第6話 最適化の兆候
――速い。
振り下ろされる刃を、ネメシは紙一重で躱した。
敵の動きは見えている。
だが、それだけでは説明がつかない。
踏み込みと同時に、
身体が“先に動いていた”。
「……今のは」
小さく息を吐く。
偶然ではない。
同じ感覚は、これで二度目だった。
視界の端で、敵の影が揺れる。
その瞬間、
ネメシは迷わず踏み込んだ。
振る。
届く。
反撃を許さない間合いで、
斬撃が通る。
遅れて、敵が崩れた。
「……合ってる」
確信が、わずかに強まる。
最初は違和感だった。
動きが噛み合う。
読みが当たる。
だが今は違う。
“合わせている”のではなく、
“合ってしまっている”。
その差は小さいが、
戦闘の中では決定的だった。
次の敵が動く。
同時に、
影が揺れる。
ネメシは一瞬だけ目を細めた。
見えているのは、
敵の動きではない。
その前段――
動き出す“前”の気配。
「……なるほどな」
呟きと同時に、
身体が反応する。
踏み込み、
斬り上げ、
間合いを外す。
一連の動作が、
ほとんど意識を介さずに繋がる。
早い。
だが、それ以上に――
無駄がない。
自分の動きでありながら、
どこか他人の最適解をなぞっているような感覚。
不快ではない。
むしろ、
理にかなっている。
「使えるな……」
小さく呟く。
慎重な性格だと、自覚はある。
普段なら、
ここまで踏み込まない。
だが――
経験と戦闘の勘が、
“問題ない”と告げていた。
だから、従う。
次の瞬間、
ネメシは自ら距離を詰めた。
本来であれば、
リスクのある間合い。
だが――
迷いはない。
振る。
当たる。
避ける。
繋がる。
その一連が、
まるで最初から決まっていたかのように成立する。
敵が崩れる。
静寂が戻る。
「……やりすぎると、怖いな」
ぽつりと呟く。
強い。
それは間違いない。
だが、
この感覚は“自分のもの”なのか。
そこだけが、わからない。
視線を落とす。
影が、静かに揺れていた。
それ以上は、何もない。
ただの影。
だが――
さっきまでの戦闘を思い返せば、
無関係とも思えなかった。
「……もう一回試すか」
短く息を整える。
確かめる必要がある。
これは偶然か。
それとも――
再現できる“何か”なのか。
ネメシは、次の敵へと歩き出した。
第6話までお読みいただきありがとうございます。
これまでの違和感が、
変化として表に出始めます。
まだ確信ではありませんが、
確実に何かが動いています。




