『見るモノ』 其の四
「堂島刑事、お待たせしました。」
私は、公園の外周・・・遊歩道・・・沿いの芝生で待っていた堂島刑事に声をかける。
「いえ・・・」
あ、堂島刑事が何か言いたそう・・・聞かなくても巫女装束の事だろうけど。
私はその事には触れず、芝生を調べる。
・・・あった。
芝生が直径にして1m位だろうか?円状に草が倒れている箇所が数カ所あり、遊歩道も通過している様に見える。
反対側を追うと、高台の方から来ているよう。
「店でも言ってましたが、この草が倒れているのには何か意味でも?」
「これはですね・・・」
じーーーっと堂島刑事を見る。
「な、何ですか?」
「やっぱり変な子だと思ってるのかなーって。」
「そ、そんな事は・・・」
「ま、良いですけど。」
「これは『フェアリーリング』と言って、妖精が輪になって踊った跡です。」
「ちなみにキノコが原因って一般的には言われてますけどね。」
「キノコ・・・ですか。」
「ええ。ホコリタケ・・・って言ったかな?兎に角、芝生が枯れちゃったりするんですよ。」
「なるほど、それで妖精が原因って言ったんですか?あれ?でも・・・失踪とどんな関係が??」
「大アリです。そのキノコの菌は何処から来てると思いますか?しかもこんな綺麗な円形にキノコって生えます?」
「それは・・・」
私は息を吐き、はっきりとした口調でもう一度言う。
「これは妖精の仕業です。」
「比喩でも何でもありません。文字通り妖精の仕業です。」
やっぱり何言ってるの?って表情になってる堂島刑事。
「話半分でも良いので聞いてください。」
「フェアリーリングは妖精が輪になって踊った跡って言いましたが、妖精の輪の中は異世界に通じていると言われています。」
「異世界・・・妖精の世界・・・です。妖精の通り道に偶然人が居たら・・・っていう失踪事件は、ヨーロッパでは珍しいことではありません。」
「私が妖精の世界に行く道を作れれば良いんですけど、私も花子さんもかのんさんでさえ、それは無理みたいです。」
「でも、妖精が此所に居たって事は、何処かに妖精が出てきた出入り口も存在する筈です。」
「・・・良くは分かりませんが、要はその出入り口を見つければ、加瀬千佳さんは帰ってこれると?」
「ええ。しかし、妖精の世界に私達が行く事は難しいですから、こちら側から何とか其処に誘導しなければなりません。」
(その誘導は私がやろう。)
(なに、私なら妖精の世界の時間の流れが違くても、さしたる問題は無い。)
「はい、かのんさん。お願いします。」
「それよりも先ずは・・・」
私は、高台の方に向き直る。
居る。この前と同じだ。成長速度は早くない様だ。
「では、堂島刑事。行きましょうか。」
「どちらに?」
「あの・・・高台の所です。」
私はかのんさんを抱きかかえると、堂島刑事を伴って高台に向かう。
公園内にある其処は、備え付けられた30段ほどの階段を上がって行くことが出来る。
公園を一望出来るなかなかのスポット。
「こんな所に出入り口とやらがあるんですか?」
「ん〜どうかな??」
私は煮え切らない答えを返す。
出入り口かどうかは分からないけど・・・居る。
あ、そうだ。釘を刺しておこう。
「今から喋るのは独り言じゃありませんからね。」
「は、はぁ?」
堂島刑事はまたもキョトンとしている。
あ、あれ??またやっちゃった??
き、気を取り直して・・・
私はソレに話しかける。
「こんにちは。ちょっとお聞きしたい事があるんですけど?」
《・・・おや、私が見えるのかい?》
《私には誰も気がつかないと・・・ああ、君は気がついていたね。下の方からこっちを向いて笑ってくれたのを覚えてるよ。》
「はい、私とかのんさんは、ちょっと特別ですから。」
ひょいっと、かのんさんを前に突き出す。
(こら、香奈あぶないって)
「大丈夫ですよ。かのんさんは猫さん何ですから、くるっと3回転して着地できます。」
(そんなには回らんなぁ・・・)
《はっはっは、面白い娘達だ。》
《しかし、私に聞きたい事とは何かな?私が知っている事など、そう多くはないぞ?何せ・・・》
《・・・自分が何者なのかすら分からないのだからな。》
「あ、そうなんですか?」
「うーん、確かに自分の姿は見えないでしょうねぇ・・・」
《そうか、君には私が何者か分かるのだね?》
「はい、分かりますよ。って言うか、姿だけなら誰にでも見えますよ。」
「・・・まあ、話は出来ないでしょうけど。」
《それで、私は何者なのかね?って、私の方が質問をしてしまったね。》
「かまいませんよ。その代わり、私の質問にも答えてくださいね。」
《勿論だとも。》
「堂島刑事。」
「は、はい?」
いきなり話を振られて慌てる堂島刑事。
普通、聞き込みをしてるんだからメモ位とっていても・・・あ、独り言にしか聞こえないからだよね・・・
「堂島刑事には何に見えますか?」
「は?何って、香奈様はさっきから木に話しかけていましたが?」
「・・・聞こえましたか?声は聞こえるでしょう??」
《私は・・・木だと言うのかね?》
「はい。木です。」
「あ、勿論ですけど、唯の木ではありませんよ?」
「『トレント』もしくは『エント』・・・日本名だと『木霊』かな?」
《はっは。そうか、私は木なのか。それも唯の木では無い・・・物の怪の類いなのか。》
《道理で動けんし・・・手だと思っていたのは枝だった訳だな?納得したよ。》
《お嬢さん。約束通り、私の知っている事は全て話そう。》
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次回更新は 6月12日の14時30分頃になります。