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第3話 座標異常ログ

モニターに並ぶログを、マアトは黙ったまま追っていた。


転送履歴。

座標ログ。

プレイヤーID。


どれも見慣れたはずの情報。

それでも、視線が止まる。


「……また、この座標」


小さく呟いた声に、隣のスタッフが反応した。


「同じやつですか?」


マアトは画面から目を離さず、頷く。


「三件目……いや、もっと」


ログをスクロールする。


似たような記録が、いくつも並んでいる。


「報告、上がってきてましたよね。

 “変な場所に飛ばされた”ってやつ」


「ええ」


マアトは短く答える。


ユーザーからの報告はすでに上がっていた。

だが、どれも軽い内容だった。


すぐ戻された。

特に問題はなかった。

よくわからないけど終わった。


――だから、優先度は低かった。


「でも……ちょっと多くないですか?」


スタッフの言葉に、マアトはわずかに視線を動かす。


「同じ時間帯に集中してるわけでもない。

 ランダムに発生してる」


「サーバー負荷とかじゃない?」


「その線も見たけど……違うわね」


ログを一つ開く。


転送処理は正常。

遅延もなし。

エラーコードも出ていない。


それでも――


「座標だけが、ズレてる」


ぽつりと呟く。


本来ならありえない挙動だった。


転送は、決められた地点へ正確に行われる。

途中で“別の場所”に飛ぶ余地はない。


「……全部、通常フィールドへの転送時か」


「ですね。ダンジョンはないです」


「共通点はそこだけ」


マアトは椅子に深くもたれた。


再び、画面を見る。


同じ報告が、すでに十数件。

すべて“通常フィールドへの転送時”に発生している。


しかも――


「全員、数秒で元に戻ってる」


「はい。強制ログアウトとかもなし」


「……正常復帰、か」


その言葉に、わずかな違和感が残る。


正常。

問題なし。

処理完了。


ログ上は、すべてがそう記録されている。


だが本当にそうか?


「再現できる?」


「無理ですね。条件がバラバラです」


時間帯も違う。

プレイヤーのレベルも違う。

装備も、場所も、何もかも一致しない。


「完全にランダム、ってことか……」


「偶然にしては多いですよね」


マアトは答えない。


代わりに、もう一つログを開く。


そこに表示された座標。


――存在しないはずの地点。


マップデータと照合しても、一致しない。

登録されていない空白領域。


「……ここ、どこ?」


「未使用エリアですか?」


「いいえ、それとも違う」


未使用なら、まだ説明はつく。

だがこれは――


そもそも“定義されていない”。


「座標だけが存在してる……?」


自分の言葉に、自分で違和感を覚える。


そんなものが、このゲームにあるはずがない。


「ログ、全部洗って」


マアトは短く言った。


「対象は座標異常が出てるやつ全部。

 時間、前後含めて」


「了解です」


スタッフがすぐに動き出す。


キーボードの音が一斉に響く。


モニターの中では、プレイヤーたちが何事もなく狩りを続けている。


誰も気づいていない。


ほんの一瞬だけ、“別の場所”へ飛ばされていることに。


そして――


その中に、“何か”を持ち帰っている可能性に。


「……」


マアトは、ひとつのログに視線を止めた。


他と同じ、座標異常の記録。


だが、その後のデータがわずかに違う。


「これ……」


まだ確信はない。


誤差と言えば、それまでの数値。


それでも――


「念のため、これも追うか」


プレイヤーIDを控える。


ネメシ。


特別な名前ではない。

どこにでもいる、中堅プレイヤーの一人。


本来なら、気に留める理由もない。


だが――


「……」


マアトは、もう一度そのログを見直した。


わずかな変化。


だが、それは確かに“変わっている”数値だった。


まだ、誰も知らない。


この小さな違和感が、

後に大きな異常へと繋がることを。


第3話までお読みいただきありがとうございます。


プレイヤー視点では曖昧だった現象が、

別の角度から少しずつ輪郭を持ち始めます。


まだ全体像は見えませんが、

すべては繋がっています。

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