プロローグ 春宮さなは地味が好き
自分が地味な女子だと気づいたのは小学校3年生の頃だった。
私のクラスにはイケイケ女子グループとそこそこ女子グループ、地味な女子グループ、そしてどこにも属せないいじめられっ子が一人いた。
地味な女子グループの私はいじめられていた子を助けることもできなかったし、イケイケ女子に声をかけられれば「そうだね」以外の返答はできなかった。
私はそれ以外の反応を見せないことで地味な女子であることを確立したのだ。
それは望んで獲得した私の個性とも言える。
地味な女子は目立たないので同級生はもちろん先生や先輩に目をつけられる事もないし、なにかに失敗しても誰も私を見ていないから恥をかかなくて済む。
その分男子にモテたり褒められたりすることもないけれど、世の中いいことがたくさんあるより悪いことが少ないほうが幸せというのが私の持論だ。
母はそんな私の生き方を否定した。
喜びも悲しみもない色のない人生のなにが面白いのかと私を責めた。太陽を指差し恥ずかしげもなく、恐れず世界に踏み出せと叫んだ。残念ながらそんな母の気持ちが私に届くことはなく、私は数歩下がり他人のフリをしたまま家に帰った。
私は知っている。母が自由な生き方ができるのは恵まれた容姿と心の強さを持っているからだ。私は少なくとも美人ではないし目立たないようなるべく前髪で顔を隠すようにしている。気持ちだって強くはない。
小学校でいじめられていた粕屋さんは中学ではいつも痣だらけになりすぐに学校に来なくなった。自分があの立場だったらと考えただけでゾッとする。
だから私は一生この生き方を選ぶつもりだった。死ぬまで日陰で暮らすんだと思っていた。そのことに抵抗もなければ迷いもない。それこそが春宮さなのささやかな幸せなんだと信じていた。
あの日、あの老人に出会うまでは。




