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第8話 説明されない過程

 ネメシのログは、正常だった。


 操作入力。

 スキル発動。

 ダメージ算出。


 すべての処理が、

 仕様通りに記録されている。


 異常はない。


 ――そのはずだった。


「戦闘ログ、再表示します」


 オペレーターの声に、

 マアトは小さく頷く。


 同じログが、

 繰り返し画面に流れる。


 入力に対して、

 出力が返る。


 それ自体は、正しい。


 だが――


「……結果が過剰です」


 誰ともなく漏れた声。


 マアトは否定しない。


 むしろ、

 その認識は正しい。


 ダメージ。

 回避。

 反応。


 いずれも、わずかに高い。


 単体で見れば誤差。


 だが、

 積み重なれば無視できない差になる。


「外部からの干渉は」


「確認できません。通信ログにも異常なし」


 即答。


 予想通りの結果。


 外部要因であれば、

 何らかの痕跡が残る。


 だが、それがない。


「内部補正の可能性は」


 マアトの問いに、

 エンジニアがわずかに間を置く。


「理論上はあります。ただし――」


「ログに残るはず、ですね」


 言葉を継ぐ。


 補正処理が行われるなら、

 それもまた記録される。


 だが、

 該当ログは存在しない。


 つまり――


 どちらでもない。


 マアトは視線を落とす。


 ログは正しい。


 数値も成立している。


 矛盾はない。


 それでもなお、

 結論に至らない。


「……成立していますね」


 静かな声。


 否定ではない。


 むしろ逆。


 すべてが成立しているからこそ、

 説明できない。


 マアトは再びログを見る。


 入力。

 出力。


 その間。


 そこにあるはずの過程が――


 見えない。


「処理は成立しています」


 ゆっくりと言葉にする。


「ですが――」


 わずかな間。


 思考は止まらない。


 だが、言葉が続かない。


「過程が観測できていません」


 結論。


 だが、それは説明ではない。


 観測できていない処理。


 存在しているはずの“何か”。


 それが、

 ログには残らない。


 マアトは目を細める。


 不具合ではない。


 チートでもない。


 仕様外でもない。


 ――なら、これは何か。


 答えは出ない。


 だが、

 一つだけ確かなことがある。


 ネメシの挙動は、


 通常の枠に収まっていない。

第8話までお読みいただきありがとうございます。


複数あった可能性が、

少しずつ絞られていきます。


その先にあるものが何なのか、

見届けていただければ幸いです。

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