13 お姉ちゃんのヒミツ
時間がほしい……そんなことをただ普通に思いながら過ごしてる毎日ですw
「『オレに、メイクを教えてほしい』か」
家に帰って自分の部屋のベッドに倒れ込む。
最近はよくメイクをする男子とか流行ってるけど、あの時の朝陽はそういう流行りに乗りたいとかじゃなかった。
そうじゃないなら何……!?
頭を抱えてう〜んと唸る。
それとほぼ同時にガチャッと扉が開く音がした。
「えっなに!? 敵襲!?」
びっくりしすぎて寝転んでたベッドから飛び起きる。
怪獣がやってくるみたいに、ボクの頭の中で世界の終わりのBGMが流れ出した。
「な〜にが敵襲よ、バカ『妹』」
扉から姿を現したのは、でっかい怪獣……じゃなくて鬼のように鋭い目つきをしたお姉ちゃんだ。
「あ……なんだ、お姉ちゃんか……」
ホッとしたのとは裏腹に、一つの真実に気づいてしまった。
……お姉ちゃんは、怪獣より怖いかもしれない。
口に出かけた言葉を思いっきり飲み込む。
この事を言ったら最後……ボクの命日だ……!
「……………………え? ちょっと待って……お姉ちゃん、さっき……。い、妹って言った?」
さっき、確かにボクのこと、『妹』って呼んだよね………?
嬉しさと恥ずかしさが重なって、むず痒い気持ちになった。
「あ? なに? この私に文句でもつけるつもり? あんたがそうなんだから、合わせてあげただけよ」
「怖っ!言い方めっちゃヤンキーじゃんっ!」
「うるさいっ!それ以上言ったらバドミントンのラケット持ってきてあんたの頭ぶっ叩くわよっ!」
お姉ちゃんはボクがいる反対側に顔を背けて、物騒なことを言い出す。
その耳がほんのり朱色に染まっていたのは、ボクだけの秘密だ。
「………………で、学校はどうなのよ」
「……学校? 全然平気だよ? 仲いい友だちもできたし」
「ふーん、よかったじゃない」
ちょっとだけボクの方を見てくれたけど、目が合った瞬間にまたバッと顔を背けられる。
ツンというかデレというか……。
呆れが混ざって苦笑いが浮かんだ。
「……ね、ねぇ、飛鳥のクラスに、み、宮水っている?」
急に話題を変えられて、頭が一瞬フリーズする。
「え? 宮水?」
宮水って、朝陽のこと……!?
「い、いるけど……。ど、どうしたの!?」
もっ、もしかして朝陽がお姉ちゃんに何かやったとかっ!?なっ、ナンパとかっ、脅しとかっ!?
「……いい、妹ちゃんなんだって?」
「………………へ?」
ボクの頭の中で、お姉ちゃんの言葉がこだました。いもうと、イモート、妹……。
「妹っ!?」
「……なるほどね」
少しの時間、ボクとお姉ちゃんの間に、沈黙ができる。
「なるほどね!? 自分だけで解決しないでくれるっ!?」
「ほんっとややこしい人たちしか集まらないのね……」そんな風にボソボソと言ったお姉ちゃんの声が、ボクの耳に入ってきた。
「は~亜季もう少しわかりやすく言ってほしいわ。あのクソ男……」
「あ、亜季?」
いつもみたいにだるそうにお姉ちゃんはボリボリと自分の髪を掻くけど、ボクはそれどころじゃなかった。
お姉ちゃんに彼氏(または男友達)がいる!?
「あっ、い、今のは関係ないのよっ!」
「へ〜? お姉ちゃんにも好きな人がいるんだぁ~」
いつもはキリッとしたお姉ちゃんがここまで焦る姿を見ると、ボクのこれまでの恨みなどがイタズラ心へと変わっていく。
「飛鳥……あんたマジでバドのラケットで頭叩くからねっ!?」
ボクのことを握り潰さんとでも言うように、お姉ちゃんは血相を変えてボクの腕を掴んだ。
でも、一応ボクは男だ。力なら自信がある。
そう思って振り払おうとしたけど、ボクの力なんてお姉ちゃんの握力と比較にならないほどの力の差だった。
「ぎゃ~!!! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!」
「ふんっ! ざまぁみろって話よっ!!!」
やっと手を離して、お姉ちゃんは部屋から出て行く。
お姉ちゃんがいなくなったのを確認して、ふぅ……と息を整えた。
「あ、嵐が去った雰囲気だよ…………」
少し赤くなった腕を優しく擦る。
わぁ……どんな握力だよ………バドミントンしてた人って握力やばいの!?
でも……なんとなくお姉ちゃんのおかげで、朝陽のこともちょっとだけ楽になったな……。
「……朝陽がどんな自分でも、ボクは好きだけどなぁ……」
ポロっとそんな本音が漏れてたのは、ボクの部屋の外でこっそり聞き耳を立ててたお姉ちゃんだけの秘密だった。
「………………バカ」




