにはこの世界に君臨する王となろう』
生き残った人達の話では、そう言ったそうです」
「生き残った人って?」
口をモグモグさせながら先を促す。
「その魔王の出現後、すぐにルーイン国の首都を含め主要な街は滅ぼされたようです。生き残った人たちも国外に逃げてきてしまって、今では住んでいる人もいない様です」
「へ~。で、リナさんはその魔王を見たことあるの?」
「いえ、ありません。神殿に行けば知っている人もいると思います。あそこにはルーインから来た人もいますから」
「神殿?」
オウム返しに訊き返す。
「ええ。プファラーという方が、今切り盛りしている神殿です」
「・・・神殿って言うと?」
タケシには神殿というとRPGでのセーブやキャラの蘇生をしてくれる事ぐらいしか思い浮かばない。
「村から街道に沿って行ったところにあります。私もそんなに詳しくは知りませんが、元々は大地の神様を祭っていたところらしいです」
ファンタジー世界だともっと宗教が浸透しているイメージだったが、リナは興味がないらしい。
「ふ~ん。ごちそうさま」
タケシはスプーンを置いた。
「料理の味はどうでしたか?」
リナは食卓の皆を見回して聞いた。
「美味しかったですよ」
皆うなずく。お世辞でなく、上々の味だった。




