愉快な整備班
「そう言えば爺ちゃん達はどうしたの? 一緒だったはずだよね」
「それなんですけど、また例の如く整備班の人たちに捕まってます」
向かった先で視界に入り込んできたのは沢山の整備士たちにもみくちゃにされている爺ちゃんの姿だった。
その中で目を引いたのはもの凄く号泣している男性だった。二十代後半から三十代前半くらいだろうか、何だかどこかで見たことのある人だけど思い出せない。
必死に記憶を辿っていると号泣していた男性と目が合った。目を真っ赤にしながらこっちに来る。
「おー、大きくなったなぁ。まさかお前が<タケミカヅチ>のパイロットになったなんてなぁ。最初に話を聞いたときには驚いたよ」
「あの、もしかして以前何処かで会ったことがありますか? すみません中々思い出せなくて。カナタ・クラウディスです。よろしくお願いします」
手を差し出すと向こうも笑顔と握手で応えてくれた。
「あの時はバタバタしてたから覚えてないのも当たり前かぁ。俺は【テツ・シバ】だ。ここの整備班班長をやってる。四年前にお前さんとおやっさんがサルベージャーとして旅立つ時に短い時間だったけど一緒にいたんだよ」
その話を聞いてピンときた。当時のテツさんの姿がさっき爺ちゃんの前で号泣していたものと重なる。
「ああー! 思い出した!! 確かあの時も爺ちゃんの前でメチャクチャ泣いて……おぶっ!?」
言いかけるとテツさんが僕の口を手で押さえた。そしてそのまま皆から離れた場所に連行される。
「ちょ、あの時の話は無し! 部下たちに笑われちゃうじゃないのよ。いいか、俺はここでは出来る男、頼りになる整備班班長で通ってる訳よ。おやっさんに泣きついて俺も一緒にサルベージャーになりたいとか言ってたなんて知れたら面目潰れちゃうの。俺の言いたいこと分かる?」
しゃべれない状態なので頷くとテツさんから開放された。
安心した様子を見せる彼だが、ついさっきかつてと同じように号泣していたので、多分彼が抱いている自分の理想像はとっくに崩れていると思う。
「なにやっとんじゃ、お前らは。テツ、どうせお前が碌でもないことをカナタに吹き込んでおったんじゃろ」
「ちょ、酷いじゃないですかおやっさん! 俺はカナタと積もる話をしていただけですよ。――ほら、頼むよカナタ。話合わせてぇ」
「お互いに色々あったからつい話が弾んじゃって」
取り乱して汗だくになるテツさん。この人嘘をつけないタイプらしい。これ絶対いい人だ。
周りを見ると整備班の人たちはテツさんに対し温かい目を向けている。彼の言い分とはちょっと違うけれど皆から信頼されているのは間違いないみたいだ。
戦艦内という事もあり軍人という人種にある意味恐れを抱いていたけれど、少なくとも整備班はアットホームな雰囲気だ。
この感じはサルベージャーのそれに近く正直安心した。
整備班のお祭り騒ぎが落ち着くと状況を見守っていたフィオナがやってくる。
「良かったですね、カナタ。もう整備班の方々と打ち解けたみたいですね」
するとついさっきまで喧騒に包まれていた整備班が不気味なくらいに静まりかえる。何だ……一体何が起きたんだ?
「……お嬢さん、僕はこの艦の整備班班長をしているテツ・シバと言います。是非あなたのお名前を教えていただけないでしょうか?」
テツさんは着崩していた作業着をいそいそと整えると紳士風を装ってフィオナに名前を訊ねた。いや、さっきからあなたの芸風は彼女に全部見られてますよ。
そんなテツさんを前にフィオナは微妙に後ずさりしている。
「あの、フィオナ・トワイライトと申します。よろしくお願いします」
「フィオナさんですか。いやー、実に美しいお名前だ。あなたはまさにこの砂漠の如き格納庫に湧き出たオアシス。我々の乾ききった心を癒やしてくれる女神だ」
「は、はぁ……でも格納庫に水が湧き出たら錆びちゃうんじゃ……」
大抵の出来事は笑って受け流すフィオナが明らかに引いている。テツさんを始めとする整備班の勢いが凄い。呆気に取られているとフィオナがこっちを見て目でSOS信号を送っていた。
「テツさん、僕たちはそろそろデューイさんと合流しないといけないので……」
「ん、ああ、そうかそうか艦長のとこに行くんだもんな。――それではフィオナさん、また後でお話しましょう」
整備班の包囲網から抜け出しフィオナと爺ちゃんと一緒に格納庫の端に移動するとアマツ部隊の三名とバルト一行が待っていた。皆一様に苦笑いしているところを見ると僕たちの様子を見ていたらしい。
「酷いじゃないですか、見ていたなら助けてくれてもいいでしょう!?」
「なーに言ってんのよ。あんなの格納庫にいたら日常茶飯事の光景よ。新人の通過儀礼みたいなもんなんだから慣れときなさい。――と言うわけでこうして直接会うのは初めてだったわね。あたしはアマツ部隊隊長のセルティ・デイブレイクよ。階級は大尉だけど、ここは独立愚連隊みたいなとこだからあんまり堅苦しくしなくていいわ。よろしくね」
「カナタ・クラウディスです。よろしくお願いします」
「フィオナ・トワイライトです。こちらこそよろしくお願いします」
「久しぶりじゃな、セルティ。相変わらずサバサバした性格をしとるのう」
爺ちゃんはセルティさんとも面識があるらしい。お互いにニヤニヤしながら握手を交わす。
「爺さんこそ数年ぶりだってのに元気そうで何よりじゃん。前より若返って見えるけどサルベージャー業が合ってた感じ?」
「おお、とても楽しかったぞ。きっとお前さんも軍人よりもサルベージャーの方が水が合っとると思うぞ」
「そうかぁ。それじゃ、退役したらサルベージャーに鞍替えしようかな」
楽しそうに二人が雑談をしているとデューイさんが話に入ってきた。
「隊長、そろそろ艦長の所に彼らを案内しなければならないので続きは後にしましょう。ノーマン技師長もそれでお願いします」
「りょーかい。あんまり待たせると艦長の毛根が全滅しちゃうからね。そうなる前に行きましょうか」
「いやー、若い娘と話をしていると時間があっという間に過ぎてしまうのう」
こんな感じで格納庫を後にした僕たちはデューイさん達に連れられて<アマギ>の艦長と面会すべく艦長室へと向かう事になった。




