それは少し先の決戦①
◇
――これから語られるのはカナタ達がアマツ部隊の一員になってから数ヶ月後にあたる未来の話である。
「艦長、<タケミカヅチ>再起動しました! パイロットの意識回復、バイタル安定しています」
オペレーターの【ニナ・スノウ】が戦場で起こった奇跡を報告する。
機動戦艦<アマギ>のブリッジでは敵機の攻撃によって機能停止に陥っていた<タケミカヅチ>が再び動き出した様子がモニターされていた。
つい先程までパイロットの心拍は停止し絶体絶命の状況であった純白のAFが今は力強く大地に立っている。
この信じがたい光景を目の当たりにして<アマギ>のブリッジクルーは全員息を呑む。それは艦長の【ロイ・ブリーズ】もまた同じであった。
「信じられん。あの状況から回復したのか……カナタと連絡は可能か?」
「先程から通信を試みているのですが繋がりません。この空域全体に電波障害が起きているようです。長距離の通信は不可能かと……」
「くっ……!」
ロイは歯がゆさで唇を噛む。
彼が見つめるブリッジのモニターでは激戦が続く戦場において佇む<タケミカヅチ>、そして対峙する『ノア3』のAF<ザッハーク>が映し出されていた。
カナタは切れた額から流れ出ている血液を拭いコックピットモニターの正面に映っている敵AFを睨み付けていた。
その機体<ザッハーク>によって翻弄されコックピットに直接打撃を入れられた衝撃で意識を失っていた。おぼろげだった思考が急速に鮮明になり状況を確認する。
<タケミカヅチ>の近くでは本機を襲おうと敵AF部隊が群がっているが<カグツチ>が壁となって弾幕を張り続けていたお陰で最悪の状況は免れていた。
それに気が付いたカナタは<カグツチ>と通信を取る。
『バルト、すまない。お陰で助かったよ』
『カナタ、意識が戻ったか! ったく、心配かけんじゃねえよ。――で、大丈夫なのか?』
『問題ない。バルトは後方から支援を頼む。僕は――』
カナタが言いかけると黒いAFが急接近しショットガンを撃ってきた。
カナタ達が中距離から放たれた散弾を回避すると、黒い機体はビームソードで斬りつけてくる。
カナタはライキリで受けきり二本のビーム刃の接触点から閃光が広がる。
その激しい光の向こうに見える黒いAFと接触回線が繋がり聞き覚えのある声がカナタの耳に入ってきた。
『はっ! 本当にしぶとい奴だぜ。コックピットに攻撃をもろに受けて生きているなんてゴキブリ並の生命力だなぁ!!』
『……ジェノバ!』
『ったくよー。どこかの誰かさんがちんたらやってるから剣鬼に止めを刺す絶好のチャンスを逃しちまったぜ。――聞こえてんのかよ、クレス!!』
ジェノバは通信を<ザッハーク>のパイロットである【クレス・バール】に繋げると皮肉を叩きつける。
だが、嫌みを言われた本人は特に気にとめることなく言葉を返す。
『それはすまなかったね。無抵抗な相手を手に掛けるのはどうも気が引けてしまってね。それに私の代わりに君が気絶していた彼を執拗に狙っていたから自分が出る幕はないと思っていたんだが……』
『……皮肉のつもりか? オレが動きを止めていた剣鬼に止めを刺せなかったことを煽ってんのか?』
『さあ? どう受け止めてもらっても構わないよ。――それよりも、ジェノバ。私とお喋りしている余裕が君にはあるのかな?』
『まさかオレがこんな死に損ないに後れを取るとでも? この<ヘルハウンド>なら相手が<タケミカヅチ>だろうが何だろうが機動力で圧倒できるんだよ!』
ジェノバは自らの言葉を証明するように<ヘルハウンド>の推進装置を活用して<タケミカヅチ>の周囲を駆け回る。
機動力を見せびらかすジェノバのやり方にカナタはため息を吐く。
『死ねよ! 剣鬼ィィィィィィィ!!』
<タケミカヅチ>の後ろ側に回り込むとジェノバはビームソードでコックピットを貫こうと刺突攻撃を仕掛ける。
カナタはビーム刃が触れる直前、機体片側のバーニアを最大噴射して逆に<ヘルハウンド>の後方に一瞬で回り込んだ。
瞬きをする一瞬の間に攻守が入れ替わりジェノバは何が起きたのか理解が追いつかず虚空に刃を突き入れる。
