当世最高の武家集団、見参!
こほんっ。
須藤重季でござる。
京は六条堀川、
――源氏ヶ館
に仕える郎党で、今年かぞえ一七になり申す。
源氏ヶ館といえば、誰もが知る河内源氏の棟梁、
――六条判官為義様
のお館でござる。河内源氏であるからして、その本拠地は河内国壷井(羽曳野市)。
その、壷井の館を出立し、只今播磨路(兵庫県)に入ったところでござる。
ん!?
なにゆえ播磨路に?
それはもう……涙、涙の事情がござってな。
我らが若き主、
――八郎為朝様
が、インケンな少納言信西様と揉めてしまい、京に居られなくなったのでござる。
いや勿論、為朝様は悪うござらぬ。信西様が自らヘマをやらかし大勢の前で大恥をかいたため、為朝様を逆恨みした、というわけでござるぞ。
そこで為朝様が、お父上の六条判官様と話し合い、
「少納言信西に、軽くひと当てし、仕返しする。それを口実に、父上はそれがしを勘当したということにしてくれ」
と進言なされたそうな。
いかがでござるか?
実に、賢い策ではござらぬか。
為朝様は、憎き信西に軽く仕返しする。信西はビビる。しかしその為朝様は(表向き)勘当される。信西はそれを聞き、多少は溜飲を下げるだろう。
そして父御たる六条判官様も、息子を勘当することにより処罰したわけであるからして、よもや六条判官様まで信西より処罰されることもあるまい……と。
「“三方一両損”ちゅうて、三者それぞれちょっとずつ公平に損して、丸く収める方法や」
なるほど。
斯くの如く、巧妙なる策を図りし為朝様は、今年元服したばかりの弱冠一二歳であらせられるぞ。
そこ、解っておられるか?
大事な事ゆえ二度、申し上げる。御年、弱冠一二であらせられるぞ。
それがしは九つの時、為朝様の世話役を仰せつかり申した。
「真面目な重季が、適任じゃろう」
為朝様はその時、まだ四つ。六条判官様より大事な役目を与えられ、それがしは幼いながら、懸命にお仕え申した。
おお。
世話役と申すのは、少し歳上の兄貴分として、時に友として、常に為朝様に付き従う者でござる。
共に成長し、為朝様の元服なされし後は、心を許せる一の腹心としてお仕えし続けることになるのでござる。
それがしが世話役を仰せつかった頃の為朝様は、まだ色白ぽっちゃりの腕白なガキ、といった感じでござってな。真面目で大人しいそれがしは、少なからず手を焼いたものでござる。
それが、今はどうでござろうか!
知恵、知略、湧くが如し。
それでいて既に、身の丈六尺。武芸諸般、並ぶ者無し。……
驚くなかれ。まだ、今年の正月に元服したばかりでござるぞ。大事なことゆえ三度申し上げた。
これは、早くから関東にて名を上げし、六条判官様がご長男“上総御曹司(義朝)”にも、勝るとも劣らぬ御方となるのであるまいか!
いや、我ら河内源氏の誇る英傑、八幡太郎義家公の再来ではござらぬか。……
それがしはよう覚えてござる。
あれは一年ばかり前の、とある朝の事でござった。幼き為朝様が、なかなか寝床から起きてこられぬゆえ、それがしが起こしに伺ったのでござる。
為朝様は、何やら混乱したご様子で、
「あのぉ、便所はどこですか?」
と、それがしに尋ねられ申した。
たかだか厠の場所も忘れる程の混乱。そして身の丈も、一夜にして一尺も伸びている有り様。そうそう、少し大人びた顔つきになられておった。
為朝様は、
「頭が痛い。何も覚えていない」
という狼狽えぶり。
それがしは為朝様のメシの支度をすべく、一度おん前から下がり申したが、
「どういう事でござろうか。八郎(元服前の為朝)様は、一夜にして身の丈が一尺も伸びてござる」
と、兵衛太郎殿はじめ、年嵩の郎党に尋ね申した。
「いやいや。まあ世の中、不思議な事は幾らでもあるわいな」
皆、そう申されるゆえ、それがしも納得し申したが……。
思えば、あの時でござろう。かの八幡太郎義家公が、為朝様の身に降臨なさったのは。
そう考えれば、何もかも辻褄が合うのでござる。
上総御曹司のおん前で、いきなり弓をへし折る剛力を見せつけし事も。いきなり達人のごとき、弓の腕を見せつけし事も。……
馬術も、一発で身につけなさった。
いきなり習うてもおらぬ文字を書き、習うてもおらぬ算術を駆使し、見事な知略で新たな商品の数々を生産し、商いを始め大儲け。
円空師匠とやらに師事し、為朝様はますます賢うなられた。初めて館を発ち旅に出るというのに、見事な采配ぶりを見せ、一行誰一人欠くこと無く館に帰着したのでござるぞ。
そして既に申した通り、憎き少納言信西を見事に遣り込めた。
今また“荷駄車”なる、思いもよらぬ便利な物を二〇台も用意し、こうして九州への旅の途上にあり申す。
もはや、神とも申すべき御方ではあるまいか!
我らはこの暑いさなか、鎧兜を着込まずとも、ラクに移動しておる。これは為朝様の考案されし、荷駄車のお陰でござる。これを二〇台、短期間に生産するための采配ぶりも、見事と申す他ござらぬ。
その周到なる智慧に、それがし、感動し涙が溢れんばかりでござった。
それがしが女人であれば、
――抱いて!! わたくしをメチャクチャにして♪
とおねだり申し上げたでござろうな。あ、それがしにソッチの気はござらぬが。……
いやもう為朝様には、八幡太郎義家公のみならず、八幡大菩薩様まで降臨なさったのではあるまいか!?
ん!?
お前は為朝様より歳上で、おまけに世話役のクセに何やっとんねんしっかりせんかアホかボケぇ?
面目ござらぬ。
そう素直に頭を下げるしかござらぬ。それがしとて、大慌てで文字を学んだり書を学んだり、近頃は算術までもかじり申した。掛け算九九も、既に“参の段”までカンペキでござるぞ。
されど、為朝様の足元にも及びませなんだ。
(武にせよ智にせよ、器が違い過ぎる……)
それがし、大いに打ちひしがれ申したものでござる。
絶望せしそれがしに、為朝様は事も無げに申された。
「心配要らん。一人で全部背負い込もうとすな。男一人の能力なんざ、たかが知れとんねんで。難題に向かいし時は、皆で知恵を出し合い乗り切ればエエねん」
と。……
嗚呼っ!! 何と懐ろの深き御方でござろうか!
目からウロコが落ち申した。
それがしの身に、サカナか爬虫類人が降臨した瞬間でござった。
どうせならば為朝様のごとく、立派な御方々に降臨して貰いたいものでござる。
おっと、げふんげふんっ。
それがしは日々、自ら出来ることに精進すれば良い、と。浅学非才のそれがし一人ではなく、皆で為朝様をお支えする。為朝様は、知恵知略、類い稀なる武芸にて我らを導いて下さる。……
我らはもはや、押しも押されぬ当世最高の武家集団でござろう。
九州へと辿り着くのが、皆、今から楽しみでござる。
辺境の地九州の、並み居る悪しき勢力をちぎっては投げちぎっては投げ、河内源氏為朝旒の一大拠点を築く。なんと素晴らしき未来絵図ではござらぬか。
おや!?
兄の重澄が、何やら。……




