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4月26日 調子:普通

 昨日は書く余裕がなかったけど、何気に入院は初めで、本音をいうと少しワクワクしている。

部屋は個室で、よく見る病室と大差ない。匂いは病院特有の、鼻をツンと刺すほどではないが、少し鼻につく。味に例えるなら、苦味七割、酸味三割といったところか。この匂いが苦手だという人は多いが、僕は案外嫌いじゃない。この匂いを嗅いだ時、自分が魔術の世界に入ったような気分になる。まるで「魔法で全部治してあげる」と言わんばかりの安心感を得られる。

窓からは桜の木が見えるが、さすがに桜は全部散ってしまって、身を乗り出して外を見ても、地面に花びらは一切見当たらない。だけれど、ここからのの眺めは悪くない。木の枝や葉っぱが窓の半分を占め、もう半分は住宅街の風景が写っている。その二つのコントラストがちょどいい眺めを作っている。

ついでに、日記の初めに今日の調子を書くようにした。なんとなくだ。


 兄が見舞いにきた。兄はあまり人の心配をしないから、それが意外に感じられた。人がつまずいたり、こけたり、ぶつかったりしても、大抵何もせず見ているだけで、何もなかったかのようにスルーする。「大丈夫?」という声すらかけない。一度その理由を聞いたことがある。兄曰く、「一目で大丈夫だというのがわかるのに、何を心配する必要があるのか」と。合理的なのか薄情なのか。どちらにせよ、他人には理解されがたい考えだと思った。

兄は見舞いに来たが、ただ僕の調子を聞いて、少しばかりの雑談をして帰っていった。いつも通り子供みたいに楽しそうに話していた。だけど、一つだけ気になったことがある。ときどき、話の最中に変な間があった。ほんの少し黙って、何かを考えているように。兄は結構勢いでしゃべるタイプだ。だから、その一瞬の間には違和感を感じた。あれは何だったのだろう。



 弟の様子を見に行った。落ち着いた様子で、調子も悪くなさそうだった。しかし、本当はとてつもなく不安で、気丈に振る舞っているのでは?俺に気遣っているのでは?と思ってしまう。

あいつは気遣いの天才だ。常に周りをよく見て、人のために行動する。

それ故、俺はときどき心配になる。やり場のないストレスが限界値を迎え、器がいつか壊れてしまうのではないかと。しかし、俺が不安になっていることは気取られたくなかった。それこそあいつに気を使わせてしまう。

だから俺はいつも通りを演じた。自然に、日常通りに、まるでがんなんか患っていない健康体であると錯覚させるように、無邪気に、子供っぽく。でも俺は作り笑いがとてつもなく下手だ。だから所々言葉に詰まってしまい、一瞬の間が生まれた。だが、幸いにもあいつは気づいてなさそうだった。

俺には何もできない。されど、何もできないからこそできることはある。せめてあいつの前だけでは、強がるしかない。

病室から出るとき、窓からは花びらの無い桜の木が見えた。俺はそれが少し気に食わなかった。

扉を閉めた後、しばらく目を閉じた。理由は……さあな。なんとなくだ。

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