『――は?』
次の瞬間、<ヘルハウンド>の胸部には後方から突き込まれたライキリのビーム刃が刺さっていた。
『どれだけ速く動こうがこの場合視界内からの攻撃の可能性は低い。だから後方からの攻撃に気を配ればいい。ジェノバ、はしゃぎすぎたんだよあんたは!』
『く……チク……ショオオオオオオオオ!!』
ジェノバが悔しさを吐露した瞬間、身体を貫通していたビーム刃が巨大化し漆黒のボディを真っ二つに溶断した。
<ヘルハウンド>は内部から炎を噴き出し地面に倒れ、頭部の赤い複眼型のメインカメラが明滅していると<タケミカヅチ>が足で踏み潰した。
完膚なきまでに敵を蹂躙する圧倒的強者の貫禄を目の当たりにしたクレスは、カナタの戦闘スタイルが変わった事を察した。
良くも悪くも戦場において優しさから来る甘さを持っていた少年のイメージが、百年前に剣の鬼と称された怪物とダブって見える。
機体越しにカナタとクレスの視線が交わり互いに踏み出そう音した時、包囲網を敷いていた<ガルム>部隊が一斉に<タケミカヅチ>に向かって来た。
『――今ので死んだと思ったか? 残念だったなぁぁぁぁぁ、まだ終わってねえんだよぉぉぉぉぉ!!!』
『ジェノバ! やられる寸前で<ガルム>に移ったのか。性懲りも無くよくやる!!』
『はっ! 獲物を目の前にしてそう簡単に死んでいられるかよ!! とことん食らいついて喉笛を噛み千切ってやるぜ!!』
<ガルム>数機を従えてジェノバもまた<ガルム>に乗り換えて再びカナタを襲撃する。
たった一匹の獲物を求めて狂い襲う黒い猟犬の集団。その半数は横から放たれた分厚い弾幕に呑み込まれ次々と爆散していった。
その弾幕の主――<カグツチ>は腕部に装備したバズーカ『エイブラムス』とガトリング砲『レオパルド』を主力に機体各部に設置したミサイルランチャーから大量のミサイルをばら撒き<ガルム>の群れを壊滅状態に追い込んだ。
『<カグツチ>だと!? あいつ……しぶとい野郎だぜ!!』
『その言葉そのままお前に返すぜ! ――カナタ、そのしつこいクソ野郎はお前に任せた!!』
『――任された! ジェノバ、この辺りであんたには一旦退場してもらう!!』
<タケミカヅチ>はスラスターをハイマニューバモードにして自ら急接近するとジェノバの僚機をすれ違いざまに斬り裂き瞬殺する。
残り一機となったジェノバは間合いを取ってマシンガンやミサイルで攻撃するもそれらが着弾する場所には既に白い機体の姿はなく、気が付けばライキリで両腕を斬り落とされていた。
『な……んだと……!?』
『――遅い!!』
ジェノバ機の顔面を鷲掴みにすると<タケミカヅチ>はそのまま大地に叩きつけて地面を抉りながら飛行する。
<ガルム>は必死に押しのけようともがくがその役割を果たす腕部は既に無く足をばたつかせるのみだ。
気が付くと<ガルム>と同化したジェノバの視界いっぱいに光が広がっていた。
『この光は……! 離せ、離しやがれーーーーー!!』
『……離すわけないだろ。逆の立場ならお前は相手を開放するのか? お前はあの頃も今も何も変わっちゃいない。戦う術を持たない人たちを笑って殺すクズだ!!』
『あの頃……だと? まさか……てめえ、記憶が……!?』
ジェノバ機を押さえつける<タケミカヅチ>の腕部装甲が一部開放されヤサカニと放熱部の光が彼の視界全てを光で染め上げる。
『クソ……クソクソクソクソクソクソォォォォォォォ!! 何でだ、何でオレはてめえに勝てねえ!! オレの何がてめえに劣ってるんだ!?』
『俺は……いや、僕には今度こそやり遂げなければならない目的がある。それが達成されるまでは誰が相手であろうと負ける訳には……死ぬ訳にはいかないんだよ! ――ジェノバ、いっぺん死んで出直してこい!!』
『……覚えてろよ剣鬼! 次だ、次こそオレの手でてめえをぶっ殺して――!!』
<タケミカヅチ>の手掌から放たれたナルカミの一撃によってジェノバ機は頭部ごと上半身が吹き飛んだ。残った残骸は燃えさかりながら勢いよく地面を転がっていき最後は硬い岩盤に衝突して爆発した。




