第33話 朝の街で恋の三角関係勃発
朝の陽が差し込む都市ガルドの中央市場。
二日前、信徒たちによる襲撃で瓦礫と化した街も、少しずつ息を吹き返していた。
焦げた香りの中に、焼きたてのパンの匂いが混ざる。どこか懐かしい、人の暮らしの匂いだ。
(……あの惨状から、たった二日でここまで立て直すのか。人って、ほんとに強ぇな)
瓦礫の山を運びながら、悠真は額の汗をぬぐった。
朝露を含んだ風が吹き抜け、壊れかけた石橋の向こうで、子どもたちが笑いながら走り回っている。
「あなたも、その“強い人”の一人よ」
振り返ると、銀色の髪を揺らしたセレナが、涼しげな笑みを浮かべていた。
「セレナ。おはよう。……褒めてるのか、ただの労働力扱いかどっち?」
「両方、かしら? “使える男”って、褒め言葉でしょ?」
「いや、なんか語感がちょっと犯罪臭いんだけど!?」
そんな軽口を交わすふたりの背後で、通りのあちこちから金槌の音と笑い声が混じり合う。
ほんの少し前まで地獄のようだった街に、ようやく“朝”が戻ってきたのだ。
復興用の炊き出しが行われる広場。香ばしいスープの香りが漂う中、少女の声が響いた。
「悠真さん! お疲れさまですっ! 元気出してください、スープどうぞ!」
両手におたまを持ち、笑顔で駆けてきたのはリサだった。
陽光の下、その栗色がきらめく。瞳は相変わらずの無垢な輝き。
「おお、助かる! ……って、うまっ!? リサのスープ、今日もやばいくらい旨いな!」
「えへへ……それ、告白ですか?」
リサは笑いながら、頬を少し染めた。
彼女の明るさが、瓦礫だらけの市場に花を咲かせるようだった。
「……平和になった途端、デレデレしてるじゃない」
低い声が背後から落ちてきた。
振り返ると、青髪を後ろでまとめた少女――ミリアが、剣を磨きながら睨んでいた。
「え、誰に!?」
「全員に」
「いやいや、さすがに偏見だろ!?」
「リサ、セレナ、クリスティア。全員の名前、呼んだでしょ?」
「復興現場で会話禁止令とか出す気か!?」
ミリアはぷいと顔をそらす。
その頬がほんのり赤いことに、悠真は気づかなかったふりをした。
「ふふ、あなた達、朝から賑やかね」
澄んだ声とともに、セレナが市場の入り口に現れた。
青のマントが風に揺れ、手には商会印の帳簿。
「セレナも手伝いに来たのか?」
「ええ、経済復興の視察よ。……ついでに、あなたの様子も」
「ついで、ね?」
「“ついで”って言う人が一番本気なのよ」
「ふふ、図星かもね」
セレナの目元が柔らかく笑う。
だがミリアは、その笑顔にピクリと反応していた。
「悠真、また寝不足でしょう?」
今度は背後から、気品ある声。
白い法衣に淡いピンクの外套を羽織ったクリスティアが立っていた。
手には包帯と書簡束。教会復興の支援で忙しいはずの彼女が、わざわざ来ていた。
「なんでわかるんですか!?」
「顔に“働きすぎ”って書いてあるもの。」
「そんな直接的な!?」
「ほら、目の下、くまができてるわよ。」
そっと彼の頬に指先を当てるクリスティア。
その距離、至近距離。
――背後から、ミリアとリサの殺気が同時に発生した。
「(……殺気指数、上昇中)」
「(セレナさん、なんか笑ってる!?)」
「(あの子、絶対楽しんでる!)」
復興市場の真ん中。瓦礫の合間に設けられた仮設屋台。
そこで、四人のヒロインが、なぜか同時に集合した。
「……これは、偶然?」
「“運命”って言うのよ、セレナ様」
「わたしは純粋に差し入れを……!」
「ふん、誰がどう見ても、修羅場じゃない」
通行人がささやく。
「おっ始まったぞ、“悠真ハーレム戦争”!」
「昨日は北門で口論だったらしいぞ!?」
「青春とは、爆薬より怖いのぉ……」
悠真、戦慄。
「ちょ、ちょっとみんな!? ここ市場! 人目が――」
「構いません」
「むしろ、ここで決着をつけましょう」
「え!? どんな決着!?」
リサ:「悠真さんには、私の手料理が一番ですっ!」
ミリア:「味よりも、剣を交えたときに背中を預けられるかどうか、でしょ!」
セレナ:「いいえ、頭の回転が遅いと将来困るわ。知的な相性が大事。」
クリスティア:「……いっそ、四人で協力すればいいのでは?」
3人:「絶対イヤ!!!」
「俺の平和、どこいったぁぁぁ!?」
市場のど真ん中で、悠真の絶叫がこだました。
人々は笑いながら拍手を送る。
この朝一番の娯楽だ、とばかりに。
喧騒が去ったあと。
橋の上で、悠真は一人、川を眺めていた。
街はまだ傷だらけだが、どこか美しい。
「……みんな、笑ってる。
あの襲撃が、遠い昔みたいだな」
隣に、いつの間にかミリアが立っていた。
風が彼女の黒髪を揺らす。
「油断しないでね」
「へ?」
「平和な朝ほど、次の嵐が近いの。……私の勘、よく当たるんだから」
「怖いこと言うなよ!?」
「フッ、私は現実主義者なの」
そう言って、彼女は笑った。
その笑顔に、どこか安堵と未来の予感があった。
再び市場へ戻ると、皆が瓦礫を片付けていた。
リサは屋台で子どもたちにパンを配り、セレナは取引メモをまとめ、クリスティアは神官たちを指揮している。
「……平和、ね」
セレナが呟く。
「一瞬でも、こういう時間があっていいと思うわ」
クリスティアが微笑む。
「悠真さんっ! 次はあの屋根直しましょう!」
リサの声が響く。
「はいはい、了解でーす!」
笑い声が市場を満たし、瓦礫の隙間から朝日が差し込んだ。
その光の中、誰もが束の間の“平穏”を噛みしめていた。




